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【新連載】森下健のトライアスリートのためのメンタルトレーニングvol.01

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ルミナ編集部

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©Kenta Onoguchi

>>トライアスリートのためのメンタルトレーニングVol.01

サニーフィッシュ」の選手をはじめ、多くのトップアスリートやビジネスパーソンを指導するメンタルトレーニングコーチの森下健さんが、心の鍛え方につて語る連載コラム。スイムコーチとしての経験ももつ森下さんが、どんなレースも乗り越えることができる「折れない心の作り方」について伝授してくれる。

>>『Triathlon Lumina#98』に関連記事あり。

「心は誰でも強くすることができる」

皆さん、初めまして! メンタルトレーニングコーチの森下健と申します。この度、「トライアスリートのためのメンタルトレーニング」というテーマでコラムを書かせていただくことになりました。どうぞよろしくお願いいたします。

トライアスロンは、数ある競技の中でも肉体的にも精神的にも過酷な競技ですよね。

僕自身、大学を卒業するまで競泳をしておりましたが、当時はトライアスロンをしている人、マラソンをしている人を見て、「なんてキツいことやってるんだろう(変態だなぁ)」と思っていました。

それから十数年経った今、僕も晴れて変態の仲間入りをしているわけですが……人生何が起きるかわかりませんね(笑)。過酷な競技だからこそ、達成感や充実感を感じながら、皆さんも日々、厳しく、楽しくトレーニングを積まれていることと思います。

ただ、頑張ってトレーニングはしているものの、なかなか結果がついてこない、成長を感じられない、と悩んでいる方も少なくないはずです。それはトレーニング方法や量が足りていないという理由だけでなく、もしかしたら「心」に原因があるのかもしれません。

心・技・体をバランス良く鍛えること

日本のスポーツ文化には「心技体」という言葉があります。「心」と「技」と「体」をバランスよく鍛えていくことで、パフォーマンスが発揮されるという意味合いで使われます。では、普段皆さんがトレーニングに割いている時間が多いものはどれでしょうか。

おそらく、「体」と「技」ではないでしょうか。心技体をバランスよくトレーニングしていくことが大切であるにもかかわらず、心のトレーニングを全くしていない方が多いのです。

心を鍛えるというと、日本ではまだ「根性論」のイメージが根強く残っています。ハッキリ言いますが、「根性論」だけでは心は強くなりません。このコラムでは、競技力を高めたい、楽しく競技を続けたいトライアスリートのために、正しい「心の鍛え方(メンタルトレーニング)」の情報をお伝えしていきたいと思います!

記念すべき? 1回目のコラムでは、「自己紹介」と、「メンタルトレーニングとは」についてお伝えさせてください。

©Kenta Onoguchi

追い込めば強くなると思っていた競泳選手時代
メンタルトレーニングとの出会い

1986年10月、埼玉県の三郷市に生まれました。近所にあった金町スイミングクラブ(東京都葛飾区)で、3つ上の兄が水泳を習っていた影響から、6歳のときにスイミングクラブに通うようになります。

水泳を始める前は、水深20㎝のプールで溺れたこともあったそうですが、あれよあれよと泳げるようになり、小学校2年生に上がる頃には選手クラスにスカウトされるようになりました。

常に先頭で泳いでいないと気が済まなかった(負けず嫌いでした)当時の僕は、アップのときから全力ダッシュ。もちろんその後のキック練習もスイム練習も全力。

そんな練習をしていたからか、ぐんぐんタイムも伸びまして、5年生のときに初めてJO(ジュニアオリンピック)に出場することができ、中学1年生の頃に初めて全国大会で入賞することができました。

ですが、その後は全国大会には出場するものの結果は今ひとつ。兄が全国大会でも良い成績を収めていたので、勝手にプレッシャーを感じていたのだと思います。思うように結果が出せない日々が続き、その原因が「心(気持ち)」の面にあるのだと薄々感じていましたが、当時は「メンタルトレーニング」なんて言葉はメジャーではありませんでしたので、自分を追い込んでなんとかするという方法しか知りませんでした。

