松田丈志の自分超えプロジェクト
日本最長トライアスロン236.2kmへの挑戦 #03
元競泳日本代表・松田丈志さんが佐渡国際トライアスロンAタイプ(スイム4km/バイク190km/ラン42.2km)で「初ロング」完走を目指す2022年度版「自分超えプロジェクト」。
今回の「自分超えプロジェクト」では、同じく佐渡Aタイプに挑むトライアスリートから、自己ベスト記録の更新を目指すトライアスリート&マスターズスイマーまで、より多くの皆さんと「自分超え」のコンセプトを共有して、ともに頑張っていきたい――
そんな想いも込めて、松田さんがオープンウォータースイム(OWS)やロングディスタンススイムでこそ活きる、泳ぎの推進効率upのためのコツを解説して、
「勝ち飯®」アンバサダーとしての知見に基づく「栄養戦略」についてアドバイスするオンラインセミナーを開催した。
350名を超える応募があり、多くのトライアスリート&スイマーが参加した、盛大なイベントとなった当日の模様を一部、ご紹介しよう。
>>前回「松田丈志、佐渡Aで初ロング挑戦〈2〉トレランのレジェンド鏑木さんと「ラン強化」を読む
アテネ、北京、ロンドン、リオで4つのメダルを獲得した元競泳日本代表。2016年に引退後は、イベント等での水泳指導のほか、TVなどのメディアでコメンテーターや解説者としても活躍している。2018年6月、宮崎シーガイア大会(51.5km)でトライアスロンデビュー。佐渡国際トライアスロン大会Bタイプには2大会連続出場・完走(2018・2019)しており、ベストリザルトは6時間14分05秒(総合74位)。味の素㈱「勝ち飯®」アンバサダー。1984年、宮崎県生まれ。
体力だけじゃなく
技術で差がつくのがスイム
6月26日、トレーニング日和の日曜日にも関わらず、多くのトライアスリート&スイマーが参加したオンラインセミナー、前半はまず松田さんから、OWSなどのロングディスタンススイムに強くなるための基本的な考え方について解説があった。
松田丈志さん(以下、松田) よくトライアスリートの皆さんに、「どうやったら速く泳げるようになりますか?」と聞かれるのですが、そんなとき僕は「基本的には、技術を高めていくことに尽きます」と答えています。なぜなら、聞いてくる人のほとんどが私よりバイクもランも速い。つまり体力はしっかりあるわけで、あとは技術の差ということになるからです。
皆さんの課題も、多くはこの「泳ぐ技術」にあると思いますので、今日はその泳ぎの技術を高めるコツをいくつかお伝えしたいと思います。
POINT1
抵抗の少ない姿勢をつくる
松田 まず、この伏し浮きのときにとる姿勢と同じ、「ストリームライン」が抵抗の少ない泳ぎの基本姿勢で、いわば「ゼロポジション」です。
これができないと、水中で受ける前からの水の抵抗が大きくなってしまう。
それに加え、ストローク動作を入れ・キックを打って泳ぐときも、カラダが前後に長い状態のほうが、抵抗が少ないということも覚えておきましょう。
水の中で、野球のボールとバットを前に押し出すのを想像してみてください。
ボールを前に押し出すよりも、バットを前に押し出すほうが遠くに押し出せるイメージがありますよね? 水中では、抵抗を受ける面積が同じくらいでも、後ろに物体が長くあるほうが、乱流が起きず、抵抗が少ないからです。
これを水泳に置き換えると、手が前に伸びていて、カラダがより長い状態のほうが、抵抗が少なく、進みやすいということです。
「伏し浮き、全くできません」
伏し浮きが全くできません。トライアスリートは脚の筋量も多く、できない人が多いとも聞きますが、誰でも練習すれば、松田さんのようなキレイな伏し浮きができるようになるものでしょうか?
