トライアスリートの秋~冬は今シーズンを振り返り、課題を洗い出し、次なるシーズンに向けて、時間のかかる根本的な改善にじっくり取り組める時期。シーズン中はゆっくり考えて・試すまでに至らない「サプリメント」について、今こそしっかり整理して、本当に意味のあるサプリメント活用を実現したい。
取材協力=桑原弘樹 取材・文=光石達哉、今 雄飛 写真=小野口健太
フルタイムワーカーとして働きながら、今年4月の全日本トライアスロン宮古島大会で総合9位・日本人2位の好成績を残した森田翼さん。その背景には、限られた時間の中で最大限のトレーニングをこなす自己管理能力、それを可能にするための疲労を残さないサプリメント摂取、そしてトライアスロン用品を扱う仕事の中で学んだ適材適所のサプリメント選びの知識があったという。
そのサプリ生活をスポーツニュートリション分野の第一人者である桑原弘樹さんとともに考察し、我々がどんなサプリメントをどのように摂るべきか考えてみたい。
桑原弘樹 Hiroki Kuwabara
競技やプロアマの垣根を越えてアスリートのコンディショニング情報の提供を行う桑原塾主宰。食品メーカーで15年以上にわたってスポーツサプリメントを企画・開発してきた経験、100人以上のトップアスリートやモデルなどに行ってきたコンディショニングやボディメイクの指導実績、さらに自らに課している年間300回のワークアウトなどを通じて蓄積されたノウハウを広く還元している
食事とトレーニングに合わせたサプリメント選び
――まずは宮古島に向けてのトレーニングの中で、森田さんがどのようなサプリメントを摂っていたか教えてください。
森田 朝食は食べずに練習するので、練習前には集中力を上げるためにBCAAを摂って、身体を絞りたいときは燃焼系のHCA(ヒドロキシクエン酸)が入っているもの、後はビタミン・ミネラルを摂って練習に行きます。僕の場合、宮古島に向けての11月〜4月の冬場の練習がメインなので、風邪をひかないように免疫力を上げるため、寝る前にグルタミンとビタミン・ミネラルを定期的に摂っています。
栄養は食事から摂るのが基本ですが、トレーニングと食事の内容を見返しながら、サプリを摂る量、摂る内容を決めています。食事でたんぱく質が摂れていれば、プロテインを飲まないときもある。逆に忙しくて立ち食いソバで済ませたりしたときは寝る2時間前にプロテインを飲んだりと、調整します。
40歳を超えて食事量が少なくなっているし、サプリをうまく使うことでパフォーマンスアップできていると思っています。特に重点を置いているのは、疲労回復。疲労回復。疲労が抜ければ、次の日も強度の高い長時間の練習ができて、パフォーマンスアップできますからね。
桑原 結果が出ているので、このやり方が森田さんに合っているんでしょう。ちょっと話は変わりますが、スポーツニュートリションの分野は過去20年間で大きく進化しているんです。
栄養学の中でこの分野は頂点にあるもので、クルマの世界で言えばF1みたいなもの。様々なダイエット方法やカーボローディングの仕方なども、ほぼスポーツニュートリションの世界から生まれたものです。
その一方で、人間の身体の進化というのはゆっくりしたもの。先日、桐生祥秀選手が100m9秒台を記録しましたが、日本人がそのコンマ数秒を縮めるのに何十年もかかっている。トライアスロンの記録だって20年前と今ではそんなに大きく伸びてはいないでしょう。それは、スポーツニュートリションは進化しているのに、その理解がまだそれほど浸透していないのが原因かもしれません。
他の競技の何億円も稼いでいるトップアスリートでも、必ずしも詳しいとは限りません。この分野の正しい知識を身に着ければ、人間のフィジカルが伸びる可能性はまだまだあると思います。
森田さんが40歳超えてパフォーマンスを上げているのは、仕事を通じて得たサプリメントのノウハウをうまく活用していることもひとつの理由なんでしょうね。人間は何歳だからこのぐらいしかできないだろうと、年齢で限界を決めがちだけど、森田さんがその壁をぶちやぶって40歳でも伸びるんだと証明してくれているんだと思います。
