トライアスロン旅烏
アクアスロンくらはし
旅烏こと作家でトライアスリートの謝孝浩さんが全国のローカルレースを出走・取材。
瀬戸内海の島で唯一無二のアクアスロンに参加!
文=謝 孝浩
Text by Takahiro Sha
写真=播本明彦
Photographs by Akihiko Harimoto
※こちらの記事はTriathlonLumina2023年11月号よりWEB用に編集して転載しています。情報は2023年大会参加時点のものです。
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>>レース編
瀬戸内の多島美の中を泳ぎ、駆け抜ける
ロングのアクアスロン!?
スイム3.8㎞を泳いだ後のフルマラソン。北海道、皆生、五島列島、宮古島……。日本で現在開催されているロングのトライアスロンはすぐに思い浮かべることができるが、ロングのアクアスロンがあることを知っている人は、どれくらいいるだろうか。
その舞台となるのが、広島県の瀬戸内海に浮かぶ倉橋島。呉の街の沖合いにあり、本州と橋で繋がっている。開催日は7月16日で、皆生と同じ日。海の日が翌日にある3連休の第3日曜日。
梅雨明けの灼熱の中でのレースとなる可能性大。おまけにランコースは、峠をひとつ越える過酷なルートだという。「かつて『スイムランinかまがり』という大会がありました。職業柄、休みがとれないので、大会参加を兼ねて、開催地の上蒲刈島に行くのが唯一の家族旅行でした。
1999年にその大会が中止となり、ならば自分の住んでいる倉橋島で同じような大会を作って参加したいという気持ちが生まれたのがきっかけです」
森本忠雄大会会長は微笑む。日本医師会の赤ひげ功労賞を受賞している地域医療を長年支える医師でトライアスリートだ。2023年で22回目を迎えるアクアスロン大会は、大雨やコロナ禍で3回ほど中止になった。
小学生から楽しめるさまざまなカテゴリーがあるのが魅力だ。ミドルタイプを中心に回数を重ね、このフルアクアスロンのSタイプのカテゴリーができたのは、8年ほど前になるという。
「当初から、いつかはフルアクアスロンの大会を作ってみたいという気持ちがありました。崩れていた林道が新しくなって、その林道を使ってルートを作ったら、ちょうどフルマラソンの距離になりました。初めてフルを開催したときは、参加者の半分がリタイア。でもそんな過酷なレースが日本にあってもいいんじゃないかと思って続けています」
日本各地のオリジナリティ溢れるローカルレースを取材してきた旅烏にとって、この唯一無二のレースに参戦するのはライター冥利に尽きる。しかしながら、長年酷使してきた半月板は、MRIでうつらないほど擦り減り、一時は痛みで全く走れなかったほど。3年前からリハビリを続けているものの30㎞を走るのが精一杯。
不本意ながら、フルの半分の距離のミドルのAタイプのカテゴリーに参加させてもらうことになった。Sタイプのフルマラソンは島の南部をほぼ半周するコース。林道を越えた後、海岸線をぐるっと回る。一方Aタイプの20㎞は、海岸線10㎞を往復するコース。
最後の10㎞だけ同じコースになるのだ。レース前日、フルマラソンのルートを車で1周した。曲がりくねった林道。延々と続く上り。300m の標高差のある峠をひとつ越えるのが、まず想像以上に過酷。おまけに急坂を下るのも脚に負担が多いし、海岸線に出てからも島特有の細かいアップダウンの連続だ。
「まぁ、こりゃ大変。今のこの自分の脚では制限時間に絶対間に合わない」とミドルにして良かったと安堵した。
猛者たちの快走
レース当日。フルアクアスロンに出場する参加者は15人で、7時スタート。過酷なコースを見ているだけに、参加する選手たちが強靭なモンスターのように見える。
スイムは1.2㎞の周回コースを3周回に加え、100mの往復という変則コース。1時間12分過ぎにトップ選手がスイムアップして、次々と猛者たちがフルマラソンへと移行していった。
ミドルは2時間遅れの9時スタート。1.2㎞のコースを2周回。沖縄の海の色とはまた違う透明感のある美しさ。そのピュアさが心地良い。太陽の光のシャワーがゆらゆらときらめく。その中を気持ち良く泳いだ。1時間を切ってスイムアップしたので旅烏にしては上出来。
気をよくしてランスタートしたものの、雲ひとつない青空から太陽の日差しがガンガン照りつけてくる。おまけにフラットな部分は少なく、距離は短いが、峻険な坂が次々と現れてくる。下りになっても喜んでもいられない。
往復コースなので、復路はこの下りが上りになるのだ。それでも海岸線のコースは、沖に島々が連なる多島美の景色が広がっていた。真っ青な空と海と島々は、疲弊した脚にパワーを与えてくれた。
淡々と前に進むも、折り返し地点よりかなり手前で、Sタイプのトップ選手とすれ違ったときは、ガックリと力が抜けた。あの過酷な峠を越えてフルマラソンを走ってきたとは思えないほど軽快に走り過ぎていった。やはりモンスターだ!
