Race Review

【トライアスロン旅烏】唯一無二! 日本イチ一番長い「アクアスロンくらはし」

投稿日:2024年4月3日 更新日:


ルミナ編集部

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アクアスロンくらはし2023年

「日本の渚100選」にも選ばれている桂浜がスイム会場。瀬戸内海の美しい海は、水質抜群で、波やうねりもなく絶好のコンディションで選手たちは泳いだ

トライアスロン旅烏
アクアスロンくらはし

旅烏こと作家でトライアスリートの謝孝浩さんが全国のローカルレースを出走・取材。
瀬戸内海の島で唯一無二のアクアスロンに参加!

文=謝 孝浩
Text by Takahiro Sha
写真=播本明彦
Photographs by Akihiko Harimoto

※こちらの記事はTriathlonLumina2023年11月号よりWEB用に編集して転載しています。情報は2023年大会参加時点のものです。

>>2024年「アクアスロンくらはし」のエントリーはコチラから

アクアスロンくらはし2023年

白砂の美しいビーチからタイプごとに一斉スタート。旅烏が出場したAタイプでは、バトルもほとんどなかった。写真はSタイプ

>>レース編

瀬戸内の多島美の中を泳ぎ、駆け抜ける

ロングのアクアスロン!?

スイム3.8㎞を泳いだ後のフルマラソン。北海道、皆生、五島列島、宮古島……。日本で現在開催されているロングのトライアスロンはすぐに思い浮かべることができるが、ロングのアクアスロンがあることを知っている人は、どれくらいいるだろうか。

その舞台となるのが、広島県の瀬戸内海に浮かぶ倉橋島。呉の街の沖合いにあり、本州と橋で繋がっている。開催日は7月16日で、皆生と同じ日。海の日が翌日にある3連休の第3日曜日。

梅雨明けの灼熱の中でのレースとなる可能性大。おまけにランコースは、峠をひとつ越える過酷なルートだという。「かつて『スイムランinかまがり』という大会がありました。職業柄、休みがとれないので、大会参加を兼ねて、開催地の上蒲刈島に行くのが唯一の家族旅行でした。

1999年にその大会が中止となり、ならば自分の住んでいる倉橋島で同じような大会を作って参加したいという気持ちが生まれたのがきっかけです」

「選手の頑張りを見ていると明日への活力になります!」倉橋島の赤ひげ先生こと、森本大会会長。生まれ育った島で大会を作りたいという思いが、地域の
人びととともにいつしか20数年

森本忠雄大会会長は微笑む。日本医師会の赤ひげ功労賞を受賞している地域医療を長年支える医師でトライアスリートだ。2023年で22回目を迎えるアクアスロン大会は、大雨やコロナ禍で3回ほど中止になった。

小学生から楽しめるさまざまなカテゴリーがあるのが魅力だ。ミドルタイプを中心に回数を重ね、このフルアクアスロンのSタイプのカテゴリーができたのは、8年ほど前になるという。

子どもたちも大人と同じ会場で

「当初から、いつかはフルアクアスロンの大会を作ってみたいという気持ちがありました。崩れていた林道が新しくなって、その林道を使ってルートを作ったら、ちょうどフルマラソンの距離になりました。初めてフルを開催したときは、参加者の半分がリタイア。でもそんな過酷なレースが日本にあってもいいんじゃないかと思って続けています」

日本各地のオリジナリティ溢れるローカルレースを取材してきた旅烏にとって、この唯一無二のレースに参戦するのはライター冥利に尽きる。しかしながら、長年酷使してきた半月板は、MRIでうつらないほど擦り減り、一時は痛みで全く走れなかったほど。3年前からリハビリを続けているものの30㎞を走るのが精一杯。

アクアスロンくらはし2023年

未来のアスリートたち! 小学生から楽しめるのもこの大会の良さ。長年、地域に密着している大会だ

不本意ながら、フルの半分の距離のミドルのAタイプのカテゴリーに参加させてもらうことになった。Sタイプのフルマラソンは島の南部をほぼ半周するコース。林道を越えた後、海岸線をぐるっと回る。一方Aタイプの20㎞は、海岸線10㎞を往復するコース。

最後の10㎞だけ同じコースになるのだ。レース前日、フルマラソンのルートを車で1周した。曲がりくねった林道。延々と続く上り。300m の標高差のある峠をひとつ越えるのが、まず想像以上に過酷。おまけに急坂を下るのも脚に負担が多いし、海岸線に出てからも島特有の細かいアップダウンの連続だ。

「まぁ、こりゃ大変。今のこの自分の脚では制限時間に絶対間に合わない」とミドルにして良かったと安堵した。

アクアスロンくらはし2023年

地元では「コンテナ」と呼ばれていたミカン箱?が選手一人ひとりのトランジション。スタート前のSタイプの猛者たち

猛者たちの快走

レース当日。フルアクアスロンに出場する参加者は15人で、7時スタート。過酷なコースを見ているだけに、参加する選手たちが強靭なモンスターのように見える。

スイムは1.2㎞の周回コースを3周回に加え、100mの往復という変則コース。1時間12分過ぎにトップ選手がスイムアップして、次々と猛者たちがフルマラソンへと移行していった。

