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>>トライアスリートのためのメンタルトレーニングVol.05
「サニーフィッシュ」の選手をはじめ、多くのトップアスリートやビジネスパーソンを指導するメンタルトレーニングコーチの森下健さんが、心の鍛え方について語る連載コラム。スイムコーチとしての経験ももつ森下さんが、どんなレースも乗り越えることができる「折れない心の作り方」について伝授してくれる。
『Triathlon Lumina#98』に関連記事あり。
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前回記事を読む。
>>集中をコントロールしてパフォーマンスを高めよう①
集中力をコントロールするためのトレーニング方法
皆さんこんにちは! メンタルトレーニングコーチの森下健です。
ここのところ急に白髪が増え出したので、息子に白髪1本抜いたら10円(黒髪抜いたら-10円)という仕事を発注しました。今度息子にご飯を奢ってもらおうかと思います(笑)。
さて、ついこの間年が明けたと思ったらもう4月! いよいよシーズンインですね!
前回のコラムでは「集中力とは何か」「集中すべきものとは」についてお伝えさせていただきました。
集中力とは何かを知り、状況に応じて集中すべきものは何かを明確にすることが、集中をコントロールするためには欠かせません!
“集中力第2弾”となる今回のコラムでは「集中力をコントロールするためのトレーニング方法」についてご紹介させていただきます。
集中が逸れてしまう原因
前回のコラムの最後に、状況ごとに集中すべきことは何かを考えていただいたと思います。ですが、理想の集中のプランを考えたけれど集中が乱れてしまうことはよくありますよね。
たとえば、勉強しようと思ったのにスマホが気になって集中が逸れる。家族の話し声がうるさくて集中できない。といった経験は誰しもあるかと思います。
トライアスロンは競技時間が長く、思わぬトラブルやアクシデントが多い傾向があり、コントロールすることのできない環境によっても左右されやすい競技なので、集中が逸れてしまう要因が盛りだくさん。
まずは、どんな要因で集中が逸れてしまうのかを知っておきましょう!
① 内的要因
心配、不安、悩み、ストレス、プレッシャー、あがり、不満などによって起こるネガティブな感情によって集中が逸れる。
《例》
☑スイム前の「バトル怖いな」「うまくスタート切れるかな」という不安
☑バイク中の「脚が重い……このペースでもつのか?」という疑念
☑ラン中の「もう無理かも」「順位落ちてるんじゃないか」というネガティブ思考
☑レース前の「目標タイムいかなきゃ」「結果出さなきゃ」というプレッシャー
☑「心拍高過ぎる気がする」「脱水かも」という身体感覚への過剰反応
このような形で事実よりも解釈や思い込みによって集中が崩れてしまうのが特徴です。
② 外的要因
天候、気温、会場、道具、対戦相手、観客、音、風、光、などの環境要因によって集中が逸れる。
《例》
☑天候→猛暑、低温、雨
☑風→向かい風でバイクが進まない
☑水温・波→スイムでうねりが強い、視界が悪い
☑コース→テクニカルなカーブ、アップダウン
☑エイド→取りにくい
☑道具トラブル→ゴーグルに水が入る、チェーン落ち
外的要因はコントロールできない要素が多いので、受け入れた上で集中すべきことに再集中することが大切です。
③ 外的要因からの内的要因
相手の言動や行動、観客のやじや嘲笑、ミスジャッジによって起こるネガティブな感情によって集中が逸れる。
《例》
☑スイムのバトルで「イラッとする」「パニックになる」
☑バイクで抜かれて焦る
☑ランで観客の視線や声援が気になる
☑審判の注意や判定 で「なんで自分だけ?」と不満になる
外的要因の出来事そのものではなく、それをどう捉えるか(マインドセット)によって集中が逸れることがあります。

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集中が逸れたらその状況を受け入れる
