世界レベルのスイム(武器)を生かし、磨きをかけたランで優勝
10月15日(日)東京・台場で日本トライアスロン選手権が開催され、女子のレースについて男子のレースが行われた。
女子で優勝した高橋侑子同様、9月~10月に行われたアジア競技大会で個人・ミックスリレーともに金メダルを獲得したオリンピアン、ニナー賢治が本命とされる中、8年ぶり2度目の優勝を狙うベテラン古谷純平、先週の国体で優勝し波に乗る望月満帆や、昨年3位に入った徳山哲平ら若手、同4位の榊原利基らが出場した。
女子のレース時に比べ多少雨脚が和らいだ11時、57人の男子選手がスタートした。
世界でも通用する泳力を誇る望月満帆が飛び出し、それに徳山が食らいついていく。トップで1周目を終えた望月は「ほーう!」と大きな声を出し、気合を入れ直して2周目にダイブ。差はさほどなく、ニナー、徳山らが追う。
スイムの好調を証明するように、2周目で先頭に立ったニナーがトップでスイムアップ。
ニナー、徳山、古谷がトランジションをスムーズに抜け、ファーストパックを形成する。
その後を8~10秒差で、バイクが強みの前田凌輔が単独で追うが、2周目で山本康貴、古山大、ランを得意とする岩本敏らがいる後ろの集団に吸収され、7人の第2パックを形成する。
経験豊富、実力者のふたりに、「ローテーションに平等に加われなかった」という徳山だったが、8周回遅れることなく、バイクを終える。
一番でランコースに飛び出したのは古谷だったが、すぐニナーが抜き去り、みるみるうちに差を広げる。
ニナーは「今までのレースで一番のランだった」と振り返るように、最後までペース、フォームを崩さずゴールテープを切り、初出場・初優勝を飾った2020年以来の優勝を飾った。
2・3位の表彰台争いは若手とベテランの勝負となった。先輩後輩関係にある、徳山、古谷が2周目まで2位を争うが、2周目で古谷が遅れ、後ろからはランを得意とする岩本と山本がジリジリと迫る。
3周目、山本が足がつってストップ。その間に岩本が単独3位に。その勢いでまま2位の徳山の背中をとらえる。その瞬間、徳山も足がつってストップしてしまうが、一呼吸おいて、気持ちを切り替えてすぐにスタート。
第3集団から追い上げた岩本が2位に入り初の表彰台に、後ろから迫る前田から逃げ切った徳山が3位に入った。
【男子上位】
1. ニナー 賢治(NTT東日本・NTT西日本/山梨)1:48:29(16:46/0:58:46/31:21)
2. 岩本 敏 (日本食研/愛媛)1:50:57(16:54/0:59:46/0:32:42)
3. 徳山 哲平(早稲田大学・ロンドスポーツ)1:51:13(16:46/0:58:47/33:57)
4. 前田 凌輔(三重県スポーツ協会/三重) 1:51:19(16:49/0:59:46/33:05)
5. 山本 康貴(博慈会/東京)1:52:21(16:59/0:59:38/34:05)
▼全リザルト
https://www.jtu.or.jp/national_championships/2023result.html
▼JTU YouTube(アーカイブ配信)
https://www.youtube.com/watch?v=fvcw53cUctI
《優勝したニナー賢治選手コメント》
ランに課題があって、パワーはあるけれど、フォームが最後までもたなかった。でもアレックス・イー(TOKYO2020個人銀メダル、リレー金メダル)とトレーニングを積む中で、彼のコーチのトレーニングがなかなか面白かった。
低強度トレーニングでそのおかげもあって、フォームが安定したまま、最後まで走りきれた。今までのレースで一番の走りができたと思います。
ランの1周までは、今日はどうかなと思ったけど、2周目は良くなりました。先週は練習を頑張り過ぎたかな、水泳をやり過ぎてるかもしれないと思ったけれど、ランはすごく良かった。
スイムからバイクで3人で逃げてほぼ作戦通り。古谷純平選手はとても強いです、一緒に戦えて楽しかったです。
ランの1周目は2分58秒、4周目はちょっと落ちたけど、自分の走りに集中しました。他の選手のことはあまり気にしていませんでしたね。
本当に、今日は雨すごかったけど、応援を感じました。2020年TOKYOオリンピックに出場したことで、私のことを知ってくれる人が増えたと思います。
今年の日本選手権は110%出せました。前回優勝した2020年はスプリントディスタンスだったので、オリンピックディスタンスで強いということが証明ができた。
来年パリで戦えたなら、そのときは世界の舞台で私の実力を証明したいと思いました。
《3位に徳山哲平選手のコメント》
僕は、大集団でランスタートという展開になると思っていたので、そうならなかったことにびっくりしたのもあるんですけど、最後まで集団に残ってレースができて良かったです。
