※前回の【旅烏の「徒然グサッ!」〈6〉旅烏の「IM70.3セントレア」おすすめ観光スポット】はこちら
旅烏の「徒然グサッ!」〈7〉
Lumina誌面でおなじみの「旅烏」こと作家でトライアスリートの謝 孝浩さんが、日々のトライアスロンライフで心にグサッときたことを書き綴るショートエッセイ
暑い日や雨の日は、 ヴァーチャルな景色と一体化する。
思わぬ救世主が登場
3種目の中で、バイクが苦手な旅烏。かつてはロングのレースともなれば、レース中は、ひたすらバイクパートが無事終わることを祈っている感じだった。日々の練習でも、交通量の激しいところを実走するのが嫌いなので、車が少ない時間帯に走るために、わざわざ睡眠時間を削ってまで、早朝4時頃からスタートする始末。
まして雨が降った時は、スリップしては危険と、自転車に乗る気にさえ起こらなかった。そんなとき、インドアバイクでの練習は欠かせないのだが、集中できるのは、ほんの数十分。すぐに飽きるという問題が発生する。テレビや映画を観ながら気を紛らわしても、気がつけば惰性でこいでいるだけで、ちっとも練習になっていなかった。
そんなダメダメ旅烏だったのだが、思わぬ救世主が登場した。それがZWIFTだ。ZWIFTは、アスリート版のRPGのようなもの。ヴァーチャルなコースが設定されていて、インドアバイクやローラー台からワット数やケイデンスを同期して、その仮想コース上を走る。インターネットで繋がっているので、世界中のサイクリストやトライアスリートと一緒に走ることができるのだ。
コースを走っていると、前後のライダーと抜きつ抜かれつの状態になる。自然とレース感覚になるので、目一杯追い込める。ドラフティング効果の機能もあるので、脚のあうライダーが現われれば、互いに利用しながら進んでいるうちに、知らぬまに仲間意識のようなものが芽生えたりする。
ゲーム的な要素も加味されていて、距離を乗るほどレベルがあがり、自分のアバター用のフレームやホイール、バイクジャージなどがゲットできる仕組みだ。
スマートフォンと連動させると、分岐点で進みたいコースを選べるし、一緒に走っているライダーに挨拶したり、ヒジ打ちしたり、手を振ったりもできる。また自分のアバターをさまざまな角度から見られるし、写真を撮ることもできる。
一瞬、一瞬に変わりゆく景色
ロンドンやリッチモンドなどの都市のコースもあるのだが、旅烏が一番好きなコースは、WATOPIAと呼ばれる南太平洋に浮かぶ島に作られた仮想コース。水中トンネルでは、ジンベイザメ、マンタ、イルカなどとも遭遇することもあるし、今年に入ってからハワイ島のような火山島が出現して、オレンジ色の熔岩のすぐそばを走れる。
日の出、日中の日差し、真っ赤な夕焼け、月明かり、星空など、時間帯によってさまざまな表情に景色が変化し、また天候も多様に変化して、晴天から雨、ときには雪が降ることもある。
今朝、乗った時も、アルプスのような山岳地帯に続く坂道の途中から、はるか眼下に点在する島々の方向から、朝日が昇ってきた。仮想ではあるが、美しいその一瞬の景色の中にいることが、たまらなく心地良いのだ。
ZWIFTを利用しはじめて1年になるが、その時々に変化する風景と一体化できるのが、いまだに飽きない要因だと思う。
自分のレベルに合わせたトレーニングメニューもあるので、ガッツリ追い込みたい派にも、おすすめだ。暑い日や雨の日には、ヴァーチャルな壮大な風景の中で汗を流してみるのは、いかがだろう。
ZWIFT■https://zwift.com
※次回の【旅烏の「徒然グサッ!」〈8〉佐渡、真野湾に浮かぶ桟橋】はこちら
■著者プロフィール
謝 孝浩 (しゃ・たかひろ)
1962年長野県生まれ。上智大学文学部新聞学科卒。 在学中には探検部に所属しパキスタン、スリランカ、 ネパールなどに遠征する。卒業後は秘境専門の旅行会社に就職し、添乗員としてアジア、アフリカ、南米など世界各地を巡る。2年で退職し、5カ月間ヒマラヤ 周辺を放浪。帰国後はPR誌、旅行雑誌、自然派雑誌などに寄稿するようになる。現在は、トライアスロン雑誌での大会実走ルポなどを通じて日本にも目を向けるようになり、各地を行脚している。著書にルポ『スピティの谷へ』(新潮社)、小説『藍の空、雪の島』(スイッチ・パブリッシング)など。http://www.t3.rim.or.jp/~sha/