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KONA王者とメダリストらが激突。70.3世界一決定戦

投稿日:2021年9月13日 更新日:


山村 勇騎

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©Kenta Onoguchi

2021年アイアンマン70.3世界選手権プレビュー

文=山村勇騎

コロナ下で開催にこぎつけた
70.3世界一決定戦

コロナ禍の影響でアイアンマン世界選手権(KONA)の延期が発表されるという、残念なニュースが流れる中、アイアンマン70.3世界選手権は9月18日、アメリカの中西部ユタ州セントジョージで開催される。

当初ニュージーランドでの開催を予定していた2022年のアイアンマン70.3世界選手権もコロナ禍の影響でキャンセルや入国規制などが壁となり、セントジョージでの開催が決定している。

セントジョージは、カジノの街ラスベガスから車で2時間というロケーションで、その道中には、国立公園やトレイルなど、アウトドア・アクティビティースポットもある人気観光エリアだ。

今年5月にも、世界選手権開催に向けたプレレースとして70.3セントジョージが開催されたりと、アスリートに対して寛大で歓迎ムードに満ちたレース開催地でもある。

舞台はシリーズ中屈指のタフなコース

峡谷に位置するセントジョージは、世界のアイアンマンコースの中でも、過酷なレースのひとつ。

スイムは貯水池で行われ、水温が20℃以下(5月のレース)のウエットスーツ着用必須な極寒スイム。強風が吹けば、かなり波が立ちうねることもある。レース当日の天候次第だが、楽なスイムとはならないだろう。

バイクコースは、数年前の激坂コースから少し変更。上り基調ながら、下りも多いので、ディスクホイールをチョイスする選手も多い。

65~70㎞地点に長い上りがあり、その後フィニッシュまでハイスピードでずっと下る。360度見渡す限り赤い岩山という景色の中、西部劇の中にいるかのような錯覚を覚えるようなバイクコースだ。

そして、このコースで一番ハードなのがランコースである。

コースは2周回。スタートから上り基調で、急に岩山の丘を上る激坂が3~4㎞地点にある。逆に周回の後半はダウンタウンに向かって激坂を下るという、アップダウンの激しいランとなる。

2019年の70.3世界選手権ニース大会と比べてもコースの難度はさらに高く、個々の実力や上りのスキルが試されるコースだ。

東京2020で悲願の金メダルを獲った後、WTCSシリーズチャンピオンにも輝いているダフィ。残念ながら今大会には不参加となった模様 ©World Triathlon Media/ Wagner Araujo

KONA王者とメダリストが激突
ダフィ、サンダースは欠場

今回のプロフィールドは、2019年後半からスロットを持っている選手たちに加え、五輪メダリストや世界王者など、女子50人と男子65人のプロ選手が出場。

出場者リストに名をつられていた東京2020金メダリスト、フローラ・ダフィやプレレース優勝者のライオネル・サンダースは欠場。ロンドン五輪金メダリストのアリスター・ブラウンリーも、先月手術したばかりで、予定どおり出場するかどうかは不明だ。

3連覇中のリフに
注目の新鋭が挑む
《プロ女子注目選手》

Daniela Ryf
ダニエラ・リフ(スイス)

KONA4連覇(~2018年)70.3世界選は3連覇中のリフ。直近のレースでの不調が気になるところ ©Kenta Onoguchi

アイアンマンと70.3のダブル世界王者の経歴を持つリフ。2019年のKONAでは、調子が悪く連覇を逃したが、70.3世界選では、3連覇中。

長年組んできた名コーチ、ブレット・サットンから離れ、セルフコーチングスタイルに転換した今年は、70.3のレースで無敗、セントジョージでのプレ大会でも2位以下に大差をつけ優勝している。

ニックネームである「アングリーバード」の名の通り、バイクレグで突き抜けるような凄まじい強さを見せる。

先週のコリンズカップでは不調だったのが引っかかるが、並み居る瞬足ランナーたちに対し、得意とするバイクでどれだけ差を広げられるかが優勝の鍵となる。

メダリスト並みスピードと
IM戦歴生かし初優勝なるか

Lucy Charles-Barclay
ルーシー・チャールズバークレー(イギリス)

©Kenta Onoguchi

2019年70.3世界2位のルーシー・チャールズバークレーが、今年こそ優勝を狙いくる。

KONAや70.3世界選で、いつも優勝を逃してきた彼女は、元エリートスイマーとして名の知れた高速スイマーだが、コロナ下で取り組んだバイクとランの強化も実を結びつつあり、ITU(World Triathlon)レースデビューとなったWTCSリーズ大会でも5位入賞するなど、今までで最高の状態に仕上げてきている。

