
雨の台場に、新たな時代の幕が開く
トライアスロンの日本一を決める戦い「日本トライアスロン選手権」が、10月26日(日)に東京・台場で開催された。
午前の女子レースは、降り止まぬ雨のなか気温16℃、水温19.6℃。ウエットスーツ着用でのスタートとなった。一方、午後の男子レースは小雨になり、気温も多少上昇、ノンウエットでのレースとなった。

女子のレースはウエット着用でスタート
女子レース
常に見つめてきた背中を追い越す
林愛望、高橋侑子を超えて2度目の女王へ
2連覇を狙う高橋侑子に対し、その背中を追い続けてきた若手の筆頭、林愛望。注目は、このふたりの対決に集まった。
スイムでは、競泳出身で急成長を見せる武中香奈枝が積極的に飛び出し、U23の枡田日菜果、伊原咲和とともにトップでスイムアップ。
その後に続く、林、池野みのり、酒井美有、佐藤姫夏、平泉真心らは30秒以上のビハインドを背負う。高橋はこの集団からさらに約10秒遅れで上がるという、意外な幕開けとなった。

競泳出身でまだ競技歴は浅いが、スイムの実力は世界レベルの武中香奈枝
バイクパートでは、武中と伊原のふたりが第1パックで先行するも、高橋率いる第3集団が第2パックを吸収し、さらに5周目には前を行くふたりを捕らえる。第1パックは総勢12人の集団に膨らんだ。
その後、池野が遅れ始め、先頭集団は残り10kmのランに向けて互いを牽制し合う緊迫した展開になった。

スイムで出遅れた高橋侑子は猛烈な勢いで前を追う
11人の集団で始まったラン。スタート直後、高橋が先頭に立ち、王者の安定感を見せる走りに林がぴたりと背後につけた。杉浦華夏、酒井、武中、平泉らが続くが、すぐに先頭ふたりとの差は広がり、優勝争いは高橋と林の一騎打ちに絞られた。

3周目までは高橋がリード。だが、ランに絶対的な自信を持つ林が「ラスト1周で行く」と心を決めた4周目でスパートを決める。折り返しで約5mの差をつけると、下りの勢いも味方につけ、ついに高橋を突き放した。
そのまま勢いを緩めず、フィニッシュテープに飛び込んだ林が、2022年以来2度目の優勝を飾った。
9月のケガから復帰した高橋は意地の2位。3位にはU23の平泉真心が入り、女子は新世代の台頭を印象づける結果となった。

林愛望コメント
ずっと高橋選手を目標にしていて、今回は勝ちたいと思いながらレースを進めたので、初めて勝ててうれしいです。
レース展開的にはスイムで先に3人抜けてしまったんですけど、第2集団にもすごいバイクの強い選手がいっぱいいましたし、高橋選手が後ろにいることも分かっていたので、安全にレースを進めようと思いました。
ランの残り2周で、自分が前に出たときに少しペースを上げたんですけど、引き離すことができなくて、ラスト1周でいくぞという気持ちをもっていきました。
高橋選手は本当に日本のトップで、女子を引っ張ってくださるすごい強い選手でもありますし、自分がレース前に不安なときにも「大丈夫だよ!」と、励ましてもらえる、すごく信頼している選手です。
前回(2022年)優勝したときは、自分は日本選手権というものが、そもそもよく分かっていなくて、出場して優勝したということで、高校生でもあったので、そのときよりもメンバー的にも強いですし、何より高橋選手と戦うことができて、初めて勝ったというので、すごいうれしいです。

高橋侑子コメント
スイムをスタートしてから思っていた以上に身体が動かなくて、ちょっとびっくりしたんですけど、その中でもいつもどおり自分の目の前にある、できることをやっていこうと思ってレースを進めました。バイクでしっかり身体が動いてきましたが、ランはどうなるかなというところだったんですけど、林選手はすごく良い走りをしたので、今回はスイムで逃げられなかったので、私自身の状況的に難しかったのかな、と思います。
今もっている力を出し切ったので、それが今の現状かな、と。若手選手の活躍もすごく間近で見れて、うれしい反面、まだもう少し引っ張れたら良かったなという思いがあります。少し複雑、というか色んな感情がありますね。
今日の結果に関して、今の自分の状況(ケガ後の復帰等)に関しては、言い訳するつもりもないですし、今日の力を出し切ったので、今日は林選手が強かったということですね。
2年前を考えると、全然誰も見えないような状況でレースしていたので、そこから比べると、こうやって日本全体が上がってきてくれているのは、すごくうれしいことです。
今シーズンはあと宮崎のワールドカップに出る予定です。これからどこまで上げられるか、どんなレースができるか、楽しみにしっかり準備したいと思います。

