【トライアスロンLAB限定】TK総論講義 Back to Bike Basic〈1〉

投稿日:2020年5月21日 更新日:


ルミナ編集部

text by:

©Kenta Onoguchi

Back to Bike Basic
TK総論講義:トライアスリートが今、立ち返っておきたい
BIKEトレーニングの基礎とは?〈1〉

学びのオンラインコミュニティ《トライアスロンLAB》内で展開される TK(竹谷賢二さん)指導「トライアスリート的BIKEライド探求クラス」の前提となる、バイシクル・トレーニングの基礎。

コロナ渦中でレースもなく、目標から逆算した強化トレーニングを一旦忘れていい今だからこそ、立ち返って・じっくり向き合いたい「基礎」の全容(必要な要素)を整理し、どんな優先順位で取り組み、どのように再確認・再構築していけばいいか?

トライアスリートの目線でTKが解説する。

★今回の総論講義で紹介する各テーマの詳細は、今後、「TK指導:トライアスリート的BIKEライド・探求クラス」のClassroom(定員5人のZoomセミパーソナルセミナー)で学べます。セミナースケジュールの確認・申し込みは《トライアスロンLAB》のFacebookページで。

©Kenta Onoguchi

TK /竹谷賢二
会社勤めのサラリーマンアスリートからプロに転向し、マウンテンバイク(クロスカントリー)競技の全日本選手権優勝4回、2004年アテネ五輪日本代表にまで上り詰めた理論派アスリート。プロとして現役を退いた2012年からは、指導者として活動しながらトライアスロンにも挑戦。アイアンマン世界選手権(KONA)に8年連続出場を果たしている。

「ペダリングの基本再考」
>>メカニズム~基本動作・姿勢まで

>>講義A
●A-1そもそもペダリングの原理・メカニズムとは?
●A-2姿勢・フォーム>>基本動作

「バイクを速く進ませる」と「身体への負担を減らす」の両輪で考える

バイクを速く走らせる能力は大きく分けて以下のふたつに分けられる。

(a)バイクを速く進ませる能力
(b)身体に負担をかけずに乗る能力

(a)は自転車という機械に対して適切に働きかける能力、一方(b)は人間側の能力で、疲労や足腰への負担が少なく、長時間、身体を使い続けられる能力と言えます」(TK・以下同)

「変なフォームだけど速い人は、(a)ができているけど(b)ができていないことになります。こういう人は、ヒザや腰を痛めたりする。一方、きれいなフォームだけど遅い人は(b)ができているけど、(a)ができていないことになります」

(a)(b)、ふたつを整合させたのが良いライディングで、両方ちゃんと練習しないとダメ。ただ練習はそれぞれ別で、ひとつずつ取り組む必要があります」

●A-1そもそもペダリングの原理・メカニズムとは?

「ペダルへの入力」≠「バイクの推進力」

まずは(a)の「バイクを速く進ませる能力」について学んでいく。

もちろん、自転車はペダルを回すことで前に進む乗り物だが、理解すべきは「ペダルに加えた力」=「バイクの推進力」とはならないことだ。詳しく言うと、ペダルを踏み込んだ力は以下のふたつに分かれて作用する。

①クランク・チェーンリングを回転させてチェーンを引っ張り、後輪を回転させる力

②BB軸を真下に押し付ける力

クランクを時計の針に見立てたとき、①に作用するのは0時~6時の間でペダル・クランクが動いているときだ。

「チェーンに力を伝えるには0時~3時の区間で意識してペダルに力を伝える必要があります。その先の3時~6時は角度的に力が出しやすいし、脚の重量もあるのですぐ下死点(6時の位置)まで降ろせます」

「しかし、下死点でペダルを下に押し付けてもバイクを進ませる力にはなりません。BB軸、バイクフレームに下向きに力が加わるので、踏みごたえはあるけど進まない。かえって入力に対する反作用で、ふくらはぎ、太もも、腰に負担がかかり、痛みが発生することもあります」

こうしたペダリングの特性は、スイムのストロークにも共通する。

「腕をかいて水に伝えた力が、すべて前に進む力になるわけではありませんよね。いかに速く腕を動かしても上手に動かせていないと、水をかいているだけで効率良く前には進まない。バイクも同じことで、力いっぱいペダルをこぐよりも後輪をいかに速く強く回すかを意識したほうがいいです」