アイアンマンでの実績や経験値を生かしつつ、他のITU現役選手に負けないランスピードを出せれば、今年こそ優勝を勝ち取るだろう。

今季最注目の新鋭
得意のランで初勝利狙う

Emma Pallant-Browne
エマ・パラントブラウン(イギリス)

今年最も勢いのある新鋭として注目を集めているのがエマ・パラントブラウンだ。

元トラックランナーとして五輪トライアルにも出場経験もある高速ランナーで、プロデビュー1年後、2018年の70.3世界選で2位入賞した経験ももつ。

今年の70.3レースでは、常にハーフ(ラン21km)を1時間20分切りで走る。今年からティム・ドン(元ITU世界王者・元IM世界記録保持者)を新しいコーチに迎え、レースごとに強さが増してきている。

弱点のスイムをかなり強化してきているので、バイクでうまくトップ集団につけて、得意のランで優勝を狙う。

ダークホースは
東京2020銀メダリスト

Taylor Knibb
テイラー・ニブ(アメリカ)

国内では、今年5月のWTCS横浜でバイクからの逃げを決めて優勝。東京2020のアメリカ代表入りを果たした一戦が記憶に新しいニブ ©Kenta Onoguchi

東京五輪アメリカ代表で、ミックスリレーで銀メダルを獲ったテイラー・ニブが、70.3世界レースデビューを果たす。

オリンピックの1週間後に、コロラド州ボルダーで、70.3レースデビューし2位入賞。トライアスロンバイクのスポンサーがついていないため、レースで駆るのはクリップオンバーが付いたロードバイクだが、コリンズカップでは、バイクラップ1位の強さを見せた。

まだ、ミドルデビューしたてだが、大きなポテンシャルを証明してきているので、ダークホースとして、トップ争いにどう絡んでくるか要注目だ。

70.3のランを1時間15分
高速ランナーの大逆転はあるか!?

Tamara Jewett
タマラ・ジュエット(カナダ

現在70.3レースで、大きな注目を浴び始めているタマラ・ジュエットも要注意選手だ。

プロデビュー2年目ながら、エリートランナーとしての実力を遺憾なく発揮しており、数週間前の70.3メーン大会でランを1時間15分で走り、周囲を大いに驚かせた。

スイムが弱点ながら、バイクでもトップ集団で走れる実力をつけてきているので、セントジョージのハードなランコースを、どんなタイムで走るのかに注目。

トップと3分差以内でランスタートできれば、高速ランで優勝もみえてくる。

前回王者イデンに
盟友ブルンメンフェルトが挑む
《プロ男子注目選手》

Gustav Iden
グスタフ・イデン(ノルウェー)

©World Triathlon Media/ Wagner Araujo

2019年に無名の選手として70.3レースに現れ、70.3参戦2戦目だった世界選手権ニース大会で優勝して世界を驚かせたグスタフ・イデン。今では言わずと知れた現役ITUレーサーだ。

件の2019年70.3世界選では、スポンサーがいない中、同国のクリスティアン・ブルンメンフェルトに借りたロードバイクで出場。バイクで突如トップ集団に飛び出すと、ランでロンドン&リオ金メダリストのアリスター・ブラウンリーを早々に振り切り、優勝。

オリンピック戦線を戦うITU選手としてのスイムの速さはもちろん、バイクの上りのスキルでも他の追随を許さない。

ニースのようなフラットなコースではないセントジョージのランコースで、いままで通りの力強いランを出せれば、連覇も確実だ。

金メダリストでWTCS世界王者
3つめの世界タイトルに挑む

Kristian Blummenfelt
クリスティアン・ブルンメンフェルト(ノルウェー)

©Kenta Onoguchi

東京五輪金メダリストであるクリスティアン・ブルンメンフェルトが、五輪招待枠で出場。

現70.3コースレコード保持者で、2019年の70.3世界選ニース大会にも出場していたが、山岳コースのバイクで出遅れ、トップ5でレースを終えた。

今年はトライアスロンバイクでの練習時間を増やしているので、バイクでうまくトップ集団に残れば、五輪で見せた力強いランでぶっち切るだろう。

今、アメリカが最も注目する
アイアンマン&70.3のホープ

Sam Long
サム・ロング(アメリカ)

今、アメリカが一番注目している若手のサム・ロング。徐々に本来の実力を見せ始め、今年のアイアンマンや70.3レースでタイトルを増やしてきた。

コロラド州ボルダー出身で、ずっと高地で過ごしてきたため、その身体能力が素晴らしい。バイクとランのコンボでは、他に引けを取らず、70.3ボルダー大会では、バイクタイム1時間54分の後、ランを1時間9分で走った。

