Luminaでも既報のとおり、KFCトライアスロンクラブ代表・大西喜代一さんの著書『ROTA BLUE COFFEE――トライアスロンクラブが作った南の島のコーヒー農園』(大西喜代一/著 Lumina Books/刊)が、「料理本のアカデミー賞」とも言われるグルマン世界料理本大賞を受賞した。
なぜ、日本のトライアスロンクラブと、北マリアナのロタ島のフォレストコーヒーをめぐるストーリーを綴った同書が、権威ある世界的な賞を受賞するに至ったのか?
北欧スウェーデンでの授賞式に出席した大西さんからのリポートとともに紹介しよう。
フランスのエドワード・コアントロー氏によって1995年に設立された世界唯一の料理本の賞。その年に発行された世界中の料理本やワイン本の中から、優れたものがエリア・地域やジャンルごとに部門で表彰され、「料理本のアカデミー賞」とも言われている。本年度の授賞式はスウェーデン・ウメオで開催された。
「料理本のアカデミー賞」
表彰式は、欧州文化首都ウメオで
文・写真提供=大西喜代一(KFCトライアスロンクラブ代表)
5月24日午後7時頃、スカンジナビア航空で北極圏に近いウメオ空港にタッチダウンしました。成田からの道中、コロナのストレスは全く感じませんでしたが、愚か者の戦争のせいで、ロシア上空が飛べず、通常は10時間ほどのところ、中東ドバイ経由で到着までに約22時間も要しました。
私自身、これまでの人生で最も北の地に降り立ったことになります。到着時は運悪く、大粒の雨が降っていたのですが、緯度が高いせいか、不思議と湿気を感じません。これだけでも北極圏近くまで来たと感じました。自分の人生でスウェーデンに行くことがあるなんて、夢にも思いませんでした。
ウメオ市はスウェーデンの首都ストックホルムから北へ約600㎞にある学術と文化の美しい町で、2014年に欧州文化首都に指定されています。また、人口約13万人のうち学生が約4万人という若者が多い町でもあります。この時季は午後10時でも昼間のように明るく、真夜中でも薄明るく真っ暗にはなりません。冬場にはオーロラを見ることができるそうです。
幸運にも、大西の人生初の著書『ROTA BLUE COFFEE』英語版がグルマン世界料理本大賞に選ばれ、その授賞式が北欧の美しい町ウメオで25日から28日かけて行われました。それに出席するための訪問です。
大西のほか、KFCメンバーの西田、樋渡、市川、峰尾、芳川さん、それに映像カメラマンとして中屋重男さんが同行してくれました。
中屋さんが、一旦カメラを持つとその集中力には圧倒されます。現役引退後も伝説としてその名が通っているのも理解できます。ちなみに、2年後の完成を見据え、中屋さんの映像でロタコーヒープロジェクトの映画を製作中で、当然、このグルマン賞の授賞式もワンシーンとして含まれる予定です。
グルマン世界料理本大賞
受賞に至った経緯
世界的な新型コロナウィルスのパンデミックの最中、2021年9月にロタコーヒーの存在を世に知ら占めるため、人生初の本を書こうと決めました。その当時、幸か不幸か、コロナ禍で時間が有り余っており、それも幸いしました。
そして、その2カ月後、11月7日にアマゾンから電子書籍を発売しました。ルミナ編集部、ルミナ誌面のデザインも手がけているグラフィックデザイナー高橋秀幸さんのサポートのおかげで、執筆から発売までわずか2カ月ほどという電光石火の早業です。
トライアスリートの友人であり、ライターでもある謝孝浩さんが「プロの作家ではありえない執筆スピード。大西さんの人間力がスゴイ!」と褒めてくれました。でも、それは大西がプロの作家ではなく、ストーリーを練るわけでもなく、自分の体験をそのまま淡々と書いただけだからです。それに年末には本を発売したいと切望していたからです。なぜなら、2022年初めにはコロナ禍も終息し、海外旅行が回復に向かうだろう――そう漠然と思っていたからです。
続いて、電子版から約2カ月後、翌2022年1月18日には同じくアマゾンから紙の書籍(ペーパーバック)も発売しました。しかし、コロナ禍はしぶとく終息の気配すらありません。結局、その後1年間にわたりパンデミックは続きました。
英語版ペーパーバックが呼び込んだ
「7つ目のミラクル」
本を書こうと決めた時点で日本語版だけでなく、英語版の出版を見据えていました。なぜなら、この物語の舞台が米国領のロタ島であり、コーヒーはグローバルなテーマだと思っていたからです。また、本の内容の検証を兼ねて、ロタ島の人たちにも読んで欲しい、という想いもありました。
そして、2022年7月16日に英語版の電子書籍と紙の書籍(ペーパーバック)が日本以外の世界11カ国のアマゾンで発売されました。日本以外にアメリカ、イギリス、ドイツ、 フランス、スペイン、イタリア、 ニュージーランド、ポーランド、スウェーデン、カナダ、オーストラリアの国々でこの英語版が読めるようになったのです。
