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時代を切り拓く『AIR TRISUITS』開発ストーリー

投稿日:2017年9月20日 更新日:


ルミナ編集部

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(>>>前回の「#02 ついにベールを脱ぐPIトライウエア『AIR TRISUITS』」はこちら)

#03 時代を切り拓く『AIR TRISUITS』開発ストーリー


取材/田中 弾  写真/小野口健太

<Interview 佐藤 充さん>
トライアスロン用に特化した“よりフィットするワンピース”

トライアスロン用のトライウエアはスイム、バイク、ランの3種目に適応する専用品だが、身体の動かし方が異なる3種目すべてにおいてアスリートの欲求を満たす一着を開発するのは至難の業。そんな中、今パールイズミの「AIR TRISUITS」の完成度の高さが注目を集めている。2016年の夏に開発をスタートさせ丸1年かけて完成したトライウエアには、世のトライアスリートが「よくぞここまで!」と感心させられる数々の工夫が施されている。製品開発者としてこの「AIR TRISUITS」プロジェクトに携わった佐藤 充さんに、ほかの追随を許さない、パールイズミだからこそのこだわりを語ってもらった。

  • パールイズミ 生産部デザイン課
    佐藤 充さん
    Mitsuru Sato

    サイクルウエアの企画からデザイン、素材開発を行うかたわら、社内スタッフ&外部素材メーカーなどと連携を取りながら製品化を行うプロデューサーとして、パールイズミの全製品を手がける開発経験20年のベテラン。

 

――トライアスロンのレースウエアの主流はワンピースタイプだが、上下が一体なぶん、モノによっては着用時に「身体を動かしにくい」「窮屈」と感じることがある。ところが「AIR TRISUITS」のワンピースは、違う。なぜだろう?

「サイクル業界の視点からワンピースウエアを見ると、もともとワンピースは深い前傾姿勢を取って走り続けるタイムトライアルレース用に作られたものでした。深い前傾姿勢でいかに風の抵抗を減らすか、そこに特化したパターンをもっていたのがワンピースです。

とはいえ、最近は『ツール・ド・フランス』を見てもわかる通り、通常のレースでも空気抵抗の軽減を狙ってワンピースを着ることがトレンドになってきました。当然、選手はレース中に前傾姿勢を深くしたり、浅くしたり、ダンシングもします。そこで我々も、動きにくいワンピースではなく、“よりフィットして動けるワンピース”をすでに製品化していました」

――そのワンピースの開発技術が「AIR TRISUITS」にも使われている、と。

「そうですね。『AIR TRISUITS』のベースになったウエアは、弊社がロードレース用に開発したオーダーウエア『エア半袖ロードスーツ』です。このモデルは上半身の前身頃にフルジップファスナーを付けて、上半身と下半身の生地が分離したデザインになっています。下半身の生地が腰上まで来て、その上を上半身の生地が覆っているので、深い前傾姿勢から身体を起こす動作までスムーズに行えます。国内では(自転車ロードレースの)プロチーム『宇都宮ブリッツェン』や『チーム マトリックスパワータグ』が実戦で着用しています。

トライアスロンの場合、バイクパートのエアロフォームはタイムトライアルのポジションに近く、かつスイムとランでは姿勢が大きく変化します。そこで、『エア半袖ロードスーツ』の良さを生かしながら、スイムとランでも動きやすくなるパターンへと進化させました」

――実はワンピースの着用感の目安のひとつに首元のカタチがある。バイクの前傾姿勢に特化したウエアは、立ち姿勢になったときに首元が引っ張られてV字型になりやすい。逆に首元のカタチが変化しないウエアは、バイクの前傾姿勢&立ち姿勢の両方に対応するパターンを採用していると言える。「AIR TRISUITS」はもちろん後者だ。

写真が「AIR TRISUITS」のエアトライスーツ(メンズ)\25,920。ラインナップには袖なしのエアトライタンクトップスーツ(メンズ)\23,760もある。両タイプともレディースもあり

上半身の前身頃はフルジップファスナー。上半身と下半身の生地をつなげずに前身頃を分離させることで、バイクの乗車姿勢、スイムやランの立ち姿勢のいずれもとりやすくしている。ジップ自体も伸び縮みする仕様。

 

実績あるテクノロジーとトライアスリートの声が融合

――前回の#02ついにベールを脱ぐPIトライウエア『AIR TRISUITS』でも取り挙げているが、「AIR TRISUITS」は素材にもこだわっている。使う生地は、前身頃と脇、股下、背中と袖、裾で異なる。

「スイムアップでウエアが水を含んでいると重たく感じるので、『AIR TRISUITS』にはできる限り撥水素材を使いました。大きな部分は前身頃と脇です。首元と裾もゴムを入れると水を含んでしまうので、ゴムを入れずに撥水素材にしています。

股部分辺りは工夫してて、前側股間部分を2重にして透けにくくしています。プロ選手は軽さを優先して生地が薄く肌が透けるウエアでも構わないのでしょうが、一般ユースでは恥ずかしいという声もあるからです。また、パッドを装着する部分の素材は、弊社のサイクルパンツで実証済の2way素材ですから、耐久性は高く摩擦にも強いのでより長く使えるかと考えています」

