【トライアスロンLAB限定】再び泳ぎ始める前に、やっておきたいコト

投稿日:2020年5月29日 更新日:


ルミナ編集部

text by:

©Kenta Onoguchi

座学で速くなる!スイム講座
by AQUALAB

再び泳げるようなったときのために、やっておきたいコト

コロナ禍の影響でプールで泳ぐ機会を失ってきたトライアスリートたちへ、スイム指導のスペシャリスト「AQUALAB」(アクアラブ)責任者の和田泰仁コーチが、プールでのスイムを再開するにあたって留意すべき点や、泳ぎを再開する前に、「おうち時間」で今すぐできる・続けたい動的ストレッチやアクティベーションの実践法を伝授。

ここで紹介する「自宅でできるコト」はストレッチコードなど特別な道具も不要。コロナ禍が収束を見せ、プールで泳げるようになってからも、日々、自宅でやっておくべきコトにもつながるのだ。

©Kenta Onoguchi

講師:和田泰仁 Yasuhito Wada
AQUALAB責任者。日本選手権、日本学生選手権出場。現役時代はバタフライが専門で、高校時代までは自由形長距離にも取り組む。丁寧かつ的確な指導と優しい語り口で人気のインストラクター。1989年、兵庫県生まれ。

AQUALAB(アクアラブ)
最新鋭のスイムトレーニング施設を使い、アテネ・北京両五輪金メダリストの北島康介が主宰する「KITAJIMAQUATICS」のノウハウでスイムフォームのチェック・指導を行う。世界各国のトップアスリートに愛用されている動作分析システムを用いたアドバイスも手がける。

この自粛期間中、トライアスリートの皆さんはどう過ごされていましたか?

ソーシャルディスタンスを保ちながら行える軽いランニングや、ローラー台を活用したインドアバイクトレーニング、自重負荷での体幹トレーニングなどを皆さんよくやられていると聞きます。

問題は、スイムですよね。施設を使わなければなりませんから、スイムトレーニングはほぼゼロだったのではないでしょうか。

水泳で大切なのは、水をかいたり蹴ったりする水の感覚(水感)。それはやはりプールで実際に泳がないと身につくものではありません。ですから、泳げるようになったら、ぜひまたスイムトレーニングを再開してほしいと思っています。

そこで、再び泳ぎ始められるようになったとき、水感をできるだけ早く取り戻せるようになるために、今やっておきたいホームストレッチ5種をご紹介します。

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バイクに乗るトライアスリートは
どうしても背中が固まりやすい

早速ストレッチを紹介したいのですが、なぜそれらのストレッチを行うとトライアスリートのスイムトレーニングに効果があるのかを先にご説明します。

トライアスリートで多いのが、背中が硬い人です。特に泳げない今、バイクやランのトレーニングが多くなり、上半身を大きく動かすような動きをすることが少なくなっているのではないでしょうか。

特にバイクトレーニングは、背中を丸めた姿勢を長時間とり続けることが多くなりますから、どうしても背中が固まりやすくなります。パソコンを長時間使ったときと同じような感じですね。

スイムは技術力が結果に影響しやすいスポーツです。その技術を支えているのが、実は背中や肩周り、そして胸郭の可動域や柔軟性なのです。

私たちは、普段から背中や胸郭をしっかりストレッチさせてから泳いでもらうことを大切にしています。特にトライアスリートは、この背中や肩周り、胸郭の動きを良くするストレッチをしてから泳いでいただくと、泳ぎも感覚も大きく変化します。

柔軟性や可動域については、やってすぐ効果があるものではありませんし、やらなければすぐに硬くなってしまいます。ですから、泳げない(または泳げる時間がまだ限られている)今だからこそ、背中、肩周り、胸郭の動きがスムーズになるストレッチを習慣化させてしまいましょう。

肩周りを大きく動かして
胸郭や肩甲骨とも連動させる

まずひとつ目は『ゆっくり腕回し』。意識するポイントは、肩と背中、肩甲骨、胸郭のそれぞれを大きく動かすことです。

まずは気をつけの姿勢から、手の平を内側(身体の側)に向けた状態で親指を立てて、その親指が引っ張られるような意識を持ちながら腕を前から上に向かって真っすぐ回します。

ゆっくり腕回し

手の平を内側にしたままで、胸郭が大きく広がるのを感じながら、限界まで腕を背中側まで持って行きましょう。このとき、身体は正面を向いたまま。身体を捻らないように注意してください。

もうこれ以上腕が後ろにいかない、というところまで持っていったら、手の平を外側に向けてから、身体を捻らないようにしつつ、今度は小指から腕を背中側に回します。

ここのポイントは、肩甲骨です。肩甲骨を寄せる動きをさせて、背中を意識的に動かすようにしましょう。手の平の向きは、腕が下がっていくと同時に、徐々に内側に向けていくと良いでしょう。

