25回目を迎えたスタンダードディスタンス(51.5km)の「日本一決定戦」日本トライアスロン選手権が10月6日(日)東京・お台場で開催され、東京2020に向けたエースとしての活躍が期待される高橋侑子、北條巧が、それぞれ昨年に続く2連覇を達成した。
高橋が貫録の展開でエースとしての存在感示す
同じお台場で開催された東京2020のテストイベント(東京OQE)とは打って変わって曇天となり、10月の東京らしい涼しい気候(気温23.5℃)の中、スタートした女子のレースは、58選手が出走。
東京OQEにも出場した井出樹里が不出場、日本選手権では無類の強さを誇ってきた上田藍、リオ五輪代表の佐藤優香が、それぞれ故障や長いコンディション不良からの回復途上にある中、2連覇が期待されていた高橋侑子は、スイムこそ池野みのりにトップを奪われるが、トランジションを経てバイク序盤には、19歳の新鋭・中山彩理香とともにふたり抜け出す。
そこに追随する選手が現れず、後続のメイン集団が上田藍や佐藤優香らほかの有力選手を含む10人と大人数になったことから、すぐにこの集団と合流するが、12人となったこの第一集団でも、ペースの上げ下げをして、隙あらば仕掛ける勢いで終始集団をコントロール。
コーナーも多くテクニカルなお台場・日本選手権コースの常で、結局、第一集団を分断することはできなかったものの、ランパートに入るなり、中山や岸本新菜、福岡啓らと早々に突出すると、2周目にペースを上げ、2位以下を明確に引き離す。
バイクを好位置で展開した上田、佐藤らもやはりランの入りに鋭さはなく、コンディションが万全な状態とはほど遠い状態にあることは明らか。こうなると、あとは実力・経験ともに頭抜けており、WTS横浜、東京OQEなど国内開催の国際レースでも国内勢トップを走ってきた高橋の独壇場。
「その後が、意外と差が開かなかった」と高橋自身がレース後振り返ったように、岸本、福岡も並走状態で互いをけん制しつつ高橋を追ったが、その連覇を脅かすことはできなかった。
東京2020のエースと期待される高橋侑子は、終始自信に満ちた、落ち着き払ったレースぶりで貫録の2連覇達成。お台場の観衆に、タイム差以上の「強さ」を見せつけた。
(★女子上位リザルト・3選手のコメントは記事後半に掲載)
挑戦者から王者へ。北條巧が1年間の成長感じさせるV2
男子のレースは戦前から、東京OQEや村上国際、大阪城といった国内開催レースでも国内勢トップ争いを演じてきた古谷純平、北條巧、両選手の王座争いに期待が集まった。
昨年、このお台場での初勝利で一躍、日本代表の新しいエースとして名乗りを上げ、東京2020に向けた代表争いでも有力候補としてその名が挙がることになった北條巧と、かつて、やはりこのお台場での活躍で田山寛豪、細田雄一らに世代交代を迫った古谷純平。
ふたりのエース候補が、日本チャンピオンの座を賭けて、真っ向勝負という構図が見どころのひとつとなったが、実際のレースもその期待に応える展開に。
「北條の連覇を止める」「先行逃げ切りスタイルの面白いレースをつくりたい」と公言していた古谷は、スイムからの先行を狙う北條を抑える格好でトップに立つと、女子同様、13選手ほどで形成された大集団(第一集団)の中で、終始、機をうかがい、
バイク6周目でチームメイト(三井住友海上)ではなく、谷口白羽との協調をとりつけて渾身のアタック。
「谷口選手と行くとは思わなかった」と意表をつかれた北條の反応が遅れ、一旦はこの逃げが決まったかに思われたが、北條が何とかこの逃げパックに追いつき、古谷の仕掛けは実らず。
5人での逃げ後続のメインパックに最大50秒ほどの差をつけてラン勝負へ移ったが、こうなると勢いに勝る北條の展開。ラン序盤は古谷、北條の並走が続いたが、3周目に入ったところで「思っていたよりも自分の身体の動きが良かった」という北條がペースを上げると、古谷はこれについていけず後退。
レース前から「ランでのタイム(30分台)も狙いたい」と話していた北條は、最終周回まで落ちない自分のペースを意識したまま、後続の追走を許さず、ディフェンディングチャンピオンの風格さえ感じさせるひとり旅で2連覇を完成させてみせた。
