Shimano NEW DURA-ACE R9200 series
駆動効率を極限まで高めた12速変速システム、ワイヤレスシフトや、エルゴノミクスを究めた最新のコックピットなど、シマノならではの開発力と完成度を印象づけ、話題を呼んでいる新型デュラエース。日本のトライアスリートにとって注目すべきポイントとは?
コメント・文=大塚修孝
Comment by Nobutaka Otsuka
写真=小野口健太
Photographs by Kenta Onoguchi
Nobutaka Otsuka
トライアスロン「モノ」ジャーナリスト。96年から四半世紀にわたり取材を続けているKONA(アイアンマン世界選手権)をはじめ、内外のレースで出場者のバイク全台を自ら撮影して調査する「GERONIMO COUNT」など圧倒的なデータ収集・分析には定評がある。
トライアスリート目線で見る新型デュラエースのイノベーション
トライアスリートにとってシマノのニューコンポーネントはどのようなメリットがあるのだろうか? 間違いなく、良くなっているのだと思うが、その必要性はどの程度なのだろうか。すでにさまざまな機能説明やレビューも出ているが、ここではトライアスロンでの走り方や取り扱い方法などの特性から考えてみたい。
基本的に「ロードバイク」での使用を前提とした話となるが、決してトライアスリートに関係のない話ではない。国内ロングの最高峰・宮古島でも半数の選手はロードに乗っている現状からわかるように、選手層、競技レベル、普段のライド環境、レースコース特性などの要因から、日本のトライアスロンシーンにおいてロードバイクはTT・トライアスロンバイクと双璧。
ステップ(トレーニング用、初中級者用)ではなく、歴とした「決戦バイク」であることは言うまでもないだろう。
12速という多段化の
トライアスリート的メリット
まず最大の話題となるのが、12速変速システムとなったことだ。より多段化されることは、脚への負担を抑え効率良く走れることを意味している。逆に変速の段数が少ないということは、階段を上るとき、1段飛ばしで上るのと同じで、脚への負担が大きくなってしまう。
短い距離では問題ないが、長距離になれば徐々にダメージが出てくる。人力となるバイクにおいてはより多段化されることは、基本的に望ましいと考えられる。注目したいのは今回の12速化では、スプロケットのバリエーションが極端に減っている点。
10速のR7900系では8種の組み合わせがあった。11速のR9000・R9100系ではフロントにコンパクトが加わり、5種に減った。そして、今回新型のR9200系では、2種となっている。
ギヤが12枚となったことで、より滑らかに走れるクロスレシオとアップダウンに対応するため大きな歯数がついたワイドレシオが合体したと言ってもいい。つまり、ひとつのスプロケットで幅広いロケーションとシチュエーションに対応が可能となる画期的な仕組みであるということなのだ。
もちろん、そのベースとして11速時代があったわけで、その「完成度」が高まり、スプロケットが2種になったことで、一定の域に達したと考えられるだろう。
よりオールラウンドで使いやすくなった12速化は、シンプルなギヤ選択、脚への負担軽減による効率性向上など、イーブンでの走り(一定速度での巡航)が要求されるトライアスロンシーンにおいて、大きな朗報と言えるのだ。
ギヤ形状とDi2の進化で
変速スピードが「倍速」に
速のメリットは、変速精度の高さと大きく関係してくる。変速(ギヤチェンジ)自体はもちろん必須で便利なものだが、チェーンの脱落、変速のタイムラグとそれによるパワーダウンなどのリスクを抱えている。
これが多段化の限界にもつながっていたが、今回そうしたリスクを大幅改善しているのが各ギヤの歯先形状だ。新設計のハイパーグライドプラスにより、変速スピードは約2倍の速さとなっている(フロント45%・リア58%短縮)。
その結果、最も負荷のかかるフロントのインナーからアウターへの変速も極めてスピーディーとなったばかりでなく、ペダルを踏み込んだ状態でも変速がスムーズに。変速の確実性UP、タイムラグ削減という、大きなメリットをもたらしている。
