歴代王者の面目躍如か
ルーキーの大金星か
いよいよ大会開催まで1週間を切ったアイアンマン世界選手権(以下、KONA)。ハワイでの開催は、2019年以来、3年ぶりとなり、この間、積もってきたスロットの影響で、初の2日間開催となり、総勢5000人近いアスリートたちが参戦する。
初日10月6日(木曜日)にプロ女子、土曜日(同8日=いずれも現地時間)にプロ男子で、エイジグルーパーは、2日間に振り分けられることになる。
予測不可能なレース
KONAのレースは、他のレースに比べてとても予測が難しいレースだ。セントジョージ(※今年5月に米・ユタ州へ会場を移してスライド開催された2021年度の世界選手権)のように、ほかにも難易度が高いコースはあるが、KONAのレースと単純に比べることはできない。
その一番の理由は、変則的な天候と風だ。
緩やかな上りと下りを繰り返すバイクコースに加え、やはりKONA特有のトロピカルな気温と湿度が、アスリートたちのフィジカル、そしてメンタル面での脅威となる。
2週間前のPTO米国オープンレース(USオープン)では、灼熱の暑さの中、KONAのプレレースとして多くのトップ選手が出場したが、そこでは意外な選手が上位に上がるなど、今回のKONAも優勝候補の予想がある程度できても、レース当日、予想外の展開が起こることは十分ありうる。
特に今回は初出場の若手選手が多く、新旧世界王者やベテランレーサーら、経験を積んでいる選手もいる中、世代交代を感じさせるレース展開になるのかに注目したい。
2022KONA注目選手
プロ男子
Kristian Blummenfelt
クリスティアン・ブルンメンフェルト
■年齢:28歳
■キャリア:東京五輪金メダル、2021年アイアンマン世界選手権(セントジョージ)優勝
東京五輪とアイアンマン世界選セントジョージ、両メジャーレースを1年間のうちに制覇する快挙を成し遂げた。ショートでのスピードを十分に生かし、ロングでもその速さを証明し、「マルチディスタンスアスリート」として前人未踏の領域で活躍している。
従来のトライアスリートの細身体型の概念も壊し、強靭な肉体をもち、あのタフなセントジョージのコースで、ラン(42.2㎞)2時間38分というタイムを弾き出した。
他のレースで、何度か痙攣に悩まされるシーンもあり、今回初挑戦となるKONAで、天候がどう影響するかが疑問だが、5月の世界選のような完璧な走りができれば、コースレコード達成と、オリンピック&2×IM世界選のトリプル制覇(三冠)も間違いない。
Gustav Iden
グスタフ・イデン
■年齢:26歳
■キャリア:アイアンマン70.3世界王者(2019・2021年)、2021年アイアンマン・フロリダ優勝、東京五輪8位
2度の70.3世界王者に輝き、東京五輪にも出場。同郷のトレーニングパートナーであるブルンメンフェルトと同様に、ショートからロングまで幅広く活躍し、今回がKONA初出場。
これまでどの70.3レースでも王者らしい強さを見せ、負けなしのパフォーマンスで他を圧倒している。
スイムで少し出遅れるが、バイクとランの強さは、誰にも負けない。問題となるのが、ブルメンフェルトと同様に、天候がどう影響するかだが、バイクをうまく先頭集団でフィニッシュすることができれば、ラン勝負に持ち込み、優勝に近づくだろう。
Patrik Lange
パトリック・ランゲ
■年齢:36歳
■キャリア:2017・2018年アイアンマン世界王者
KONAの地で、初めて8時間の壁を破った元世界王者。ここ数年は、2019年に世界王者へと返り咲いた同郷のフロデノに、大きな注目が集まる中、存在自体が少し薄れ始めていた。
今年は、ケガや病気などに悩まされてきたが、チャレンジロートやPTOコリンズカップでは、優勝を逃すものの、そのランスピードとポーカーフェイスぶりは、今も健在だ。これまで培ってきた経験とタフなメンタリティーを見せ、うまくラン勝負へ持ち込むことができれば、王座への返り咲きもあるだろう。
Lionel Sanders
ライオネル・サンダース
■年齢:34歳
■キャリア:2021年アイアンマン世界選2位、アイアンマン70.3セントジョージ優勝(2018・2021年)
ウーバーバイカー(※バイク強者を指す)のひとりで、セントジョージ世界選2位のランナーアップ。スイムでのロスを、バイクの強さで埋め、攻めのランを見せる。
これまで多くのレースで勝ち星を増やしてきたが、世界選手権では、優勝まで届かず、これまで何度も表彰に上がるも、2位が最高位。2週間前のPTOレースでは、意外にも暑さに負けてしまし、うまく上位へ上がることができなかった。
KONAでは、しっかりと調整し、常に課題の暑さと補給対策をクリアできていれば、今年、優勝に近づけるだろう。
Magnus Ditrev
マグナス・ディトレブ
■年齢:24歳
今年KONAでの世界選初出場となる注目の若手選手。ここ2年間で、ウーバーバイカーとして実力を示し始め、2019年のKONA王者ヤン・フロデノに引けを取らない存在感を示してきた。
今年のアイアンマン・テキサスでデビューし、パンクに悩まされたものの、ランでも優勝争いに絡む走りを見せた。
プロサイクリストで現バイクコースレコードをもつキャメロン・ワーフとのバイク対決に注目が集まる。2週間前のPTOダラス大会では、灼熱のレースで、さらに成長した強さを見せたので、KONAでも要注目選手のひとりだ。
Collin Chartier
コリン・シャーティエ
■年齢:29歳
