
今回はプロトライアスリートでメカニック・指導者としても活躍する篠崎友さんのホイールに鬼ベアリングを施工して、9月のIMジャパンみなみ北海道で実際、使用してもらった
世界が注目する鬼ベアリングの秘密。
世界最高峰のロードレースシーンで採用され話題を呼んでいる日本発の「決戦ベアリング」。ただのセラミックベアリングじゃない、驚きの低トルク、ペダリング効率最大化が体感できる高性能の理由とは?
取材=光石達哉
写真=小野口健太
ONI BEARING®〈鬼ベアリング〉
自転車専用設計のセラミックベアリング。前後ホイール用と、BB(ボトムブラケット)用がある。換装の工賃なども含めた価格は全国の取り扱いショップに問い合わせを。取扱いショップ一覧など詳細は公式サイトで。
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ツール強豪チームも採用
ロードバイク専用設計の強み
近年、自転車ロードレースで注目の決戦アイテムが、「鬼ベアリング」。世界で初めてセラミックベアリングを実用化した株式会社ジェイテクトが開発した自転車専用ベアリングで、手持ちのバイクのBB(ボトムブラケット)やホイールのハブに組み込まれているベアリングを換装することで、圧倒的なこぎ出しの軽さや速度維持を実現するという。
昨年からツール・ド・フランスなどで活躍する強豪、チームヴィスマ・リースアバイクとオフィシャルパートナー契約を結び、さらに脚光を浴びている。
そもそもジェイテクト製のセラミックベアリングは、2021年に自転車トラック競技の米国選手が使用して国際大会で金メダルを獲得した実績があった。
その直後、同社の藤原英樹さんがよりロードバイクに適した新しいベアリングを開発したいと社内プロジェクトを立ち上げ、一般ユーザー向けに製品化したのが鬼ベアリングだ。藤原さんは説明する。
「実は他ブランドの自転車用ベアリングは、汎用的なものを流用しています。一方、鬼ベアリングは自転車専用設計のため、より低トルク、回転の軽さを追求して開発しました」

鬼ベアリングは前後ホイールのハブ、フリーボディのほか、BBも換装できるようになった
鬼ベアリングには、大きくふたつの特徴がある。基本的な構造はカートリッジベアリングで、真円度が高く抵抗が小さいセラミック球と錆などの腐食に強いステンレス製の内外輪を組み合わせている。
さらに、セラミック球と内外輪の潤滑方法に鬼ベアリング独自の技術があるという。
「通常のベアリングは球と内外輪の接触部分にグリースが入っているので、球がグリースをかき分けるときに攪拌抵抗が生じます。一方、鬼ベアリングは接触面に直接グリースを入れず、玉と内外輪の接触しない個所にグリースを入れ、グリースに含まれる油のみが移動して潤滑しているので、抵抗が最小限になります」
続いて、ふたつ目の特徴。近年のロードバイクやホイールは軽く作られているため、荷重がかかることでわずかなひずみが生じる。
「このわずかなひずみでもベアリングには大きなストレスがかかり、それゆえコーナーリングなどで車体がたわむとブレーキがかかるように抵抗が大きくなるんです」
そのため、セラミック球と内外輪の接触する軌道を見直し、ひずみで玉と内外輪の当たり方が変わってもスムーズに回転するように設計された。使用した選手からは「コーナーの立ち上がりに軽快さがある」との評価を得ている。
こうして自転車のためだけに設計された鬼ベアリングは、ホイールのみの交換で約10ワットの削減効果があるとのテスト結果が出ている。

当初から鬼ベアリングの開発・製品化に携わるジェイテクトの藤原英樹さん(左)と、BIKE&HIKEの竹内正昭代表(右)
トライアスロンでこそ生きる低抵抗と耐久性
耐久性についても、申し分ない。ベンチテストでは10万㎞相当回転させた状態でもほぼ摩耗がなかった。
さらに「プロチームは、大雨でもレースをするので水や異物が浸入しますが、鬼ベアリングは、錆びにくいので性能低下が小さく、1シーズン通して継続使用していただいています」と藤原さん。
したがって、メンテナンスもほぼ必要としないのも利点だ。今回、鬼ベアリングを実装して試すことになった篠崎友選手もメカニックとして働くバイクショップ「BIKE&HIKE」の竹内正昭代表は、トライアスロンにおけるメリットについて
「バイクパートは長時間巡行するので、転がり抵抗の低さはタイムにも直結し、ランにも脚が残せます。また、海のそばを走るので、ステンレス鋼を採用している点で、海水に強いのもポイント。
ウエアは濡れて汗もかくし、乗車したまま補給食やドリンクも摂るので、過酷な使用環境にも耐えられるのは大きいです」と語る。
鬼ベアリングはホイール用で7種類、BB用で2種類の型番をラインアップ。カップ&コーン式を採用するシマノ製ホイールや一部のBBをのぞけば、ほとんどのホイールやBBに適合する。
詳しくは公式HPの適合表か取扱いショップに問い合わせて確認しよう。また鬼ベアリングへの換装には専門的な技術が必要なので、ベアリング単体での販売は行っておらず、ショップでの工賃込みの価格で取り扱っている。
バイクラップを縮めつつ、ランに脚を残したいトライアスリートなら、試してみる価値は十分にあるだろう。
IMジャパンのバイクで独走
転がりの圧倒的軽さを実感
アイアンマン・ジャパンみなみ北海道ではディスクホイール使用禁止なので、今回はフロントのみの実戦使用でしたが、コーナリングのときの回りの良さは十分体感できました。
長い下り坂など、TTバイクでは、特に前輪に体重が乗っているので、何となくではなく、ハッキリ違いがわかりますね。
ベアリングを換えて「回りが軽くなる」というのを体感するとき、まずはホイールを手に取って回してみると思うんですが、その段階でよく回ることよりも、実際にバイクに乗って、荷重がかかった状態で回りが良くなるかどうかが肝心だと思うんですが、鬼ベアリングはレースで使って、回転が軽くなったのが確かに実感できました。
バイクパートのタイムは前回大会のときと体調が違うので単純比較はできないですが、前年比20分近く縮められました(※180.2㎞を4時間37分44秒で全体のトップ!)。11月のしろさとTT200㎞などでリアホイールやBBを鬼ベアリングに換装した場合、どんなタイムが出せるか、今から楽しみですね!