また、変速スイッチの操作感も向上していて、ストレートに反応するダイレクト感が電動変速Di2のさらなる完成度の高まりを感じさせてくれる。新設計により電波干渉を抑え、処理速度は4倍、消費電力は75%軽減されているという。
今回のトピックのひとつである「ワイヤレス化」は、シフトスイッチと前後ディレイラー(変速機)をすべて無線接続とするのではなく、リアディレイラーとフロントディレイラー、バッテリーは有線接続している。これはより速く、正確性の高さを狙った選択だ。単なるワイヤレスに固執せず、変速性能UPという本来の目的にフォーカスしているあたりはシマノらしさが出ている。
長丁場のバイクパートでも
間違いなく大きな武器になる
次ページ以降で解説しているように、「ディスクブレーキのアップデート」「トレンドのエアロポジション対応」「ホイールの刷新」など、トライアスリートにとっても気になるトピックはたくさんあるが、実際に試乗して体感した「トライアスリートにとっての一番のメリット」は、やはり12速のギヤ設定、変速精度の完成度にある。
トライアスロン、特にロングのレースで、あなたは何回、変速しているだろうか。フロント変速の度に下を向いている選手も少なくないだろう。当然のこととして行っている変速は、「ストレス」でもある。
フロントとリアのギヤ比の組み合わせはシマノの「シンクロナイズドシフト」が助けてくれるが、初動はやはり人の手によるものだ。ケイデンス、パワーを確認しながらギヤ比を選択するとき、多段化を果たし、変速精度も上がった新型デュラエースなら、よりスムーズに最適なタイミングで、ベストなギヤを選べる。
変速の誤操作や、やり直しなども減ることで、バイクパートでの変速回数自体も抑えてくれる。
諸データをリアルタイムで注視できるインドアトレーニングの機会が増え、ケイデンス、パワーに応じた変速への意識も高くなっている「今」のトライアスリートにとって、大きな武器となることは間違いだろう。
DURA-ACE R9200 series トライアスリートが注目すべきポイント
扱いやすくアップデートされた
ディスクブレーキ
ディスクブレーキはもはや標準仕様と言えるシステムだ。この3年(2018~2020年)がディスクブレーキの導入期だったと思う。もちろん早いメーカーでは2016年頃より登場し、逆にまだ完全移行されていないメーカーもあるが、概ね次のフェーズに入った。
国内のトライアスロンシーンにおいては、20~25%程度(2021GERONIMO COUNT)の普及率となっているが、ディスクブレーキはバイクの買い替えを意味しているため、バイク自体の供給が遅れている昨今の世界的な事情もあり、やや遅れているイメージだ。
前作のディスクブレーキでもやはりシマノ製品らしく、安心感は高く、ブレーキがしっかりと効く、と感じていた。雨天時などのウエットコンディションにおいて、圧倒的な効果を発揮していた。そして、今回の新型では、大きく完成度を上げてきている。
ブレーキはただ止まるだけではなく、スピードコントロールが求められるシビアなパーツであり、指先での操作は、よりその「感度」を高めなければいけない。そのコントロール性が格段に向上し、滑らかなブレーキキングフィールとなっている。
また、パッドとローターの接触がさまざまな問題を引き起こすが、新型ではそのクリアランスが10%広くなっている。元々言われる熱膨張や変形などへの対策でもあるが、海外遠征や輪行移動などの多いトライアスリートにとっては、そのクリアランスに助けられることが多いだろう。
そして、レース直前やレース中、万が一のホイールチェンジでも扱いやすさが増し、メリットの大きい仕様と言える。
トレンドのエアロポジション対応
トライアスロンにおいて常に気になるのがエアロダイナミクスだ。自力走行となるトライアスロンでは可能な限り空気抵抗を減らし、効率良く走りたい。新型デュラエースにもそのキーワードがあった。現在ロードの世界でトレンドとなっているのが、デュアルコントロールレバーの「八の字」セッティングだ。
UCI規定でトップチューブに跨ったり、DHバーのないドロップハンドルにDHポジションにように前腕を置いて走るなどのエアロポジションが禁止となったことから、ハンドル上部が狭い八の字型のフレアハンドルを使用したり、レバーを内側に倒してセッティングするなどがトレンドとなっているが、新型デュラエースでは、そうした流れに対応をすべく、「内向き傾向」として仕上げられている。