■キャリア:2022年PTO USオープン優勝、2022年アイアンマン・モントトレンブラン優勝
今回KONA初出場ながら要注目のダークホースだ。3週間前のPTO USオープンでは、大方の予想を覆して、ベテラン勢をランで次々と抜かし、初金星を上げている。
現在、サンダースと同じノルウェー出身コーチ(ミカル・イデン:グスタフの兄)について、トレーニングパートナーとしてお互いを高め合っている。
スイムからトップ集団で上がり、バイクでも粘り強い走りを見せ、得意のランで、他の高速ランナーたちとともに、どこまで走れるかに注目。KONAでも、再度、大番狂わせとなる優勝の可能性を秘めている。
プロ女子
Daneila Ryf
ダニエラ・リフ
■年齢:35歳
■キャリア:アイアンマン世界選5勝(2015・2016・2017・2018・2021年)、アイアンマン70.3世界選5勝(2014・2015・2017・2018・2019年)、五輪出場(2008年北京、2012年ロンドン)
2013年のロング転向以降、ロング界の絶対王者として常に君臨していたが、大きなスランプを迎えた2021年は、70.3世界選で優勝を逃し、どのレースでもいつものリフを見せられずにいた。
誰もが世界王座への返り咲きは難しいかと思われていた中、ふたたび力強いパフォーマンスを見せ、セントジョージ世界選で復活優勝、5度目の世界王者となった。
圧倒的なバイクパフォーマンスで、どれだけ差を広げられるかが、リフの優勝の分かれ目となる。今年のKONAで優勝することができれば、同郷のレジェンド、ナターシャ・バドマンに並ぶ6勝目となる。
Anne Haug
アンネ・ハウグ
■年齢:39歳
■キャリア:元アイアンマン世界王者(2019年)、五輪出場(2012年ロンドン、2016年リオ)
ITUサーキットで長年活躍し続け、2016年のリオ五輪出場後、ロングへ転向。すぐに頭角を表し始め、2018年アイアンマン世界選3位入賞し、2019年には世界王者に。小柄な体型ながらも、力強いランフォームで、常にアイアンマンでは2時間50分代で激走する。セントジョージの世界選は、ランで追い上げるも3位に。今年のレースでは、優勝を逃している傾向だが、KONAとの相性が良く、常に上位入賞している。スイムとバイクでうまく先頭集団に近づき、得意のランで優勝を狙う。
Lucy Charles-Barcley
ルーシー・チャールズバークレイ
■年齢:29歳
■キャリア:2021年70.3世界王者、2×アイアンマン世界選2位入賞
5月のセントジョージ世界選前に、選手生命を揺るがすケガに見舞われた。しかし、リハビリなどを重ねて、1カ月前のロンングコース世界選手権で復帰し、見事に優勝。
その後に出場したPTO USオープンでは、スイムをトップで上がったものの、暑さが大きく影響し、3位入賞。KONA戦線での人気は絶大なスター選手で、彼女が復活すればKONAのレース全体が大いに盛り上がりそうだが、
本来のパフォーマンスを取り戻していれば、優勝も狙える実力者であることは言うまでもない。
Laura Phillip
ローラ・フィリップ
■年齢:35歳
■キャリア:2019年アイアンマン世界選手権4位、2021年アイアンマン・オーストリア&スウェーデン優勝
ここ数年間で最も著しい成長を見せている新星。昨年から数々のアイアンマンレースで優勝を重ね、今年の70.3ドバイでは、リフを抑えての勝ち星を上げている。
好調に練習を進めていたセントジョージ世界選では、コロナにかかり欠場を余儀なくされる。その1カ月後に出場したアイアンマン・ハンブルクでは、コースレコードを更新して優勝。そのレースでは、4時間31分のバイクタイムと2時間45分というランラップで、その強さを証明した。
スイムが弱点ながらも、バイクとランで追いつける速さをもっているので、ハンブルクと同じようなランタイムで走れるようなら、優勝は確実と言ってもいいだろう。
Skye Moench
スカイ・モンチ
■年齢:34歳
■キャリア:2021年アイアンマン・チャタヌーガ優勝、2019年アイアンマン・フランクフルト優勝
エイジ上がりで、2016年にプロへ転向。数年かけて探りながら、徐々にパフォーマンスを上げていき、2019年のアイアンマン・ヨーロッパ選手権優勝で、ブレークスルー。セントジョージの世界選では、スイムで出遅れるものの、バイクで好位置を維持し、ランでも粘り強い走りを見せ4位入賞を果たしている。
今回、唯一注目のアメリカ代表トップ選手として、歴代世界王者らを相手に、一矢報いることができるか、最後まで見逃してはいけない存在だ。
2022KONA
優勝者予想
プロ男子
1 グスタフ・イデン
2 マグナス・ディトレブ
3 コリン・シャーティエ
プロ女子
1 ダニエラ・リフ
2 ローラ・フィリップ
3 アンネ・ハウグ
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■著者プロフィール
山村勇騎(やまむら・ゆうき)
アメリカ在住のトライアスリート・ジャーナリスト。アイアンマンのオフィシャルレースメカニックとして、全米のレースを飛び回りつつ、WEBメディア「TriWorldJapan.com」を創設。英語圏で流通する世界のトライアスロン情報を、日本のトライアスリート向けに発信している。アイアンマン・シリーズ戦などでメカニックとしても活躍しており、9月のPTO USオープンでは移動メカニックとしてルーシー・チャールズ・バークレーの窮地を救った。