〈Result〉
【女子】
1位:林愛望(日本福祉大学・まるいち)1:55:54
2位:高橋侑子(相互物産/東京)1:56:11
3位:平泉真心(流通経済大学)1:56:55
>>全リザルト・女子(全51名)
気温16.0度、水温19.6度

雨が弱くなり、気温も多少上がった男子はノンウエットでスタート
男子レース
安松青葉が初優勝 北條巧との接戦制す
U23大島拓人も躍進
前日の記者会見で「ライバルは自分自身」と語った4度目の優勝を目指す北條巧に対し、初タイトルを狙う安松青葉、佐藤錬、吉川恭太郎、内田弦大ら実力者、そしてU23の有望株、大島拓人、定塚利心らが挑むという構図となった男子レース。
今年もスイムを得意とする吉川、望月満帆、そして大島の3人が先頭でスイムアップ。女子同様、優勝候補の一角である北條がこの集団に入らず、25秒遅れで内田、定塚、福島旺、安松らと一緒に前を追う展開になった。

スイムトップは吉川恭太郎、次いで望月満帆、大島拓人
バイクでは、吉川が積極的に声をかけ、先頭の3人がローテーションして後続を引き離しにかかる。一方、北條や安松ら優勝候補を含む15人が第2パックを形成し、懸命に前を追った。
一時は45秒ほどあった差を周回を追うごとにジリジリと詰め始めるが、最後まで追いつくことはできず、約30秒差でバイクフィニッシュ。3人の逃げ集団を、12人の追走集団が追う展開で、いよいよランパートへ。

最後までスイムで抜け出た3人で第1パックを形成した
トランジションから真っ先に飛び出していったのは、若きエネルギー溢れる大島。吉川、望月の順でその後を追う。追走集団からは、北條、安松、小原北斗、内田、岩本敏らが積極的に前に出てレースを組み立てる。
大島は気迫のある走りで先頭を引っ張り、積極性を見せた。1周目の折り返し地点で、吉川との差は10秒。望月を吸収した、ランを得意とする実力者揃いの3位集団の安松、北條、小原、内田らとの差は29秒。

ラン3周の折り返しまでトップを守った大島
2周目に入ると吉川が遅れ始め、その後ろから北條、安松、内田の3人が徐々に差を詰め、折り返し後に一気に吉川をかわす。そのまま前を行く大島を猛追した。
3周目に入ると、北條がスパートを仕掛け、安松がこれに食らいつき、大島との差を大きく詰める。そこまで順調に走っていた大島だが、苦しい表情に変わり、ペースも徐々に落ち始めると勢いのあるふたりに抜かれ、ついていくことができない。

大学の先輩でもある北条と、後一歩で勝ちがない安松の意地のぶつかり合いが会場を沸かせた
勝負は、大学の先輩後輩でもある北條、安松のふたりに絞られた。互いに何度もスパートを掛け合い、揺さぶりながら、ラスト1周へ。
折り返し手前で北條が再びスパートを仕掛ける。それに食らいついた安松が、折り返し後の下りでグッとギアを入れ、ロングスパートを決めた。この渾身の走りが決まり、安松が念願の初タイトルを獲得した。
2位は北條。3位にはラスト1kmで大島をかわした内田が入った。後半までレースを引っ張った大島は、粘りの走りで4位を死守した。