森田 パフォーマンスを上げることに関してはまったく年齢は感じないですね。長時間眠れなくなった、食事量が食べられなくなった、白髪が増えたとかはありますけど(笑)。逆に20代のころはサプリメントは意識せず、勢いだけでやっていました。
桑原 確実に衰えているところはあるけど、ライフスタイルを組み立て直せば誰でもまだまだ伸びる可能性はあるということですね。賢いアスリートはそれができています。できない人は突っ走るだけ突っ走って、ガタッと落ちちゃう。
森田翼 Tsubasa Morita
29歳まではプロトライアスリートとして活躍。その後、フルタイムワーカーとして働きながら37歳で競技復帰し、宮古島トライアスロンでは40歳のときの2015年に総合10位、2017年は総合9位(日本人2位)に入った国内最強の働くトライアスリート。HUUB、NEWTONなどトライアスロン用品を扱うスタイルバイクに勤務し、さらに2児の父として家族サービスも怠らない
サプリメントのふたつの軸「栄養」と「機能」
桑原 サプリメントにはふたつの軸があって、ひとつは栄養としての価値、もうひとつは機能としての価値です。
例えばプロテインは筋肉を大きくするわけでも、パワーが出るわけでもなく、究極の高たんぱく・低脂質の食品。食が細くなったり、肉を料理する時間がないときにプロテインを飲めば、肉のもつ栄養を瞬時に取り入れられる。
ビタミンも同じく栄養系のサプリメントです。BCAAは必須アミノ酸なので栄養としての価値もあるけど、機能としての価値ももっています。乳酸を貯めずにエネルギーに変えてくれるし、トリプトファンというアミノ酸を抑え込んで集中力を維持してくれる。
言い換えれば、栄養系は身体の中にないと生きられないもの、機能系はなくても生きられるの差ですね。そのふたつの使い分けができないと、何でもかんでも飲んじゃえとなるし、飲むタイミングもデタラメになる。年齢が上がっても活躍しているアスリートを見ると、結果的にサプリの使い分けがうまくできている人が多い。森田さんは自ら学んだ知識で、自然と栄養と機能を分けられているんだと思います。
――そのあたり、森田さんの周りのトライアスリートはどうですか?
森田 周りに日本を代表するような選手もいますが、考えてサプリを摂っている人は少ないと思います。一緒に練習してても、「そんな摂り方するんだ〜」という人も多い。
桑原 特に栄養系サプリの価値を重んじない人が多いですね。飲んだら元気になる、速くなるという機能系サプリは魅力的ですから。もうひとつはちゃんと理解するよりも、言われたらそれ
だけ飲んでいればいいと信じてしまいがちです。
森田 それはすごく感じますね。
桑原 時が経つとその人に必要なサプリも変わるので、やがてズレてくることがある。サプリはそのときの総合判断で選ばないといけない。
森田 僕の場合、BCAAは練習中の集中力を高めるためだし、グリコーゲンが足りないときはその代りになるものを摂ると、目的をもって摂っています。
筋トレやストレッチと一緒で、その日によって減らしたり、増やしたりと適材適所で摂らないとサプリ代で無駄なお金も遣ってしまいますしね。そういう意味で、サプリメント、ニュートリションという分野は自分の武器だなと思っています。
桑原 サプリメントは薬じゃないので、絶対このタイミングでこの量を飲みなさいという決まりがない。それがいい面でもあるけど、使う側にしたらわかりにくい。面倒になったらやめてしまったり、学ぼうとしない人も多いです。
私からのアドバイスとしてはサプリメントっておもしろいものだから、知的好奇心やワクワク感をもって接してくれるといい。学んだ知識を使えるようになるとおもしろいものですから。
新陳代謝のラインを担う栄養系サプリ
――いろいろなサプリメントがあると思いますが、コエンザイムQ10、EPA、ヒドロキシクエン酸、スクアレン、この4つについてはトライアスリートの間でも話題に上っている成分なので、解説いただけますか?
