ブルンメンフェルトも愛用する
最新&注目アイテム「CORE」とは?
世界最強トライアスリートが装備する「CORE」の登場により注目を集めている新たな指標、カラダの「深部温度」。暑さに強くなるだけでなく、パフォーマンスUPも期待できる「暑熱順化トレーニング」とは?
写真=小野口健太
取材=原 修二
今年も暑い夏がやってきた。誰でも暑いとパフォーマンスが落ちることは知っているし、暑さに慣れる練習もするが、トップ選手はともかくエイジグルーパーの場合、体温を測りながら科学的なトレーニングするわけでもない。ところが最近、3万円台の小さなセンサーで身体の深部温度をモニタリングできる「CORE」という製品が日本でも本格展開されることになった。
そこで科学的な暑熱順化とは何か、COREを使って何ができるのかについて調べてみた。
感覚的な暑さ対策から
根拠のある暑熱順化へ
暑い日に運動するとパフォーマンスが落ちる、無理をすると熱中症になりかねないといったことは、アスリートなら誰でも身をもって知っている。トライアスロンは暑い季節、暑い地域で開催される大会が多いので、暑さに慣れるための練習もするだろう。
しかし、運動強度を測るための心拍のような、確たる指標があるわけではないので、ただ漠然と暑い日に練習して暑さに身体を慣らすことになる。
その効果についても、「暑くても割と快適に走れるようになった」とか「本番で割と最後までバテなかった」といった感覚的な判断に頼らざるを得ない。
ナショナルチームで練習するトップアスリートの場合、小さなピル状の温度センサーを呑んだり、センサーを直腸に入れたりして、深部体温をモニタリングしながらトレーニングする選手もいるが、エイジグルーパーがそこまでやるのは不可能に近い。
しかし、最近日本で販売がスタートしているスイス発の「CORE」は、心拍計のそれに近いセンサーを付けるだけで、リアルタイムで深部温(測定値)をモニタリングできるという。
心拍計やパワーメーターがなかった時代は、運動強度も呼吸とかキツさといった感覚を目安にトレーニングしていた。暑熱順化についても同じで、これまで感覚に頼って暑い中で漠然と練習していたのが、身体の深部温度を測ることで、どの体温レベルでトレーニングするかという指標ができるわけだ。
なぜ、暑いとパフォーマンスが落ちるのか?
「暑熱順化」のメカニズム
そもそも人の身体は体温が上がると、パフォーマンスが落ちるようにできている。なぜなら恒温動物である人間は、優れた体温調整機能をもっており、暑熱環境下では深部温度を保とうとする働きにより、熱放散(冷却)のほうに血流を優先的に使ってしまうからだ。このとき血管系の協調作用(血管の拡張など)がうまく機能せず、筋肉への酸素供給が不足してしまいパフォーマンスにも影響が出てしまうのだ。
しかし、暑熱順化トレーニングをしていくと、血管系の協調作用が向上することで血流のバランスをうまく保てるようになり、暑い中でもパフォーマンスの落ち込みが少なくなる。これが暑熱順化だ。
もちろん個人差はあるが、一般的には暑熱順化トレーニングを始めて2週間後くらいから、順化が始まるとされている。
暑さに強くなるだけでなく
パフォーマンス自体も向上する
この暑熱順化のメカニズムをもう少し生理学的に見てみると、まず人間の身体は熱ストレスを感じると、血中の血漿を増やす。これにより血中成分のバランスが崩れる。この乱れを整えるためにヘモグロビンを生成する。
このメカニズムが結果的に「暑さ慣れ」だけじゃない、暑熱順化トレーニングのもうひとつのメリットを生み出す。酸素を運搬する血中のヘモグロビンが増えるので、ただ暑さに強くなるだけでなく、パフォーマンス自体も向上する。つまり暑熱順化トレーニングはパフォーマンスをアップさせるトレーニングでもあるわけだ。
ヘモグロビンを増やすトレーニングでよく知られているのは、低酸素状態で行う高地トレーニングや低酸素室トレーニングがある。しかし、その環境を整える必要があり、どのくらいの高度(酸素濃度)でどんな練習を行うかなどは、アスリートによって個人差もあり、見極めや設定がやや難しい。
その点、暑熱順化トレーニングは、自分に合った温度領域をテストで把握し、これを基に行うことができる。高地や低酸素室に行かなくても、日常的な環境で行うことができるというメリットもある。
なぜカラダの表面温度から
「深部温度」がわかるのか?
