トライアスロン旅烏
福山かわまちトライアスロン
旅烏こと作家でトライアスリートの謝孝浩さんが全国のローカルレースを出走・取材。
2023年9月、河川敷で開催されたオールフラットのミドルレース「福山かわまちトライアスロン」に参戦! ※今年(2024年)は6月9日(日)開催。
文=謝 孝浩(プロフィール下段に記載)
Text by Takahiro Sha
写真=大前 稔
Photographs by Minoru Omae
※こちらの記事は現在発売中のTriathlonLumina2024年4月号より転載。
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>>レース編
河川敷に吹く風を感じて
「かわまち」という地元の思い
広島県の東部の福山市でミドルのレースが開催されると聞いて、ローカルレース好きの旅烏の触手はピクッと動いた。その名も「福山かわまちトライアスロン」。名前は大会の顔である。福山でパッと頭に浮かんでくるのは、新幹線の駅からも見ることのできる福山城だ。大会名に「かわまち」という名前がついているほど、福山が川の町という印象はなかった。
市内を流れる芦田川の河川敷にある、「芦田川かわまち広場」が大会のメイン会場だ。広場のメインの芝生公園は、ピクニック、フットサル、ドックランなどで利用できるし、BBQができるテラスやスケードボードパークもある。
SUPやボートなどが接岸できる親水護岸や、その先の護岸沿いには、自転車歩行者用専用道路も整備されている。この広場は、別名「親水広場」。地元の人が川に親しむ公園なのだということが推測できた。
2014年から、芦田川を若者から高齢者まで活用できる拠点にしようと活動してきた市民団体「芦活部」を中心に、国や市とともに「あしだがわ利活用推進委員会」を発足させ、協議を重ね、この広場は、2020年春にでき上がった。ちょうどパンデミックが始まった頃だ。
このロケーションを生かしてトライアスロンができるのではないかと思ったのが、福山に拠点を移して活動しているプロトライアスリート福元哲郎さんだ。2020年に2回、2021年に1回、トレーニングキャンプとして練習会を開催した。パンデミックの中、各地で大会が軒並み中止になって、行き場所を失ったトライアスリートの貴重な受け皿になり、2020年は1回の開催に100人前後、2021年は160人が集まる練習会になった。
「コロナ禍の中、各地から選手が集まってくることで、地元では、賛否両論がありました。トライアスロン文化を繋げていく上でも、大人だけでなく地元の子どもたちも参加できる練習会も取り入れて、地元の理解も得ることができました」と福元さん。
こうした取り組みは、後に地元への社会貢献にもなったと評価されるようになった。そして2022年、公園内で完結していた練習会を、バイクコースを一般道に広げて、交通規制というハードルを突破し、ミドルの大会へと進化させて誕生したのが、「福山かわまちトライアスロン」というわけだ。
「自分の街で、コンパクトな周回の大会ができないかと思いました。長いほうが楽しいので、スタンダード+アルファの長さの大会にしたいと思いました、バイクもランもほぼフラットな高速コースですが、向かい風のときには、急に坂になりますよ」
自らトライアスリートで佐渡Aタイプに参加したばかりだという上坊幸裕大会実行委員長は微笑む。一方で、初心者にもトライアスロンを広げるという意味で、女性限定のスプリントタイプのレースも組み込まれているのも特徴のひとつだ。
オールフラットだけど侮れない
そして迎えたレース当日。スイムコースの芦田川は、流れているようには見えなかった。それもそのはず、河口に堰があるため、スイムコースになっている部分は、プールのような感じ。
淡水で流れがあったらキツイと思っていた旅烏にとっては、朗報だった。1周600m の長方形のコースを3周回。ローリングスタートだったので、バトルもなかった。流れがない分、水が滞留して、水質が心配だったが、透明度はイマイチだが、匂いもなく水質は悪くなかった。ブイも見えやすく、コース取りもやりやすかった。
マイペースで淡々と3周泳ぎ、スイムアップ。トランジションエリアに残っているバイクはかなりあったので、いい感じでバイクパートへ。
バイクは、1周10㎞の周回コースを8周回。河川敷から土手の上の一般道に入り、途中で橋を渡り、反対側の川沿いを進み、河口堰になっている橋を渡り、戻ってくる。ほぼフラットなのだが、風が巻いているのか、不思議と周回ごとに風向きが変わる。
DHポジションで、気まぐれな風に対峙するしかなかった。時速35㎞前後で走っていても、どんどん抜かされる。今年(2023年)からJTUのナショナルチャンピオンシップのポイントレースになっているから、選手たちのレベルも高いことを痛感した。
