【トライアスロンLAB限定】TK総論講義 Back to Bike Basic〈2〉

投稿日:2020年5月21日 更新日:


ルミナ編集部

text by:

©Kenta Onoguchi

Back to Bike Basic
TK総論講義:トライアスリートが今、立ち返っておきたい
BIKEトレーニングの基礎とは?〈2〉

>>前編を読む

「ペダリングの基本実践」>>動作を磨くドリル

>>講義B
●B-1基本動作を確認・磨くドリル
●B-2ペダリング・ドリルのバリエーション

ペダリングの一連の動きを分解して練習

ここでは、具体的なペダリングの練習方法について説明していく。

<講義A-1>でペダリングはチェーン・後輪を引っ張る力が重要と説明したが、まずはその引っ張る感覚をつかみ、力を入れる練習をしていく。

そのためには、ペダリングの一連の動きをいくつか分割して練習する。なお、ギヤの位置は力のオン・オフがわかりやすいように、できる限り重たい状態にする。アウタートップから2~3枚軽くするぐらいが目安だ。

❶10時半~1時半 チェーンを引っ張る感覚をつかむ

チェーン・後輪に力がかかり始めるのは上死点の12時の位置だが、後輪のフリーハブがかみ合う時間を作る予備動作のため、スタート地点は45度手前の10時半とする。

「10時半から1時半までの通過だけを、ペダルを行ったり来たり繰り返し練習します。チェーンの引っ張りを感じる位置とタイミングをつかむのが目的です。力のかかり始めがわかれば、いいでしょう」

❷10時半~3時 ペダルへの入力を意識

続いては10時半から3時までクランクを動かす練習を繰り返す。3時までの入力を意識するのが重要だ。

「ライダーがもっとも力を発揮しなければいけない区間です。ここでどれだけ力を加えられ、バイクが進むかが実戦で大きな差になって表れます」

❸10時半~6時 一気に下まで踏み切る

下死点(6時)まで一気に踏み切る練習で、「下死点に達したら、そのままペダルを回転させて、再び10時半からスタートします。チェーンへの力のかかりを感じて、元の位置に戻すのをひたすら繰り返します」

❹1時半~9時 反対側の足を意識

スタートは、左右のペダルが水平になる3時・9時の位置から少し戻した1時半の位置から。ここからペダリングを始めて、後ろの9時の位置で止める。この練習で重要なのは、反対側の足の意識だ。

「左足を基準にした場合、左足が下がり始めると右足がすぐ10時半の位置に来ます。ここで右足が❶と❷の進む力をかけられるかという練習です。後ろから上がってくる足が、チェーンを引っ張る感覚をつかむのが目的です。

一方、基準の右足は重さですぐ下がりますが、すぐ斜め後ろに上げないといけない。下向きの力を入れないで後ろにスムーズに動かすのも、もうひとつの目的です。この半円の動きを繰り返すことで、ペダリングの円運動になります」

言い換えると❸は上下の動き、❹は前後の動きをつかむ練習ということだ。

「ここまでがペダリングの練習の第一段階。自転車の進みをよくするため、位置と向きとタイミングを覚え、自動的にできるようになるまで続けます。ペダルの位置によって、どれくらいチェーンにテンションが伝わっているか感じながら練習しましょう」

高回転と低回転の練習

<講義A-2>で骨盤の角度とペダリングの関係を説明したが、それを踏まえて、次は高回転と低回転のペダリングのトレーニングを行う。

❺高回転ペダリング

「脚は上に上がってこないと下げることはできないので、まずは上げるほうを優先します。重量のある脚を下から上に戻すスキルを習得するため、軽いギヤで高回転の練習をします」

この練習は骨盤が立って上半身が起きているフォーム、ギヤは前がインナー、リアが中間ぐらいの軽いもので行う。

ポイントは――
①下死点で下に踏まない
②脚の重さを克服する
③速い動きを身に着ける
――の3つだ。

「ケイデンスは通常90回転ぐらいなら100~110回転で行います。先ほどの1時半~9時の練習と同じく、大事なのは3時から先。下死点でヒザが伸びきらないイメージで、後ろに送り斜め上に上げます。なるべく速く脚を戻すのを怠らないようにしましょう。この練習で、脚を上げる能力、腸腰筋を鍛えます」

❻低回転ペダリング

続いて重たいギヤで、低回転の練習も行う。ギヤは前アウター、後ろ中間付近で、ケイデンスは60回転ぐらいが目安。

「前述した時計の針で分割したペダリングの動きを、重たいギヤで力のかかり具合を確かめながら、連続した円運動で行います。力をかける・戻すを丁寧にやる練習です。強い力で押せることが重要。骨盤は力をかけやすいように前傾し、上半身も低くします」