しかし、ここでひとつ疑問が湧く。
暑熱順化トレーニングは身体の表面体温でなく、体内の温度、つまり深部体温を測りながら行わないと、正確な管理・制御ができないと言われる。表面体温は外気温や発汗などの影響を受けやすいからだ。
ところがCOREはチップ状のセンサーを身体の表面に着けてセンシングする。表面温度を測定するだけで深部体温がわかるのだろうか?
その答えはこうだ。
COREのセンサーはただ表面で体温を測っているのではなく、熱エネルギーの移動を計測・制御する熱流束技術を応用して、体内と表皮の熱の移動を計測する。そして計測データを基に、独自開発したアルゴリズムで身体の深部温度を導き出している。このアルゴリズムは、AIに膨大なデータを読み込ませることで開発されたという。
直接計測された深部体温と
ほぼ一致する計算結果
グラフ❶は被験者がCOREとeピルの深部体温センサーを同時に使用し、COREが割り出した「深部温度」と、eピルが直接計測した「深部体温」のデータを表示したものだ。
これを見ると、多少のズレはあるものの、推移は大体一致している。外部の研究機関が検証したところ、精度的に問題なく使えることが認められたという。
世界のトップアスリート
COREの信頼性は、世界のトップアスリートやコーチ陣も認めている。
トライアスロンでは、昨年、東京オリンピックを制し、今年5月にはアメリカ・ユタ州セントジョージで開催されたアイアンマン世界選手権でも優勝し、「世界最強トライアスリート」の名を欲しいままにするノルウェーのクリスティアン・ブルンメンフェルトがその代表格だ。彼が着ているウエアを注意して見ていると、心拍計センサーのベルトにCOREセンサーが装着されているのが透けて見えるはずだ。
ロンドン、リオとオリンピックを連覇したイギリスのアリスター・ブラウンリーもCOREを使用する選手のひとりだ。
さらに2021年アイアンマン70・3世界選手権を制したノルウェーのグスタフ・イデン、同年アイアンマン北米選手権で優勝したスウェーデンのパトリック・ニルソンなどがいる。
自転車競技ではトレックやクイックステップ、アスタナ、ロト、モヴィスターなど多くのトップチームで採用されている。
COREでできる
暑熱順化トレーニングとは?
COREは小さなチップだ。クリップ形状になっていて、心拍計センサーのベルトなどに装着し、身体に密着させて使用する。女性の場合はスポーツブラなどにも装着できる。
BluetoothとANT+に対応していて、スポーツウォッチ、スポーツデバイスと同期させて使う。
現在対応しているデバイスはガーミンデバイス、ガーミンウォッチ、アップルウォッチ、COROSウォッチ、Wahooバイクコンピューターなど(※)。また、スマートフォンはアンドロイド、iOS両方に対応しており、専用アプリをダウンロードすれば、同期させて使用できる。
まずヒート・ランプ・テストで
トレーニングゾーンを把握
COREを使って暑熱順化トレーニングを行うにはまず、トレーニングする温度の「ヒートトレーニングゾーン」を把握する必要がある。これは心拍トレーニングでターゲットゾーン、パワートレーニングでFTPを設定してトレーニングするのと同じだ。
ヒートトレーニングゾーンはヒート・ランプ・テストを行って割り出す。
このテストは、バイクまたはランで行う。身体の深部温度をできるだけ同じ条件で、正確に管理・比較するため、室内で行うのがオススメ。体温を上げやすくするため、通常よりウエアを着込んだり、空調を調整するなどの工夫が必要だ。パワーメーターを使用している場合は、パワーメーターと心拍計とCOREを併せて使って行う。パワーメーターがない場合は、トレッドミルを使ったランで行うことも可能だ。
HEAT RAMP TEST
ヒート・ランプ・テスト
BIKEで行う方法
