松田丈志の自分超えプロジェクト
日本最長トライアスロン236.2kmへの挑戦 #02
元競泳日本代表・松田丈志さんが佐渡国際トライアスロンAタイプ(スイム4km/バイク190km/ラン42.2km)で「初ロング」完走を目指す2022年度版「自分超えプロジェクト」。
前回、河原勇人コーチとのキックオフMTGで目標達成に向けた大まかな強化プランを描き、4~5月のテーマを最大の課題である「ランの苦手克服」と決めた松田さん。
「週トータルの走行距離を40kmまで延ばすこと」を目標に走り始めたが、TV出演などで多忙な毎日を過ごしていると、どうもランニングの距離が延びない。
このままでは「初ロング完走」の目標達成が危うい・・・危機感を抱いた松田さんは、昨年の「自分超えチャレンジ・トレイルランニング編」でお世話になったトレイルランニング界の第一人者・鏑木毅さんをゲスト講師に迎え、ロングトレイルとロングのトライアスロンの共通点に着目した「3つの短時間高負荷トレーニング」にチャレンジした。
>>前回「松田丈志、佐渡Aで初ロング挑戦〈1〉ついに始動!」を読む
取材=東海林美佳
写真=播本明彦
アテネ、北京、ロンドン、リオで4つのメダルを獲得した元競泳日本代表。2016年に引退後は、イベント等での水泳指導のほか、TVなどのメディアでコメンテーターや解説者としても活躍している。2018年6月、宮崎シーガイア大会(51.5km)でトライアスロンデビュー。佐渡国際トライアスロン大会Bタイプには2大会連続出場・完走(2018・2019)しており、ベストリザルトは6時間14分05秒(総合74位)。味の素㈱「勝ち飯®」アンバサダー。1984年、宮崎県生まれ。
日本のトレイルランニング界をリードしてきたプロトレイルランナー。全米最高峰のトレイルレース「ウエスタンステイツ100マイルズ」準優勝、世界最高峰のウルトラトレイルレース「ウルトラトレイル・デュ・モンブラン(現UTMB、3カ国周回、走距離166km)」3位など、数々の金字塔を打ち立ててきたレジェンドアスリート。松田丈志さんの「自分超えプロジェクト~50㎞トレラン編」では松田さんへの指導・アドバイスを担当した。1968年、群馬県生まれ。
河原勇人さん(同右)
アイアンマンなどロングディスタンスを主戦場として活躍した元プロトライアスリート。プロとしての現役引退後も、指導者として主に一般トライアスリートの指導を手がけつつ自らレースに出場。佐渡A・B・日本選手権すべてのカテゴリーでの優勝経験をもつ唯一の選手でもある。
ロング攻略にも効く「鏑木流」
垂直系高負荷トレーニング3種に挑戦!
松田丈志さん(以下、松田) この4・5月は僕の苦手なランを強化する「ラン強化月間」ということで、河原さんからは週40km走るという目標をもらって自主練をやってるんですけど、実は・・・週40km、全然走れていないんですよ。ガーミンのデータだけを見ると、4月はなんと月間走行距離が66km・・・。
そこで、今回気合を入れるためにも、今日は昨年のトレラン50km挑戦でお世話になった、僕の師匠に来てもらってます。
河原勇人(以下、河原) あのお方が?
松田 そう、あのお方です。どうもお久しぶりでーす。
鏑木毅(以下、鏑木) どうも! 今度はトライアスロンやるんだって?
松田 そうなんです。今年は佐渡トライアスロンAタイプというロングのトライアスロンに出るんです。4km泳いで190kmバイクをこいで、それからフルマラソン。これってまあ長いじゃないですか。で、ご存知の通り僕、ランが一番苦手な種目で。
あと佐渡と言えば暑いんですね。去年ご指導いただいたトレランの時みたいな、爽やかな風がふわっと吹いてくるようなことはあまりなくて、とにかくジメジメ暑いんです。そんな中で最後にフルマラソンを走らないといけないので、今回ランが最大のポイントになるんじゃないかと思っているんです。
そこで、ミスター持久力の鏑木さんに、今日は効果的なトレーニング方法を教えていただきたいと思っています。
持久力は赤・黄色・緑の3色で考える!?