高回転と低回転は両方とも同じぐらいの量をやってみる。

ペダリング練習のバリエーションとしては、片足ペダリング、ダンシングなども取り入れるといい。

「ぎくしゃくしたペダリングになる人は片足ペダリングをやってみましょう。また、ダンシングがうまい人はシッティングもうまい。ダンシングの練習をすることで、座ってこぐときの力の入れ方の練習にもなります」

バイクライドの〈重心&操作スキル〉を究める。

>>講義C
●C-1「重心」を究める
●C-2バイク操作のスキル

重心は1時半の位置の上に

身体の重心は、ペダリングで最も体重をかけるべきところに持ってくるのがセオリーだ。

「ペダリングの一連の動きの中で重さが働き始めるのは、1時半の位置。ここから重力がチェーンを引っ張る動きに繋がり、3時の位置でもっとも大きくなります。3時から力をかけるのはちょっと遅いので、1時半の位置の上に重心を持ってきます」

適切な重心位置を探るためには、ダンシングも効果的だ。

「もちろん、サドルにどっかり座ると重心は1時半より後ろになります。また、身体がハンドルに寄りかかっていると重心が前寄りになり、ペダルよりハンドルに大きな荷重がかかります。ダンシングのときの最適な位置のまま、身体を沈めてサドルに腰をちょこんと下ろすのがいいポジションです。重心を極めるとは、すなわちダンシングを極めることにもなります」

しかし、ダンシングで重心を意識したペダリングをしても、そのまま身体が下に沈んではいけない。ペダリングは連続的な運動で、身体が沈んでは次の動きに繋がらないからだ。

「体重をかけた勢いで重心の位置が下がらないように、筋力で体を押し上げて戻さないといけません。例えば左足が1時半、右足が7時半のときは、チェーンに体重がかかっている状態ですが、左足が3時まで移動する間に、ペダルを踏み込むのと等しい力で自分の身体を押し返さないといけません。この間は、脚の関節が曲がっている状態で自分の体重を支え、さらに押し返す筋肉が必要です。そういう姿勢で力を出す練習も必要になります」

さらに。左右のペダル間での重心の移動も要求される。

「ケイデンス90回転でペダル1/4回転は0.165秒の短い時間です。そのタイミングで重心を左右に切り返さないといけません。ペダリングは脚の円運動であると同時に、重心の左右の切り替えしでもあるのです」

こうした動きは自転車に乗れる人であれば、ある程度は無意識にできているが、より効果的に体重をペダリングに使うには、筋力アップも欠かせない。

「サドル、ハンドルに荷重が分散している人は、その分、ペダルに乗る荷重は減ってしまいます。チェーンのテンションがかかっている、適切なギヤがかかっている、自分の体重を支えて、ペダリングの最適な位置をとらえられる。そこまでできて、重心が生かせるようになります」

●C-2バイク操作のスキル

ここからは、これまで学んだバイクを進ませる以外のスキル。曲がる、止まる、変速のタイミングについて見ていく。

ブレーキ/微妙な利き具合をコントロール

現在、ブレーキはリムブレーキからディスクブレーキが主流になり始め、制動力も上がっているだけに、微妙な利き具合のコントロールがより重要になってきている。

「ブレーキは、オン・オフのスイッチではなく、力加減が重要です。もちろん、ブレーキレバーを強く握れば制動力は増すし、力を緩めると制動力も下がる。その両方の感覚を細かくつかむのが大事です」

その練習のためには、下り坂をゆっくり下ってみる。

「下り坂でブレーキをかけ、10km/h以下の歩くぐらいのゆっくりしたスピードで、止まらないように下っていく練習をします。このとき、前ブレーキだけで、後ろブレーキだけ、両方のブレーキと3通り練習します」

「慣れてきたら、一度レバーから指を離してバイクを加速させ、3秒してからまたブレーキをかけてゆっくり下るのを繰り返します。さらに慣れてきたらブレーキを離す時間を5秒、10秒と段階的に伸ばします。だんだんスピードも上がるので、強い制動力をかける感覚がつかめるようになります」

©Kenta Onoguchi

コーナリングは重心移動で曲がる

コーナリングのセオリーは、ハンドルを切るのではなく、曲がろうとする方向へ重心移動し、バイクを傾けることだ。

「バイクの上でいかに左右に重心移動できるかが重要です。左に曲がるときはイン側の左ハンドル、左ペダル、サドルの左側に荷重をかけます。外脚荷重とよく言いますが、外脚はイン側の荷重とバランスをとる目的で、重心はあくまでイン側です。外脚に重心が乗ったまま曲がろうとすると、バイクが傾けられずなかなか曲がっていきません」

