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話題の成分「スクアレン」の可能性を探る。

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ルミナ編集部

text by:

千葉シティトライアスロン KentaOnoguchi

©KentaOnoguchi

トライアスリートの間で話題の「スクアレン」とは

深海ザメの肝臓からとれるスクアレンは、約100年前に発見され、さまざまな健康食品が発売されている。最近ではアスリートのパフォーマンス向上が期待できるというサプリメントも出てきた。そこでスクアレンとは科学的にどんな性質をもち、どんなことが期待できるのかについて、博士号(運動生理学・運動栄養学PhD.)をもち、自身アイアンマン世界選手権11回出場のトライアスリートでもある彦井浩孝さんに教えてもらった

解説=彦井浩孝(米国運動生理学・運動栄養学PhD.)
文=原 修二
写真=小野口健太

さまざまな用途に使われているスクアレン

スクアレンは1906年に日本人の辻本満丸という応用化学者が深海ザメの肝油から発見した脂質です。スクアレンという呼び方は、深海ザメから発見したことから、その学名Squalusにちなんでつけられたようですが、人間の血液や皮膚の皮脂にも含まれています。

また、オリーブやパームヤシ、小麦胚芽、米ぬかなどさまざまな植物油にも含まれています。人間にとって馴染みのある物質と言えるでしょう。用途としては、深海ザメの「生命力が強い」というイメージから、滋養強壮系の栄養補助食品として発売されています。

昔から子どもの栄養補給のために、サメの肝臓などから抽出した「肝油ドロップ」が広く愛用されていて、これにもスクアレンが多く含まれていると思われますが、その目的はビタミン補給です。

また、皮膚の保湿効果があるということで、スクアレンを配合した化粧品も発売されています。最近ではワクチンのアジュバントつまり補助的な材料にも活用されています。

アジュバントとはワクチンの主役である抗原と一緒に投与することで、作用を補助したり強めたりする材料のことですから、スクアレンにはそうした機能を発揮する性質もあるようです。

スクアレン図

回復のためにも必要なもの

スクアレンが人間の体内で果たす主な役割は、コレステロールの原料になることです。人間の身体は脂質からいくつもの工程を経てコレステロールを生成しますが、その途中で生成される中間体のひとつがスクアレンです。

コレステロールというと、動脈を詰まらせる悪者というイメージがありますが、本来は人間が生きていくために不可欠な機能をもっています。

たとえばコレステロールは細胞膜に欠かせない原料ですし、さまざまな代謝に必要なステロイドホルモンの原料でもあります。つまりアスリートが運動して回復するためにも、とても重要な物質です。

高コレステロールなどの症状がなく、異常がない人の場合は、ステロイドホルモンの生産を高めてくれる可能性があります。

ただし、人間には体内の血中コレステロールを一定に保つ機能がありますから、コレステロールやその原料のスクアレンをとり過ぎると、体内の生産機能が低くなって調整されるようにできています。

スクアレンの血流促進効果

発見されてから100年以上経つので、その間いろいろな研究がされていて、抗がん効果や抗酸化・抗炎症作用などが動物実験で確認されているようです。人間を対象とした研究論文のひとつに、2015年日本の研究者グループが発表した論文(※1)があります。

健康な中高年男性41人を対象に、サメの肝油を8週間与えて、心臓から足首までの血管に与える効果を検証したものです。この研究によると、動脈の硬さに与える影響はごくわずかしか確認できなかったものの、末梢微小血管の血流を促進するのに、サメの肝油が効果的であることを示唆する結果が得られたとのことです。

そして、サメの肝油の補給は、健康な中年および高齢の男性において、中心動脈の弾力性と末梢の微小血管機能を改善する可能性があり、動脈硬化に対する効果を確認するためには、さらなる研究が必要と結論づけています。

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抗炎症作用に可能性

もうひとつ、2021年のLife誌に掲載されたマレーシアの研究者による論文(※2)では、人間を対象にした抗酸化・抗炎症作用についての研究が紹介されています。

この論文によると、スクアレンの抗酸化・抗炎症作用についてはまだ確認できていないことが多いが、スクアレンの心血管への健康効果は抗酸化作用よりも、抗炎症作用を経由してもたらされるので、サプリメントとしての可能性を探求するにはその抗炎症作用をもっと研究すべきであるとしています。

さらなる研究が待たれるスポーツ生理学的な用途

このように、スクアレンに血流促進や抗酸化・抗炎症などの作用があることは指摘されていますが、まだまだ解明されていないことが多いと言えます。

スクアレンは体内のいたるところに存在し、コレステロールというさまざまな機能に関わる脂質の中間体であるため、かえって機能・作用のメカニズムを明確に特定しにくいという事情があるのかもしれません。

たとえば、スクアレンには酸素と結びつきやすい性質があることが分かっていますが、それが体内でどのように作用するのかを解明した研究は、今のところまだ見当たりません。トライアスロンのように身体を酷使するスポーツでは、同じスクアレンでもまた別の効果がある可能性もあります。

トライアスリートは普通の人に比べて有酸素系の運動量が多く、その分多くの酸素を消費し、活性酸素が多く発生します。必要な抗酸化物質の質や量も通常の人とは違うかもしれません。

運動で細胞組織の破壊と修復を繰り返しますから、そこに必要なステロイドホルモンや細胞膜の原料としてのコレステロール、その中間体であるスクアレンの量も、通常の人とは違うかもしれません。

今後アスリートを対象にした研究が進めば、普通の人たちでは確認できなかったスクアレンの効果が確認される可能性もあり、その意味でも、スポーツ生理学的な研究が待たれます。

©KentaOnoguchi

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※ 1 Vascular effects and safety of supplementation with shark liver oil in middle-aged and elderly males( 「中高年男性におけるサメ肝油補給の血管効果と安全性」浜立直文ほか)

※ 2 Interdependence of Anti-I n f l a m m a t o r y a n d A n t i o x i d a n tProperties of Squalene‒Implication for Cardiovascular Health (スクアレン摂取による心臓血管の健康への抗炎症・抗酸化作用の相互関係)by Nurul ‘IzzahIbrahim and Isa Naina Mohamed

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