2019アイアンマン世界選手権
プロカテゴリー男子
取材/東海林美佳
写真/小野口健太
2大会連続オリンピック金メダリスト、アリスター・ブラウンリーの初参戦に注目が集まった今年のコナ(アイアンマン世界選手権/アメリカ・ハワイ島、現地時間10月12日開催)。加えて3連勝がかかるディフェンディングチャンピオン、パトリック・ランゲ、昨年絶好調ながら直前のケガで欠場を余儀なくされたヤン・フロデノと、最強のアスリートたちが肩を並べた。
ハードなコンディションの中、フロデノらがスイムから先行
昨年と違いうねりのあるタフなコンディションの海で、アイアンマン界きってのスイマー、ジョシュ・アンバーガーが積極的に飛ばす。それにピッタリつくのがITUでもトップクラスの泳力をもつブラウンリーとフロデノ。加えてランゲ、ティム・オドネルらを含む9人の先頭パックが後続パックを3分以上引き離してスイムアップ。
バイク序盤はスイム先頭パックの面々を、キャメロン・ワーフ、セバスチャン・キーンル、ライオネル・サンダースら強いバイカーたちが追う展開。スイムアップ時点でその差は5分以内。50km付近ワイコロアに差し掛かる頃には早くも先頭集団はモーリス・クラベル、アンバーガー、オドネル、フロデノ、ブラウンリーの5人に絞られる。
一方昨年王者ランゲは60km過ぎカワイハエ付近で自らバイクを降り早々に姿を消した。
ハヴィの折り返しの下り坂でアタックを開始したのはオドネル。アンバーガーとクラベルを振り切り、集団は3人に絞られる。経験豊富なオドネルとコナでの勝ち方を知るフロデノに、コナデビュタントでロングの経験が少ないブラウンリーが必死にくらいついていく。後方からはワーフ、キーンルらがジリジリと差をつめる。
先頭集団3人を割ったのはフロデノ。残り40kmからスピードを上げて大逃げを図り、アリスターとオドネルを置き去りにする。さらに後ろのワーフ、キーンル、サンダースらとの差も広げ、単独でT2(バイク・ラントランジション)へ。一方のブラウンリーには暗雲。最後の数キロで苦しみ、ワーフ、キーンルらにつかまってしまう。
リードを広げるフロデノ。アリスターはついていけず
バイクの逃げで貯金を作ってランをスタートしたフロデノ。しかも、彼はアイアンマン界でトップクラスの走力の持ち主だ。フロデノから1分半ほど遅れて2番手オドネルがランスタート。その後3分半以上開いてブラウンリー、ワーフ、キーンル、サンダースらが追う構図だが、実際はフロデノが後続との差をどんどん広げる展開になった。
ブラウンリーはハードなバイクのダメージか、またはコナ特有の猛烈な暑さと日差しにやられたのか序盤からまったく勢いがなく、後ろから猛然と追ってきたキーンルに簡単にかわされてしまう。
一方のフロデノは安定のハイペースを保って独走を続ける。オドネルが3分以上後ろからそれを追い、キーンルがさらに7分差で単独3位を走る。エナジーラボを過ぎてもフロデノのペースは落ちず、焦点はコース記録の更新へ。ペースを落とさずに最後まで走り続けたフロデノ、昨年のランゲの記録を1分半近く縮める新コースレコードでフィニッシュとなった。
バイクで後続を引き離してからずっとひとりで先頭を走り続けてのこのタイムは脱帽もの。まさに、真の王者は誰かを見せつけるレースぶりだった。
2位のオドネルもサブ8、そして3位には、終盤のベン・ホフマンの猛追を抑えてキーンルが久しぶりの表彰台を決めた。
レース後のコメント
ヤン・フロデノ
「こんなことアイアンマンでは二度とないだろう」
レースの朝、ツイッターを見たら偶然ピート・ジェイコブズ(2012年コナ王者)のツイートが出てきて、そこには『Be strong, present, grateful and confident.(強くあれ、今を生きよう、感謝しよう、自信をもて)』とあった。
なぜかこの言葉が今日1日ずっと頭の中にあった。今日を象徴する言葉だよ。レース前から自信はあった。トレーニングがすごくうまくいっていたから。
昨年レースを欠場してからずっと思い描いていたレースが今日はできた。こんなこと、アイアンマンでは二度とないだろうっていうぐらいだね。
ティム・オドネル
「トラブル続きの中、今日の結果には驚いている」
今年1年はあまり良い状況ではなかった。3月にはバイクのクラッシュでしばらくトレーニングができず、その後は足の疲労骨折もあってランはずっとトレッドミル。そんな中で、今日の結果には驚いてる。悪くないと思うよ。
セバスチャン・キーンル
「すべてを出し尽くして、この順位をとれた」
ゴール後に笑顔になれなかったのは失望してたからじゃないよ。ランの序盤ではヤンを追いかけて、中盤ではティムを追いかけて、終盤ではベンから逃げて、本当に消耗していたからなんだ。トップ3でゴールできて本当にうれしい。すべて出し尽くしてこの順位をとれたことこそが喜びだ。
プロ男子上位リザルト
1. ヤン・フロデノ (GER) 7:51:13
2. ティム・オドネル (USA) 7:59:41
3. セバスチャン・キーンル (GER) 8:02:04
4. ベン・ホフマン (USA) 8:02:52
5. キャメロン・ワーフ (AUS) 8:06:41