Masterが教える「トライアスロン実戦対策」≫≫渡辺亜希子さん
ロングのレース時のセルフメンタルコントロール術
トライアスロンは、トレーニング技術を学び、練習と経験を重ねれば、いくつになっても成長を感じられる素晴らしいスポーツです。
そして初めて完走した時のゴールの達成感と感動は、誰もが忘れられないほどのものでしょう。
そして多くの方は、レース中は苦しくてもゴール後は「また挑戦したい!」、はたまた「もっと長い距離に挑戦してみたい……」という気持ちも芽生えてくることでしょう。
特にミドルやロングのレースに挑戦した際には、おそらく「誰もが経験すること」があるはずです。
それは、「自分自身との闘い」ではないでしょうか?
ここからは、あえて「闘い」という言葉は使わずに「対話」という言葉を使わせてもらいます。
レース時間が長いほど、自分のなかの「いろいろな自分」と対話することになります。
疲れてくるほど、また今まで経験したことのない領域に踏み込んだとき、多くの方は「もう少しペースを弱めてもいいんじゃない?」とか、さらにはやめる理由ばかりが頭の中に浮かんでくる、なんてことも。
レースの後半は、肉体的要因と同時に、精神的要因にも苦しむ方も多いはず。私もよく経験し「なんて自分は弱い人間なんだろう」などと自分を責めたものです。
そんなときに、アイアンマン・ハワイで活躍するトップ選手でさえも、同じような思考に陥ることもある、という話を聞き、どれだけ安心したことか。
距離が長くなるほど、身体は心が動かしてくれる
そこから、その思考のことを勉強すると「自己防衛力」という言葉に出会いました。そう、人間は、苦しい時や疲れてくると「自己防衛力」が働き、「休まないと……」という思考になるのです。それを理解しているかどうかで、自分との対話の方法も変わってきます。
そんなときは、「自己防衛力が働いているんだな。この壁を越えれば、また新しい自分に出会える!」等と自分と対話してみましょう。
そして、ロングは様々な試練やアクシデントが付き物と思っておいたほうが良いでしょう。
しかしそのときに、どういう気持ちで対処するかで、レースの結果を左右させると言っても過言ではありません。「レース中に起こる全てのことは、自分が乗り越えるべき必要なこと」と前向きにとらえると良いでしょう。
もしパンクしたら、「何でよりによって本番でパンクするんだろう、せっかく抜かした人にも抜かされる……」と思い、焦りながらパンク修理にかかっても何も良いことはありません。
それよりも「パンク修理を本番でできるなんて最高の経験が積める! 集中していつもどおりやろう」と行なったほうが、同じことをするにも、その後レースで出せるパフォーマンスは違ってきます。
距離が長くなるほど、身体は心が動かしてくれます。その心を自分自身でコントロールできるようになれば、ロングのレースがさらに楽しくなることでしょう。
自分の身体ひとつで挑む長い旅の道中、自分を信じて、自分自身との対話を、ぜひ楽しんで、素晴らしいゴールを目指してくださいね!LM
■著者プロフィール
渡辺亜希子(わたなべ・あきこ)
山岳競技からトライアスロンに転向し、2007年にはアイアンマン・ジャパンで4位、ロング日本選手権で3位に入るなどロングで活躍。現在は一般社団法人宇都宮村上塾の専任コーチとして、エイジグルーパーを指導する日本体育協会公認トライアスロン指導者。二児の母となった後も2015年佐渡Aタイプ 女子4位、2016年岩手国体出場など高い競技力をキープしている。