鏑木 まずね、持久力っていうのは総合力なんだよね。大きく3つに分類できるんですが、僕はこれを色で分けて赤、黄色、緑って呼んでるんです。
松田 それぞれの特徴を教えていただけますか。
鏑木 緑は長くゆっくり。これはトライアスリートのみなさんも、やってるんじゃないですか?
河原 そうですね。ロング・スロー・ディスタンス、いわゆるLSDですよね。
鏑木 黄色は、ちょっと専門的になっちゃうけど、LTゾーン。乳酸閾値とも言うんだけど、簡単に言うと30分から1時間ぐらいでオールアウトするような強度。具体的には例えば30分間走とか、トレッドミルで傾斜をつけて、LTゾーンのペースで30分から1時間走るとか。
松田 なるほど。
鏑木 赤は短時間高負荷トレーニングといって、ダッシュやインターバルなど。僕はこれに「垂直方向を加える」ということをやるんです。
松田 垂直方向を加えることで、どんな効果が生まれるんですか?
鏑木 一番は筋使用範囲を広げること。ランニングって普通に平地を走る時は使う筋肉が限定的になってくる。でも坂道を走ると平地のランニングでは使わない筋肉も使うことになるんだよね。
松田 去年50kmのトレランに挑戦した時、鏑木さんに教えていただいて階段や坂道トレーニングをやりましたけど、それがトライアスロンにも生きてくるということですか?
鏑木 トライアスロンっていう競技は、スイムやってバイクやって、ある程度脚も身体も疲れている状態でランをスタートするわけだよね。つまりトレランの後半と似たような状況で、かなり脚バテした状態で押していかなきゃならない。だからこそ、使える筋肉の範囲を広げておくことが助けになるんです。
河原 松田さんはスイムは大丈夫だし、バイクはリラックスしていてもある程度スピードは出せる。ただランだけは足が止まってしまうとそこで終わりになってしまいます。
鏑木 そこで止まらないような脚をつくらないと。動き続けるための第2エンジン、第3エンジンみたいなのが必要。その筋肉を養うには階段や坂がいいんです。今日はこの「短時間高負荷垂直トレーニング」を3つ紹介します。
松田 じゃあ早速、鏑木流トレーニングをやっていきましょう!
鏑木流 短時間高負荷垂直トレーニング
その1「階段トレーニング」
松田 久々にこの階段に来ました。トレランの時も最初にこの階段トレを教えてもらったんですけど、これ、トライアスロンにはどう効いてくるんでしょうか?
鏑木 これは、筋肉の使用範囲を広げるのと、筋持久力を鍛える効果があるんだよね。
まず重要なのは一段抜かしで一歩一歩軽くジャンプしながら上ること。これによって普段使わない筋力が鍛えられる。
意識してもらいたいのはラスト3分の1。脚が重くなって思うように身体が動かなくなってきたなーっていうときこそ、未知なる脚持久力が伸びる瞬間なんです。なのでここすごく大事。上まで行ったらリカバリーしながら下りてきてください。今日はこれを5本やってみようか。
キツくなってきたところで
踏ん張るコトが大事
一段抜かしで階段を上り始める松田さん。80数kgの身体を垂直方向に移動させるというのは相当の負荷のはずだが、さすが元トップアスリート。腕を大きく振り一段一段ジャンプを繰り返しながらしっかりとした足取りで上っていく。だが、決して楽ではないようで相当息は上がっている様子。
鏑木さんからは「キツくなってきたところからが大事。ここ踏ん張って!」と激励を、河原さんからは「同じテンポを保って上り続けて」とアドバイスをもらいながら、止まらずに5本を走り切った。
階段トレは「トライアスロン・ラン」の強化にも有効!
