ツールを席巻した「世界No.1バイク」New S5
サーヴェロのコンセプトモデル「S5」のモデルチェンジが発表され、国内でも販売がスタートした。
ロードバイクのS5は、先月まで開催されていた世界最高峰の自転車ステージレース、ツール・ド・フランスでも、大活躍の一台。
個人総合優勝に輝いたヴィンゲゴー率いるユンボ・ヴィスマが使用していたバイクだ。今年のユンボは強かった。絶対王者と目されていたポガチャルの巻き返しを一切許さなかった。そのため、常にクローズアップされるのはユンボジャージとサーヴェロで、特にS5の特徴的なハンドル周りがその存在感をアピールしていた。
現時点での「世界No.1バイク」と言っていいだろう。
■完成車(※スペック詳細はリンク先参照)
▼SHIMANO R9270 Dura Ace Di2 完成車(価格¥2,145,000)=冒頭写真
▼SRAM Red eTap AXS 完成車(¥2,200,000)=写真上
▼SHIMANO R8170 Ultegra Di2 完成車(¥1,606,000)
▼SRAM Force eTap AXS 完成車(¥1,639,000)
■フレームセット(¥968,000)
「S」というシリーズ
サーヴェロの「S」はエアロロードのシリーズで、現在、最上級グレードのS5のみラインアップされている。
2010年頃を起源とする「エアロロード」と言うカテゴリーでもあるが、サーヴェロの中では「理想」を具現化するバイクがSだった。
1995年TTバイクから始まったサーヴェロは常にエアロダイナミクスにこだわってきた。そして、そのコンセプトをカタチにしたのが2003年に登場した「Soloist」だった。その考え方は、こだわりの良いバイクを作ることだった。儲からなくても良い、とにかく究極のバイクを作りたい――そんな想いで作られていたSoloistが、S5の原点となる。
他のメーカーのように、エアロロード流行りの中で後からラインアップされたわけではなく、この想いが先にあったSシリーズ=S5は、「The cervelo」と言ってもいいバイクだ。
日本ではTTだけじゃない。
トライアスロンでのサーヴェロ
トライアスロンの世界では、押しも押されもせぬ不動の地位を築いたサーヴェロ。アイアンマン世界選手権での使用率が人気のバロメータとしてクローズアップされるが、今年5月に米・セントジョージで開催されたアイアンマン世界選手権では654台22.44%で、堂々の使用率第1位となっていた(※編集部注・大塚さん自身が現地で全台撮影&カウントした「GERONIMO COUNT」による)。
アイアンマンでは、もちろんP5などのP系や、異形(シートチューブのないV型形状)のPX系トライアスロンモデルが圧倒的に高いシェアを誇るが、そのイメージの良さから国内のトライアスロン大会では、S系、R系など、サーヴェロのロードバイクを駆る選手も少なくない。
新しいS5は「究極のブラッシュアップ」
R5のモデルチェンジのときもそうだったが、まず、外観上、一見して大きな変更点を感じないだろう。一般的なモデルチェンジでは、丸型が角型に変わるよう、ひと目見て違いを感じると思う。新鮮味という意味では賛否分かれるかもしれないが、肝心なのは、そこではない。サーヴェロの「完成度」の高さがゆえ、このような「一見しただけでは大きな違いを感じさせない」モデルチェンジとなっている。つまり前作に対する究極のブラッシュアップと言っていいだろう。
やはり「S」シリーズは、エアロダイナミクスの徹底が大きなポイント。
12年ほど前の「エアロロード」ブームより早くにエアロダイナミクスの高い「夢のロードバイク」に着手していたパイオニアとしては譲れない。
さらに言えば「TTバイク」から始まったメーカーだけにトライアスロン、TT、エアロロードは、まさにサーヴェロそのものであり、真骨頂とも言える。
フレーム:ボリュームUPしたエアロ形状に
フレーム形状の変更点は、ヘッド周り、シート周りのエアロ形状ボリュームアップとBB周りのボリュームアップだ。
ヘッド周りは元々フレームサイズにより異なるため、シート周りのエアロ形状が最も判別しやすい形状だろう。このあたりは、トライアスロンバイクのP5よりフィードバックされている。
また、フロントフォークがボリュームアップされている。横から見ると、より幅広に、前から見ると、より薄く仕上げられている。同様にシートステーも薄く、エアロダイナミクスを向上させつつ、28mmタイヤ対応に。R5などとの併用も可能となったわけだ。