松田さんのA
「段階を踏めば、できるようになります!」
松田 できるようになると思います。できない場合は、段階を踏む必要があると思います。たとえば、最初は脚にプルブイを挟んで伏し浮きするとか、ウエットスーツを着た状態で伏し浮き、ストリームラインをつくった状態をキープして浮けるようにしてみるところから始めましょう。そうしてステップを踏んで、最終的には何も浮力の補助をつけなくても伏し浮きができるようにもっていくというのはいいんじゃないかなと思います。
あとは肺の位置を少し上げて、重心の位置を上げてみるというやり方(コツ)もあります。お腹を入れて、横隔膜で肺をグッと押し上げるような意識で、姿勢をつくってみると、できるようになる可能性はあります。肺への呼吸の入れ具合や、横隔膜で押し上げる動作で、脚が浮きやすくなるので、いろいろ試してみてください。
POINT2
ひとかきで、より多くの推進力を生む
6ビートを基本に
海では2ビートも使えるようになろう
松田 多くの方がご存じのとおり、6ビートキックの泳ぎ、つまり2回かく間に6回キックを打つのが、基本的な泳ぎ方ですよね。
この6ビートがちゃんと打てるようにならないと、このあとにも触れる2ビートキックもキレイに打てませんので、普段は、しっかり6ビートキックを打つ練習をしてください。
2ビートキックの泳ぎは、省エネで楽に泳ぎたい、OWSや長距離泳には向いている泳ぎ方です。
ポイントは手でかくのと同じ側でキックを打つこと。
松田 脚の筋肉は大きいですし、ダーッとキックを打つと心拍も上がりやすいので、このキックの動きよりは手で引っ張る泳ぎのほうが経済的です。なので、皆さんにもぜひこの2ビートキックを習得してもらいたいですね。
先日のOWS練習会でも「海でウエットスーツを着て泳ぐと、脚が浮き過ぎます。そうならないようにするには?」という質問を受けましたが、そういう方の多くは、キックを打ち過ぎていると思います。
「レースでキックを打たないのもアリですか?」
レースでキックを全く打たないという選択肢はアリだと思いますか?
松田さんのA
「アリだと思います。キックは推進力ではなく、バランスをとるために打つ」
松田 アリだと思います。僕もトライアスロンでは、打っても2ビート、何なら打たなくてもいいか・・・というくらいのつもりでやっています。そもそも水泳でキックを打つのは、進むためというよりも、体勢を維持するために打つという意味合いのほうが強いんです。たとえば、100ⅿ自由形の選手が高回転でストロークを入れる、その分カラダが起き上がってくる。この起き上がってくるのを抑えるというのが、実はキックの大きな役割なんです。
ヘリコプターと同じです。ヘリコプターも大きな主翼がグルグル回って飛ぶ一方、横に回ってしまう力が働くので、後ろのプロペラが逆(縦)に回って機体を安定させますよね。あれと同じようなイメージ。
ですので、(海でウエットスーツ着用の場合)「足を浮かすのはウエットスーツに任せて、キックはストロークの邪魔をしなければOK」というくらいに考えてもいいかと思います。
キャッチが早い人は、泳ぎが速い人
松田 入水した後、できるだけ早く水を後ろ(進行方向とは逆、足のほう)へ押し始められる人は、泳ぎが速い人――。これも基本ですが、テクニックとしては難しいポイントです。
同じひとかきで、手が水に入ってから、後ろへ水を押せる時間が長いか否かで、泳ぎの速さは当然変わりますので、早い段階からヒジを立てることができないとしても、「ヒジが落ちる」「ストレートアーム(棒がき)」のような状態には陥らないよう意識しましょう。
ヒジが落ちてしまう(ヒジを引いてしまう)と、水を後ろへ押せる時間は少なくなりますし、
ストレートアームでも、水を後ろへ押せるのはストロークが半分終わったところからになってしまいますので、もったいないですよね。
脇腹が硬いトライアスリートに
おすすめのドリル