選手時代に知りたかったメンタルトレーニング

伸び悩む時期が長く続き、たまにベストが出て……ということを繰り返し、選手としては特に大きな成績を残すこともなく引退し(大学を卒業し)、その後、自分が育ってきた金町スイミングクラブでコーチになります。

水泳の指導をする傍ら、何か別の知識を学んで自分の武器にしたいなと思い、休みの日に専門学校に通うようになりました。最初は機能解剖学やバイオメカニクス、コンディショニングを学んでいたのですが、その中に「スポーツ心理学(メンタルトレーニング)」という授業がありました。

その授業を担当していたのが、僕の師匠でもある大儀見浩介(株式会社メンタリスタ 代表取締役)でした。現役時代に「心」が原因で伸び悩んでいた自覚があったので、スポーツ心理学はとても興味深く、現役時代にこの情報に出会うことができていたら…とちょっと切ない気持ちになったのを覚えています。これが僕とメンタルトレーニングの最初の出会いです。

そこからはメンタルトレーニングを深く学んでいきたい一心で、師匠のカバン持ち、アシスタントをしながら少しずつ現場に出ていくようになります。現場でのサポート、講習会、学会などで全国各地、ときにはアメリカに同行して、メンタルトレーニングの現場、実践を積んできました。

現役選手時代の細田雄一選手 ©WorldTriathlon

細田雄一さんがきっかけ

トライアスロンとの出会いは2013年頃だったでしょうか。金町スイミングの先輩がトライアスリートだったご縁で、ロンドン五輪に出場し、次のリオ五輪での活躍を目標にしていた細田雄一選手の心理面でのサポートをさせていただくことになったのです。

サポートしていく上で、トライアスロンの競技特性を理解しようと、自分も1度出場してみようと思いレースにエントリーしてみました。最初はトライアスロンを知るという目的でやってみたわけですが、出るからにはちゃんとやりたいという負けず嫌いが発動。練習をしていくうちに自分自身が成長していく楽しさにハマってしまい、気づけば前のめりでトライアスロンに取り組むようになっていました。

僕がまだ大学生の頃(競泳選手時代)、金町スイミングクラブで朝早くにトライアスロンのチームが練習するようになりました。僕たち選手は8:00から練習をしていたのですが、トライアスロンチームの皆さんは、その前の時間で練習をしているらしく、「朝早くからすごいな〜」と感心していたのを今でも覚えています。

サニーフィッシュとの出会い

そのチームというのがサニーフィッシュです。当時は、サニーフィッシュで練習をしたり、仕事をしたりするようになるとは1ミリも思っていませんでしたが、時は流れ2019年頃、サニーフィッシュでスイム指導と選手へメンタル面のサポートをする機会をいただくことになります。

現在はサニーフィッシュ横浜校を中心にスイム指導させていただいておりますが、10月から新たにサニーフィッシュたまがわ校も開校し、そこでもスイム指導をさせていただきます(ぜひ体験に来てください!)。

メンタルトレーニングはサニーフィッシュ所属の選手たちをメインにサポートさせていただいており、会員の皆様には不定期ではありますがセミナーを通して情報提供をさせていただいたりしています。

©Kenta Onoguchi

メンタルトレーニングとは
思考と行動のトレーニング

皆さんはメンタルトレーニングとは何かご存知ですか? 言葉は聞いたことはあるけど、実際にどういうものなのかを知らない方がほとんどかと思います。

分かりやすく言うと”心のトレーニング”で、「応用スポーツ心理学」という学問になります。「思考」「行動」「感情(欲求)」の3つを総称して心理と呼ぶため、メンタルトレーニングは感情、思考、行動を自身でコントロールします。そのため、学術的な背景をもったトレーニングということになります。

自身でコントロールするための学術的な学問ですから、おまじないや自己啓発、誰かの経験則といったものではありません。学術的な背景を持ち、科学的根拠に基づきトレーニングを組み立てていきます。それによって、モチベーションを自分でコントロールしたり、集中力を高めたり、平常心を保つといったことができるようになります。

現在はスポーツだけではなく、教育やビジネス、芸能や医療など様々な分野で応用され実践されています。身体は年齢と共に衰えていきますが、心はいくつになっても鍛えることができます。心を鍛えるのに遅いことはありません。いつからでもトレーニングをすることができるのです!

