【LAB限定】トライアスロンにスポーツ心理学を生かす 布施努先生×TK対談

投稿日:2020年6月26日 更新日:


ルミナ編集部

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©Kenta Onoguchi

経験の棚卸から自分を分析する

「スポーツ心理学で勝つ」
どのような状況になっても、想定外の出来事が起こったとしても自分の実力を発揮するためには何が必要なのか。それをひも解くヒントは、自分と向き合い、目標を明確にすることで、見えてくる。7月からはじまるスポーツ心理学士・布施努先生のセミナー開催を前に、「スポーツ心理学」とは何なのか? スポーツ心理学士の布施努先生が、TKこと竹谷賢二さんと行った対談の様子を紹介。(Lumina57号に掲載したものを【トライアスロンLAB】メンバー限定で公開)

©Sho Fujimaki

Fuse Tsutomu 布施努
米国スポーツ心理学博士。スポーツ心理学の最高峰 ノースカロライナ大学グリーンズボロ校にて博士号を取得。米国五輪 組織やNFL数球団のメンタルコーチを務める世界的権威のDr.Gould を師とし、最先端のスポーツ科学をベースにフィールドでメンタルトレーニングを共に行える数少ないスポーツ・サイコロジスト。国内外で活躍中。また、大手商社にて15年間事業投資会社設立などに関わる。 http://t-fuse-sps.co.jp/

©Sho Fujimaki

TK /竹谷賢二
会社勤めのサラリーマンアスリートからプロに転向し、マウンテンバイク(クロスカントリー)競技の全日本選手権優勝4回、2004年アテネ五輪日本代表にまで上り詰めた理論派アスリート。プロとして現役を退いた2012年からは、指導者として活動しながらトライアスロンにも挑戦。アイアンマン世界選手権(KONA)に8年連続出場を果たしている。

競技を始めるまでのいきさつ

布施■竹谷さんの連載の最後のページに、対談相手を分析する図があるでしょう?(※) 僕はこれを見て「ああ、この人の強みはこれなんだな」と思ったんです。いくつもの視点をもっていて、 そこから分析していく力。前回の対談(山本淳一さん)のときにも出た「ダブルゴール」もそのひとつです。

掲載当時、連載「竹谷賢二のトレーニング探訪 TKQ」の最後に対談相手の印象をチャート化していた

TK■ああ、あの記事を読んで僕もピンときました。今僕はトライアスロンのレースでまさにふたつの目標を設定しているんです。上の目標はパーソナルベスト。でもそれはいつも出るものではない。一方で、アイアンマンって完走するだけで7割ぐらいはうれしいんですよ。だから完走できたら70点、あとは自己ベストにどれだけ近づいたかで、点数を足していくイメージ。そういう、ふたつの目盛りはもってますね。

布施■竹谷さんは主観と客観とか、スキルとフィジカルとか、必ず両面から物事を見ている。選手の多くは片面からしか見れていないんです。竹谷さんがそういういくつもの視点をもてているのは、なぜなんでしょうか?

TK■もともと僕はサラリーマンで、 競技を始めたのも遅かった。そこからひとりで研究して試行錯誤して日本一になって、オリンピックに出て、というような道をたどってきたので……。

布施■指導者と選手の視点、両方をもちながら強くなってきたわけですね。ここで、オリンピックに行くまでの道のりを少し詳しく教えてください。
TK■僕は90年代前半からマウンテンバイクを始めて、草レースとかに出ていたんですね。その後自分なりに試行錯誤した結果実力が上がり、2000年のシドニー五輪の選考会1発目のレースで優勝しちゃったんです。それまでランキング15位で代表の下馬評にも上がらなかったのに優勝しちゃったので周囲も困惑してました。結局その年は日本一になったんですが、オリンピックには行けなかったんです。