関節を曲げた状態からパワーを出す

一方で、人間は脚を伸ばしたとき、ペダリングで言えば下死点でもっとも力が出やすい肉体の構造をしており、それが難しさを生んでいる。

「ランは脚が伸びた瞬間に地面を押すことで、前に進みます。つまり、人間は脚が伸びた状態が力を出しやすい。しかし、バイクの場合は脚が最も伸びているときは下死点の位置にあり、バイクが進む力にはならない。歩くときや走るときの慣れている感覚でペダリングの力を入れると、間違ったことになるのです」

「ペダリングでは上死点付近から力を出し始めたい。しかし、脚が伸びている下死点とは逆に股関節、ひざ関節、足首と脚のすべての関節が曲がった状態になります。そういう状態で力を出すのは、人間の身体では特殊なこと。頭でわかっても身体で再現するのは難しいです」

つまり、脚の関節が曲がった状態から力を発揮できるようになるには、意識して練習する必要があるのだ。

ペダリングの一連の動きを、便宜的に時計の針の位置で説明する場合、最も意識してペダルに力を伝える必要があるのは「0時(上死点)~3時」の位置 ©Kenta Onoguchi

ペダリングをジャストミートする

さらに、この先にはタイミングという新たな難関がある。

「ケイデンスを一般的な1分間90回転とした場合、1回転は0.66秒となります。ペダリングを一番頑張るのは0時~3時までの1/4回転ですが、その通過時間は0.165秒のわずかな時間です。そこにタイミングよく力を当てられるかが、問題です。

野球に例えると、ど真ん中にボールを投げると宣言しても150km/hの速球を打つのは難しい。一定の場所をボールが通るとわかっていても、力を入れるタイミングは人間次第なので、ジャストミートできるとは限りません」

「バイクは機械のように脚を回してペダリングすればいいと思ってしまうのが、ひとつの盲点です。効率良くバイクを進めるには、力を入れる位置とタイミングを練習して習得しなければいけません」

具体的なペダリングの練習方法については<講義B>で詳しく解説する。

「巡行」はアクセルワークで燃費節約

また、バイクを走らせるときはつねに全力でこぎ続けるのではなく、「加速」と「巡行」で力の入れ方を変える必要がある。

「加速はパワーが必要ですが、巡行はスピードをキープすればいいので大きなパワーはいりません。巡行時はパワー=スピードではないんです。減速で失われた分を継ぎ足していく作業が必要です。高速道路の燃費のようなもので、細かいアクセルワークが必要。そのさじ加減も練習で身に着ける必要があります」

さじ加減、つまり細かく自分のパワーを上げ下げする能力を鍛える練習方法は<講義E>で解説する。

写真は2018年KONA(アイアンマン世界選手権)のバイクコースを行くTK。研ぎ澄まされたペダリングと絶妙なアクセルワークで、無駄な力を使わずトップクラスのバイクラップをたたき出す。©Kenta Onoguchi

●A-2姿勢・フォーム>>基本動作

ペダリングに最適な骨盤の前傾角度を探す

続いては、(b)の「身体に負担をかけずに乗る能力」について。そのためには、適切なライディングフォームをとることが重要だ。

バイクの乗車姿勢を考えたときに、骨盤を基準に上半身と下半身を分けるのが基本的な考え方だ。もちろん下半身となる脚はペダリングに直接作用する重要なパーツだ。一方、骨盤から上の上半身の姿勢もペダリングに大きな影響を与える。

まずは、骨盤を前傾させる角度を決めていく。

骨盤が立っている状態。つまり、サドルに対して垂直に近い姿勢で座っている状態は、高回転ペダリング向きだ。

「骨盤が垂直に近づくほど、脚の可動範囲は上に広くなります。つまり、脚が曲げやすく、上がりやすくなるので、高回転のペダリングがしやすくなります」

一方、骨盤が寝ている状態。つまり、サドルの上で骨盤が深く前傾している状態は大きなパワーを出しやすい。

「骨盤を倒せば倒すほど、大殿筋の力が発揮されやすくなります。関節が曲がって(太ももが上がって)大殿筋が引き延ばされるほど、戻ろうとする力が大きくなるからです。ジャンプするときに脚を曲げてしゃがんだほうが勢いよく跳べるのと同じです」