アクアスロンくらはし2023年

過酷な峠越えの林道だけでなく、海沿いのランコースも、島特有の結構なアップダウンが何度も出現し、選手たちを苦しめる

ミドルは2時間遅れの9時スタート。1.2㎞のコースを2周回。沖縄の海の色とはまた違う透明感のある美しさ。そのピュアさが心地良い。太陽の光のシャワーがゆらゆらときらめく。その中を気持ち良く泳いだ。1時間を切ってスイムアップしたので旅烏にしては上出来。

気をよくしてランスタートしたものの、雲ひとつない青空から太陽の日差しがガンガン照りつけてくる。おまけにフラットな部分は少なく、距離は短いが、峻険な坂が次々と現れてくる。下りになっても喜んでもいられない。

アクアスロンくらはし2023年

倉橋島の海岸線を走るランコースからは、瀬戸内海の島々が見晴らせる。炎天下の過酷な中でも、景色がパワーを与えてくれる

往復コースなので、復路はこの下りが上りになるのだ。それでも海岸線のコースは、沖に島々が連なる多島美の景色が広がっていた。真っ青な空と海と島々は、疲弊した脚にパワーを与えてくれた。

淡々と前に進むも、折り返し地点よりかなり手前で、Sタイプのトップ選手とすれ違ったときは、ガックリと力が抜けた。あの過酷な峠を越えてフルマラソンを走ってきたとは思えないほど軽快に走り過ぎていった。やはりモンスターだ!

アクアスロンくらはし2023年

ランのエイドステーションは、ほぼ2㎞ に1カ所設置されている。炎天下では、冷たい水が火照った身体を癒してくれる

折り返してからは、さらに脚は前に進まなくなった。最後はキロ8分台というテイタラクで、なんとかフィニッシュ。同じミドルの選手に10人以上抜かれただけでなく、倍の距離を走ってきたSタイプの選手にもたくさん抜かれた。

ミドルでヘロヘロな旅烏なのに、颯爽とフィニッシュゲートをくぐるSタイプの猛者たち。その声を拾うことにした。

アクアスロンくらはし2023年

桂浜をのぞむ丘にある桂浜神社の鳥居が大会会場の目印。白砂の浜には緑濃い松林の木陰が続き、フィニッシュした選手たちを包み込む

「初めてフルに参加しました。大会出場は4回目になります。いつかはフルに出たいと思っていましたが、アイアンマン・ケアンズに出場したばかりで、脚ができているかなと思って参加しました。コースは過酷でしたね。それまでは8月のインカレ前の刺激入れで、Bタイプのショートに出ていました」(橋本聡さん 広島県より参加 広島大学院生 トライアスロン部)

「大学のトライアスロン部では、恒例のレースになっていますね。久しぶりに参加したのですが、社会人になって香川県にいるので、この大会に出れば後輩やOBに会えるかなと思って参加しました。フルのコースは思った以上に厳しかったです」(相原千尋さん 香川県より参加 広島大学OG。Sタイプ女子トップ男女総合2位)

アクアスロンくらはし2023年

厳しい峠越えのランコースでの不測の事態に備えて、Sタイプの選手には、一人ひとりに自転車のボランティアサポートがつく

「本当にランのコースはハードで普通じゃない。ぜひこの変態な(笑)コースに挑戦してもらいたいですね。この島に住んで5年になります。海も山も温泉もある。全国、いや海外からもぜひこの島に来て、島の良さを体感して欲しいですね」(ジョーダン・ランゲンさん 地元倉橋島から参加。アメリカから来日して8年)

「秋にアイアンマンに出ようと思って、練習を兼ねて参加しました。ランコースはめちゃくちゃ厳しかったですね。でも海はとても穏やかで綺麗で泳ぎやすかったです。また来年も出たいです」(小野寺毅さん 兵庫県から参加 トライアスロン歴2年)

アクアスロンくらはし2023年

倉橋島は、広島県の初めてのトライアスロン大会でバイクコース
になっていた歴史もあり、ボランティア精神が今に息づいている

「32 ㎞で関門に引っ掛かってしまいました。ここまでランのコースが厳しいとは、20㎞まではほぼ上っている感じがしました。悔しさでいっぱいですが、大会はすばらしかったです。最近はアクアスロンばかりやっています」(足立勝俊さん 千葉県より参加 トライアスロン歴3年)

「バイクが苦手なので、アクアスロンが好きです。コロナ前にこの大会をみつけて、いつか参加したいと思っていました。ランのとき、Sタイプの選手には一人ひとりに自転車のボランティアがついてくれました。本当にサポートが素晴らしい大会でした」(若林晶子さん 兵庫県より参加 トライアスロン歴3年)

