>>トライアスロン・ミライ・ミーティング
トライアスロン界では日本と世界との差が拡大している。これを打開するためJTUではマルチスポーツ対策チームが6年計画で、日本のロングディスタンスを強化していくプロジェクトをスタートさせた。
このプロジェクトがどんなものなのかをトライアスリートに伝えるため、6月4日にオンラインで「トライアスロンミライミーティング」を開催。ここではミーティングの中から、ポイントをいくつかピックアップして紹介する。
JTUマルチスポーツ対策チームの平松弘道リーダーからのプジェクトの説明後、マルチスポーツ対策チームによる選手強化の例について説明があった。
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ロングディスタンスで強くなるための科学的トレーニング
JTUマルチサポート対策チーム委員・呉竹学園東洋医学臨床研究所所長
金子泰久氏
持久系スポーツで成功するための要素は
高い乳酸閾値(LT: Lactate Threshold)=乳酸を処理しやすい身体
動きの効率
の3つが挙げられます。
高いVO2max とLTを獲得するためには、低強度トレーニングと高強度トレーニングの組み合わせが重要です。低強度と中高強度の割合は8対2くらいが望ましいとされています。
LTには乳酸が増え始める境目のLT1と、乳酸が急激に増え始める境目のLT2があります。
【グラフ】血中乳酸濃度と運動強度
LT1以下が低強度 ゾーン1・2
LT1とLT2の間が中強度 ゾーン3・4
LT2より上が高強度 ゾーン5
※乳酸値の目安はLT1:2.0mmol、LT2:4.0mmol
強くなるためのポイント
「楽なトレーニングはより楽に、きついトレーニングはよりきつく」というのがポイントになります。
トライアスリートはつらいけれども長く続けられる中強度で練習しがちです。レースペースも大体中強度なので、このゾーンでたくさん練習すると速くなると考えてしまいます。
それも間違いではありませんが、最新の医科学的研究では、より高度な科学的トレーニングでより速くなるには、低強度トレーニングを8割、中高強度トレーニングを2割くらいが望ましいという結果が出ています。
2022年アイアンマン・ハワイ世界選手権の優勝者グスタフ・イデン選手のSNSで公開されているトレーニングデータを見ても、ゾーン1が73%、2が14%、3が10%、4が2%、5が1%となっています。
LTの測定: カーブテスト
運動強度を厳密に測るには、練習中に血中乳酸濃度を6分ごとに測定する必要があります。運動強度と血中乳酸濃度を測定することで、自分のVO2maxと LT1・LT2を把握することができます。
自分に合った低強度・中高強度トレーニングを継続することでLTが右にシフトしていきます。つまり乳酸を出さずにより高強度の運動を持続することができるようになるわけです。
【グラフ】カーブテストでわかるLTのシフト
全日本トライアスロン宮古島大会優勝者・寺澤光介選手の例
サニーフィッシュ柳井賢太コーチによる寺澤選手のトレーニング紹介。
>>柳井コーチと寺澤選手は『TriathlonLumina#90』(9月号/8月2日発売)にスイムトレーニング指導で登場。
サニーフィッシュ・ヘッドコーチ。2020年からヘッドコーチとして、寺澤光介選手をエリート選手、エイジ会員の指導に当たっている。2023年には、寺澤選手の宮古島優勝、アイアンマンプロカテゴリー資格取得という成果を出している。
寺澤選手はロング挑戦のため、低強度中心のトレーニングを行うようになり、2021~2022年にJTUマルチスポーツ対策チームに参加しました。
スイム・バイク・ラン3種目の年間総トレーニング量が約200時間アップ。これによってLTも心拍も右にシフトしていきました。
たとえばバイクを同じワット数で走っても、より低い心拍で楽に走れるようになったということです。
【グラフ】年間総トレーニング量の変遷(2021〜2022年で17%向上)
【グラフ】LTの向上
低強度運動を中心としたトレーニングを最大週30時間程度実施したところ、LTが右方向へ移動。心拍数も同様に右方向へ移動しました。
寺澤光介選手のコメント
低強度トレーニングを主体にするようになったのは2019年からです。最初は(こんなに低強度で強くなれるのかという)不安はありましたが、継続して取り組むうちに数値が改善されていきました。
何より大切なのはケガをしないことです。ケガをしないことで、継続が可能になるからです。
低強度中心のトレーニングは効果が数値に表れるので納得感があります。ただし、フィットネス向上だけでなく、動きを改善することも大切です。
特にエイジアスリートの皆さんは仕事などでトレーニングできる時間が限られていますよね。そのため、より動きを磨くことが重要になってきます。
動きを意識することで、ペースを無駄に上げることなく、効果的に低強度で走ることができるようになります。さらに動きの感覚も磨かれていきます。