このランで北條、古谷以外で存在感を示したのが小田倉真。オーバートレーニング症候群に陥り完全休養を余儀なくされるなど、低迷に悩んだが、バイク・メイン集団から逃げた5人を猛追し、北條もクリアできなかった30分台のランラップをマーク。
一時は、チームメイトの古谷をもかわす勢いで、復活をアピールする3位入賞を果たしている。
(★男子上位リザルト・3選手のコメントは記事後半に掲載)
東京2020の代表選考とも関連性は薄く、同じお台場で東京OQEという世界のビッグイベントが開催された2カ月後の開催とあって、どこまでの見せ場をつくれるかが懸念された25回目のナショナルチャンピオンシップではあったが、
後のコメントにもあるように、男女両王者がしっかりと世界を見据え、それを追う上位陣とともに、日本選手権なりの「面白いレース」「自身も観衆もワクワク楽しんでもらえるような場面」を意識して戦い、次につながる見せ場をつくろういう姿勢が伝わってくる一戦となった。
■第25回日本トライアスロン選手権
2019年10月6日
東京都お台場海浜公園周辺
【上位・総合記録】
女子
1 高橋侑子(富士通/東京)1:59:12
2 岸本新菜(福井県スポーツ協会・稲毛インター/福井)1:59:17
3 福岡 啓(横浜こどもスポーツ基金/福井)1:59:19
4 佐藤優香(トーシンパートナーズ、NTT東日本・NTT西日本、チームケンズ/山梨)1:59:36
5 中山彩理香(日本大学・アリーディ)1:59:50
※上位リザルト詳細はコチラ
男子
1 北條巧(博慈会、NTT東日本・NTT西日本/東京)1:47:19
2 古谷純平(三井住友海上/東京)1:47:22
3 小田倉真(三井住友海上/東京)1:47:24
4 谷口白羽(トヨタ車体/愛知)1:48:13
5 内田弦大(関西大学・滋賀レイクスターズ)1:48:45
※上位リザルト詳細はコチラ
【上位3選手レース後のコメント】
「勝ち切ることができてホッとしている」
■高橋侑子(女子優勝)
ほかの有力選手(佐藤優香、上田藍ら)が万全でない中、自分が勝って当たり前とまわりの皆さんから言っていただけましたし、自分でもそういうつもりで、どんな展開になっても、確実に勝たなければということで、自分にプレッシャーをかけて臨んだレースだったので、こうして勝ち切ることができてホッとしています。
(レース展開的には)スイムが自分の思ったように泳げなくて、あとはバイクスタートしてから、中山選手とふたりで回すようなカタチになり、後ろの集団も近く、人数も多かったので、さすがにふたりでは逃げるのは難しかったですけれど、その中でも積極的な動きはできたので、今できることは全部やってこれたかなと思います。
バイクパートでもペースの上げ下げをしてふるいにかけるような動きを、結構やってみたのですが、なかなか大集団は崩せませんでした。
人数も多い集団で、強い選手も入っていたので、逃げようとしても、それを埋めてくる選手も多かったので、逃げることは難しかったですね。
ランに関しても、1周目は様子を見て抑えていたんですが、ここで後ろにいても面白くないなと思ったので、「行ってしまえ!」といことで、(2周目から)仕掛けました。
バイクの途中から、ラン勝負に(戦い方を)切り替えてはいたので、何周目から行こうかなと、まわりの様子も見ながら。ペースを上げたら、後ろも離れた。その後、意外と差が広がらなかったんですけれど(苦笑)最後まで押し切れたので、次にはつながるかなと。
連戦続きでしたので、とにかく体調を整えて、今ある力を出すという気持ちで臨んだので、勝つことができて、まぁ一安心かなと感じています。
>>>所属するインターナショナルチーム「THE TRIATHLON SQUAD」での練習内容などについては、関連インタビュー記事をTriathlon Lumina11月号に掲載
「トライアスロンは、キツい部分をいかに楽しく前向きにやっていけるか」