大きな弱点となるスイムが不安要素だが、セントジョージのプレレース同様トップ集団に追いつくバイクスピードを見せてくれれば、優勝争いに必ず絡んでくる。

バランスのとれた実力者
ランの仕上がりに注目

Daniel Bakkegard
ダニエル・バッカード(デンマーク)

ここ数年で実力を密かに上げてきているダニエル・バッカードも要注意選手のひとりだ。

5月のプレレースでは、バイクでドラフティングペナルティーをとられたのを知らず失格になったものの、ラン後半ではサンダースと並走し、優勝争いに絡む走りを見せた。

2019年に70.3プロデビュー戦で優勝した後、数々の70.3やアイアンマンレースで優勝。3種目ともにバランスのとれたパフォーマンスをもっているので、ランの仕上がり次第では、今回の世界選でも優勝争いに絡んでくるだろう。

195㎝の長身から繰り出す
最速バイクパフォーマンス

Magnus Ditlev
マグナス・ディトレブ(デンマーク)

去年のチャレンジ・デイトナで、無名ながらもバイクで凄まじい速さを見せたマグナス・ディトレブも危険な若手選手だ。

まだ23歳という若さを活かし、195㎝の長身から繰り出すバイクの速さは、プロフィールドでは最速。自身でエアロバーをカスタマイズするまで追求し、バイクで他の選手をゴボウ抜きし、常にトップに上がってくる。

プレレースでも、そのバイクスピードでバイク1位通過の後、ラン前半をリードし3位入賞。世界選でも、課題となるランスピードと持久力の仕上がり次第では、優勝も狙える実力をもっている要注意選手だ。

優勝予想
《プロ女子》
1位 エマ・パラントブラウン
2位 テイラー・ニブ
3位 ルーシー・チャールズバークレー

>>レースの見どころ
「女王リフは、新鋭・高速ランナーを止められるか?」

スイムからリードするのはやはりITUレーサーのニブやルーシー・ホールに加え、エリートスイマーのチャールズバークレーだろう。

スイムの第2集団にいるリフやパラントブラウンは、このトップ集団との差をなるべくバイクで縮めたい。

最初の65㎞までの緩やかなアップダウンで、タイムロスをなくす勝負どころとなる。ここでリフはトップ集団に追いつき、上りで差を広げたいところだ。

しかし、リフはここ数カ月不調なレースが続いているので、優勝に近づけるかは疑問が残る。

ロードバイクで参戦するであろうニブは、コリンズカップでは、リフ以上のバイクの力を見せたので、そのパフォーマンスが注目される。

現在ランの調子が抜群なパラントブラウンは、バイクのフィニッシュ位置次第で、トップに追いつける速さを見せる。ジュエットは、ランで入賞圏内にもっていく強さをもっているので要注意だ。

特にリオ五輪以降、ITUのレースシーンを席巻してきたノルウェー勢、ブルンメンフェルト(左)とイデン(右)が70.3の世界選でも表彰台を占めるか。要注目 ©World Triathlon Media/ Wagner Araujo

優勝予想
《プロ男子》
1位 グスタフ・イデン
2位 クリスチャン・ブルンメンフェルト
3位 サム・ロング

>>レースの見どころ
「オリンピアンのスピード vs 剛脚バイカー」

序盤、ITU勢のブルンメンフェルトやイデンらが、スイムからハイスピードで押していく。スイムが弱点であるロングや、ディトレブらユーバーバイカーたちは、ここで、なるべくトップとの差を縮めておきたい。

バイクパート、本格的な上りに入る前の65㎞までが勝負どころとなり、ここでスイムで出遅れた高速バイカーたちは、トップに追いついておきたい。

後半の上り区間に入ったところで、上りを得意とするイデンやディトレブが、アタックを仕掛けてくるだろう。

勝負は、5月のプレレースから変更されたランコースだ。プレ大会では行って帰っての1周回コースだったが、世界選手権は2周回。スタートから3㎞地点にある長い激坂を2回上ることになる。

かなり脚に負担がかかる坂の上、ラン自体の速さだけでなく、上りと下りのスキルも試される。

>>レース当日のLive配信は
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■著者プロフィール
山村勇騎(やまむら・ゆうき)
アメリカ在住のトライアスリート・ジャーナリスト。アイアンマンのオフィシャルレースメカニックとして、全米のレースを飛び回りつつ、WEBメディア「TriWorldJapan.com」を創設。英語圏で流通する世界のトライアスロン情報を、日本のトライアスリート向けに発信している。自身も強豪エイジグルーパーで、今回の70.3世界選にも出場予定。

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