英語版発売の翌8月18日、グルマン世界料理本大賞の主催者エドワード・コアントローさんから突然メールが届きました。「あなたの本をすべて読みました。非常におもしろかった。グルマン賞にエントリーしなさい」というもの。そうすれば「7つ目の奇跡が起こりますよ」というものでした。
この本は大西の体験が「6つの奇跡」を軸に展開するノンフィクション本です。にわかには信じ難いような「事実は小説より奇なり」を地で行くストーリーに、これまで多くの本に触れてこられたコアントローさんも流石に感動された様子でした。 もちろん、受賞に当たってはグルマン賞独自で本の内容が真実かどうかをチェックされていました。
ちなみに、コアントローさんはフランス人です。 そのフランスでも英語版が発売され、ラッキーにも発売わずか1カ月後に、この本がコアントローさんの目に留まったという次第です。
通常、グルマン世界料理本大賞へエントリーを希望する人はその対象本の1冊をグルマン賞事務局へ提出せねばなりません。グルマン賞から招待の連絡が来ることはまずありません。 そして、その当時は世界的なパンデミックで 日本から欧州への物流がすべて停止していました。それを察し、コアントローさんから「原稿をPDFファイルで送ってくれてもいいよ」と連絡があり、ギガファイル便で送りました。
SOUTH PACIFIC BOOKS部門
グランプリを獲得
我々の授賞式は26日午後7時からと27日午後7時からの2回です。また、27日正午から10分間のプレゼンテーションの英語スピーチが予定されていました。この場でのプレゼンは無名のロタブルーコーヒーを世界へ発信する絶好の機会。すなわち、ロタブルーコーヒーの世界デビューです。
だから到着の25日から会場の視察やスピーチの練習に集中しました。とはいうものの、空いた時間は精力的に美しい北欧の街の散策に充てました。季節的には初夏にあたり、ウメア市の理想的なシーズンということです。夜の10時でも十分に明るく、得した気分。朝晩は薄手のダウンジャケットが必要です。
宿泊はウメオ市の中心街にある「U & Me Hotel」です。裏手には川幅が優に300mはありそうなウメ川が滔々と流れています。豊富な水量で、流れも速い。元トライアスリートの性でしょうか、自分の泳力で流れに逆らって泳ぐことができるかを一番に考えてしまいます。無理と即断です。
会場は「Umea Folkets Hus」で、ホテルから徒歩数分と近くて便利です。スピーチは大西と西田と樋渡の3人で行うことにしました。10分間の英語スピーチは大西には荷が重過ぎましたし、3人のほうが観客にインパクトを与えることができると思ったからです。笑いもとれて、結果オーライでした。
そして大西の人生初の著書『ROTA BULUE COFFEE』(Lumina Books刊)が、SOUTH PACIFIC BOOKS部門で 1位(グランプリ)を獲得しました。
さらにCOFFEE部門とFOOD and SPORTS部門でも2位を獲得しました。大西の立ち位置はJAPANではなく、ロタ島のあるMARIANA ISLANDS (US)の代表として、です。
そして、これらの受賞が本で紹介した6つのミラクルに次ぐ「7つ目のミラクル」となったわけです。
27日の表彰式壇上で、短い受賞スピーチが終わった瞬間、ステージ下手のコアントローさんに手招きされ、近寄ると「7つ目のミラクルが起きたでしょう」と囁かれました。まさに「粋な計らい」とは、このことです。コアントローさんほどの人に無名の日本人の本がこれほど認めてもらえるとは、これぞ奇跡、ミラクルです。
また、MCが我々KFCのことを「ファンタスティック・チーム」と紹介しました。確かにこんなファンタステックなトライアスロンクラブは世界でも他に類を見ないと思います。
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大西さんのリポート文中でも触れられているように、2年後の完成を目指し、この『ROTA BULUE COFFEE』と「7つのミラクル」をめぐるストーリーの映画化も進行中。
この本を出版する機会に恵まれたLuminaでも、10月発売の11月号で予定している特集「コーヒーと、トライアスロンと。」の中で、この奇跡のストーリーと、その行方をあらためて紹介する予定なので、乞うご期待。
『ROTA BLUE COFFEE ――トライアスロンクラブが作った南の島のコーヒー農園』
(大西喜代一/著 Lumina Books/刊)
北マリアナ諸島・ロタ島を舞台とする楽園レースとして人気を博し、専門誌の人気大会ランキングで海外大会No1にも輝いたことのある「ロタブルートライアスロン」。その生みの親で、内外で数多のスポーツイベントを手がけているKFCトライアスロンクラブの代表・大西喜代一さんが、ロタ島の山中に自生しているという伝承の野生コーヒー(フォレストコーヒー)を捜し出し、度重なる災禍で、どん底まで落ち込んだ地元経済を復活させるべく「ロタコーヒープロジェクト」を立ち上げるまでを綴った、「6つのミラクル」をめぐるストーリー。日本語版と英語版が刊行されている。