折り返してからは、さらに脚は前に進まなくなった。最後はキロ8分台というテイタラクで、なんとかフィニッシュ。同じミドルの選手に10人以上抜かれただけでなく、倍の距離を走ってきたSタイプの選手にもたくさん抜かれた。
ミドルでヘロヘロな旅烏なのに、颯爽とフィニッシュゲートをくぐるSタイプの猛者たち。その声を拾うことにした。
「初めてフルに参加しました。大会出場は4回目になります。いつかはフルに出たいと思っていましたが、アイアンマン・ケアンズに出場したばかりで、脚ができているかなと思って参加しました。コースは過酷でしたね。それまでは8月のインカレ前の刺激入れで、Bタイプのショートに出ていました」(橋本聡さん 広島県より参加 広島大学院生 トライアスロン部)
「大学のトライアスロン部では、恒例のレースになっていますね。久しぶりに参加したのですが、社会人になって香川県にいるので、この大会に出れば後輩やOBに会えるかなと思って参加しました。フルのコースは思った以上に厳しかったです」(相原千尋さん 香川県より参加 広島大学OG。Sタイプ女子トップ男女総合2位)
「本当にランのコースはハードで普通じゃない。ぜひこの変態な(笑)コースに挑戦してもらいたいですね。この島に住んで5年になります。海も山も温泉もある。全国、いや海外からもぜひこの島に来て、島の良さを体感して欲しいですね」(ジョーダン・ランゲンさん 地元倉橋島から参加。アメリカから来日して8年)
「秋にアイアンマンに出ようと思って、練習を兼ねて参加しました。ランコースはめちゃくちゃ厳しかったですね。でも海はとても穏やかで綺麗で泳ぎやすかったです。また来年も出たいです」(小野寺毅さん 兵庫県から参加 トライアスロン歴2年)
「32 ㎞で関門に引っ掛かってしまいました。ここまでランのコースが厳しいとは、20㎞まではほぼ上っている感じがしました。悔しさでいっぱいですが、大会はすばらしかったです。最近はアクアスロンばかりやっています」(足立勝俊さん 千葉県より参加 トライアスロン歴3年)
「バイクが苦手なので、アクアスロンが好きです。コロナ前にこの大会をみつけて、いつか参加したいと思っていました。ランのとき、Sタイプの選手には一人ひとりに自転車のボランティアがついてくれました。本当にサポートが素晴らしい大会でした」(若林晶子さん 兵庫県より参加 トライアスロン歴3年)
「エイドは2㎞ごとにあるのですが、林道は山の中なので、途中で何があるか分からない。不測の事態でも対応できるように、選手一人ひとりに自転車のサポートをつけています。地元のサイクリングクラブ20人ほどが協力してくれています。
本当に事故なく安全に大会が終わって良かったです。選手たちの姿を見て、我々スタッフやボランティアも力をもらうことができます。
島ではなかなかバイクをコースに組み込むことは難しいので、アクアスロンを極めようと、フルの距離を立ち上げた大会なので、今後も長く続けていきたいですね」と森本さん。
赤ひげ先生の周りには、いつも多くの人が集まっている。島の日常の生活や流れる時間が、こんな温もりを感じられる手作り感溢れるレースに結び付いているのだろうと想像された。
レースの原点を思い出させてくれるような大会だった。すでに来年の7月第3日曜日に、開催は決定している。ぜひ、唯一無二のフルアクアスロンに挑戦あれ!
Takahiro Sha
1962年長野県生まれ。アラ還の寅年男。トライアスロン歴20年を超えたにもかかわらず、あいかわらずバイクが大の苦手。極度に身体が硬い、腰痛持ち、おっちょこちょい。最近は膝痛も。四重苦を抱えながらも、トライアスロンライフをこよなく愛す。旅烏のコミュニティサイト(練習日誌公開中。チーム員も随時募集中!)http://www.triathlontrip.com/
アクアスロンくらはし
2023年7月16日(日) 広島県呉市倉橋島
天気/晴れ
気温/28℃ 水温/26℃(7:00時点)
距離/SタイプSwim3.8km/ Run42.36km、Aタイプ
Swim2.4km/Run20km、BタイプSwim1.2km/Run8km、
Cタイプ(中学生)Swim300m/Run3km、Dタイプ(小学
生)Swim100m/Run1km
参加者数(完走者)/
Sタイプ15人(13人)、Aタイプ51人(51人)、Bタイプ
82人(82人)、Cタイプ5人(5人)、Dタイプ26人(26人)
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>>観光編
万葉の島を自転車で巡る。
遣唐使船や遣新羅使船の寄港地だった倉橋島の桂浜は、万葉集の歌にも詠まれているほど、万葉の時代から栄えた場所。瀬戸内海の多島美を形成する歴史あるこの島は、今では本州や隣の江田島と橋で繋がり、「かきしま海道」として人気のサイクリングロードになっている。
アクアスロン前後に、ゆったりサイクリングをして3種目楽しんじゃうのも一興。美しい景色に包まれた島を自転車で巡ってみよう。