戦略で仕掛けたアメリカ
レース組み立てたイギリス
東京オリンピック、トライアスロン競技の最終種目ミックス(男女混合)リレーが7月31日(土)、個人戦と同じ東京・お台場海浜公園特設コースを舞台に開催され、19か国/チームが、栄えある初代金メダルをかけてレースに臨んだ。
1国1チーム男女ふたりずつの4人で構成され、各選手がスイム300m、バイク6.8km、ラン2㎞の短いトライアスロンを行いリレーしていくミックスリレー。
これまでの国際レースで行われてきたミックスリレーと違うのは、各国個人のレースに出場した選手でチームを構成する点で、これがオリンピックならではの未知の展開を生むのか、注目が集まった。
スタート前に、そのチーム戦略の面で仕掛けたのがアメリカ。
当初メンバーとしていたサマー・ラパポートを、バイクの力のあるテイラー・ニブに変更し、3走に。個人のレースで銅メダルを獲って、元絶対王者の意地を見せたケイティー・ザフィアエスを3走から勝敗のカギを握る1走へと変更し、メダル獲得への強い意欲を示した。
上位入賞の期待がかかったチームJAPANは、1走・高橋侑子、2走・ニナー賢治、3走・岸本新菜、アンカー・小田倉真の布陣で今大会最後の決戦に挑む。
《1走》
イギリス2トップのひとり
リアマンスが抜け出しトップ集団を形成
レースは定刻どおり午前6時30分、晴天、気温27.7℃、水温28℃、湿度75.5%という、東京の夏日らしいコンディションの下、スタート。
ミックスリレーのメダル争いの重要ポイントと言われている「1走」のレースは、優勝候補の1角で、男女個人銀メダリストを擁するイギリスの1走を務めたジェシカ・リアマンスが実力どおりのパフォーマンスで、レースをつくる。
個人戦ではメダル争いに加われなかったリアマンスだが、1走スイムでは序盤から抜け出しトップでバイクへ移ると、序盤からライバル国をふるいにかけるようにして先頭を切り、ザフィアエス(アメリカ)、マヤ・キングマ(オランダ)、ローラ・リンデマン(ドイツ)と4選手でトップ集団を形成。
リアマンス、ザフィアエスふたりを中心にペースを上げ、第2グループ以下を20秒以上引き離して、ランへと移る。
スイムをトップと12秒差の9位で上がった日本の高橋侑子を含む第2集団は、オーストラリア、ニュージーランド、フランス、ベルギー、ハンガリー、スペイン、スイス、ROC、イタリアといった顔ぶれでトップ集団を追うが、終始先頭4~5人でのローテーションとなり、なかなか差を詰められない。
ランはバイクでも積極的にレースを展開したリアマンス(イギリス)とザフィアエス(アメリカ)が抜け出したが、ドイツのリンデマンもこれに食らいつき、この3選手3カ国がもつれるように2走へとつなぐ。
得意のクイックトランジションから先頭を追った高橋は43秒差8位で2走、ニナー賢治へバトンをつないだ。
《2走》
ジョナサン・ブラウンリーが
確実にイギリスの首位をキープ
2走のスイムのトップ争いは、ヨーナス・ショーンブルグ(ドイツ)、ケビン・マクダウェル(アメリカ)、ジョナサン・ブラウンリー(イギリス)、これにオランダのマルコ・ファンデルステルが続く。
バイクに入り積極的に仕掛けたのはドイツのショーンブルグ。序盤アタックをかけ抜け出しを図ろうとするが、これは決まらず4選手のトップ集団のままランへ。
2走のランで抜け出したのはロンドン銅・リオ銀のジョナサン・ブラウンリー(イギリス)。兄アリスターと一時代を築いた切れ味鋭いランを披露してトップのまま3走・ジョージア・テイラーブラウンへとつなぐ。
しかしアメリカのマクダウェルも、これを逃がさず2秒差で3走へ。
日本のニナーは44秒差の10位でスイムアップし、フランスのドリアン・コナンらと第2集団でスタート。ややこの第2集団から遅れるが、バイク強者のスイスのアンドレア・サルビスバーグとふたりで協調し、得意のランでトップとの差を1分以内にキープ。8位で3走・岸本新菜へとバトンを託す。