布施■それは悔しい。

TK■でも自分は仕事しながらやってるし、仕方ないかなってどこかで思っていたんですよ。でも、実際テレビでオリンピックを見ると、「あそこに行けたかもしれないんだ」って思いが湧いてきた。じゃあ、あっちへ行ってみようかなと。そのとき30歳。次までの4年間、みっちりやってオリンピックへ行くと決めて、会社を辞めてプロになったんです。2004年のときのオリンピック選考は1枠を争う一発勝負でした。でも一発勝負ってコントロールできない要素が必ず出てくる。パンクするかもしれない。であるならば、パンクしても勝てるぐらい圧倒的なタイム差をもってゴールできる実力があれば状況をコントロールできると考えたんです。パンクを直すのに2分ぐらいかかるので、3分差をつければいいと。そうやって勝ちとりました。

布施■そこが竹谷さんの自信の作り方の上手なところなんですね。コントロールできない部分に対して、視点を変えて対応していくという。

©Sho Fujimaki

オリンピックに至る4つのステージ

布施■竹谷さんがオリンピックに到達 するまでには、「4つのステージ」を経てきているはずなんです。それを今から探っていこうと思います。
TK■はい。

布施■最初は出会いのステージ。これは競技の原動力。竹谷さんが始めたきっけかけは?
TK■かっこよさから入ってますね。マウンテンバイクっていうハードウェアに惹かれた。

布施■なるほど、自分の興味から始まってるのはすごくいいんですよ。親にやらされて始めた人って、本人はあんまり楽しんでなかったりするケースもある。そういう人は才能があってもオリンピックまではなかなか行けないことが多いんです。その次のステージはいつ本気になったか。本気になるとコンフリクト状態というのが起こる。楽しいだけじゃなくて、試行錯誤し始めるんです。

TK■最初に出たレースが散々で、後ろからスタートした女性にも抜かれて悔しい思いをしたときかな。それで本気になって、本や雑誌で勉強して、試行錯誤し始めたんです。
布施■結構いろいろ試しました?

TK■もう、ありとあらゆることを。 インターバルがいいって聞いたらやり、この機器がいいと言われたら使い……。 片っ端から全部。失敗もしました。練習量を確保するために夜中に100㎞ 走りに行ったり、午前様で帰ってきてろくに寝ないで朝練に行ったり。そん なことやってもリカバリーが足りてないから強くなんかなりませんよね。
布施■見切ることも必要になってきますが、どこで見切りましたか?

TK■成果が出たかどうか。あと、無理しないと続けられないことはだめです。無理すること自体にかなりの労力を使っちゃうので。
布施■見切る基準をもってるんですね。 迷いなく捨てられますか?

TK■やれば分かりますから。トレーニングはいわば劇薬みたいなもので、毒にもなれば薬にもなる。やり過ぎは副作用が出てよくないし、やらなければ強くならない。自分がつけたい能力に関しては、この薬はだめだからこっちを使おうとか。とにかく試して、選んで、残して、捨ててっていうのをどんどんやっていきましたね。特に技術系のことは、感覚的な部分がすごく大事なんですが、同時にレースの記録、ラップタイム、同じスピードを出したときの心拍数、ペダリングのパワー、といった数値も使って、仮説を立てるんですね。で、感覚的なものと数値を照らし合わせながら判断します。

布施■これって連続性が大事なんです。仮説→実行→検証→再仮説っていうサイクルをいかに早く回せるか。そこでいかにたくさん悩んだかが重要。それが自分のベースの枠の大きさになって いくんです。

たて型思考とよこ型思考

布施■今のお話でもうひとつ思ったのは、たて型思考とよこ型思考の違い。よこ型の思考だと他人と比べてしまう。一方のたて型思考は、なりたい自分、たとえばオリンピック選手になる自分に向かって、一つひとつ課題をクリアしていく。竹谷さんをオリンピックに導いたのはこれだと思うんです。
TK■ああ、そんな感じでした。それをやっていくと、他人のことは関係なくなってきます。課題を全部クリアして、目指す能力をもち得たときには、日本一になれるだろうと。それが 2000年に具現化されたわけなんです。

