再起、再考、引退、それぞれの想いが詰まった30回記念大会
30回の節目を迎えた、日本トライアスロン選手権が11月17日(日)に東京・台場で行われた。
パリ五輪開催の関係で例年より約1カ月遅い開催となったため寒さや雨が心配されたが、当日は青空が覗く秋晴れの1日に。8時時点の気温は19.9℃、水温19.8℃で9時30分スタートの女子はウエットスーツ着用で、12時スタートの男子はウエットスーツなしでのスイムスタートとなった。
女子のレースは今年2度目のオリンピック出場を果たした、ディフェンディングチャンピオンの高橋侑子が圧倒的な強さを見せて連覇、通算4勝目を挙げた。男子はオリンピアン不在でのレースとなったが、4年ぶりに出場した北條巧が3度目の優勝を飾った。
【女子】
エース高橋にくらいつく若手実力No.1の林
昨年は3種目とも独走となった高橋侑子に若手選手がどう挑むかが注目を集めた女子。
スイムから高橋が先頭をひっぱり、酒井美有、佐藤優香ら4~5人の集団でスイムアップ。高橋は得意のトランジションでひとり飛び出し、攻めの姿勢でバイク6周回は単独トップで展開する。
7週目で第2集団に吸収され、高橋、佐藤、酒井、武中香奈枝、中山彩理香の5人の集団に。2022年に最年少(17歳)で優勝した林愛望は落車の影響でパックから離された状態でランへ。
トランジションエリアから一気に抜け出した高橋が、他を寄せ付けない圧倒的な強さを見せ、後続に1分24秒差をつけて連覇を果たした。
ランを5位でスタートした林は鬼気迫る走りで次々と前をとらえ、2位でフィニッシュ。「少しでも高橋選手と同じ位置でレースしたい」という意気込み臨んだレースは「今までのレースで一番悔しい」という自己評価だったが、十分その強さを魅せ、会場を沸かせた。
3位には今大会で引退を発表した佐藤優香が入った。ランの途中、足がつりそうになりながらも最終周で盛り返し、前を行くチームメイトの酒井美有を交わして、表彰台3位で現役人生の最後を飾った。
優勝した高橋侑子のコメント
前半から行こうと決めていたので、守りではなくて攻めのレースができました。お台場は特別な場所で多くの応援を受けて走れるので日本でレースできるのはうれしいです。
パリオリンピックが終わった後は、こんな気持ち(選手を続ける)になると思わなかったのですが、グランドファイナルの前にコーチに競技をやめるという話をしたときに、とてもさみしそうな顔をしていて、そしたら自分もさみしい気持ちになってしまいました。
そこでこの(競技をやめる)決断は違うという思いがあって、この先のやることがで決まっているわけではないし、体力的に限界でもないし、もう少しやってみてもいいのかなという気持ちになりました。
まだ具体的には決めていないですが、1年1年やっていく中で少しずつ目の前のことをやっていったら何か見えてくる、終わりは決めずに納得いくまで自分の気持ちを見ながらやっていけたらと思っています。
2位林愛望のコメント
昨年は高橋選手とスイムから差が開いてしまって一緒にレースができる展開ではなかったのですが、今回は追える展開でレースができたので良かったのですが、5周目のUターンで落車してしまって、集団が高橋選手に追い付きそうというところだったので悔しいレースになってしまいました。
それでもあきらめず高橋選手に追い付けるように走ったので、悔しいレースでしたが2位に入れて良かったです。
昨年よりは自分の成長を感じられたのですが、高橋選手と一緒に走れていたら、もう少し面白い展開にできたかなっていう思いがあって、すごい悔しい気持ちのほうが強いです。
3位の佐藤優香のコメント
自分の選手キャリアとしての最後のレースで優勝を目指していたので、逃してしまったのはすごく悔しくはあるんですけど、なんとか表彰台に立てたっていうのは自分の力ではなくて、周りの皆さんの応援に後押ししていただいて、それでつかめた表彰台でした。