ランパートは、広場から川沿いに続く片道3㎞の自転車歩行者専用道路を3周回。整備された舗装道路なのだが、これがまた日陰がまったくない。炎天下の中、ランを開始。最初はキロ6分半前後で走り出したものの、徐々にスピードを維持できなくなる。
1.5㎞ごとにエイドがあるので、そこまでは頑張ろうと走り続けたが、最初のエイドを過ぎてから、全く走り出す気力が生まれてこなかった。蒸し暑さに完全にやられた。
おまけにすり減ってほとんどなくなっている半月板のあたりが痛くなってくる。少し走り出してはみるが、キロ9分ぐらいの速さ。しばらく走ったり歩いたりしてはみたが、ヒザに負荷をかけたまま残りの距離を走り切る自信がなかった。
いっそ歩いたほうがいいかもしれないとキロ10分を目安に歩き出すと、ヒザへの負担もなく行けそうな気がしてきた。12㎞地点の折り返しの制限時間は14時だった。
折り返したのは、5分前だった。後続の選手は3人ほどいた。その後も淡々と歩き、15㎞の折り返しで、ひとりの選手に抜かされた。そのとき、気付いたのだが、その選手が最終ランナーだった。
「ヒエェー、いつの間にか自分が最終ランナーになってしまった」その時点で残り時間は35分弱。あと3㎞をキロ10分で歩けば間に合う。それからは淡々とキロ10分で歩くことに専念した。
走ったり歩いたりしているその選手と、抜きつ抜かれつ。「僕が制限時間だと思ってください。僕に抜かれたら間に合いません」そう声をかけて、ふたりで最後の力を振り絞った。自分が制限時間の線になったような気分だった。
大会技術代表の北村格一さんが、自転車で行き来してくれ、ペットボトルの水を配ってくれた。それがなんとうれしかったことか。はるか遠くのフィニッシュラインのある橋が見える。淡々と歩いていれば、近くなってくるものである。ようやく橋の下に辿りつき、フィニッシュラインまでの最後の直線の花道だけ、どこからか力が湧き出て走ることができた。そしてフィニッシュ。
制限時間まであと3分。最後のランナーとなった旅烏である(注:狙ってませーん! ローリングスタートなので最終的にはブービー)。
「今年レースに出ていなかったので、どこかに出たいと思っていたので、福岡から来ました。バイクの周回コースは、あっという間に終わった感じです。ランは、暑かったですね。歩いてしまいました。周回なので、仲間とエールを交換できるのがいいですね」(山田徹さん 福岡から参加 自家用車で5時間)
「還暦を前に30年ぶりにトライアスロンを再開しています。オリンピックディスタンスのレースに出たので、今回はミドルのレースに出ました。娘と一緒に来たのですが、周回コースなので、3種目とも見ることができて応援がしやすかったと好評でした」(江本玄さん 福岡から参加)
トライアスロンが開催されたことにより、トライアスリートたちが泳ぎやすくするために、かわまち広場の親水護岸の整備が進んだという動きもあったという。トライアスロンがあることで、公園も進化しているのだ。
広島県は、昔からトライアスロンが盛んな土地柄だ。しかし同じミドルのはつかいち大会が2023年、長い歴史を閉じている。また同じ福山で開催されていたオリンピックディスタンスの鞆の浦の大会もコロナや土砂崩れなどで、しばらく開催されていない。その中で、この大会は、「かわまち広場」というフィールドがあることで、新たな風として確かにトライアスロン文化が地元に根づいていく予感がした。
Takahiro Sha
1962年長野県生まれ。アラ還暦の寅年男。トライアスロン歴20年を超えたにもかかわらず、あいかわらずバイクが大の苦手。極度に身体が硬い、腰痛持ち、おっちょこちょい。最近は膝痛も。四重苦を抱えながらも、トライアスロンライフをこよなく愛す。旅烏のコミュニティサイト(練習日誌公開中。チーム員も随時募集中!)http://www.triathlontrip.com/
福山かわまちトライアスロン
2023年9月17日(日) 広島県福山市
天気/晴れ 気温/26~32.3℃ 水温/27℃
距離/ミドル・リレー Swim:1800m Bike:80km Run:18km
スプリント(女子限定) Swim:600m Bike:20km Run:6km
参加者数(完走者)/ミドルタイプ193人(159人)、
スプリントタイプ7人(7人) 、リレー16組(15組)
※2023年は、炎天下の9月に開催されたが、2024年は、6月9日開催に変更になっている。
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>>観光編
福山城下に広がる歴史と花の町
いろどり豊かな楽しみ方
瀬戸内海のほぼ中央に位置する福山は、福山城を中心に、潮待ちの港鞆の浦をはじめ、古くから栄えてきた土地。また戦後は、復興のシンボルとしてバラが植えられ、「ばらの町」としても知られている。芦田川は福山市街地の西側を流れるので、観光スポットまでも近い。レース前後に彩り豊かな町を散策し、グルメを堪能しよう。