セミナーではこの後、松田さんが、基本となる「抵抗の少ない姿勢(ストリームライン)」をつくり、「ひとかきでより多く推進力を生む」ふたつの技術を磨くための実践ドリルや、
OWSでは必須のテクニックとなる「ヘッドアップ」の技術を磨くためのドリルのバリエーションをトータル10種類以上、自身のお手本動画を見せつつ紹介してくれた。
ここでは、その中から、最近LuminaのOWS練習会などでトライアスリートの指導をしてきた中で、特に気になったという「脇腹の硬さ」を改善する「ビート板サイドキック」を紹介しよう。
「ビート板サイドキック」
松田 僕が最近トライアスリートの皆さんの泳ぎを見ていて思うのは、「脇腹が硬いなぁ」ということ。脇腹が硬いと、ストリームラインが伸びないんです。
ここを柔らかくする方法は、ラジオ体操で脇腹を伸ばすような動きでもいいですし、壁に手を着いて、グーっと脇腹を伸ばすストレッチでもいいのですが、水中で脇腹を伸ばせるのが、この「ビート板サイドキック」です。
片ほうの手のひらをビート板に載せて、横向きでキック。このとき脇腹が伸びているんです。
脇腹を伸ばしながら左右スイッチしてやってみると、多分、左右差があると思います。
ビート板を押して、脇腹が伸びる――これが実際の泳ぎの際、キャッチのときに必要な脇腹の「乗り込み」の感覚を磨くことになってくるので、ぜひやってみてください。
今までに感じたことのない感覚が得られるのじゃないかなと思います。
大きいビート板でやるほど、その感覚はよりわかりやすく味わえるはずです。
食と栄養戦略で強くなる!
「勝ち飯®」メソッド
セミナー後半は、「勝ち飯®」アンバサダーとして、松田さんが現役時代から今まで学んで・実践してきた「栄養戦略」の一端を、トライアスリート向けの切り口で語ってくれた。
松田 僕は現役時代から味の素の「VICTORY PROJECT®」と、そこから生まれた「勝ち飯®」メソッドのサポートを受けて、カラダづくりから試合本番の栄養戦略まで、一緒に戦ってきました。
「勝ち飯®」とは、「何のために食べるか」をベースに「食事」と「補食」の2大テーマを考える栄養プログラムです。
「食事」は1日3回の栄養補給の基礎(ベース)となるもので、「補食」は目的に応じた栄養素を必要なタイミングで摂取すること。皆さんのレースでの「補給」もこの範疇に入るかもしれませんね。
どのくらい食べればいいのか?
松田 ところで、皆さんは毎日の体重、計ってますか?
僕は今でも毎日1~2回は体重を計っていますが、現役時代は朝起きたとき、午前の練習前・練習後、午後の練習前・練習後、お風呂の前(夕飯の前)など、かなりマメに計っていました。
シンプルに、動いて「消費」した分をしっかり「摂取」するというのが食と栄養戦略の根本なのですが、体重の変化を見れば、自分が食べた量が足りているか・足りていないかは一目瞭然です。
今はスマートウォッチなどで運動によるカロリー消費量が大体わかるので、そうしたものと合わせて体重をチェックして、運動で消費した分、食事で摂るというのを徹底する――これが基本中の基本です。
トライアスリートにもオススメしたい「5つの輪作戦」
松田 食事で摂りたい主要な栄養素は、カラダづくりの材料となるたんぱく質、エネルギーの源となる糖質、それらをうまく働かせてくれるための調整をしてくれるビタミン類で、
それらを食事の「主菜」「副菜」「主食」「汁物」「牛乳・乳製品」で摂っていく、これを「5つの輪作戦」と呼んで、僕は現役時代から意識してきました。
このときに皆さん意外と意識していないかもしれませんが、注目してもらいたいのが「汁物」。
みそ汁やスープ、鍋などの汁物は、一品でさまざまな栄養素を簡単に摂れて、消化・吸収を助けるダシのうまみ成分(アミノ酸)も入っているので万能です。
トレーニング期のカラダづくりでは、やはり「たんぱく質」をしっかり摂ることがポイント。
では、具体的に1日どのくらい摂ればいいか?
