ハビエル・ゴメス。この10年、ITUサーキットのトップアスリートとしてブラウンリー兄弟らとともに常に中心で活躍し、この競技の水準をかつてないレベルへと引き上げてきた立役者。34歳になる現在も若手の台頭に屈せず、貪欲に勝利を重ねている。WTS横浜大会参戦のため来日した彼に、今の心境と今後の展望を訊いた。
取材/東海林美佳 写真/小野口健太
僕らの意見が柔軟に活かされたシューズ、それが「On」だ
――今年からシューズを変えたそうですね。ITUトップクラスのランナーとして色々こだわりがあると思いますが、今はいているオンの感触はどうですか?
大きなブランドだと選手の意見を聞いて製品を変更してくれることはまずないけれど、オンはそこがとても柔軟でフットワークも軽い。僕らプロアスリートのフィードバックによく耳を傾けて靴に反映することで、より良いシューズをつくっている。ショートのレース用シューズとしてはクラウドフラッシュ(※1)を使ってるんだけど、軽さ、快適性、反発性という、僕がシューズに求めるすべての要素のバランスが絶妙。加えて僕らトライアスリートは素足にシューズをはいて走るんだけど、この靴はすごく感触が良い。速く走るための条件が揃ったシューズだと思う。
――実際、今年のWTS初戦アブダビではこのシューズで優勝してますね。
そう、非常に満足している。それと、ミドルのレースではフラッシュではなくクラウドフロー(※2)をはいている。IM70.3ドバイ優勝の時もフローだった。
――すでにショート1勝、ミドル1勝挙げているわけですね。そして気になるのはその先です。2018年はコナに挑戦、その後ショートに戻って東京オリンピック、という話も聞こえてきてますが。
そこまでは言ってないよ(笑)。実際まだ決めかねてるんだ。もちろん、将来もっと長い距離のレースに移行しようとは思っているけどね。東京に関しては未定。自分の体力と気持ちがどう変わるか、それを1年1年見極めながらやっていきたい。
――可能性はあると。
金メダルを狙える状態だったらやりたいと思ってる。僕はすでにオリンピックには2度出ていて、銀メダルも獲得している。ただ出るだけでは意味がないんだ。だから勝負できる方向を選んでいきたい。―長い距離に対してどんな感触をもっていますか?まず、ITUレースと70.3はまったくの別物だね。レーススタイルが全然違う。ペース配分がとても重要になってくるし、補給もそう。より戦術的というか、頭を使ってレースをしなければいけないね。
――70.3は好きですか?
楽しいよ。コンフォートゾーンから一歩踏み出して、未知のことに挑戦するってエキサイティングだよね。
――じゃあ、アイアンマンへの挑戦も楽しみにしてる?
ワクワクするね。ただ、ITUレースもまだ楽しいと思ってるんだ。そして、楽んでやれてるうちはやり続けたいと思ってる。
――もうそろそろ後進に道を譲ってもいい頃では(笑)?
でもまだ勝ちたい。去年、僕はバイクのクラッシュでヒジを骨折してオリンピック出場を逃した。あの時は本当につらかったね。身体もそうだけど、メンタル面でね。何年もかけて準備してきた試合に出られなかったんだから。オリンピックに出ていたら、本当は今年はミドルとロングに本格移行する年として考えていたんだけど、このままショートを引退したら、単に「ヒジを骨折して引退した奴」になってしまう。それは嫌だった。だから戻って来たんだ。これが本音。第1戦アブダビで勝てた時は本当にうれしかった。まだ第一線でやれると、自分自身に対して証明できたことがね。
――70.3の世界タイトルに向けた最大のライバルは誰?
アリスター・ブラウンリーだろうね。最も手ごわいライバルになるだろう。
――ふたりが舞台を変えて、また真っ向対決するのを見るのは、ファンとしては非常に楽しみです。
だろうね(笑)。アイツはホント、僕の行くところどこにでもいるなぁ(笑)。でも、僕は強い相手を倒してチャンピオンになりたいんだ。そこに意義がある。それがレースってものだよ。
――そしてコナに行けば北京五輪で競い合ったヤン・フロデノがいます。
そうだね。彼のほうが経験を積んでいるから、倒すのは大変だと思う。がんばるよ。もしコナで対決することになったら、いい戦いをしたいね。
※1 クラウドフラッシュ
軽量性、スピードを生む高い反発性など、速く走るための技術がすべて注ぎ込まれたブランド史上最速のレーシングモデル
※2 クラウドフロー
フラッシュに比べクッション性が高く、トレーニングからレースまでこなせるパフォーマンスモデル。ゴメスら多くのトッププロがIMや70.3で実戦投入し勝利を上げている。
ハビエル・ゴメス
ITU(スタンダードディスタンス)サーキットの看板選手として世界選手権5勝、IRONMAN70.3、XTERRAの世界王者にも輝くなど、7つの世界タイトルをもつスペインのスター選手。ロンドン五輪で銀メダルを獲得しているが、ブラウンリー兄弟へのリベンジが期待されたリオでは、大会直前バイク練習中の事故で骨折し無念のDNS。今季はWTS初戦アブダビ、IM70.3ドバイで勝利し、今後の動向が注目されている。1983年、スイス生まれ。
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