途中足がつってしまってペースが難しくなったんですけれど、監督から「表彰台行け!」という言葉ももらって、前はチームメイト(酒井選手)だったんですけどそこは本気のレースなので、言葉を交わすこともなく、抜いても競ってくるかもしれないという気持ちもあったで、最後まで分からなかったです。
やり残した気持ちはなく、やり切りました。もうレースに出ることはないですが、今後もトライアスロンに関わっていくという気持ちです、トライアスロン大好きなので。
【男子】
オリンピアン不在、優勝候補筆頭の北條に挑む
ニナー賢治、小田倉真というふたりのオリンピアン不在となった男子の優勝大本命は北條巧。パリオリンピック出場を逃し、悔しいシーズンを過ごした北條は得意のスイムから積極的なレースで先頭をキープ。
バイクを北條、内田弦大、佐藤錬、定塚利心、吉川恭太郎、 榊原利基らでパックを形成し、「エリート選手からU19の選手もいたので、若手選手には少しきつかったかもしれませんが意思の疎通ができて最後まで頑張って回してくれました。無理をさせてしまったところもあると思うんですけど、良い状態でランにつなげられた」と後進への気遣いを見せながらも、しっかり集団をコントロールし、ランへ。
北條は、ランでも一気に抜け出し危なげない走りで、フィニッシュロードをゆっくり堪能して2位に48秒差をつけ、5年ぶり3度目の勝利を手にした。
2位には内田弦大が、3位には佐藤錬が入り、ふたりとも日本選手権での最高位、うれしい初の表彰台となった。
優勝した北條巧のコメント
スイムから積極的な展開で第1集団で逃げることができました。今回はニナー賢治選手が出ていなかったので、自分自身のタイムを目標に、自分のタイムやパフォーマンスを意識してレースをしました。
最後フィニッシュロードで一人ひとりにハイタッチしたのは、折り返しでほぼ差がないのを確認していたので、せっかく日本の大会に出ているので、たくさんの人と触れ合おうと思いました。
(レース後に涙したのは)うれしくてではなくて、パリに行けなかった悔しさがこみあげてきたからです。今日は良いパフォーマンスができただけに、パリはなんで外してしまったのかな、って。そういう涙でした。
パリに出られなかったことはずっと引きずると思いますが、ロサンゼルスで吹っ切ります。パリの悔しさをしっかり競技に生かせるように日々過ごしています。
トレーニング環境は2024年1月から佐賀に住んでいてそこを拠点に、国内や海外を転々としながら、どこにいてもしっかり練習ができるようにメニューを組んでいます。
4月から外国人コーチの方に相談してみてもらうようになって、コーチとの成果を日本選手権で確認できればいいねって話をしていたので、コーチから見ても今日のパフォーマンスはやってきたことがしっかり出ていると思ってもらえると思います。
自分でメニューを作っていると確信がなく探り探りでしたが、コーチに見てもらうことで安心感があり、日々、練習の意味・目的がはっきりしてきたように思います。
来シーズン以降は引き続きWTCSで戦って、ロスに向けての準備をしていきたいと思っています。
【2024年トライアスロン日本選手権Result】
開催地:東京都港区 お台場海浜公園、臨海副都心トライアスロン特設会場
競技内容:スイム1.5km(750m×2周)、バイク40km(5km×8周)、ラン10km(2.5km×4周)
《女子》
1. 高橋 侑子(相互物産/東京)2:00:03(0:19:03/1:03:57/0:35:47)
2. 林 愛望(日本福祉大学・まるいち)2:01:27(019:17/1:04:45/0:36:06)
3. 佐藤 優香(トーシンパートナーズ、NTT東日本・NTT西日本、チームケンズ/山梨)2:02:22(0:19:18/1:03:42/0:37:54)
《男子》
1. 北條 巧(NTT東日本・NTT西日本/東京)1:46:44(0:17:39/0:56:29/0:31:35)
2. 内田 弦大(滋賀県スポーツ協会/滋賀) 1:47:32(0:18:25/0:56:18/ 0:31:46)
3. 佐藤 錬(ロンドスポーツ/鹿児島)1:47:52(0:18:28/0:56:14 /0:32:02)