
©Kenta Onoguchi
>>トライアスリートのためのメンタルトレーニングVol.05
「サニーフィッシュ」の選手をはじめ、多くのトップアスリートやビジネスパーソンを指導するメンタルトレーニングコーチの森下健さんが、心の鍛え方について語る連載コラム。スイムコーチとしての経験ももつ森下さんが、どんなレースも乗り越えることができる「折れない心の作り方」について伝授してくれる。
『Triathlon Lumina#98』に関連記事あり。
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>>「練習は量が大切? 質が大切?」
集中をコントロールしてパフォーマンスを高めよう
皆さんこんにちは! メンタルトレーニングコーチの森下健です。
今シーズンの初戦は横浜トライアスロンのリレーに出ることになりました! 得意のスイムではなくまさかのランで(ランは得意ではないけど、好きではあります)。
レースまで約3カ月ありますので、少しでも速く楽しく走れるようにコツコツトレーニングしていきます。会場でお会いしたら、ぜひお声かけていただけるとうれしいです。
シーズンインに向けて一緒に頑張りましょう〜。
さて、前回のコラムでは「練習の質を高めていくためのポイントをお伝えさせていただきました。そのポイントの1つとしてお伝えしたのが「集中できる環境(コンディション)を整える」というものでした。
より質の高い練習をするためには”集中をコントロール”していく必要があるということ。そして、レース中のパフォーマンス発揮、レース前の心理的準備にも集中をコントロールすることは欠かせません!
今回のコラムでは「集中力」についてご紹介させていただきます!
「集中」とは……
皆さんは「1分間で集中を高めてください」と言われたら何をしますか?
「一点を見つめる」「音楽を聴いて集中する」「目を閉じる」「深呼吸をする」
このような質問をすると、皆さん似たような答えが返ってくることが多いのですが、いかがでしたでしょうか。
確かに一点を見つめると集中は高まります。ですが、レース中に集中したいからといって、ずっと一点を見つめていたら違うところに泳いで行ってしまったり、事故を起こしてしまう恐れが出てきますよね。
深呼吸はどうでしょう? 深呼吸も集中を高めるためのテクニックとしてはかなり効果的ですが、レース中にずっと深呼吸が出来るほど余裕はないですよね。
こうして考えてみると、いろいろな集中の高め方があって、状況によって集中を使い分けたほうが良さそうな気がしてきますよね。
そもそも「集中って何?」ということを理解していなければ、集中はコントロールすることは難しいんです。
集中とは「ひとつのことに注意(意識)を向けること」です。
スポットライトに例えるとわかりやすいのですが、集中すべきものにスポットライトがしっかりと照らされている状態が集中できている状態。
色んなところにスポットライトが当たっていたり、切り替わったりしている、または広範囲を照らしすぎて薄暗くなっている状態は集中散漫状態です。

基本的には、一つのことにしか集中はできません。そのため「今、集中すべきことは何か」を明確にしておくことが集中を高めるためのポイントです。
集中力も体力と同じで、ずっと持続するのはなかなか難く、トップアスリートでも高い集中を維持するのは、もって90分〜120分と言われています。
集中を高めるべきところで高めたり、あえて切ったり、そのときの状況に応じてコントロールしていくことが必要不可欠です。
ずっと集中を持続しようとしていると、疲れてしまい集中が切れてしまったり、逆に集中すぎることで、散漫になってしまうという不思議なことも起こったりします。
「集中すべきものに集中を向ける」
では、その「集中すべきもの」とはなんなのでしょうか。
当然その状況や目的によって集中すべきものは変わりますが、押さえておくと「何に集中したらいいのか」の判断がしやすくなるポイントがあります。
それが「自分がコントロールできるもの」に集中する、ということです。
自分がコントロールできないことは、考えても(集中しても)コントロールすることはできません。
コントロールできないことをコントロールしようと考えても、結局コントロールできないので、コントロールしようとすることは、逆に自分をコントロールできなくしてしまうことに繋がります(コントロールって言い過ぎてよく分からなくなってきた! 笑)。
世の中にはコントロールできないものがたくさんあります。一方でコントロールできるものと言えば実にシンプル。それは「自分の思考と行動」です。

「今」何を考えて、「今」何をすべきかは自分でコントロールすることができます。
たとえば、レース中や練習中に呼吸が苦しくなってきて、予定していたペースが落ちてしまったとします。そんなときに、「やばい……どうしよう」「このままだと目標にしていたタイムが切れない」「追いつかれる……」というようなネガティブなイメージが湧いてくることがあると思います。
では、これをコントロールできるか、できないかの観点で考えてみます。
「やばい……どうしよう」は、まだ見ぬ先の未来に対してのネガティブなイメージですよね。未来をコントロールすることはできません。
「タイムが切れない」も同じく未来への不安ですし、ペースが落ちてしまったのは変わらぬ事実で、そうなってしまった過去はコントロールすることはできません。
「追いつかれる」に関しては、相手(自分以外の他人)になりますから、当然コントロールすることができません。
では、この状況でコントロールできることはなんでしょうか。
「目標には届かないかもしれないけど、今の精一杯を尽くそう」という実力発揮に集中することであり、「ペースが落ちたことは仕方ないから、◯◯秒よりは遅くならないようにテンポを意識しよう」という、プランを立てることはコントロールすることができます。
今の状況をきちんと”受け入れた”上で、どう考えて、どう行動すればいいのかに集中していきましょう。
「集中の4つの種類」
コントロールできないことに集中してしまっていたとしたら、コントロールできることに集中を切り替えていくことが大切です。集中を切り替えていくうえで、集中にはどんな種類があるのかわかっていると、テクニックとして集中を切り替えやすくなります。
集中の種類は大きく4つのタイプに分けることができます。