上半身が柔軟なフォームで乗ることも重要だ。

「バイクを傾けることでハンドルの舵角も自然につくのですが、腕が固まってハンドルが左右に動かない人はうまく曲がれません」

下り坂は前後のタイヤに均等に乗る

コーナリング、ブレーキングのテクニックが問われるのは特に下り坂でスピードが乗っているときだ。

「下りでは前後の重心位置が重要。大事なのはペダルに対する重心ではなく、タイヤに対する重心。前輪、後輪に均等に乗るように身体の位置を前後に動かします。前後のタイヤに均等に乗れれば、バイクコントロールしやすい。直進の安定した状態から、重心バランスをイン側にすると曲がりやすくなります。この感覚がつかめれば、おのずとタイヤの空気圧にも敏感になり、タイヤの変形やグリップもわかるようになるでしょう」

反対側への重心移動で、動きのきっかけづくり

高度なテクニックになるが、バイクの挙動のきっかけづくりのため、あえて一瞬、反対側に重心を移動することもある。

「コーナリングのときはいったんアウト側に重心を振って、イン側に重心移動します。ブレーキングは重心を後ろにしてブレーキをかけて、重心を前に戻しながらブレーキを緩めていきます」

「コーナリングのきっかけづくりでバイクが傾いたあとは、その位置で重心をキープして曲がっていきます。しかし、一定の角度で傾きをキープするのは難しい。腕や脚をつっぱって角度を保つ時間が必要ですが、恐怖を感じてチョコチョコと動いてしまいます。右手、右脚、サドルの3点で傾きの角度をキープし、腕は舵角の微調整にとどめましょう」

©Kenta Onoguchi

先を予見してシフトチェンジ。

シフトチェンジは早め、早めが鉄則だ。

「ギヤが重くなってから変速、逆に軽くなってから変速するのは、一度失速しているので、スピードを回復するとときに加速させるパワーが必要です。また、ペースが下がったまま気づかず走り続けることもあります。結果的に、体力かタイムを失っています」

「1レースの間に変速はかなりの回数をやっています。最近は電動変速が増えているのでつい気を抜いてしまいがちですが、ちょっとでも速度変化があると変速しないといけない。先を予見して、変えるのが大切です」

エアロポジション探求

>>講義D
●D-1セルフ・ポジションセッティング&ブラッシュUP
●D-2エアロの究め方(ポジション&装備)

バイクの抵抗の約7割は身体の空気抵抗

バイクを高い速度域で効率よく走らせ、次のランに余力を残してつなげるためには、空気抵抗を可能な限り削減したエアロポジションを身に着けることが重要だ。

「バイクの速度が30km/hを超えると、全体の抵抗のうちの90%以上が空気抵抗と言われています。そのうち自転車が生む空気抵抗は2割で、残りの8割は人間の身体が起こしているのです。つまり、すべての抵抗のうち7割強は人間の体が生み出す空気抵抗と言えるのです」

いくら機材をエアロ仕様に換えても、エアロポジションをとれなければ効果は期待できない。

空力を改善する前に、優先すべきこと

そのエアロポジションを身に着けるには――

①ペダリングのしやすさ
②持続可能な快適性
③空力(エアロダイナミクス)

――の順に考えていかなければいけない。

「何よりもペダリングのしやすいポジションであることが最優先です。400W以上のハイパワーを出す必要はなく、長時間持続可能なパワーでペダリングができるポジションです」

「次に優先する快適性とは、安定して持続しやすいポジションであること。不快なポジションだったら、長時間その姿勢を続けられません。エアロの低い姿勢に耐えられず、ちょこちょこ体を起こしていたら意味ないですから」

©Kenta Onoguchi

前面投影面積と整流効果を改善

最後に空力を改善する。基本的に「前面投影面積」を減らすこと、整流効果を高めることのふたつの方法がある。

前面投影面積とは正面から見た際のシルエットの面積で、これが小さくなればなるほど正面から当たる風の量が小さくなる。バイクの場合、正面から見てフォークやフレームが薄くなっているのも、前面投影面積を小さくするためだ。

フォームで前面投影面積を小さくするためには頭を低くし、胴体の前面投影面積の中に収める。さらに肩幅、ひじ幅を狭くしていく。

頭の位置だけでもパワーは10~20W違う。頭を上げた状態は、当然ながら前面投影面積が大きくなるが(写真左)。肩甲骨を狭めて、頭を低くし、その後ろに背骨がくるようにすることで高さ、幅ともに小さくできる(同右)©Kenta Onoguchi