日常生活でも、腕を上げるという動作はあまり行いませんよね。でも、水泳はそういう日常的にない動作を、特に上半身で行うスポーツです。なので、泳がないときでも、普段からスイムで行うような腕や肩、胸郭に肩甲骨の動作をやっておくことをお勧めします。

胸郭と背中を連動させて
可動域を良くするストレッチ2種

ふたつ目と三つ目は『胸と肩甲骨のストレッチ』です。

ヒジを90度に曲げた状態で脇を締めて、手の平を上に向けた状態で親指を立てます。手の平が真上を向いた状態と、ヒジがしっかり体側についた状態を維持したまま、手を横に持っていきましょう。

胸と肩甲骨のストレッチ❶

ポイントは肩や腕を動かすのではなく、胸を開きながら、肩甲骨を寄せるという動きに伴って、腕が動くような意識を持って行ってください。胸を開かずにこの動きを無理やり行うと、肩関節に負担がかかってしまいます。関節に負担をかけるのではなく、胸や肩甲骨の動きに腕がついていくようなイメージです。

注意点としては、手を横に動かしたときに、背中を反らないようにすること。真っすぐな姿勢を維持するように心がけてください。

三つ目はヒジを90度にしたまま、腕を肩の高さまで上げてください。手の平は、内側を向けて親指を立てます。その状態からヒジを支点にして、手を後ろに動かします。肩関節がしっかりと伸びながら動くのと同時に、胸が大きく開く動きを感じとりながら行ってください。

胸と肩甲骨のストレッチ❷

このときも、手を後ろに持っていくときに背中が反ったり、ヒジまで後ろに動いたりしないように注意してくださいね。

胸の柔軟性や可動域と、背中のそれは連動しています。つまり、胸が開閉できないと、背中も開閉できないということです。

ですから、背中が固まったから背中をストレッチする、というのは間違っていないのですが、それと同時に胸もストレッチしてあげたほうが高い効果を得られるのです。

固まりやすい腸腰筋を
じっくりと伸ばす

ここまでが、泳がないことで最も動きが悪くなってしまいやすい、肩周り、胸、背中(肩甲骨)の動きを良くするストレッチでした。

次に紹介したいのは、股関節周り、特に腸腰筋のストレッチです。バイクに乗る機会が多いトライアスリートは、腸腰筋が固まりやすいようです。

バイクやランでも腸腰筋は使います。ですが、圧倒的に伸ばす方向に使うよりも、収縮する方向に使うこと機会のほうが多いんです。そのため、ストレッチして伸ばしておかないとすぐに固まってしまいます。

腸腰筋は小さな筋肉ですから、普段は多少固まっていたとしてもランやバイクの動作にあまり大きな影響はないので、気にすることも少ないかもしれません。ですが、スイムにおいて腸腰筋がしっかり伸ばせているかどうかは重要なポイントになります。

腸腰筋が固まるとどうなるかと言うと、泳ぐときの姿勢になったとき、ヒザが落ちる状態になってしまいやすいんです。横から見ると、股関節のところでくの字に曲がる感じですね。そうなると下半身が沈みやすくなり、良い泳ぎができなくなってしまうんです。

そこで、しっかりと腸腰筋を伸ばせる、四つ目のストレッチをご紹介します。片ほうのヒザをついて、もう片ほうの脚を前に出して、片ヒザをついた状態になりましょう。

スイムのための腸腰筋ストレッチ❶

そして、上半身は床に対して垂直な姿勢を維持したまま、身体をグッと前に持っていきましょう。腰を斜め下に押しつけるようなイメージをもつと、脚の付け根にある腸腰筋がしっかりと伸びる感覚が分かると思います。

テレビを観ながらでもできるストレッチなので、ちょっと気がついたときにやっておくとすぐに習慣化しやすいストレッチですよ。

キックで使う腸腰筋を
動ストレッチで伸ばす

固まりやすい腸腰筋のストレッチを、もうひとつご紹介します。

立位の状態で、片ほうのヒザを持ちます。そして、抱えた脚を胸のほうに引き寄せながら、もう片ほうの脚(軸足)のカカトを上げます。そうすると、軸足のほうの脚の付け根、腸腰筋がしっかりと伸びます。それと同時に、抱えている側のお尻も伸びているのが分かると思います。

スイムのための腸腰筋ストレッチ❷

もちろんそちらのストレッチにもなるのですが、今回は腸腰筋にスポットを当てたいので、軸足のほうの付け根に意識を集中させて行ってください。2秒間伸ばしたら、次に反対側を2秒間、という感じで、リズム良く動きながら行ってみてください。

股関節を伸ばすためには、お尻をキュッと締めることが大切。これはその意識づけもできる一石二鳥のストレッチです。

注意したいのは、ヒザを抱えて腸腰筋を伸ばすときに、背中を反らせ過ぎないこと。四つ目のストレッチも、胸郭や肩甲骨のストレッチもそうでしたが、基本的には身体は上下左右にぶらさず、真っすぐな姿勢を維持して行うことで、伸ばしたい部位にアプローチすることができるようになるのです。