アクアスロンくらはし2023年

新原芳明呉市長も来島し、スターターとして大会を盛り上げる。呉市ではスポーツ・ツーリズムに力を入れている

「エイドは2㎞ごとにあるのですが、林道は山の中なので、途中で何があるか分からない。不測の事態でも対応できるように、選手一人ひとりに自転車のサポートをつけています。地元のサイクリングクラブ20人ほどが協力してくれています。

本当に事故なく安全に大会が終わって良かったです。選手たちの姿を見て、我々スタッフやボランティアも力をもらうことができます。

島ではなかなかバイクをコースに組み込むことは難しいので、アクアスロンを極めようと、フルの距離を立ち上げた大会なので、今後も長く続けていきたいですね」と森本さん。

アクアスロンくらはし2023年

フィニッシュ会場には、選手たち用の屋台が設置されて、無料でカレーライスやかき氷が振る舞われた

アクアスロンくらはし2023年

倉橋町女性連合会のみなさんが作った「おいしーいカレー」。具沢山で選手たちの列が絶えなかった

赤ひげ先生の周りには、いつも多くの人が集まっている。島の日常の生活や流れる時間が、こんな温もりを感じられる手作り感溢れるレースに結び付いているのだろうと想像された。

レースの原点を思い出させてくれるような大会だった。すでに来年の7月第3日曜日に、開催は決定している。ぜひ、唯一無二のフルアクアスロンに挑戦あれ!

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「花火とかき氷を満喫! ああ、日本の夏。」

Takahiro Sha
1962年長野県生まれ。アラ還の寅年男。トライアスロン歴20年を超えたにもかかわらず、あいかわらずバイクが大の苦手。極度に身体が硬い、腰痛持ち、おっちょこちょい。最近は膝痛も。四重苦を抱えながらも、トライアスロンライフをこよなく愛す。旅烏のコミュニティサイト(練習日誌公開中。チーム員も随時募集中!)http://www.triathlontrip.com/

RACE DATA
アクアスロンくらはし

2023年7月16日(日) 広島県呉市倉橋島
天気/晴れ
気温/28℃ 水温/26℃(7:00時点)
距離/SタイプSwim3.8km/ Run42.36km、Aタイプ
Swim2.4km/Run20km、BタイプSwim1.2km/Run8km、
Cタイプ(中学生)Swim300m/Run3km、Dタイプ(小学
生)Swim100m/Run1km
参加者数(完走者)/
Sタイプ15人(13人)、Aタイプ51人(51人)、Bタイプ
82人(82人)、Cタイプ5人(5人)、Dタイプ26人(26人)

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アクアスロンくらはし2023年

>>観光編

万葉の島を自転車で巡る。

遣唐使船や遣新羅使船の寄港地だった倉橋島の桂浜は、万葉集の歌にも詠まれているほど、万葉の時代から栄えた場所。瀬戸内海の多島美を形成する歴史あるこの島は、今では本州や隣の江田島と橋で繋がり、「かきしま海道」として人気のサイクリングロードになっている。

アクアスロン前後に、ゆったりサイクリングをして3種目楽しんじゃうのも一興。美しい景色に包まれた島を自転車で巡ってみよう。

アクアスロンくらはし2023年

「かきしま海道を大満喫ダァ!」ランコースをバイクで北上し、早瀬大橋から隣の江田島へ。橋の上からの景色は、最高。かきしま海道沿いは、多島美の景色が広がりワクワクが止まらない

アクアスロンくらはし2023年

「瀬戸内の新鮮な恵みを堪能」食事をするならば、鮮度が命の太刀魚の刺身や生しらすなど、地元でとれたての海産物がおすすめ。大会会場近くにもリーズナブルなレストランがある

アクアスロンくらはし2023年

「迷いに迷う。特産品は数知れず!」倉橋島をはじめ、江田島、呉は特産品をあげればキリがない。海産物、柑橘類醤油……。あちこちに特産品を集めた施設があるので、そこでゲットしよう

アクアスロンくらはし2023年

「10分の1の戦艦大和が眼前に!」「大和ミュージアム」の愛称で知られる呉市海事歴史科学館では、戦艦大和の模型を間近で見ることができる。隣の施設では潜水艦の中に入ることもできる

アクアスロンくらはし2023年

「遣唐使船が復元」大会会場の桂浜にある「長門の造船歴史館」には、1200年以上前の姿に復元さ
れた遣唐使船が展示され、船内を見学することができる。万葉に思いを馳せよう

アクアスロンくらはし2023年

「軍艦カレーを食べ歩き」呉のB級グルメといえば軍艦カレー。呉
名物の揚げ物「がんす」がトッピングされていたり、肉じゃが入りだったり、その店独自の味と工夫が凝らされている

アクアスロンくらはし2023年

「前夜には3000発の花火」大会前日には、桂浜で遣唐使祭りが開催され、夜には3000発の花火が打ち上げられる。沖に停泊している船から打ち上がる花火は、近距離で迫力満点

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