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「ハイパフォーマンスとウェルビーイングの両立」森下健のメントレ!vol.3

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ルミナ編集部

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©KentaOnoguchi

>>トライアスリートのためのメンタルトレーニングVol.03

サニーフィッシュ」の選手をはじめ、多くのトップアスリートやビジネスパーソンを指導するメンタルトレーニングコーチの森下健さんが、心の鍛え方について語る連載コラム。スイムコーチとしての経験ももつ森下さんが、どんなレースも乗り越えることができる「折れない心の作り方」について伝授してくれる。

『Triathlon Lumina#98』に関連記事あり。

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前回記事を読む。
>>【オフシーズンのモチベーションコントロール】森下健のメントレ!vol.2 前編
>>【オフシーズンのモチベーションコントロール】森下健のメントレ!vol.2 後編

ハイパフォーマンスとウェルビーイングの両立

皆さん、こんにちはメンタルトレーニングコーチの森下です。

急に冷え込んでまいりました。寒いときはスクワットをして身体を温め、環境にもお財布にも優しさを振りまいております。体調には十分にお気をつけくださいね。

さて、前回の記事(前編後編)では「モチベーションの質」ということで、結果(勝敗、ランキング、評価)にフォーカスしているのか、プロセス(努力、チャレンジ、成長)にフォーカスしているかによって、モチベーションの質は変わるということをお伝えしました。

結果ばかりにフォーカスしていると、モチベーションの質は低下し、さまざまなデメリットを引き起こす可能性があることをご紹介しましたが、特にスポーツや仕事は「結果」が常に付きまとってきますよね。

「結果よりもプロセスが大切です!」とお伝えすると、「結果が出なければ楽しくないじゃないですか」「楽しければいいという考え方はあまり……」というお言葉をいただくことがあります(その気持ち、十分理解できます!)。

SNSなどでも、「結果」を求めるのか「楽しさ(プロセス)」を求めるかという議論を見かけることもあります。

今回のコラムでは、結果を求めるのか、プロセスを求めるのか、「トライアスロンを楽しく、長く続けていくために大切な考え方」についてご紹介させていただきます。

競技を頑張ることはとても素晴らしいことですが、それで心が苦しくなってしまっては本末転倒です。ぜひ、競技に対しての取り組み方を考えるきっかけにしてみてください。

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結果がすべて? 結果よりもプロセス成長

競泳選手時代(学生時代)の僕は、「結果を出さなければ意味がない」「結果が出なければつまらない」と、極端に結果にフォーカスした考え方でした。スポーツ心理学(メンタルトレーニング)を学び、専門家として活動するようになって、当時の自分に伝えたいことは、「結果」が大事か「楽しさ」が大事かを、白か黒かで考えてしまうことは、あまり建設的ではないということです。

「トライアスロンをどう楽しむか」は人によってそれぞれですよね。競技として楽しんでいる人もいれば、身体を動かすこと自体を楽しんでいる人、仲間とのコミュニケーションを楽しんでいる方もいます。

トライアスロンを取り組むモチベーションがさまざまある中で、「勝てなければ楽しめない」という考え方、いわゆる「結果至上主義」の人は、勝つことがすべてで、負けることはダメなことだと極端な考えになってしまっている傾向があります。

勝利を目指すことはスポーツの楽しみの”ひとつ”だと僕は考えます。ですが、「勝てば良し」「負けるはダメ」という二極の考え方では、競技を楽しみ続けることは不可能です。なぜなら勝ち続ける、結果を出し続けるのは、どんなに有能な選手であっても不可能だからです。

スポーツは相手との能力差によって、勝敗が左右される可能性が大きくなります。特にトライアスロンはサッカーや野球などと比べると、心理的駆け引きの要素は少ないので、能力差による結果への影響が特に顕著です。当然、自分よりも能力が高い相手と勝負するとしたら、負ける可能性は高くなります。

だとすると、勝ち続けるためには、自分よりも能力の低い相手と勝負し続けるか、そもそも勝負をしないかのどちらしかありません。確かにそれなら負けないかもしれませんが、それで楽しいのかと聞かれたらちょっと疑問ですよね。

つまり「勝利」「ランキング」「評価」”だけ”で楽しさや満足感を感じている人は、いつか必ず「しんどくなる」ときがきてしまうのです。

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2種類の幸福感情(ポジティブ感情)

結果を出すことで感じられる楽しさや充実感、満足感といった幸福感情はほんの一瞬。

たとえるならば、予約の取れないお寿司屋さんで、高級なお寿司を食べたとしましょう。お店に行ったそのときは、お寿司が美味しいという満足感や、なかなか来ることができないところにいる優越感は確かに高まるはずです。

でも数カ月後、数年後にその時と同じようにその感情をキープしているかと言われたらそうじゃないと思うんです。お店を出たそのときから、少しずつ楽しさや満足感は低下し、「今度は別のいいお店に……」というように次の刺激を探しはじめるわけです。

勝つことで得られる楽しさや達成感、優越感もそれと同じことが言えます。勝利した瞬間がピークでそこから徐々に低下していきます。

こんな感じで高まりやすいけど低下しやすい幸福感情を「ヘドニア(快楽的幸福感情)」と呼びます。続かないからどんどん次の快楽を求めないと維持できなくなるんです。
ですが、先ほどもお伝えした通り、結果を出し続けるのは到底無理で、どうしたってうまくいかない時は出てくるもの。結果(勝敗、ランキング、記録、評価)だけで、幸福感情を高めようとしていると、そのうち頭打ちになります。