メンタルトレーニングとメンタルヘルスの違い

しかしながら、中には「自分はすでにメンタルは強いのでメンタルトレーニングは必要ない」と思っている方もいらっしゃるかと思います。実際に日本のトップアスリートの中でも、同じようなことを言う選手もいるのが現状です(何度か言われたことがあります)。

そのような発言をしてしまうのも、「メンタルトレーニングの領域」と「メンタルヘルスの領域」が一緒になってしまっていて理解できていないからかもしれません。

皆さんは風邪を引いたりして体調を崩したら病院に行きますよね。同様に心が健康を崩した時や悪化しそうな時にはカウンセリングに行ったり、場合によっては心療内科に行って薬を処方してもらったりします。これがメンタルヘルスの領域です。

一方で自身の能力を高めようとしたり、健康を維持しようと思った時には、筋トレなどをすると思います。心も身体と同様に、トレーニングをしてスキルを身につけたり、心の健康を維持していくことがメンタルトレーニングの領域なのです。

「自分はすでにメンタル強いからメンタルトレーニングはしない」という人は、「自分はもう泳げるからスイムの練習はしません」と言っているのと同じです。メンタルトレーニングは、実力発揮だけではなく、練習や仕事、学習の生産性を高めたり、人間的な成長をするため、心の健康を維持していくためにはかなり効果的です。

©KentaOnoguchi

メンタルトレーニングの第一歩

皆さんは「集中力とはなんですか?」と聞かれたらどう答えますか? また「集中力を高めるためにどんなことをすればいいですか?」と聞かれたらどう説明しますか?

おそらくほとんどの人がなんとなく説明はできるけど、「これだ!」という正解は説明ができないのではないでしょうか。

よくある答えとしては、「目を閉じる」「深呼吸をする」「一点をじっと見つめる」といったものがあります。確かにどれも集中を高めることはできますが、レース中にずっと集中をし続けたい場合、ずっと「目を閉じる」ことは可能でしょうか?

レース中に「一点を見続け」たらどうなるでしょうか? おそらく大変なことになってしまいますよね。

このように考えると、「集中」をするときには、その状況に応じて「集中の種類」を使い分けなければならないというのが分かりますね。そのためにはまずは「集中とはなにか」「集中の種類」「集中の高め方、切り方」などを知らなければいけません。

メンタルトレーニングの第一歩は、こうした集中力やモチベーションはどういうものかを知ることから始めます。それらを知らずに、集中しよう、やる気を出そう、前向きに考えようとすることは、泳ぎ方を知らないのに、泳ごうと思ってプールに飛び込むのと同じことです。どうなるか、当然溺れてしまいますよね。

やる気の高め方を知らないのに、やる気を出そうとすると心が溺れてしまう可能性があるということです。知らないものは、作ることもできないし、コントロールすることもできない。心が溺れないようにするためにも、このコラムでは「集中力とは」「やる気とは」などの基本的なことから、具体的なトレーニングの実践方法など、お伝えしたいなと考えています。

>>月1回程度不定期連載。


森下 健 Ken Morishita
学生時代は競泳選手として活躍。引退後は水泳指導者として多くの人を指導する中で、自身の「ここぞという試合で勝てない」という経験からメンタルトレーニングに興味をもち、応用スポーツ心理学を学ぶ。2013年、細田雄一選手のサポートをきっかけにトライアスロンに出会い、自身もレースに出場。2020年よりサニーフィッシュで水泳コーチ兼メンタルトレーニングコーチとしてメンタルトレーニングを実施。スポーツの他、企業や学校などさまざまな分野でメンタルトレーニング講演会や心理面のサポートを行う。

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