レース前に不安になった(内的要因)、レース中に思わぬトラブルで焦ってしまった(外的要因→内的要因)というように、理想の集中から逸れてしまっている場合は、まずはその状況や状態に気づき、受け入れてあげることが大切です。
たとえば、レース前に不安やプレッシャーを感じて緊張しているとしましょう。多くの選手は「緊張は良くないもの」というイメージをもっているので、緊張しないように、緊張をなくそうとする傾向があります。
ですが、「緊張しないように」と思ったところで緊張はなくなりませんから、「緊張がおさまらない……どうしよう……」と余計に不安やプレッシャーが大きくなるという負のスパイラルに陥ってしまいます。
オリンピックに出場するようなトップアスリートでも、ここぞ! という場面では緊張するものです。
ですから、不安やプレッシャーを感じることを良くないものと捉えるのではなく、誰でも感じるもの、自然なこととして受け入れていきましょう。「受け入れる」と考えるとちょっと難しく思えるかもしれませんが、「そのままにしておく」「置いておく」と考えるとイメージしやすくなるかもしれません。
自分を客観的に「今、不安になっているなぁ」と見つめることで、受け入れることができるようになります。風が強い(外的要因)、バトルでイラッとした(外的要因→内的要因)時も、緊張をしている時と同様です。
「風が強いなぁ」「今イラっとしてしまったなぁ」と客観的に見つめて、まずは現状を受け入れること。受け入れた上で「今すべきことは何か」に集中しなおしていきましょう。

(図1)
集中するべきものに集中するトレーニング
集中力をコントロールするためのトレーニングとして、まずは「理想の集中から逸れないようにするためのトレーニング」方法をご紹介します。
① 呼吸法(深呼吸)
呼吸法はいつでもどこでもできる、メンタルトレーニングにおいては基本的なテクニックです。まずは現在の呼吸の状態を確認してみましょう(実際にやってみてください!)。
深い呼吸か、浅い呼吸か。ゆっくりとした呼吸か、速い呼吸か。いかがでしたでしょうか?
基本的にリラックスしている時には、深くゆっくりとした呼吸をしているはずです。レース前など緊張を感じやすい場面では、呼吸は無意識に”浅く速い”呼吸になりやすいので、意識的に”深いゆっくりとした”呼吸をしていきます。
さらに呼吸をするときに秒数をカウントしながら呼吸をしていきましょう。4秒吸って、2秒(4秒)止めて、8秒吐くリズムです。
実際にやってみるとかなりゆっくりとした深い呼吸になるはずです。
緊張している時には内的要因によって、不安やプレッシャーなどネガティブなイメージに集中している傾向があります。集中の種類で言えば「内的・広い」集中です。
「内的・広い」集中を、呼吸の状態を確認する、呼吸の秒数をカウントするといった「内的・狭い」集中に切り替えることによって、ネガティブなイメージから集中を逸らすことができるのです!
② マインドフルネス瞑想(メディテーション)
マインドフルネスは「今に集中できている状態」のことを指します。
たとえば、綺麗な夕日を見ている時に「綺麗だなぁ」と思ったり感じたりしている時はマインドフルネスな状態ですが、一方で「明日は仕事が忙しくて嫌だなぁ」など、考えてしまっているのをマインドレスネス状態と言います。
レース前、レース中に集中すべきこと(理想の集中)に集中できている状態がマインドフルネスな状態ですが、内的要因や外的要因によって集中が逸れる、つまりマインドレスネス状態になってしまうというわけ。
マインドフルネス(今ここに集中!)のトレーニングとしてよく行われてるのが、マインドフルネス瞑想(メディテーション)です。
瞑想というとあぐらをかいて修行僧のようなイメージをもたれる方も多いと思いますが、寝転がっていても立っていてもOKです。もちろんあぐらでもOKです。
外的要因(周りの雑音、声や天候)や内的要因(ネガティブなイメージ)の情報を遮断していき自分の内側に集中していきます。まずは自分の呼吸や心拍(内的・狭い)に集中するのがわかりやすいかもしれません。
こうして自分の内側に意識を向けていくことを日頃からトレーニングしていけば、レース前に不安やプレッシャーといったネガティブなイメージから集中を逸らすことができるようになります。