トライアスロンでの使用適性もUP
フィット性の面では、ハンドル周りがシビアにセッティングできるようになり、フィーリングが向上している。
また、明確には発表していないようだが、シマノの新型デュラエースに合わせたハンドル形状としているようで、マッチング性が高くなっている。
そして、シートアングルは、54cm、56cmなど大きいサイズで「前乗り」への対応度が高いシートポストが採用され、トライアスロンでの使用適性が高まっている。
剛性は、前作や他社比較などは発表になっていない。ただ、ツール・ド・フランスでもS5の使用ステージが増え、より「オールラウンド性」が高まっており、わずかながら「トライアスロンの方向に向いた」と言えるかもしれない。
実走レビュー「DHポジションでも違和感なしの安定感」
新しいS5を実際に試乗してみたが、想像以上の走りだった。最初に感じるのは、バランスの良い剛性から来る踏み出しの軽さだった。スイスイと伸びる感じで、必要十分な剛性感が心地良い。また、上りもダイレクトなレスポンスがあり、その走破性は高い。
ダンシング時のフィーリングもまた絶妙で、ヘッド周りの剛性UPが功を奏し、安定性が高かったと感じた。
直進安定性も良く、DHバーは付いていなかったが、ハンドルに前腕を置いて走ってもふらつき感は抑えられていた。
もちろん、一般的なDHバーを使うか、ショートのアシストバーを使うかでは、そのフィーリングは相当異なるが、前者、つまり、体重をハンドルに預ける比率が高い乗り方でも違和感に問題はなかった。ただし、これは個人差があり、最終ポジションを決定し、それがこのバイクで再現できるかは、チェックが必要だ。
いずれにしても「オールラウンド性」が向上し、特別に重量が気になる激坂以外はこれ一台でカバーできると思う。
そして、グループブランドのサンタクルズと共同開発されたリザーブのホイールが見事にマッチしていた。エアロダイナミクスが高く、フロントは52mmだったが、ディープリム特有のハンドルの重さを感じさせないノーマルのようなフィーリングが誰でも扱いやすいと感じた。
トライアスロンで使うバイクとしての「適性」は?
トライアスロンで使用されるバイクは、大きくロードバイクとトライアスロンバイクに分けられるわけだが、その使用比率は、宮古島でも半々程度だ。
トライアスロンバイクが多くなっているイメージはあるが、海外のアイアンマンほど、その比率は高くない。国内での傾向として、今後も大きく変わることはないだろう。
言い方を変えると、やや扱いが難しいトライアスロンバイクではなく、価格も含め選択肢が比較にならないほど多いロードバイクのほうを、ベテラン選手からビギナーまで幅広い層のトライアスリートが使用している。
トライアスロンで使用するバイクの象徴としてDHバーがあり、新型「P5」も前作同様、DHバーが装着できるようになっているが、ここに関しては、考えなければいけない。単にDHバーが物理的に取り付け可能というだけだからだ。
まずは全体のフィッティングの中で、それに適したDHバーはどれなのか、慎重に選びたい。DHポジションをメインとするのか、ドロップポジションをメインとするのかによっても、選択肢は変わってくる。
そもそも、ほとんどのロードバイクはDHポジションを前提に設計されていないわけだが、その中でも、できるだけ「トライアスロンに適したモデル」を選択したい。
その点、このS5は、今後トライアスロンシーンでの使用率も高まってくることが予想される。前作と比較し、❶エアロダイナミクス、❷シートアングル、❸快適性などロードバイクをトライアスロンで使用する場合の「トライアスロン適性」が高まっているからだ。
❶~❸各ポイントで見れば、より得意とするバイクもあると思うが、S5は総合点が前作より高くなっている。
今後もサーヴェロに限らず各メーカーから、このS5にように、よりトライアスロンで扱いやすいロードバイクがリリースされることに期待したい。
■著者プロフィール
大塚修孝(おおつか・のぶたか)
トライアスロン「モノ」ジャーナリスト。96年から四半世紀にわたり取材を続けているKONA(アイアンマン世界選手権)をはじめ、内外のレースで出場者のバイク全台を自ら撮影して調査する「GERONIMO COUNT」など圧倒的なデータ収集・分析には定評がある。