VENTUMサポートライダー:白戸太朗さん
Interview #01/02
万人受けを捨て、常識を飛び出したバイク 「VENTUM」
――まずは、アイアンマン(IM)テキサスお疲れ様でした。素晴らしいリザルト(9時間51分エイジ8位)でしたが、どう感じていますか?
白戸 今回のテキサスは冒険するより、確実にまとめることを心がけました。それが最終的にコナ(※IM世界選手権)に結びつくかなと。でも、コナには届かなかったけれど、こればかりは自分ではどうにもならない。僕より速い人がいただけ。僕にとって大事なのは自分のレースができたかどうか。だから後悔はありません。
――今回のレースで「確実にまとめていこう」と決めて、心がけたことはありますか?
白戸 Steadyに走る、上げ下げしないというのがまず一番。
――エネルギージェルを入れたボトルを落としてしまったアクシデントもあったようですが。
白戸 そう、トライアスロンにはアクシデントが起きる。今回の補給食の件だけじゃなくて、前回のカリフォルニア70.3ではパンクしたり、トラブルはつきもの。いろんなことがある中で、自分の中でsteadyに走る、気持ちを乱すことなく、淡々と続けていくことかなと。
補給食を落としてしまって残念だけど、イライラしても仕方がないので、じゃあ、どうやってカバーするか、冷静に考えることがアイアンマンという競技だと思っています。
だから、細かいトラブルがあっても、結果的に問題なく走り続けることができた。起こってしまったことは仕方がない、それに対して自分ができることは何? って考えるわけです。
――バイクパートにフォーカスすると、どうでしたか?
白戸 IMテキサスはコースが比較的フラットで高速。大きな山がなく、ハイウェイのなだらかなアップダウンを走る。だから全体的にアベレージスピードが速い。このVENTUMっていうバイクはスピードが速いときほど差が出る。時速30kmでは差が分かりずらいかもしれないけど、時速35kmでは確実に分かる。時速40kmで走っているときは風を切る感じが全然違いますからね。そういった意味でも、今回のバイクコースではアドバンテージが大きかった。
――タロウさんは、2016年からVENTUMに乗っていますが、当時は無名のブランドでした。誰も乗っていないVENTUMに乗ろうと思った理由を聞かせていただけますか?
白戸 このバイクの形状というのは90年代にあったロータスバイクに似ています。最初の印象は、ロータスがリバイバルされたのかなと。僕は当時、ロータスの格好良さとか革新的な感じに憧れていたけど、正直トライアスロンは乗りにくい自転車じゃ疲れるし嫌だなと思っていたんです。言い方は悪いかもしれないけれど、キャッチーなバイクだけど、ゲテモノだったよね。
だから、まさか自分が(ロータスを彷彿とさせる形状のVENTUMに)乗るとは思っていなかった。でも、試乗してみたら、とても扱いやすい。なんだ、普通じゃんって。全然奇をてらったものじゃない。硬過ぎず、強度設定も良くできていた。ハンドリングも走りのバランスも、すごくマイルドにできている。
最初に船橋オートレース場で試乗したんだけど、高速巡航したときに風が抜けるのを感じた。空気抵抗の面でのメリットだけだったら僕は選ばなかったと思うんですが、空気抵抗のメリットを感じる上に、普通に乗れるというふたつのことが僕の中でインパクトがあった。もしかして、これはレースで使えるんじゃないか? って。
トライアスリートだからこそ、「常識を疑え!」
――VENTUMは、「革新的」という言葉を掲げている新しいブランドで、若いチームなのですが、タロウさんも、日本トライアスロン界において革新的な活動をされてきたと思います。ご自身の活動を振り返って、VENTUMに思うことはありますか?
白戸 バイクはレースで使うものだし、レースで使えないと話にならない。そこは最低限、求めるものです。でも、それと同時に、トライアスロンというスポーツは、常に常識を疑ってきましたよね。常識って結局、これまでの自分の経験や知識の総合で、経験値が上がったり、知識量が増えたりすれば、常識も変わる。だから、僕は常に常識を疑うようにしている。
このバイクも、ある意味常識外というか、「バカじゃないの?」って言われるような尖ったところがある。でも、その常識に対する挑戦には、僕はすごく魅かれる。世の中の皆が良いと言っているから良いんじゃなくて、自分がさらに良いものを探し当ててやろうって。それは、トライアスロンに通じますよね。
このバイクは常識を飛び出した、万人受けしないバイク。でも、そんなことを気にせずに、自分たちが空気抵抗を極限まで追求したら、この形になった、そういうことでしょう。万人受けを狙ってしまったら、つまらないものになってしまう。
日本車とヨーロッパの車の違いと同じかな。日本車は誰が乗っても満足できるけど、ヨーロッパの車にあるような、走る喜びを追求したものではない。
トライアスロンもそういったところがあって、万人受けするスポーツじゃないですよね。でも、共感できる人は深く入る。だから、トライアスロンと僕の生き方は似ているところがあって、まさにこのバイクもそういったところが近いというか。ひとつの部分をものすごく掘り下げてあるわけですが、その辺りの感覚・感性に、僕は共感しています。(Interview#02へ続く>>)
取材協力/VENTUM ASIA
■プロフィール
白戸太朗(しらと・たろう)
スポーツナビゲーター。ワールドカップやアイアンマン世界選手権を始め、出場レースは500を超える達人トライアスリート。2008年、トライアスロン普及のために「アスロニア」を設立し、ショップ、スクール、大会運営などに携わる。