前身頃と脇は、生地に高い伸縮性があり、水を弾く撥水素材を採用。

首元も水を含まないようあえてゴムは入れずに仕上げた。

――「AIR TRISUITS」の撥水素材は耐久テストも行われていて、たとえ100回以上洗濯しても機能は失われない。トライアスロンに年10回以上エントリーするようなヘビーなトライアスリートも安心して使えるだろう。

「背中と袖は、われわれがスピードセンサーと呼ぶ独自開発素材を使っています。表面に凹凸があり、この凹凸が高速時に空気抵抗を低減する働きをします。空気抵抗を低減する働きをします。航空力学と風洞実験から生まれたもので、2008年の北京オリンピックのトラック競技の日本ナショナルチームにも採用されました。

一般的に走行風を効果的に流すにはツルッとした素材のほうが良いと思われていますが、ツルッとした素材はスピードが増したときに空気が身体から離れやすく、真空状態が生まれ乱流の原因になります」

空気抵抗を軽減するスピードセンサー。触ると表面にザラッとした凸凹があるのがわかる。

――裾の滑り止めのアイデアもユニークだ。同社のハイエンドモデルやアーム&レインカバーに使われるラッセルテープを採用。トライアスロンのようなエンデュランス系スポーツで肌のノントラブルを目指した。

「裾の素材は、髪の毛ほどの太さのポリエステルを1万分の1に割いて撚り直したナノフロントの糸です。一度割いた繊維のため生地の表面が毛羽立っていて、これが滑り止めの役割を果たします。この繊維は水を吸いますので、トライアスロン中にかいた汗によって肌とウエアの密着度が高まり、自然とグリップ力が上がります。

滑り止め用にシリコンを貼る方法もありますが、肌の汗腺を長い時間押さえていると肌障害を起こす方もいらっしゃいます。海外の人と比べてより敏感な肌の日本人向けに開発した素材なのです」

裾の生地は水をふくむとよりグリップ力が増すラッセルテープ仕様。脚部のウエアのずり上がりを防ぐ。

――最も開発に時間をかけたのはパッド。サイクル用ハイエンド製品の「3Dネオプラス」をもとにトライアスロン専用品「3D TRI」を開発し、裁縫にも気を配る。

「ライダーがバイクに前乗りした状態で、パッドとサドルの接触面を逐一マーキングしながら、エアロポジションでピンポイントに当たる場所、そこからある程度前後に動いても快適性を損なわない形状に仕上げました。位置はサイクル用より約2cm前に付けています。

スイムとランを考えてパッドの厚みは薄めにしていますので、ウエアには股間のセンター部に縫い目を設けていません。ここに縫った糸があると尿道に当たってゴロゴロした不快感が出るからです。そして、パッドはウエアに全体を縫いつけることはせず、パッドとウエアの間に手が入るぐらいの隙間を残しています。股間部の生地が伸び縮みしやすくなって、ランの脚上げ動作がスムーズにできます」

――ちなみに、「3D TRI」パッドは日本人向けのサイズに仕上げられている。一般的に欧米人に比べ、日本人は身体が小さく骨格も華奢なので、海外製だと合わないケースも多いという長年の開発経験が生かされている。

パッドの全周囲をウエアに縫い付けることはせずに生地の遊びを確保。脚上げがしやすい。※写真のパッドは試作品。完成品には「3D Tri」マークが付いた色違いのパッドが付きます

せっかく作るなら、時代に合った最先端ウエアを「3D TRI」が付きます

――こうして話を聞いていくと「AIR TRISUITS」はまさに機能満載だ。しかも、社内&社外のトライアスリート、チームPI(パールイズミが有志を募って結成したトライアスロンチーム)から、『あの機能がいる』、『この機能がいる』と出た多くの要望をカタチに落とし込んでいるため、どれも実戦的。

「リアルなユーザーの提案は多いにこしたことはありませんでした。『せっかく作るのなら今の時代に合ったトライウエアを。さらに数年先になっても主流となっているようなクオリティの高いウエアを』と考えていましたので、大変でしたけど楽しかったです。

パールイズミには素材やパターン、パッド技術に関するタンスの引き出しが多いので、それらの組み合わせ方を考えつつ、さらにトライアスロンにピタリとマッチする機能に昇華するまで細かい調整作業を積み重ねていきました。机の上で計算して作ったモノではないので使い勝手の良いウエアになっていると思います」

――『AIR TRISUITS』の販売はオーダーウエア方式で、日本人に合わせた男性はS~XLの4種類、女性はS~Lの3種類。これに加えてスペシャルサイズもある。

「身幅だけ大きくする、丈だけ長くするというオーダーが可能です(別途調整料は発生)カラーリングに対しては、『AIR TRISUITS』の素材は色のグラデーションをキレイに表現できるので、オーダーされるお客様の図案にかなり近いイメージで再現できます。オーダーウエアも30年近くやっているので、ここにもいろいろなノウハウの蓄積があります」

「チームPI」は鮮やかなブルーをベースにジオメトリック(幾何学模様)を用いて、ウエアの表情に変化を持たせる。ジオメトリック部のグラデーションの発色が美しく、オーダーではこういった微妙な色合いも再現できる。

(>>>#04「Team PI アストロマンを駆ける。」へつづく)

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