運動をよくする人は、一般の方よりも、たんぱく質を多めに摂る必要があるのは、データとしても出ています。
一般の人で体重1㎏あたりに必要なたんぱく質の量は約1.0g。これに対してアスリートは1.2~2.0g必要と言われています。たとえば体重60㎏の人なら72~120gで、幅があるのは運動の量によるということですね。
たんぱく質は「3食均等」に摂る
松田 先の「5つの輪作戦」で、主菜、副菜、主食、汁物、牛乳・乳製品、それぞれの中でバランス良く摂っていくといいのですが、ここでひとつポイントとなるのは「時間軸」のハナシ。
たんぱく質を効率良く、筋肉にしていくには、「3食均等」を心がけてください。
なぜなら、人間が1食で効率良く吸収して、筋肉に変えていける適量は「20~40g」と決まっているからです。
つい朝ご飯が少なくなる傾向はあるんです。これは日本人だけではありません。それに対して夕食でお腹が空いてガッツリ食べる、というパターンに陥りがちですが、ここでまとめてドカッと摂っても適量を超える分はムダになってしまうんです。
朝食のときのように、たんぱく質が枯渇してしまうタイミングができてしまうと、せっかくのトレーニングが(カラダづくりという点では)身にならない。
そうならないように、毎食、たんぱく質をまんべんなく摂って、筋タンパク合成が最大化されるようにしたいんです。それが皆さんが取り組んだトレーニングが身になる、戦略的な食事のポイントです。
忙しい朝でも簡単にできる
時短テクニック
❶そのまま食べられる、たんぱく質を準備
ゆで卵、納豆、豆腐。肉や魚の缶詰、牛乳・ヨーグルトなど、手軽にすぐ食べられて、たんぱく質が摂れる食材を用意しておく。たんぱく質が1袋あたり8g摂れるスープというのも市販されていますので、こうしたものを活用してもいいですね。
スープで摂れるダシは内蔵の動きを活発にしてくれるという働きもあって、
食欲を増進して、消化を助けてくれるというメリットもあります。
トレーニングで疲れているときでも食が進むので、オススメです。
❷複合型メニューの活用
あと、個人的には僕が世界一好きな食べモノ、納豆かけご飯とか、たまごトースト、サバ缶を使ったお茶漬け、やきとりの缶詰を使ったスープなど、主食と主菜をコンビネーションしたメニューって、結構考えるとあります。そうしたメニューを活用するというのもひとつのテクニックです。
❸作り置き
3つ目のテクニックは「作り置き」。
鍋や汁物など、夕食を多めに作って、残りを朝食で摂るというのも、忙しくて時間のない朝、しっかりたんぱく質を摂れる時短テクニックです。
こうした考え方を基本とすれば、いろいろと応用がききます。
例えば僕は最近、朝早くバイクトレーニングに行く場合は、コンビニでゆで卵とおにぎりを買って食べて、バイク練習が終わった後、しっかり五つの輪がしっかり整った朝食を摂るということもやっています。
トレーニングを頑張るよりも、栄養や食に気をつけてみることのほうが、カラダの変化は大きいと僕は思っています。皆さんもまずは2週間、これを意識してやってみてください。
カラダが変わるのが実感できれば、それが続けていくモチベーションになります。
トレーニングを無限に頑張ることはできませんが、食事はいくらでも変えることができます。
ぜひ、栄養戦略もうまく使って、皆さんの「自分超え」達成してください!
SPECIAL PRESENT
松田さんの「自分超え」プロジェクト2022
オリジナルTシャツを3名様にプレゼント!
佐渡国際トライアスロンAタイプでの「初ロング完走」に挑む、松田さんの「自分超え」プロジェクト2022年度版のオリジナルウエア(Tシャツ)をプレゼントします。
応募は下記お問い合わせフォームで「そのほか」を選択、「松田さん自分超えTシャツ希望」と「希望サイズ(S/M/L)」を明記の上、あなたがこれからチャレンジしたい「自分超え」のテーマを教えてください(例=12月のNZでアイアンマン初完走/スイム400ⅿTTで7分切り! 等々)。
応募締め切り:8月1日(当選者にはLumina編集部からメールでご連絡いたします)
松田丈志の自分超えプロジェクト
日本最長トライアスロン236.2㎞への挑戦
今回のオンラインセミナーの模様は、松田丈志さんのYouTubeチャンネルで見られます!
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