❶ウォームアップ後、FTP50%から5分おきにパワーを上げていく。
❷COREが算出する深部温度もモニターし、38℃まで上がったら、その時の心拍とパワーを記録する(※グラフ❷の例では心拍152 パワー266W)
❸ここから心拍を一定に保つ。パワーと深部温度は変化してよい。深部温度が上がっていくとパワーが落ち始める。
❹パワーが20%落ちたところで2回目の深部温度を記録する。
この2回目が運動時の深部温度の上限(つまりこれ以上は危険ゾーン)で、そこから0.3~0.5℃低い温度帯が「ヒートトレーニングゾーン」となる。
たとえば2回目の深部温度が38.9℃とすると、ヒートトレーニングゾーンは38.4~38.6℃。
この適切な領域「ヒートトレーニングゾーン」で継続的にトレーニングすると、暑熱順化が促され、暑さへの対応力やパフォーマンスが上がっていく。
RUNで行う方法
ランでヒート・ランプ・テストを行う場合は、心拍と速度を目安にする。
温度とスピードの管理をしやすくするため、室内でトレッドミルを使用するのがオススメ。
❶ウォームアップ後、ペースを5分ごとに上げていく。
❷深部温度が38℃まで上がったら、1回目の心拍と速度を記録。
❸ペースが1回目から20%落ちたところで、2回目の深部温度と心拍と速度を記録。
たとえば5分/kmから20%ダウンしたペースは、300秒+60秒=360秒で、6分/kmになる。
バイクのテストと同様、この2回目に計測する温度を危険ゾーンの入り口とし、そこから0.3~0.5℃低いところでトレーニングする。
暑熱順化トレーニングの
実践法と注意点
暑熱順化トレーニングはインドアでなくてもできるが、身体に負荷をかけるので体調を整えて行う必要がある。
暑熱順化にかかる日数は人によって異なるが、最低でもレースの3週間以上前に始めるのが目安とされている。
トレーニングではウォームアップしながらヒートトレーニングゾーンに入るまで体温を上げ、このゾーンで出せるパワーを出し続ける。最初のうちはまず45分くらいでいい。終わったら必ずクールダウンする。これを無理のない範囲で繰り返しながら、徐々に慣れていくこと。
慣れてきたら、段階的に時間を伸ばしていき、90分くらいを目安にトレーニングを繰り返す。ただし、時間にこだわって無理に続けないこと。開始後、身体がおかしいと感じたらすぐやめる。自分の身体と対話しながら慣れていくのが、暑熱順化の過程なので、途中でやめる日があっても全く問題ない。無理をしない範囲で繰り返していると、誰でも少しずつ慣れてくる。
最初は意気込んで頑張ってしまいがちだが、無理をしていると、そのうち疲労がたまって続けられなくなる。あらゆるトレーニングに言えることだが、あくまで無理のない範囲で繰り返しながら、少しずつ慣れていくのが鉄則。
レースでもCOREを装着して深部温度のヒートトレーニングゾーンをキープしながら走れば、暑さや、深部温度上昇によるパフォーマンスへの影響を抑えられる。
前述ブルンメンフェルトは普段のトレーニングだけでなく、東京オリンピックやアイアンマン世界選手権のレース当日、COREを装着し、深部体温をモニタリングしつつレースを運んでいるという。★
CORE(コア)
価格37,400円(税込)
■サイズ/重量:50 mm×40 mm×8.35 mm/12g
■充電池:連続6日間センシング(スリープモードで最長6週間)※条件による
■充電式:付属のUSBケーブルで充電
■耐水性:水深1.5m (IPX7 レベル)
■無線通信:Bluetooth BLE および ANT+
■互換アプリ:
iOS、Android、WatchOS、Wear OS、Garmin ConnectIQ
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■CORE使用イメージ動画
〈メーカー公式サイトより〉