鬼ベアリングを換装したホイールの回りの良さを体感してもらうためのデモ機も置かれたワイズロード新橋店。実際に乘って「違い」が分かる試乗ホイールも準備している
違いが即体感できる高コスパな決戦仕様。
ONI BEARING®を最も多く取り扱ってきたワイズロード新橋店の奥平店長が語る、ユーザー目線の導入メリット。
コメント=奥平総帆さん(ワイズロード新橋店店長)

この9月から新橋店店長に就いた奥平総帆さん。他店でも店長を歴任してきたベテランスタッフ。最初に鬼ベアリングのプレゼンを聞いた際、かつてないハイレベルな技術が結晶した製品だと看破した
ホイール買い替えより
低コストでアップグレード
ワイズロード新橋店の奥平総帆店長は、以前勤めていた川崎店店長時代から多くの鬼ベアリングを施工・販売してきた。おすすめポイントとしては、「一般的な工業用ベアリングとはそもそも異なり、自転車のハブに必要な要素を考えてゼロから作られた別物なんです」と、自転車専用の画期的な設計にあると訴える。
「鬼ベアリングはもちろん無負荷の状態でもよく回るんですけど、本当の良さはダンシングやコーナリングなどで荷重がかかったときに現れます。従来のベアリングは、荷重がかかると抵抗が増えて勝手にブレーキがかかっている状態でした。
この点では鋼球とセラミックで、その差はほとんどありません。一方、鬼ベアリングは荷重を逃がす特殊な設計をしているんです。今まではハブ自体の構造で荷重を受け止める製品はありましたが、それを鬼ベアリングはベアリング単体でやっている。それが、最初の私たちの驚きでした」
しかし、鬼ベアリングは既存のホイールのハブからベアリングだけを換装しなければならず、これはロードバイクのチューニングとしてはあまり一般的ではなかった。

このデモ機では、他社のセラミックベアリングなどと比べても、回転速度が落ちないことが可視化される
「ハブのベアリング交換はトラブル時がほとんどで、アップグレード目的ですることはほぼなかったので、馴染みのない人も多いはず。しかし、鬼ベアリングへの換装は、先ほど話した高性能ハブに匹敵する性能を手に入れることができます。
しかもロード乗りのみなさんは、すでに良いホイールをはいている人も多い。もっと高価格で高性能のホイールもあるけど、今使っているものも気に入っている。
そういう人にとって、ホイールを買い替えるよりも低コストでアップグレードできるのは、お得だとお勧めしています」「お客様にも実際に体験してもらいたい」とワイズロードの一部店舗では試乗用ホイールを用意していて、自分の自転車に取り付けて乗れるようにしている。
「試乗したお客様は『知らなきゃ良かった……』と、その回転の良さに驚かれることが多いです」
BB交換で追い風を感じる!?
鬼ベアリングは昨年からBB用もラインアップするが、これは奥平店長がジェイテクトにリクエストして製品化されたものだという。
「ハブ用は脚を止めたとき、つまり空転時に良さをすごく感じます。
例えば緩やかな下りで普通はペダルをこがないと速度が維持できないときでも、鬼ベアリングをつけている自転車は脚を止めても集団についていけるだけでなく、さらに抜いて前に出られるくらい。
BB用はよくギヤが1枚軽くなる感じと言われますが、私の感覚では同じ速度なのに追い風が吹いているようにペダリングが軽く感じます」
いずれもトライアスリートにとっても大きなメリットになると奥平店長は続ける。
「スイム後の疲れた状態でバイクに乗って、さらにランにも脚を残したい。鬼ベアリングがついていれば、バイクで脚を残しながらスピードが維持できると思います」
なお、ワイズロード各店での鬼ベアリングの価格は、工賃込みで1カ所(左右1組)約7万円前後。
「個人的に効果を感じやすい順番は、まずBB。次に前輪ハブ、後輪ハブ、最後にフリーボディです。予算次第で1カ所ずつ入れてもいいし、まとめてアップグレードする人もいますよ」