「動ストレッチ」は
パフォーマンスへの仲介役

五つ目のストレッチは、動きながら行う、いわゆる“動ストレッチ”です。対して、四つ目にご紹介した立てヒザから行う腸腰筋のストレッチは、静止した状態でじっくりとターゲットの部位を伸ばす、静的なストレッチですね。

動ストレッチは、動かずに静止した状態で行うストレッチよりも、ストレッチで伸ばしている部位の動きを実際のパフォーマンスに近づける効果があります。

たとえば、ベンチプレスの動きは水泳にはありませんよね。でも、大胸筋を鍛えるという意味ではベンチプレスは効果的です。つまり、ベンチプレスばかりやっていても泳ぎにはつながりませんが、それで鍛えた大胸筋を泳ぎの動作に使えるようにする、仲介役のトレーニングを行えば良いのです。

動ストレッチは、ストレッチによって可動域が広がって良くなった動きをパフォーマンスにつなげるための、まさにその仲介役を担っているのです。

もしも可動域を広げたいのであれば、動ストレッチよりも、静止した状態で、可動域を広げたい部位に集中して行ったほうが高い効果を得られます。

大切なのは、取り組みの順番です。最初から動ストレッチばかりやるのではなく、まずは静的なストレッチで可動域を広げたり動きを良くしたりしたあとに、動ストレッチを使って実際に行うパフォーマンスにつなげていくのです。

泳ぎ始めは「大げさに身体を動かす」
泳ぎながら行う動ストレッチが効果的

さて、ここまで5種のストレッチをご紹介してきました。これは家だけではなく、泳ぐ前に行っても、泳ぎの感覚が良くなるストレッチです。ぜひ習慣化させて、泳げるようになったら、プールサイドなどでもこれらのストレッチを行ってから水に入ってみてください。きっと、良い感覚で泳げることができますよ。

そして、長期間泳がなかったことで水感はもちろんのこと、身体を水の中で動かす感覚も鈍ってしまっている方も多いと思います。

ですから、久しぶりに水に入ったときは、いつもよりも動きを大げさにして泳いでみてください。泳ぎながら行う“動ストレッチ”ですね。

リカバリーでいつもよりもヒジを高く上げる。いつもよりも大きく脚を動かす。いつもよりも大きなストロークをやってみる。

そうやって、たくさんの関節や筋肉を一度大げさに動かすことで、今まで使っていなかった泳ぐための筋肉や関節が目覚めて、水の中で身体を動かす感覚が蘇り、動きが良くなっていきます。

©Kenta Onoguchi

それから、下半身の位置と前重心で泳げているかどうかは、泳ぎ始めにぜひチェックしてください。

久しぶりに泳ぐと、下半身を浮かせる感覚はかなり鈍っていると思います。ですから、泳ぎ始めは今まで以上に下半身が沈んでいるつもりで、いつもよりも下半身を浮かせる意識をもったり、前方に重心をかけるイメージをもって泳ぐと良いでしょう。

大会開催はまだ先。
焦らず感覚を取り戻すことから始めよう

熱心で真面目なトライアスリートの方には、泳ぎ始めにもうひとつ注意してもらいたいことがあります。

それは『焦らない』ことです。

きっと、泳げなかった時期を取り戻すかのように、バリバリとスイムトレーニングに取り組みたい、と思っている人も多いと思います。

ですが、水感が鈍り、良い姿勢や良い感覚で泳げなくなっている状態でたくさん泳いでしまうと、悪い泳ぎが定着してしまう可能性があるんです。

おそらく、次に大会に出場するまでには、少なくとも2~3カ月は猶予があるのではないでしょうか。その状態で、焦ってすぐに感覚や泳力を戻す必要はありません。

最初は1カ月の時間をかけて、ゆっくり、じっくりと自分の水感を取り戻していってください。そこから泳力アップのトレーニングをしても、遅いことはありません。

©Kenta Onoguchi

多くの皆さんは泳げない期間もランやバイクなどのトレーニングはされていましたよね? それであれば、心肺機能は維持されているか、もしくは向上している可能性だってあります。体力が変わらないのであれば、技術力を取り戻せば、すぐにまた今までと同じように泳ぐことができるようになります。

水泳選手も、長期のオフ明けのときにはたくさんの量を泳いだり、質の高い練習をいきなり行ったりすることはありません。最初はスカーリングなどの水感を取り戻す練習が多く取り入れられています。

ですから、トライアスリートの皆さんも、焦らずにゆっくり、最初は水感を取り戻すことを目標に据えてトレーニングを開始してみてください。

★この記事の内容を予習・復習用の教科書としたZoomセミナーが6月4日(木曜日)午前8時~9時に開催されます。セミナースケジュールの確認・申し込みは《トライアスロンLAB》のFacebookページで。



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