桑原 コエンザイムQ10は人間がエネルギーを作り出す一番最後の部分、電子伝達系に作用する栄養素です。エネルギーと言っても走ったり、泳いだりというエネルギーだけではありません。
新陳代謝もそのひとつです。人体の60兆の細胞一つひとつに電子伝達系があって、目の細胞、皮膚の細胞、髪の毛の細胞もすべて自らエネルギーを作り出して代謝を繰り返している。これがスムーズに行かないと老化してしまいますが、アスリート的にコエンザイムQ10が不足すると、新陳代謝の能力が落ちて疲労が抜けにくくなります。
森田 コエンザイムQ10を飲むと、体脂肪が減りやすい感覚がありますね。
桑原 これが飲んですぐに体脂肪を減らすという反応ではないけど、新陳代謝が活発化することから、脂肪を分解す謝が活発化することから、脂肪を分解する一連の代謝がスムーズになるんです。
――EPAは青魚に含まれる油ですね。
桑原 EPAの特徴はサラサラの油であること。油や脂質はアスリートは敬遠しがちだけど、唯一アスリートでも減量中の人でも摂ったほうがいい油ですね。
特にEPAは赤血球の細胞膜を柔軟にする働きがあります。赤血球は小さいものですが、実は毛細血管より大きく、EPA不足で細胞膜が硬くなると毛細血管に詰まって酸素が運べないし、老廃物も回収できなくなる。結果的に新陳代謝が低下します。
森田 子どもが小さくてなかなか食卓に魚が上がらないので、EPAは気になっています。血液検査でもドロドロと言われるので。
僕の場合、練習ができていないときは指先がチリチリして、身体の隅々まで赤血球が行き渡っていない感覚があるんです。LSDがしっかりできて、毛細血管が発達すると血液が行き渡るのがわかるんですが、それがEPAによってもっと楽にできればうれしいですね。
桑原 EPAは栄養系サプリですが、栄養の土台を作ることで呼吸が楽になる機能の改善もありますね。EPAは赤血球を柔軟にして身体の隅々まで行き渡らせる。最後はQ10で電子伝達系を活発にし、ATPというエネルギーと水ができる。すべてのラインが大事ですね。
脂肪燃焼や酸素吸収をサポートする機能系サプリ
桑原 ヒドロキシクエン酸(HCA)は、名前がクエン酸に近いけど違うもの。しかし、分子構造が似ているので、身体の中の酵素もクエン酸と間違って反応する。その結果、脂肪が燃えやすくなる。
もうひとつ、グリコーゲンが貯まりやすいという働きもある。アスリートにとって最高の機能ですね。
特にグリコーゲンを貯める能力は最近言われ始めたもので、今後いろんな競技で注目されるでしょう。カーボローディングする持久系スポーツでの利用もあります。
森田 HCAが入っているサプリは、以前から使っていて効果を感じていますね。
桑原 深海エキス・スクアレンは、あまり聞きなれないかもしれせんね。酸素との相性がいいと言われています。
100m走のように呼吸を重要視しないスポーツもありますが、トライアスロンはその正反対。呼吸をどれだけ自分の味方にするかで、パフォーマンスが上がる可能性はあると思います。
オフシーズンはサプリで栄養の土台づくり
――サプリメントも種類が多いので、どれを摂ったらいいかわからないという人も多いかと思いますが。
桑原 まずは自分の栄養の土台をどれだけしっかりつくるかを考えたほうがいいですね。特にオフシーズンに摂るサプリはあまり機能を求めず、自分の食生活の棚卸しをして、栄養的に何を充足させたいか整理すべき。
食事でたんぱく質が足りないなら、プロテインを摂るとかね。オフに栄養の土台をつくっておけば、シーズンに入ったときにスイッチが入ればグッと伸びると思います。それが良いオフを過ごせるポイント。
機能系サプリも、トレーニングによっては必要です。レース本番の日を非日常にせず、いつも通り迎えるためには、本番で飲む機能系サプリをトレーニングでも飲む機会を作ったほうがいい。
毎日じゃなくても、今日の練習はサプリに関しては本番と同じ状態にするとテストしてみる。もし合わなかったら、何がダメだったか反省点が出て、次につながるでしょう。誰でも加齢と共にベースのフィジカルレベルは年々下がってくるので、去年できたことが今年できなくなります。食事で栄養の土台をつくるのが基本ですが、「あれ、おかしいな」と敏感に気づければ、サプリメントなどで素早く手を打てる。
義務や強迫観念にとらわれず、楽しくサプリメントを摂ったほうがいいですね。自分の身体を実験台にして、変化を感じると楽しいと思いますから。
サプリメント活用セミナー参加させていただきました。日々のケアから宮古島本番までのプロセスをわかりやすく説明していただき感謝しております。本質的な身体強化につながる講座また聞かせてください ありがとうございました。
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