バイクの上では両者の妥協点、つまり高回転で回しやすく、筋力も発揮しやすい骨盤の角度を見つけることが重要だ。

「両方のバランスがとれている角度は、関節の柔軟性や腸腰筋などの筋力の差など、個人個人によって差が出るところです。その人に合った両方を満たした角度を探すのが、バイクフィッティングの目的です」

背骨は4種類のフォームがとれるように

続いて骨盤から上、上半身のフォームについて考えていく。

脊椎、いわゆる背骨は上から頸椎、胸椎、腰椎の大きく3つに分けられ、その下の骨盤と接続する。ここでは、上ふたつを(A)=頸椎+胸椎と、下ふたつを(B)=腰椎+骨盤のふたつに分けて考える。

「このふたつの境目がみぞおち付近ですが、ここで背骨の角度を変えられるようになることが大事です」

それぞれの角度が起き気味の姿勢を「立つ」、前傾気味の姿勢を「倒す」と表した場合、

パターン❶
(A)立つ(B)立つ

©Kenta Onoguchi

パターン❷
(A)倒す (B)倒す

©Kenta Onoguchi

と、上下がほぼ同じ角度になるのが一般的なフォームだが、

パターン❸
(A)立つ (B)倒す

©Kenta Onoguchi

パターン➍
(A)倒す (B)立つ

©Kenta Onoguchi

--と脊椎の角度をみぞおち付近で変えて、4種類のパターンをとれるように可動域を広げて、自分にとって理想的なフォームを見つけていく。

「体幹を固めるといっても上半身を一枚板のように固定するのではなく、上半分(A)と下半分(B)で分けて動かすのが適切なフォームを見つけるのに重要です」

4つのパターンのうち「4」は、 初心者などに見られる悪いフォームにも近い。どこが問題なのか整理しよう。 よく見られるのが、お腹を凹みっぱなしで背骨が丸まっているフォームだ。

また、パターン3のように背中が反っているのも、女性によく見られるフォームだ。深く長い呼吸に合わせてお腹を膨らませたり・凹ませたり両方できるフォームを目指したい。

「これらのフォームをうまく使い分ければ、ドロップハンドルの下ハンドル持つとき、エアロフォームをとるときなど。いろんな乗車姿勢をとりやすくなります。また、重心の微調整もしやすくなります」

肩の位置は首の真横に

続いては、肩の位置。肩峰と言われる肩の先端(骨の出っ張り)が、首の真横にある状態が基本だ。

「力んで肩峰の位置が前に出たり、上がったり、下がったりするのはNGです。真横にあるニュートラルな位置から腕を前に真っすぐ出してハンドルを握るようにします。鎖骨を触わって真横に伸びていれば、正しい状態です。鎖骨や肩峰の位置が正しければ、繋がっている肩甲骨も正しい位置になります。肩の位置が正しいと、呼吸もしやすくなります」

©Kenta Onoguchi

悪いフォームとは?

初心者などに見られる悪いフォームについて、どこが問題なのか整理しよう。
よく見られるのが、お腹をへこませて背骨が丸まっているフォームだ。

「お腹がへこむ状態でサドルに座っている人は、腹式呼吸がしにくいです。腹式呼吸とは、肺が膨らんで横隔膜が下がることで内臓が押し出されてお腹が膨らむことです。その状態にできない人は、腹まわりの力が抜けている。いわゆる腹圧が低い状態です。

また、腕で肩、頭、上半身を支えていて、背中の腰あたりに体重がかかるので腰痛になりやすい。大きく呼吸できて、お腹を膨らませられるのが重要です」

また、背中が反っているのも、女性によく見られるフォームだ。

「女性は骨盤、股関節が柔らかいので、背中が反りかえる人が多いですね。このフォームもお腹の力が抜けているので、両腕とハンドルで上半身を支えていることになります。片手離しができなくて手信号を出せない、ボトルを取れないという人は、フォームが悪い可能性があります」

練習としては、ローラー台で鏡を見ながら、上半身を上下に分けた動きを見て確かめることになる。片手ずつハンドルから手を離して、フォームをとるのも練習法のひとつだ。

>>後編を読む

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