トライアスロンにおけるインドアトレーニングの有効性
トライアスロンの3種目の中で最も長い距離と時間を費やすバイク。そのトレーニング方法はいくつかあるが、大きくは外での実走とインドアでのローラー台やスピナーなどがある。実走はレースと同じ屋外の環境であり、「100%リアル」が最大のメリットとなる。一方インドアは、安全性や効率性の高さが挙げられる。
また、トレーニング強度、時間の設定など計画性をもったメニューを組むこともできる。それぞれメリット、同時にデメリットがあるが、今注目となるのは、「インドア」においてさまざまな機材、環境が充実し始めているということだ。「おうちトレーニング」の充実のためにもあらためて「インドアバイクトレーニング」について考えてみよう。
文=大塚修孝(Triathlon GEROINMO/トライアスロンMONOジャーナリスト/プロフィールは最下段)
【インドアトレーニングの有効性とデメリット】
<基本的なメリット>
安全性:自動車との事故や落車のない環境となり、安全性は極めて高くなる。安全で安定した状態となるため、走りに100%集中できる。同時にバイクポジション、パーツセッティング、フォームなど走りの細部の確認もできる。
効率性:移動時間がほぼゼロとなり、準備も簡単に済む。冬場でも寒さ対策の必要がない。1時間程度でもメニューによっては、効果的なトレーニングができるなど、自身の都合により時間を有効活用できる。
計画性:競技面において最も重要となるのが、設定したトレーニングメニューを確実に遂行すること。パワー計測やハートレートの管理、効率的なウォームアップやクールダウンなど、さまざまなことをしっかりと管理できる。
その他:全天候対応。雨や強風などの天候、平日の早朝、夜間などの時間帯も含め、走る環境とそのタイミングに左右されず、マイペースでトレーニングが可能。
<デメリット>
実走は「リアルそのもの」であり、これに優る感覚はない。レースも外で行われる。実際の走行時にはバランスを取らなければいけないし、スピード感、空気抵抗や路面抵抗なども感じる。また、コーナーリング、シフティング、ブレーキングなどのテクニックも必要になる。常にそこへの意識をもつことが重要であり、それがスタート地点と言えるため、やはり実走が基本。
【トライアスロンにおける優位性】(長時間のDHポジション走行と課題の発見)
レース会場以外では、安全面を考えると長時間走り続ける環境は少ないだろう。一方、レースではおおむね70%程度がDHポジション走行となり、トップ選手においては5%程度の坂ならDHポジションで上る選手もいるため、さらにその時間は長くなる。
トライアスリートにとって必要不可欠なDHポジションのトレーニングにおいては、安全に長時間可能となるインドアの優位性は極めて高いと言える。
そもそもDHポジションは、身体の幅を狭くすることで「エアロダイナミクス」を高める効果を狙っている。単独走行となるトライアスロンでは、極めて有効的なフォームとして定着している。自転車レース最高峰のツールドフランスにおいても「トライアスロン」からの採用となっているくらいだ。
前述の通り、フォームなどの確認とともに、DHポジションの際の機材や身体の使い方などさまざまなチェックも可能だ。実はこれが重要となる。
機材については、普段練習で使用せずレースだけで使用すると問題点が出てくる可能性がある。たとえば、DHバーは「サドル同様」と考えてほしい。普段から使わないサドルをレースで使用する人はいないだろう。DHバーも同じで、アームレストの形状と腕の間隔、パッドへの馴染み、エクステンションバーとアームレストの長さ、高さなどの位置関係などチェックポイントはサドル以上かもしれない。その点に問題を感じる人は少なくないだろう。
そして、姿勢が低くなるため、頭の重みが首へのしかかってくる。その痛みを訴える選手もやはり少なくない。普段から「リアルポジション」での練習が少ないため、レースで初めて気が付くという人も多いようだ。
ちなみに、DHポジションは本来「戦闘モード」が基本だが、「楽」をして走るという感覚も現実的なことと言えるかもしれない。ただ、トレーニング時に「楽をして走る」感覚にならないよう攻めのDHポジションになっているかの意識も重要となる。
いずれにしてもしっかりとした「リハーサル」がレースでの走りを決めることになる。
【エンターテイメント性】(オンライントレーニング)
オンラインアプリによるバーチャルトレーニングの普及は周知の通りだろう。これこそが、「ソフト面」でのインドアトレーニング活性化に大きく関係している。
トレーニングにおいては、スマホやスマートウォッチなど「スマート化」が顕著で、必要不可欠なアイテムとなっている。「同期、連動・連携、管理」などの利便性の高さ、分かりやすさに加え、面白さも演出するビジュアル性など、大きく時代は変わった。また、各SNSとの連携により、新たなコミュニケーションツールともなっている。
しかしながら、すべての人が利用するかどうかは現時点では別で、オンライントレーニングは「新たな入口」ができたということではないだろうか。今までは「バイク」に興味がなかった人が、外では乗らずインドアだけのサイクリングを楽しむというのが珍しくなくなるのも時間の問題だろう。それくらいエンターテイメント性の高さが期待されている。
20年前から見れば、現在の環境は「夢のような」と言っても過言ではない。ベースとなるSNSがあり、「リアルタイム」や「共有」など通信環境が整い、普及して初めて現在のように具現化される。これを有効的に活用しない手はないだろう。
各アプリを使って、個人練習はもちろんだが、バーチャルの世界ながらレースやイベントを楽しむこともできる。また、グループ機能などを利用して、クラブやチームなどで集まり「練習会」を開催することもできる。
大塚修孝(おおつか・のぶたか)
本誌連載などでおなじみのトライ アスロン「モノ」ジャーナリスト。トライアスロンに関わり28 年。特に、アイアンマン世界選手権は、96年から取材を続けて2020年で25年目となる。レース出場者のバイク全台を自ら撮影して調査する「GERONIMO COUNT」など圧倒的なデータ収集力と緻密なデータ分析には定評がある。 Triathlon GERONIMO www.triathlon-geronimo.com