ちなみに練習前にメディテーションをして心を落ち着かせ、集中してから取り組むことで、練習の質も高まっていきます。
パフォーマンス発揮に限らず、時間は有限であるからこそ、不必要な情報に振り回されるのではなく、やるべきこと、集中すべきことに意識を向けていくことは大切だなと感じます。
③ セルフトーク
セルフトークは言葉を使ったセルフコントロールのテクニックです。
「白くま実験」という有名な実験があります。ざっくりと説明すると「白くまのことを考えるな」と言われた人のほうが白くまのことを考えてしまう、というものです。
言葉はイメージに影響を与えます。ネガティブな言葉を使えばネガティブなイメージは湧きやすくなり、ポジティブな言葉を使えばポジティブなイメージは湧きやすくなります。言葉をテクニックとして活用することで、思考をコントロールすることができるというわけですね。
集中が逸れてしまった時には、自分に指示を出すようなセルフトーク(教示的セルフトーク)や自分を励ますセルフトーク(肯定的セルフトーク)をすることによって、集中すべきことに集中を戻しやすくすることができます。
たとえば、レース前にネガティブなイメージが出てきてしまっている時は、「リラックス」「大きいストロークで泳ぐ」といった、集中すべきことを繰り返し言葉にしていきます。レース中に追い抜かれて焦ってしまいそうな時は、「大丈夫! 自分のペースで!」「まだまだこれから」といったような言葉を使いポジティブなイメージを作り、やるべきことに再集中をしてみましょう。
練習においても、集中が逸れるシチュエーションでセルフトークを意識的に使っていくことで、セルフトークをレースで実践的に活用できるようになります。
他にも集中すべきものに集中するためのトレーニング方法はたくさんありますが、まずはいつでもどこでもできる「呼吸法」マインドフルネス瞑想」「セルフトーク」の3つのテクニックを実践、トレーニングしてみてください!

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集中を乱されないトレーニング
続いては、外的要因や内的要因から「集中を乱されないようにする」ためのトレーニングを紹介します。
① 最悪の環境、状況を想定してトレーニングをする
トライアスロンは環境に左右されやすいスポーツです。天気や気温、コースなどさまざまな環境要因によって集中は乱れやすくなります。なるべく良い環境でレースができれば理想ですが、現実は必ずしもそうとは限りません。
気温が高いかもしれないし、波は高いかもしれない。雨かもしれないし、路面のコンディションも悪いかもしれない。これは自分自身のコンディションにも同じことが言えます。
レース当日はベストなコンディションで挑みたいですが、あまりコンディションが整っていない状態でレースの日を迎えてしまうこともあるでしょう。
そんな環境や状況になることを見越して、普段の練習で想定して練習をしておくことが集中を乱されないためのトレーニングとなります。
たとえば、雨の日には「雨の日のレースを想定したトレーニング」になりますし、身体が重い日は「キツくなってからのトレーニング」になります。
雨の日や身体が重い日には、ネガティブな気持ちになり、トレーニングのモチベーションが低下してしまう方も多いかと思います。もちろん無理をする必要はありませんが、そうした状況を「集中力を鍛えるチャンス」に変えることができる、ということも覚えておいてもらえると良いかと思います。
② プレッシャーをかけてトレーニングをする
練習よりもレースのほうがプレッシャーレベルは当然高くなりますよね。そのようなプレッシャー下では、不安や焦り、力みが出てきて本来の集中すべきことから、集中が逸れてしまい、練習でできていることもレースになるとできなくなってしまうこともあるかと思います。
そうならないためにも、レース本番に近いプレッシャーレベルになるように工夫してトレーニングをすることで、プレッシャー下でも集中が乱れにくくなっていきます。
たとえば、定期的にレースと同じ流れでアップや準備を行い、タイムを測定する(目標タイムを設定して)というような練習をしたり、普段の練習の中でもタイムが切れなかったらやり直しするというプレッシャーをかけて練習する、他にもチームメイトが見ている前でタイムを測定するといった工夫はできるかと思います。