松田 一段飛ばしでやると脚にかかる負荷が全然違う。あと、終盤はどうしてもスピードが落ちるので、河原さんの言うように同じテンポを保ち続けるのがポイントなんだなと思いました。
ランってバテてきたときほど接地時間が長くなってどんどん脚に負担がかかってくる。これって負のスパイラルだと思うんですよ。そこをパンパンパーンとさばいていく筋力が必要なんですよね。そういう意味でも有効なトレーニングだなって感じました。
河原 階段で飛ぶことは脚の筋力だけでなく全身を動員しての動きづくりにも役立ちます。特に腕を振って重心を高く保つ引き上げの動作というのは、ランで非常に生きてくると思います。トライアスロンのトレーニングとしても、太鼓判を押させていただきます。
鏑木流 短時間高負荷垂直トレーニング
その2「坂道トレーニング」
鏑木 ふたつめは坂道トレーニング。これは高負荷トレの鉄板で、一番オーソドックスなもの。単純に坂の下から今いる坂の上までダッシュで上ってきて、そのまま休みながらジョグで下りるっていう繰り返し。
松田 河原さん、この坂道トレーニングってトライアスロンでもやるんですか?
河原 やりますね。ゆっくり長く走るだけだとどうしても小さい走りになってしまうんですが、坂道ダッシュを取り入れることでダイナミックなフォームを身につけることができる。さらには推進力につながる身体の裏側の筋力を鍛えることができるんです。
加えて心肺機能の強化。上り坂もそうなんですが、ノーレストで繰り返すこともポイントです。実は息を上げて走る能力以上に走りながら落ち着ける能力というのも大事なんです。
鏑木 じゃあ、今日はとりあえず3本やろう。
安定感抜群の走りで前を行く河原さんを追って懸命にくらいつこうとする松田さんだが、200m弱ある坂の後半はやっぱりキツそう。スピードを上げた走りには身体がまだ慣れていない様子だ。
息を整えながらジョグで下ると、下で待つ鏑木さんから容赦ない指示が飛ぶ。「2本目すぐ行くよ! ハイ! 松田くん、河原さんについて!」。限界まで追い込みながらも、ラスト1本でさらにペースを上げ、走り切った松田さん。そのメンタルの強さに鏑木さんも河原さんも感心しきり。
「腿を引き上げる感じ」を意識
松田 ペースが速くなるとそれだけで苦しさが全然違いましたね。ジョグでは坂道も走ってましたけど、ダッシュだと心肺も追い込まれるし筋力も使うのですごく効果的だと思いました。
河原 坂道で苦しいなかでも、できるだけフォームを意識して走るといいと思います。
鏑木 脚の付け根にある腸腰筋を縮めるようなイメージで、腿を引き上げる感じで走るといいよ。10本ぐらいサクッとできるようになるといいかな。
松田 引続きがんばらなきゃいけないですね。よし!
鏑木流 短時間高負荷垂直トレーニング
その3「坂道ケンケン」
松田 さて次は何を?
鏑木 ここにいい感じの坂があるのでね、この坂を片脚ケンケンで登ってもらいます。
松田 ケンケンなんて子どもしかやらないと思うんですけど(笑)。ケンケンの理由は何ですか?