すると幸福感情は高まらなくなり、頑張れなくなり、楽しくなくなり、継続できなくなる。苦しくなってしまうというわけ。

幸福感情を継続していくためには、自分自身の成長、居場所感、充実感を感じられるようにすることが大切です。

「うまくなっていると思えること」「仲間と切磋琢磨していくこと」「心身の健康」などがそれにあたります。継続できる幸福感情を「ユーダイモニア(持続的幸福感情)」と呼び、このユーダイモニアを感じることができれば、多少しんどいことも乗り越えられるし、困難に向かってチャレンジすることもできる。

ある程度結果を出そうと思ったら、多少のしんどいことや、やりたくないこともやらなきゃいけないわけで、そのためには結果ではなく、成長や居場所、充実感を高めていくことの方が重要だったりします。(Daniel Nettle (2007))

ハイパフォーマンスとウェルビーイング

結果が出るから心が満たされるのか、心が満たされるから結果が出るのか、皆さんはどちらだと思いますか?

ポジティブ心理学という学問の研究の中で、「ハピネスアドバンテージ(幸福優位性)」という理論があります。その名の通り、”幸福感情(ポジティブ感情)が結果(成功)を引き寄せる要因となる”という理論です。

結果を追い求めることと、幸福感情を高めていくことは相反するようなイメージをもっている方もいらっしゃるかもしれません。特にスポ根世代の方は、ちゃぶ台をひっくり返されても、強烈なレシーブ練習をされても、苦しくたって、悲しくったって、涙を拭って歯を食いしばって、耐え抜くことを美徳としがちです。

スポーツ心理学の世界でも1990年〜2000年初頭までは、パフォーマンスを高めて勝利を手にするためのアプローチが主流でした。ですがバーンアウト(燃え尽き)や心の健康を崩してしまうアスリートが増加してきたため、「選手を守らなければ」ということで、ハイパフォーマンスの発揮だけではなく、ウェルビーイングの必要性に意識が向くようになります。

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その流れで2000年に入るとポジティブ心理学が誕生し、研究が進んでスポーツ心理学の分野でも“幸福が成果を生む”発想が注目され始めました。

2010年代に入ると、ハイパフォーマンスとウェルビーイングの両立が主流となり、近年ではスポーツ心理の中心のテーマとして研究が進んでいます。

何事も心が満たされていないと頑張れません。「練習が辛い。仕事も辛い。家族にも理解されていない。負けたらどうしよう。」そんな状態では頑張るにも頑張れませんよね。
まずは自分自身の心を満たしていくことです。心を継続的に満たしていくために持続的な幸福感情であるユーダイモニアを高めていくことが大切です。

ときには、自分にご褒美をあげてヘドニアを高めることもOKです。トレーニングの後のコーラは最高ですよね。※僕はお酒飲めないのでコーラなんです(笑)!

トライアスロンを取り組むにあたって、ユーダイモニアを高めていくためには、「努力」「チャレンジ」「成長」「実力発揮」から楽しさ、充実感を感じることです。

自身で決めた目標を達成するために、日々努力やチャレンジを積み重ねていくことが楽しい、できないことができるようになっていくことが楽しい、日頃の練習の成果を出しきれることが楽しい、仲間と励まし合って切磋琢磨していくことが楽しいと思えることで、ユーダイモニアは高まります。

当然、結果が出なければ悔しい気持ちは出てくることでしょう。ですが、悔しいと思えるということは、本気で取り組んでいる証拠。試行錯誤しながら、踏ん張りながらも、楽しみながら充実した練習の日々を行ってきたからです。そう思えたのであれば、結果が出ずに悔しいと感じながらも、競技を楽しめているのではないでしょうか。

負けるのは悔しい。でも次は絶対勝つ、成長してやる。そのための努力を楽しんでいけるなら、勝利も楽しさもどちらも目指していけるかもしれませんね。

ウェルビーイングを高めていく5つのポイント

最後に、ポジティブ感情を高めるためのチェック項目をご紹介しますね。お時間あればぜひ考えてみてください! こちらの質問はポジティブ心理学の父と呼ばれている、マーティン・セリグマン博士の研究である「PERMAモデル」がもとになっています。

引用:金沢工業大学心理科学研究所

Positive Emotion
Q1. 今現在どれくらいポジティブですか?  ______________%
Q2. 何をしている時に幸せを感じますか?

Engagement
Q1. 夢中になれるものはありますか?
Q2. 夢中になったキッカケはなんだったでしょうか?

Relationship
Q1. 良い関係づくりのために努力していることは?
Q2. 周りを受け入れ、自分も受け入れてもらうために、あなたらしい工夫はありますか?

Meaning
Q1. 家族、仲間、恩師など感謝の気持ちはありますか? _______________%
Q2. 周りに良い影響を与えていくためにどのような思考や行動ができますか?

Accomplishments
Q1. 大きな目標を達成するために小さな目標やプランを持っていますか?
Q2. 今日(明日)の小さな目標はなんですか?

考えてみただけでも、少し幸福感情は高まったはずです。トライアスロンを楽しく続けていくためにも、結果だけではなく、努力やチャレンジ、自身の成長から幸福感情を高めていってくださいね!

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森下 健 Ken Morishita
学生時代は競泳選手として活躍。引退後は水泳指導者として多くの人を指導する中で、自身の「ここぞという試合で勝てない」という経験からメンタルトレーニングに興味をもち、応用スポーツ心理学を学ぶ。2013年、細田雄一選手のサポートをきっかけにトライアスロンに出会い、自身もレースに出場。2020年よりサニーフィッシュで水泳コーチ兼メンタルトレーニングコーチとしてメンタルトレーニングを実施。スポーツの他、企業や学校などさまざまな分野でメンタルトレーニング講演会や心理面のサポートを行う。

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