今思えば、僕も競泳選手時代にそうした練習をしていた記憶があります。僕は200mバタフライを専門としていたので、飛び込んで50mを1回、その後5秒くらい休んで50mを3回やるという練習です。
その練習をする前に、レースで目指しているタイムから逆算をして何秒で泳ぐかを自己申告します。そして実際にそのタイムから±0.5秒かかるとやり直しになるという速過ぎてもダメ、遅過ぎてもダメというなかなか難易度の高い練習をしていました(笑)。
プレッシャーを感じながらも、自分のペースをコントロールしていく力を身につけるという意味では、良い練習だったのかなと思っています。
再集中のためのワークシート
自分の感情に気づき受け入れ、今するべきことに再集中するためのオススメのワークシートをご紹介します。こちらのワーク(図2)は「ACTマトリックス」というものです。
ACTマトリクスのACTは、Acceptance Commitment Therapyの略で、直訳すると「受け入れて決断するための方法(療法)」となります。

(図2)
横軸が「自分の理想(理想の未来)」か「理想から遠ざかっている(理想ではない未来)」縦軸が「行動」と「思考」で見ていきます。
つまり、
①のエリアは「理想の思考」
②のエリアは「理想ではない思考(実際陥ってしまっている思考)」
③のエリアは「理想ではない行動(理想ではない思考の影響から行動に移ること)」
④のエリアは「理想の行動(理想の思考に近づくために何ができるか)」
となります。
これを①→②→③→④の順番で書いていき、理想ではない状態を受け止めた上で、理想に向かっていくためにどうするのかを明確化するワークです。
トライアスロンでたとえるとするならば、①のところでは
「レースを楽しみたい」
「感謝の気持ちを持ってレースにチャレンジする」
「リラックスして自分のペースで」
「最後まで粘り強く走る」
といったようにレース(練習)に対して理想の取り組む姿勢を書いていきます。
②では、理想とは違い現状で考えてしまっていることを書いていきます。
「結果ばかり気になって不安」
「周りが気になってソワソワしてしまう」
「苦しくなってきて諦めたくなってしまう」
というようなことです。
③では、②の影響を受けてどんな行動になってしまったかを書きます。
「不安になって普段やらないような準備をしてしまった」
「周りのペースに合わせてオーバーペースになってしまった」
「途中で諦めて投げやりになってしまった」
というような感じです。
④は、このままでは良くないので理想の自分(①)へと近づいていくためにどうすればいいのかを書きます。
たとえば、
「自分のレースプランを再確認する」
「深呼吸をしてリラックスをする」
「心の余裕を持つために時間にも余裕を持って過ごす」
「次の目標ポイント(次の1kmまで!など)まで頑張るを繰り返す」
といったようなことを書きます。
あまり良いパフォーマンスではない状況は②と③(図2の左側)を行ったり来たりしている状況のはずです。
現状そうなってしまったことは仕方ないので(過去はコントロールできません!)、その状況を受け入れ、今からどうしていくのかを考えて理想のプランへ再集中することが大切です。
集中が乱れることは誰でもあります。乱れたら元に戻せば良いのです。そのために日常や普段の練習から、集中力を高めるためのトレーニングをしていきましょう!
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森下 健 Ken Morishita
学生時代は競泳選手として活躍。引退後は水泳指導者として多くの人を指導する中で、自身の「ここぞという試合で勝てない」という経験からメンタルトレーニングに興味をもち、応用スポーツ心理学を学ぶ。2013年、細田雄一選手のサポートをきっかけにトライアスロンに出会い、自身もレースに出場。2020年よりサニーフィッシュで水泳コーチ兼メンタルトレーニングコーチとしてメンタルトレーニングを実施。スポーツの他、企業や学校などさまざまな分野でメンタルトレーニング講演会や心理面のサポートを行う。

