鏑木 ケンケンって実はランニングにすごく重要な要素なんだよね。ランニングって片脚で蹴るスポーツ。そのことをものすごく意識したトレーニングをすることで走力を上げることができる。
片脚で移動するだけでも負荷がかかるんだけど、それを上り坂でしかも不整地でやるっていうことでバランス感覚も養われる。バランス、筋持久力、ラン力と、一挙三得のトレーニングってことなんです。
河原 トライアスロン界ではあまり聞かない練習方法ですが、とても有効だと思います。楽しそうなトレーニングだなーと思いました。
松田 河原さんには「楽しそう」に聞こえたんですね(笑)。僕、やばいトレーニングだなと思って聞いてたんですけど。
鏑木 今日は行けるところまで行ってみようか。
左右差や弱点もあぶり出される、大人のケンケン
「ケンケンなんて小学生以来ですよ」と言いながら、かなりの斜度を上り始める松田さんだが、思ったように一歩一歩が進まない状態に苦戦を余儀なくされる。
途中で3回ほど休みながらなんとか上まで到達し、お尻をさすりながら下って来た。どうやらウイークポイントと自身も自覚するお尻に相当効いている様子。
次は逆の左足でスタートするとさっきよりスムーズな動きに。「左のほうが得意かも」と、自分でも知らなかった左右差を確認することとなった。
松田 いやー坂道ケンケン、きついのは当然なんですけれども、僕の弱点であるお尻をめちゃくちゃ使ってる感覚がある。あとは左右差。片脚ずつやることで差が顕著にわかりましたね。僕は走ってると右の背中に疲労がくるんですけど、それと脚の左右差と何か関係があるのかもって思いました。
鏑木 これをやると一番弱いところにくるからね。やり続けることでその弱点がなくなってきていい感じのバランスになってくるはず。左右差もそう。やりにくいほうの脚が自分にとってはウィークポイントなので、そっちの本数を多くして、最終的には両脚同じ感覚で登れるようになるといいよね。
河原 これはランニングだけはなく、バイクにも生きてくると思います。ぜひ私自身もこれを取り入れさせていただきたいと思います。
松田 一番短時間でできるトレーニングだから、隙間時間にやりやすいですよね。テレビ局の階段をケンケンで上るとか、できそうです。
時短で強化できる「鏑木流トレーニング」
松田 今日のトレーニングはどれも時短でできるのがいいと思いました。シャワーと着替えの時間を入れても1時間あれば十分やれる。週40kmっていう目標が時間的になかなかこなせない中で、こういう引き出しがあると心強い。短時間でも時間をみつけてやっていければ、レベルアップできそうだなって思いました。
河原 ロングのレースは暑さや筋肉の痙攣など、予期しないトラブルに襲われることもあります。そこをいかにネガティブにならず心を強く持って最後まで走り抜けるかが大事になってくる。こういうキツいトレーニングをやっておけば、本番で何が起きても大丈夫という自信にもなると思います。
鏑木 ロングのトレイルもトライアスロンも、最後はメンタルの部分がすごく大きくて、心の限界点を乗り越えないといけない。松田くんにとって多分初めての状態になると思うので、本番ではそこをどう乗り越えるかが課題になってくるのかなと思ってます。まさに「自分超え」だよね。
今回のトレーニングもうまく使って、ぜひ頑張ってください。僕は知ってるから。松田くんは、やる男です。期待してますよ!
松田 佐渡まであと約5カ月。おふたりの助言をうまく自分のパワーに替えて頑張りたいと思います!
>>次回「バイク&ラン実戦対策トレーニング編」につづく
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鏑木毅・著/扶桑社 刊 定価1,650円
松田丈志の自分超えプロジェクト
日本最長トライアスロン236.2㎞への挑戦
トレーニングから食事・栄養管理まで、日々の取り組みは松田丈志さんの各SNSでチェック!
Twitter @tkc200
instagram tkc001
昨年のトレラン50㎞挑戦後、体重が88.3kg(体脂肪21.4%)まで戻ってしまったという松田さん、今回の初ロング完走チャレンジでは課題のランでの負担を減らるべく、パワーは落とさず「学生時代以来の70㎏台まで絞る」という目標も掲げているので、「勝ち飯®」アンバサダーとしての知恵が詰った日々の「食べ方&飲み方」にも注目!
また、松田さんのYouTubeチャンネルでは、Lumina掲載記事とも連動した動画コンテンツがチェックできます!
▶松田丈志チャレンジTV
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