《3走》
1・2位を守るイギリス、アメリカに
強国フランスが迫る
3走でも、3種目で終始安定した強さを見せトップを守ったのはイギリス。
女子個人のレースで銀メダルを獲っているテイラーブラウンが、スタート時点では数秒差まで詰まった2位テイラー・ニブ(アメリカ)との差をスイムで23秒まで広げると、そのままの勢いでバイクパートを終始独走で展開。
ランでも危なげのない走りで、アンカー(4走)のアレックス・イーに最高のポジションでバトンをつなぐ。
アメリカのチーム戦略により急遽、3走に入ったニブも、代表入りを決めた5月のWTCS横浜(※バイクから2選手で抜け出し優勝)でも見せたバイクの力でテイラーブラウンにじわじわと迫り、ランスタート時点ではその差11秒。チームUSA金メダルへの望みをしっかりつないだ。
逃げるイギリス、追うアメリカというトップ争いの一方、この3走でメダル争いに新たな展開をもたらしたのはイギリス、アメリカと並んでミックスリレーの優勝候補に挙げられていたフランス。
カサンドル・ボグランが、バイクでニブに続く3位グループに入ると、得意のランでトップと35秒差まで詰め、アンカーのバンサン・ルイ(2019年のITU世界王者)に勝負を託した。
日本の岸本は、ニナーから8位でバトンを受け、1分17秒差の9位でバイクに移ったが、リレーの際にペナルティ(リレーゾーン外で交代)をとられ、10秒のペナルティタイムを課せられる苦しい展開に。アンカーの小田倉真に8位入賞圏内への望みを託した。
《アンカー》
フランスのルイが見せ場つくるも
イーが逃げ切りイギリスに「金」
勝敗を決するアンカー(4走)の戦い。
1走・リアマンスからレースをつくり、ここまで順調にトップを守ってきたイギリスは、男子個人で銀メダルを獲得している好調のアレックス・イーがこのまま金メダルへの道をひた走る展開になるかと思われたが、すんなりと終わらないのがオリンピック・トライアスロン。
最後にレースを盛り上げてくれたのがフランスのスター選手、バンサン・ルイだった。
コロナ禍以前の世界シリーズや、スプリントディスタンスの世界トップリーグ「Super League Triathlon」でも無類の強さを見せてきたルイは、得意のスイムからグングン差を詰めバイクスタート時点でアメリカのモーガン・ピアソンをとらえ、トップ、イーとの差を19秒まで縮めることに成功。
バイク1周目で猛烈なアタックをかけ、ピアソンをちぎりにかかると、その勢いのままイーをつかまえて見せ、すでに勝敗は決したかに見えた金メダル争いを面白くしてくれた。
しかし、気迫のこもったルイのパフォーマンスをも抑えたのが個人銀メダルを得てさらに自信を増したかに見えるイー。
バイクでルイにとらえられた後も冷静にこれについて、逃さず、得意のランに勝負をもちこむと、危なげのない快走で再び首位に立ち、そのままフィニッシュ。イギリスに初代ミックスリレー金メダルをもたらした。
銀メダルはイギリスととともに、この日のレースをけん引したアメリカの手に。
最後にオリンピックらしい見せ場をつくってくれたルイは3位でフィニッシュし、フランスが銅メダルを獲得している。
日本はリレー時のペナルティを受けるなど厳しい展開もあったものの粘って、それぞれが実力を発揮して13位。パリ大会以降に上位入賞を狙うチームJAPANとして、貴重な経験を得た大会となった。
オリンピック個人戦で世界最高峰の戦いを見せてくれた男女のオリンピアンたちが国として、チームとして協調し、個人戦とは違ったチーム戦略や、スピード感、素早い展開で魅せてくれるミックスリレーは、今後、トライアスリートはもちろん、広く一般からも関心を集められる人気コンテンツとなりそうだ。
【Result】
▼金メダル
イギリス 1:23:41
▼銀メダル
アメリカ 1:23:55(+14秒)
▼銅メダル
フランス 1:24:04(+23秒)
13位 日本 01:27:02(+3分21秒)