特集「あなたにとって最高のトライアスロン体験って、何ですか?」
file.01 白戸太朗さんの場合
世界を旅するトライアスロンがはじまった、最高のレース体験!?
現地に着いた時から予想外だった。
マウイでのワールドカップを終えてスペインに移動。初めてのスペイン、そして初めてのバスク地方。当時は英語のコミュニケーションさえ出来ない僕がちゃんとたどり着き、まともにレース出来るのか。片言の英語と、スペイン語のガイドブックを頼りにたどり着いたサンセバスチャンは寒かった。
おまけにおなかも減っている。
時刻は夕方の6時過ぎ。すぐに夕飯食べに街に出るとどこのレストランも営業していない。商店さえ開いていないのがほとんど。
「なんだよこの街は~」とぼやきながらようやく見つけた店に入ると、「もうクローズドだよ」と。「まだ6時半なのに?」と時計を指しながら文句言うと、ランチタイムは終了だというのだ。ディナーは8時半からやっているか後でおいでと……。そう、「シエスタ」という習慣をその時に初めて思い知った。
翌日は寒さに対応するためにウエアーの買い出し。そしてバイクコース下見に行くと、道路案内がバスク語で全く読めず迷子状態。すると地元トライアスリートが通りかかる。
話しかけるとフランス語かスペイン語しかできないというが、このチャンスを逃しては帰れないと思っていた僕達は必死に話しかけ、なんとか彼に街まで連れて帰ってもらうことに成功した。後で考えても一体何語で話していたのか分からないが、スポーツが世界共通語であることを実感した体験だった。
競技としてはボロボロ、でも最高の人生経験。
で、肝心のレースは朝から風と雨の悪天候。ますます寒いコンディションにモチベーションは下がり気味。スイム中止という噂が流れる中で、ビーチを見ると海水浴客が普通に遊んでいる!? さすがヨーロッパだぜ……と感心していたら、スイム短縮の知らせが届いた。日本なら100%中止だし、「なんで一般人が何で泳いでいるんだよ~」と嘆きながら荒れた海にスタートしたのを覚えている。
結果? そんなものは全く覚えていないけど、寒さに震えながらバイクで下っていたのを思い出す。後で聞いた話では、あまりの寒さに、女子選手の中にはウエットのままバイクを走った選手がいたようだ。
そしてその夜は、仲良くなった地元の選手と旧市街のバルに繰り出しし人生論談義……。まあ、そんなことが普通だった牧歌的な時代のワールドカップのお話し。
このサンセバスチャン、競技としてはボロボロだったけど、人生の経験としてすごく刺激的なレースだった。だから僕にとって思い出に残る最高のレースの一つ。もちろんこれからも新しい体験を探しにレースに行くよ!LM
■著者プロフィール
白戸太朗(しらと・たろう)
スポーツナビゲーター。ワールドカップやアイアンマン世界選手権を始め、出場レースは500を超える達人トライアスリート。2008年、トライアスロン普及のためにアスロニアを設立し、ショップ、スクール、大会運営などに携わる。