バイクで3人で抜けたとき、ニナー選手、古谷選手ともに、世界のトップレベルで戦う選手なので、その世界で戦えていない自分が、平等にローテーションするのは少し厳しいモノがあったんですけど、前に出る回数を減らして、自分にできる集団への役割はしっかりできたんじゃないかなと思います。
ランに入ってからは、ずっとつりそうな感じがしていて、3周目で(両方の太もも)がつってしまったんですけど、監督からの声掛けで1回足を休めて、それで最後までいけました。また古谷選手からの途中の声掛けもすごく力になりました。一緒に練習しているチームメイトで先輩でもあるので「3位でもしっかり頑張って走って来い」とランの途中に声をかけていただいたのが力になりました。
3位になったのはすごく自分にも自信になりました。さきほども言ったように、バイクで3人逃げで、ローテには加われなかったんですけど、最後まで終えれたのは次のステップに向かって大きな力になったと思います。
《6位に入った古谷純平選手のコメント》
3週間休みを取ったときに、スイム・バイクまではリラックスして練習はできていたのですが、その後ケガをしちゃって、ここに至るまでの10日前ほどまえから練習を再開して、なんとかなるだろう、と思って出場したのですが、なんとかならなかったというのが現状です。
たくさん「粘れ」ってご声援をいただいたんですけど、そういう問題じゃなくて、足が限界を迎えていてこれ以上プッシュしたら故障するなってことで、足に痛みがでないことを最優先に走った結果、6位でした。
今回のレースのテーマにしていた「トライアスロンを楽しむ」っていうのはしっかり果たせました。この気持ちを大切に、今後メインとなるのは来年5月の横浜が(パリオリンピックの)最終選考になるので、そこに向けてしっかりやっていきたいなと思います。
今回のレースで得たものは、自分がなくしてたトライアスロンが大好きっていう気持ちだったり、トライアスロンって楽しいっていう感情だったので、そこをもう1回取り戻すことができたのは非常に大きかったです。
レースに関していうと、バイクでの3人のローテーションは早稲田大学の後輩で、チームの後輩でもある(徳山)哲平をこの展開になったなら絶対に表彰台に載せたいという想いがありました。
彼はバイクでは、僕と賢治とはさすがにレベルに差があるので、トントンでは(ローテーションを)まわせないところはあったんですけど、ついてこようとしていました。自分のレースというよりは、哲平の今日の結果を考えながらのレースでした。
僕は個人競技というよりは、団体スポーツのほうが好きで、チームメイトみんなで頑張るっていうのにすごく喜びを感じるタイプなので、哲平が最後粘って、表彰台をとってくれたので、すごくうれしかったです。
Luminaでもお馴染みのスポーツ心理学士、布施努先生のトレーニング受けている古谷選手から、私たちエイジアスリートにとっても、励みになるコメントももらえた。
レースでは明確に順位がついちゃうので、周りの選手と比較する横比較が主で結果が大事で、そればかり気にしちゃうんですけど、勝負の世界で生きている以上はそれは仕方がないこと。
でもそれよりも今大事なのは、縦比較だと考えています。過去の自分と比べて今はどうなのか、と自分との比較をすることによって、なんとかモチベーションをキープしています。
そういう意味でランのタイムが上がってきたりしていたので、今日はダメだったけど(笑)、モチベーションをキープしてやれていたと思います。でも、途中で限界を迎えてしまいました。縦比較が大事だと分かりつつ、結局横比較をしちゃうこともありました。
ただ、縦比較が大事だということを知っておけることが大事かなと。知らなかったら、そういう考えにも至らずにまわりと比較ばっかりして、自分はもうダメって思ってしまい、多分もう引退を考え始めていると思います。
でも、自分との比較という面では、まだまだ成長できているっていうところも、今32歳ですけどあります。そういったところを自分の中で大切にしていければ伸びしろはあると思っているので、そういう考え方をできるのは、心理学の先生からアドバイスをいただいているのは大きいかなと思います。
今回は、間違いなく、ターニングポイントのひとつになるレースでした。今まで、カッコイイ自分ばかりまわりに見せていたけれど、精神的に限界だよっていうのを実際にSNS(古谷選手インスタ)で発信して、自分の弱さをさらけ出したことで、本当の自分の姿っていうのを応援してくださる方、チームメイト、家族、コーチや監督に、本当に素直な自分をさらけ出すことができました。
1回SNSで発信をしてしまうと、今後はもうカッコイイ自分を演じ続けなくて良くなったので、そういったところでは自分の中でスッキリした気持ちもあって、本当に自分の姿でトライアスロンをやっていける。
そういったい意味では、素直な自分をさらけ出した一発目のレースがここだったので、あらたなステップの第1歩として、今日のレースはターニングポイントになったと思います。これからも自分の気持ちに素直にやっていきたいなって思います。