簡単に言ってしまえばドロップでDHバーを兼ねた効果を狙っているということだ。使用するシチュエーションはいろいろ想定される。DHバー禁止のレース、テクニカルなコースや高速ダウンヒル、また、上り区間が長く、より軽量性を求めたいときにも有効な選択肢となるだろう。
そして、トッププロが使用する意味と少し違ってくるが、DHポジションはスキルが必要になるため、「簡易型」のエアロポジションとして、ビギナーへの推奨も十分考えられるだろう。DHバーアタッチメントと組み合わせれば、競技性から安全性まで幅広くメリットが見出せるかもしれない。
また、ブラケットの先端にも変速スイッチがあるため、余計な動きを抑え、エアロダイナミクスを高める使い方ができるようになっている。
絶妙なリムハイトの
新ホイール・ラインアップ
トライアスロンの決戦ホイール選びは、エアロダイナミクスに直結するリムハイトや形状がこだわりどころとなる。もちろん総合的な性能として、軽量性、剛性、強度などバランス良く融合していることが必須。
また、大切なことは見た目のリムハイト(高さ)ではなく、低くても直進方向のエアロダイナミクスや縦剛性が高いホイールが理想となり、一概に比較はできないが、一新されたデュラエース・ホイールのリムハイト設定は注目に値する。
今回リリースされたのは、36mm、50mm、60mmハイトの3種で、これは絶妙なバリエーションだ。トライアスロンでの使用を考える場合、DHポジションと一定走行という条件との相性が重要となる。今回は3種のハイトがあるため、前後の組み合わせは6通り。
最も使用されると思われるのは、36mm/50mm、50mm/50mm、50mm/60mm(いずれも前輪/後輪)ではないだろうか。特に50/60mmは、トライアスロンのショートディスタンスの最高峰WTCS横浜大会(2021年)でカウントした男子エリート選手の使用傾向に近い。リムハイトのくくりは私独自の見方だが、男子は、フロントに40~49mm、リアに55mm以上が多かった。
ひとつの参考資料に過ぎないが、2018年・同大会のカウントではほぼ前後同じハイトを使う傾向にあったが、そのWTCSでも前後異なるハイトがスタンダードになっている。また、軽量性、価格設定も魅力的だ。チューブレスタイプの場合、36/50mmの組合せで平均重量は1407g、50/60mmで1532gとなっている。そして、大幅に抑えられた価格は従来のミドルレンジ並みとなっていて、ポイントが高い。
コックピットのフィット性向上
細部にわたってさまざまな改良がなされているが、恐らく跨ってまず感じるのが最初に触れるデュアルコントロールレバーのブラケットの握り心地ではないだろうか。安全性にも関わる部分だけに、そのフィーリングは安心感に満ちている。
デュアルコントロールレバーのブラケットは全体的には大型化しているが、中指から小指までの3本の指が収まるスペースは広くなり、握る部分は細くなって、手の小さい人でも握りやすくなっている。ブラケットが大型化し、ここを握ったエアロポジションがとりやすいように。ブラケット先端部分の変速スイッチも便利ブラケットを大型化した一方で、写真のように握る際のスペースは、より広くなり、握りやすくなっている。
パッキングをスマートにした
ワイヤレス化のユーザビリティ
ワイヤレス化は、トライアスリートのユーザビリティの面でも朗報だろう。大会遠征時のパッキングでは、ハンドル周りが一番ネックとなるが、ワイヤレスのためケーブル処理に気を遣う必要がなくなった。それまでジャンクションAというパーツが、ステム下であったり、専用フレームでは内蔵処理をされていたが、そのパーツの機能がリアディレイラーに集約されたため分解が容易になったのだ。
ジャンクションAへのケーブル取付不備に気づかず、作動しないなどのトラブルもなくなるということだ。前後のディレイラーを、1本のバッテリーに接続する方式をとっているので、パッキングでは、シートピラー内に収まったバッテリーと繋がったケーブルを外すだけとなる。
新型デュラエース詳細解説動画などは
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