布施■よこ型思考の選手は、他人と比較するのでいつも不安なんです。他人のことはコントロールできませんから。 でもたて型思考は自分基準の達成なので、コントロールできる。
TK■それと、技術を高めるために試行錯誤する中で、ひとつ大きなブレイクスルーがあったんです。世界チャンピオンと同じレースを走る機会があって、彼と話をしたりその走りを間近に見て、すごくインスパイアされて吸収できた感じがあって。それを再現しようと日本で試行錯誤していたときに、「ああこれだ!」っていう何かをつかんだ瞬間があった。それで15番から1番になれたんです。

布施■世界チャンピオンの話をどう聞いたか、というのがキーですね。これは主体的リスニング力っていうんです。普通は「すごいなー」って他人事として聞いてるものですが、主体的リスニングをする人は「自分だったら」って 置き換えながら聞いてる。これ、すごく強いスキルですよ。たて型思考をもっているとなおいい。なりたい自分があって、それを実現するためにはいくらでも材料が欲しい。そうするとおのずと聴き方が変わってくるんです。 第3ステージはモデルづくり。スタイルというか。ここまでに色んなことを試してきて、自分のやり方みたいなものが出来上がってくる時期がある。それがこの2000年ぐらいから?
TK■確かに2000年から引退するまではひとつのモデルに沿っていたか もしれません。多少のマイナーチェンジはありましたけど。

布施■で、最終的な第4ステージっていうのは、そのモデルを洗練していく段階なんです。オリンピック前後はそういう感じでした?
TK■そうですね。試行錯誤して得てきたものの中からある程度捨てることもして、2004年には完成形ができてきたという流れ。選考会までは思い描いた通りにできていたんです。ただ、オリンピックに行く段になって、競技とは関係のない、メディア露出とかスポンサーがらみの儀式とか、自分ではコントロールできない色んなことが出てきて、そこでフワフワした感じのまま、気がついたら終わっちゃったっていうのはあるんです。そこが悔いの残 ってるところです。

布施■本当はね、そこは僕らサポートする側の仕事なんですよね。オリンピックでは競技以外で予測できないことが起きてしまう。それを僕らが一緒にシミュレーションしてあげて、解決法を事前に用意しておく。今まで競技の中で解決してきたことに当てはめるとか、そういうことを一緒にやっていって、一般化していくんですね。それをライフスキルって言うんですけど。

©Sho Fujimaki

これからの指導者に 求められること

布施■指導者の道を考えたことは?
TK■いや、僕は自分でやりたいタイプなので。

布施■僕は竹谷さんみたいな人こそ必要だと思うんですよ。今、知識や技術を教えるのがうまいコーチはたくさんいる。でもこれからの指導者は、知識そのものよりも、それを選手が自ら身につける場をつくってあげることが大事なんです。たて型思考をつくってあげたり、主体的リスニングをさせてあ げたり。フォームを指導するときだって手の角度が何度かじゃない。
TK■角度の発見の仕方を身につけないとだめなんですよね。

布施■そう、スポーツが目指すべきなのはそっち。そうすれば競技を離れても、ライフスキルとしてその後の人生に役立てられる。

TK■みんな正解を知りたがるんだけど、正解なんかない。でも、正解の見つけ方を知っている人は、たとえば練習と試合で条件が違っても、そのときなりの答えを見つけられる。 ところで今日でスポーツ心理学のイメージが変わりました。プロファイリングのように型にはめられちゃうのかなと思ってたんですけど、むしろ逆で、自由な再構築を手伝うものなんですね。

布施■スポーツ心理学者の仕事って本人がどういうふうになりたいかを引き出し、言語化してあげることなんです。
TK■今日の対談はすごく参考になりました。自分なりに整理し活用していきたいと思います。

【トライアスロンLAB】メンバー限定:布施先生とトライアスリートの過去対談
▶布施先生×山本淳一さん
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