図のように外的なのか内的なのか、広いのか狭いのかという分類で分けていきます。
①外的・広い集中
外的・広い集中は周りを広く見渡すような集中の仕方です。レース中に誰がどこにいるのか、コースはどうなっているかなど、周りを見渡すといった場面で高まります。
②内的・広い集中
内的・広い集中は自分の内側で視野を広く物事を意識している集中です。わかりやすく言えばイメージトレーニング。レースプランや課題の確認、イメージの中で自分のフォームの確認などしているときは内的・広い集中を使っています。
③内的・狭い集中
自分の内側の一点に意識を集中させている状態です。水泳で言ったら水を掻いているときの水感覚だったり、バイクで言えばペダルに体重が乗っている感覚に意識を向けるような集中です。
④外的・狭い集中
じーっと一点を見つめる集中です。ブイに向かって泳いでいく、ひたすら前の選手を追っていくことだけに意識を集中するのは外的・狭い集中です。
と、集中はこの4つに分類されます。皆さんはこの4つの集中を無意識に切り替えながらレースや練習をしているはずです。
まずは自分がどのシチュエーションでどの集中を使っているのか自己分析をしてみてください。そして練習の時にどこの集中を使いながら泳いだり、走ったりするとパフォーマンスが高まるのかを探っていきます。
たとえば、泳いでいるときには内的・狭い集中を使って水の感覚に意識を向けた方がパフォーマンスがあがるのか、内的・広い集中でいい泳ぎをイメージしながら泳いだ方がパフォーマンスが上がるのか、など。
練習前に「今日はここに集中してみよう」と何か一つ集中するものを決めて、練習をしてみると良いと思います。

©Kenta Onoguchi
「緊張のメカニズム」
多くの人が、レースの前は緊張をするのではないでしょうか? 実は大事な場面で緊張をするのも集中をしているからこその現象なんです。
ちなみにですが、緊張というのは悪いものではなくて、良いパフォーマンスを発揮するために必要不可欠なものです。ただし、緊張し過ぎの状態では心臓がバクバクしてきて手足が震えたり、呼吸が苦しくなって、頭が真っ白になってしまいパフォーマンスは低下してしまいます。この状態を過緊張状態と言います。
なぜ過緊張になってしまうかというと、集中し過ぎてしまってパニックになってしまっているからです。つまり「過緊張=過集中」ということになります。集中力があるからこそ緊張するということです。
レース中、本来は”コントロールできること”のみに集中をすることが望ましいのですが、それにもかかわらず「負けたらどうしよう」「完走できるかな」「周りが速そうだ」「キツいの嫌だな」というような、「コントロールできないこと」「意識をしなくても良いこと」に集中が向いてしまっています。
先ほどもお伝えしたとおり、コントロールできないことに集中してしまうと、余計に不安になったり焦ったりすることになります。頭の中でどんどんネガティブなイメージが膨らんでいってしまい、脳がパニックを起こして心拍が上がる、呼吸が浅くなるなど身体に影響が出てくるという仕組みなのです。
過緊張を起こしてしまうのは、考えなくていいことや聞かなくていいこと、見なくていいものに対して集中してしまっているということです。そうであれば解決策は実にシンプル。集中すべきものを明確にして「ひとつのこと」に集中できればいいということですね。
まずは、上記のシートを元に、自分の理想の集中とその種類、集中が逸れるパターンとその種類を分析して書き出してみましょう!
基本的には、逸れた集中とは違う種類の集中に切り替えてあげられると、気持ちも切り替えやすくなります。気逸らし、気晴らしというやつですね。
次回のコラムでは、集中力を高めるトレーニングについてご紹介していきたいと思います!
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>>【新連載】森下健のトライアスリートのためのメンタルトレーニングvol.01
>>【オフシーズンのモチベーションコントロール】森下健のメントレ!vol.2 前編
>>【オフシーズンのモチベーションコントロール】森下健のメントレ!vol.2 後編
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>>「練習は量が大切? 質が大切?」森下健のメントレ! vol.4
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森下 健 Ken Morishita
学生時代は競泳選手として活躍。引退後は水泳指導者として多くの人を指導する中で、自身の「ここぞという試合で勝てない」という経験からメンタルトレーニングに興味をもち、応用スポーツ心理学を学ぶ。2013年、細田雄一選手のサポートをきっかけにトライアスロンに出会い、自身もレースに出場。2020年よりサニーフィッシュで水泳コーチ兼メンタルトレーニングコーチとしてメンタルトレーニングを実施。スポーツの他、企業や学校などさまざまな分野でメンタルトレーニング講演会や心理面のサポートを行う。


