安松青葉コメント
北條選手は、大学のひとつ上の先輩でずっと背中を見てきて、まあ、憧れの存在であり、ライバルであるというところだったので、今シーズン数秒差で負けることが多くて、今日は勝ちたいっていう気持ちが僕のほうが強かったかなと思います。
スイムは、前の3人からは遅れてしまったんですけど、メインの集団にしっかり入ることができて、バイクも回しながら進めることができたのは、非常に良かったです。
ランではいつも北條選手より先に仕掛けて後半抜かれてしまうっていう展開が多かったので、我慢して我慢して、最後の1周のどこかでっていうところは考えていました。
やはり、2回ぐらい仕掛けたんですけど、それでも北條選手が離れなかったので、もう最後のチャンスぐらいのイメージで下りで仕掛けたところ、ちょっと離れたのでこのままいくしかない、とかなりロングスパートになったんです。
ただ、世界のレース展開とはちょっと違うところもあるんですけども、やはりここの優勝というのは、自分にとってすごい大きな価値のあるものですので、ここをスタートラインとしてここからどんどん上げていけるように頑張っていきたいと思います。

北條巧コメント
自分も余力を残して何度かアタックしましたが、安松選手が今日は強かった。安松選手とは大学が一緒だったのでラストの勝負になると、ちょっと厳しいかなと想定はしていました。
バイクが大集団になってしまったのと、得意のスイムで遅れてしまったので、そこが今日の敗因かなと。自分はラン10㎞は得意なので、後半の5㎞で地味にペースを上げていって突き放すことができれば勝てると思ったので、3周目から仕掛けてたんですけど、安松選手が得意なところで仕掛けてしまったので、そこは今回の勝負で学びになったことですね。
今シーズンの序盤でケガをしてしまって、それで戻したつもりでいたんですけど、先週の世界選シリーズでだいぶスイムで遅れてしまったので、得意のスイムという部分で前に出ないと自分はちょっといい展開にはあまりならないので、またしっかりトレーニングして、ケガをしないようにして来年に備えたいかなと。
来シーズンは、オリンピックのクオリフィケーションランキングも始まります。今日のレースもそうなんですけど、スイムで遅れてしまうと、ポイントも思うように取れません。世界シリーズは10レースあるので、そこでレースを選びながら、ポイントはしっかり取れるレースかつスイムで先頭でしっかり10位以内に入って、オリンピックに向けてポイントを取っていければと思います。

大島拓人コメント
スイムは1周目で遅れてしまって、理想とは違う展開でした。でもそこから、田山寛豪監督といつも練習の際に言っていた後半しっかり上げるっていうところを意識して、2周目でペースを上げることができて、前の集団に追いつくことができて、とてもうれしかったです。
バイクは吉川選手に主にレースペースを作っていただいて、ここは早めにローテーションしていこうというアドバイスをいただきながら、質の高いバイクができました。
ランでは、絶対行ってやろうっていう走りで、田山監督が大学2年生のときに優勝しているので、自分も監督に続くと。林(愛望)選手も今年優勝しているので、自分もこの若手の勢いに絶対乗ってやろうっていう強い意志で飛び出していきました。
かなり手応えはありましたし、自分の中でも練習の成果が出ているっていう感覚があったんですが、ラスト2周できつくなったところで、先輩方の意地が、やっぱり、これが世界だったり、アジアチャンピオンとの差というところを身体で体感しました。
でも離れずに付いていって、ラスト400mで絶対仕掛けてやろうというふうに思っていたんですが、そこを突き切ることができず、とても悔しい思いをしました。
これから世界に向けて、次は宮崎のワールドカップが控えているので、そこでは北條選手やニナー賢治選手、そのほか強豪の選手もいますので、そういう世界のトップレベルの選手たちと肩を並べて勝負して「大島なかなかやるじゃん」と言っていただけるように、引き続き頑張っていきたいと思います。自分とチームメイトの定塚利心選手と田山監督の3人で、世界に挑んでいきたいと思っています。

〈Result〉
【男子】
1位:安松青葉(三井住友海上/東京) 1:44:17
2位:北條巧(NTT東日本・NTT西日本/東京)1:44:38
3位:内田弦大(滋賀県スポーツ協会/滋賀)1:45:01
>>全リザルト・男子(全59名)
気温16.1度、水温20.0度
女子スタート 09:15
男子スタート 11:45開催地:東京都港区 お台場海浜公園、臨海副都心トライアスロン特設会場競技内容:スイム1.5km(0.75km×2周回)、バイク38.45km
スイム1.5km(0.75km×2周回)
バイク38.45km(280m+4.725km×8周回+370m)
ラン10km(2.5km×4周回)
※スタンダードディスタンスアーカイブ配信
>>Triathlon Japan公式YouTube



