整流効果を高めるとは、空気を前から後ろへスムーズに流すことだ。物体の後ろに気圧が低い空間ができると後ろに引っ張る力、いわゆるドラッグが発生する。それを小さくするためには、物体の後ろに空気を送り込む必要がある。後ろが細く尖った翼断面形状のフレーム、ホイールのディープリムなどはすべて整流効果を高める目的のものだ。

さらに、空気をスムーズに前から後ろに流すためには、できるだけ隙間をなくし、滑らかな形状となるのが好ましい。隙間があるとそこに空気が巻き込み、気流の乱れが生じる。

「ハイハンズバー」のメリット

従来のフラットタイプのDHバーだとかなり低く頭を下げないと、腕との間に大きな空間ができやすく、そこに空気が巻き込んでいた。しかし、近年は斜め上に伸びたハイハンズバーが主流になりつつある。

「ハイハンズバーにすると頭と腕の間の隙間が狭まり、気流の乱れが小さくなります。風洞実験など空力の解析の結果、こういう形が効果があることがわかってきました」

またハイハンズバーは、快適性においてもメリットがある。

「フラットバーのときは腕を前や下に押し出すように力が入り、上半身が緊張していました。ハイハンズにすることで肩や腕の緊張が抜けるので、長時間同じ姿勢を続けるバイクでの効果は大きいです」

近年、世界のアイアンマンシーンでもトレンドからスタンダードになりつつある「ハイハンズポジション」(写真上)。前面 投影面積はフラットバー(同下)と大きく変わらないが、腕と頭が近くなることで気流の巻き込みが少なくなり、整流効果が高まる。©Kenta Onoguchi

近年、世界のアイアンマンシーンでもトレンドからスタンダードになりつつある「ハイハンズポジション」(写真上)。前面 投影面積はフラットバー(同下)と大きく変わらないが、腕と頭が近くなることで気流の巻き込みが少なくなり、整流効果が高まる。

ペダリング出力アップ&トレーニングの組み立て方

>>講義E
●E-1ペダリング出力の把握と高め方
●E-2トライアスリート的バイクトレーニングの組み立て方

高回転、低回転で8割のパワーをキープ

ペダリングで大きな出力を発揮するには、自分自身のパワーの絶対値を上げるだけでなく、自分のもつパワーをできるだけ多く効率的にペダリングに使えるように訓練することが重要だ。なお、ここからはパワーメーターを使ったトレーニングとなる。

「ただFTP(1時間持続可能な最大平均パワー)を上げればいいというものではありません。ペダリングの出力は速さと強さの掛け算なので、速く回せる能力と強く出せる能力の両方を高めるべき。極端な高回転、低回転でも一定のパワーを出せる人は、動きの速さと力の強さを兼ね備えていると言えます」

そのためには高回転と低回転の両方のトレーニングを行う。

「例えばFTP200Wの人なら、100~110回転という高回転で8割の160Wを出し続けられるようにします。次に50~60回転の低回転でも160Wを出し続ける練習をします。回しにくい高回転、低回転の両方のケイデンスで高いパワーを維持できれば、普段使う80~90回転では160Wが出しやすくなります」

©Kenta Onoguchi

ペースの「さじ加減」を鍛える

また長時間、一定のペースを維持するためにはパワーを小刻みに上げ下げする「さじ加減」ができる能力を身に着けなければならない。そうすれば、オーバーペースになってレース終盤にパワーが枯渇する事態も避けられるようになる。

「力の出し具合をコントロールするのがペーシング。あとちょっとだけパワーを出そう、減らそうと多段階に調整できる人が、ペーシングがうまいと言えます。たとえFTPが高くても、微妙なさじ加減の調整ができない人は、オーバーペースになりやすいでしょう」

「さじ加減のコントロールとしておすすめなのが、ビルドアップピラミッドと呼ばれる段階的にパワーを上げ下げする練習です。5W単位で上げ下げして、1分間キープします。実際のレースでは、風向きや勾配によってパワーを微妙に調整する場面は数多くあり、ミドル、ロングではその積み重ねが大きな差になります」

さらにレベルアップするには、高いパワーに耐えられる練習をする。

「パワーを段階的に上げていくと、呼吸が乱れたり、フォームが崩れたり、意識がもうろうとしたりする限界が見えてくると思います。自分が何Wが限界かわかれば、その数値かやや下の出力でこぎ続ける練習を続ければ、常用で使えるパワーの上限を上げられるでしょう」

***
今回の総論講義で駆け足で紹介した各テーマの詳細は、今後、「TK指導:トライアスリート的BIKEライド・探求クラス」のClassroom(定員5人のZoomセミパーソナルセミナー)で学べます。

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