選句者/謝 孝浩
「トライアスロンあるある」満載の58句がエントリー
2019年シーズンの締めくくりに毎年開催されるLuminaのファン感謝パーティー「Lumina’s night」(12月4日開催)。今年は、参加者の皆さんから、トライアスロンにまつわる川柳を募集しました。基本的には、申し込み時にエントリーしてもらいましたが、パーティー当日も受け付けました。
中には「アイアンマン台湾」にまつわる川柳が頭に溢れ出し、当日に20句もエントリーしてくれた猛者もいました。最終的にエントリー数は58句になりました。
トライアスリートならではのエピソードが盛り込まれた力作揃いだったので、
どの句を選ぶか、たいへん迷いました。
俳句と同じ5・7・5の17音のリズムの中で、おかしみや風刺的要素が入っていて、トライアスリートが「あるある〜!」とちょっぴりほくそ笑むような句を選ぶように心がけました。
大賞
TTの周りの記録見てTT
新しい感覚にしびれました。川柳は縦書きが基本ですが、横書きにしたら、浮かび上がる顔文字!
ただ新しいだけでなく工夫がいっぱい。TTではじまりTTで終わる。視覚的なことだけではなく、前の7音と最後の5音のキレが絶妙。
最後の5音「見てTT」のTTの顔文字を読み手にまかせて、見て◯◯◯と、◯◯◯をどのように読むかの余韻もいい。
私は○○○に「なみだ」という字をあててみました。すると顔文字が泣き出すから不思議です。俳句のリズムをわかる人の句だと思いました。
その他にも秀句がたくさん。パーティ当日、参加者の人気投票もしました。いくつか挙げてみましょう。
エントリーした時やる気あったのに
人気投票でも多くの参加者の賛同をえた句のひとつ。エントリー時期は数ヶ月も前。最近は、すぐエントリーしないと定員いっぱいになってしまう大会も多い。
エントリーした時はやる気満々なのですが、まだ先だと思っているうちに、あっという間に大会が近づいてきて、練習ができていないことに気づく。まさに「あるある」ですね。17音にうまくその感じがあらわされています。
ホイールの値段言えない奥さんに
さまざまなシガラミを抱えながらも、トライアスロンに邁進するトライアスリートの悲哀が感じられ、奥さんとの距離感も微笑ましくて、こちらも「あるある」の感じが共感を呼びました。
スポクラを夜討ち朝駆け三種目
短い17音の中で、トライアスリートの生態を「夜討ち朝駆け」という言葉でうまく表現していると思いました。
その他、当日の人気投票で4点を獲得したトライアスリートの心を鷲掴みにした句も挙げておきます。
友達は増えるけれども貯蓄減る
酒くさいそれでも行くぞ朝スイム
チームSol飲みもレースも手抜きなし
ニューバイクバレないように同じ色
どの句も、トライアスリートならではのエピソード。思わず「ニカッ」とした人も多いのではないでしょうか。
前述の「エントリー」の句を含め、全部で5句も最高得点の4点を獲得する結果。そのため人気投票賞は最終的にじゃんけんで決定することになりました。本当に人気が拮抗していました。
ちなみに選考対象外ですが、私もこっそりエントリーしていました。人気はまったくなかったですが(笑)。
新色が出るたびポチるそぞろ寒
川柳は俳句とは違い、季語は必要ないのですが、つい季語を入れてしまいました。「そぞろ寒」は秋の半ばから晩秋の季語です。
新製品は気になりますよね。バイクなどの高額アイテムは無理ですが、ランニングシューズやウエアなど手に届きそうなアイテムはつい衝動買いしてしまいます。すると寂しくなる財布の中身(笑)。そんな気持ちを、「そぞろ寒」という季語に託してみました。
トライアスロンにまつわるエピソードを、17音で紡ぎ出す。
秀作揃いなのも、限られた時間の中で、しっかりトライアスロンに向き合っているからでしょうか。トライアスリートは文武両道の方が多いですね。ポテンシャルの高さを感じます。
スイム、バイク、ラン、そして飲み。この4種目に加えて、飲み屋で「トライアスロン川柳」なんて・・・。これからは5種目目もいかがですか?
謝 孝浩(しゃ・たかひろ)
1962年長野県生まれ。上智大学文学部新聞学科卒。 在学中には探検部に所属しパキスタン、スリランカ、 ネパールなどに遠征する。卒業後は秘境専門の旅行会社に就職し、添乗員としてアジア、アフリカ、南米など世界各地を巡る。2年で退職し、5カ月間ヒマラヤ 周辺を放浪。帰国後はPR誌、旅行雑誌、自然派雑誌などに寄稿するようになる。現在は、トライアスロン雑誌での大会実走ルポなどを通じて日本にも目を向けるようになり、各地を行脚している。著書にルポ『スピティの谷へ』(新潮社)、小説『藍の空、雪の島』(スイッチ・パブリッシング)など。http://www.t3.rim.or.jp/~sha/