■岸本新菜(女子2位)
スイムから出遅れてしまったので、理想の展開とはいかなかったんですが、バイクで何とか立て直してランにつなげました。
最後は福岡選手との2位3位争いになったんですけれど、今回はランで「自分から仕掛けない」ということを決めて、福岡選手が来たら、前を譲らない、という気持ちで、福岡選手が出たら私もつく、というように決めて、ラストのスプリント勝負になれば絶対に勝てると信じて、最後は走り切りました。
高橋選手がラン2周目で出たときは、余裕をもってつけるペースではなかったので、ここは抑えようと判断しました。村上国際で、前半飛ばし過ぎて後半失速してしまったという失敗があり、今回はグッと抑えて、ランの最後で勝負できるような自分のペースで行こうと思ったんです。
優勝を目指していたのですが、高橋選手にはまだまだ及ばない、力不足だと感じましたので、早く追いついて、勝負できるようになりたいと思います。
昨年の日本選手権の後の宮崎大会が初めてのワールドカップで29位とボロボロでした。今年はワールドカップにも何大会か出場してきて、一戦一戦自分の最高位を越えてきて、1週間のワールドカップでは8位に入賞できました。目立った成績ではないですが、着実に順位を上げられているというのは、自分の中では、少しずつですが成長できているのかなと。
学生時代と違って、稲毛インター所属となったことで、ベースとなるトレーニングがしっかり積めているということもありますし、世界でもトップレベルの実力や実績をもつ上田藍さんと一緒に練習できていることで、トレーニングに対する意識も変わって、キツい部分も明るく、前向きに取り組めているのが大きいです。
トライアスロンはキツい部分をいかに楽しく前向きにやっていけるか、ということが大事なんだなと感じています。
「海外コーチについた成果のひとつが出せてうれしい」
■福岡啓(女子3位)
今回は有力選手が体調などの面で万全でない中のレースでもあり、2位争いに勝てなかったことは、すごく悔しいですが、それでも、3位に入れたことは素直にうれしいです。
約1年ぶりの国内レースだったのですが、スイムを思っていたよりも良い位置で上がることができてバイクにつなげることができた。第一集団で走れれば、ラン勝負になることはわかっていたので、バイクの集団でのペースの上げ下げといった駆け引きを意識しながら走ることができたのは良かったと思います。
今年度、ヨーロッパなど海外のワールドカップに出させてもらった経験を生かすことができたと思います。
バイクの中で、どの選手がどんな動きをしているかも、よく見えましたし、そういう中で特に(高橋)侑子さんが良い位置で、「あまり余計な力を使わずに走っているな」ということに4周目くらいで気づくことができて、その後ろにつけるように走っていました。とても学びの多いレースになったと思います。
昨年の夏(6~9月)に一度、オーストラリアのダニエル・ステファノコーチについて海外の拠点(スペイン)へ。今年から本格的にそのコーチについて、チームメイト(オーストラリアやチリの選手ら)とともに練習させてもらっています。
世界(のトップレベル)に飛び込むことが、自分の力を伸ばす近道なんじゃないかと思い、海外に拠点を移して、壁は多いのですが、学ぶことも多く、そうした環境に身を置かせてもらえていることが今はうれしいです。
成長は一歩一歩ですが、今回の日本選手権では、そのひとつの成果が出せたかなと思います。
「東京2020で経験して、パリでメダルを狙いたい」
■北條巧(男子優勝)
スイムはもうちょっと単独で上がりたかったんですが、それでも先頭で上がることができて、バイクもフィニッシュ時点で第一集団に残っていることができて、ランニングもしっかり走れた。内容は良いほうだったかなと思います。
スイムは、大阪城大会で古谷選手がずっと近くにいて泳ぎづらかったので、今回は第1ブイまでは少し抑えて、古谷選手の後ろにつけました。その後、何度か抜かして前に出ようとしたのですが、なかなかうまく前に出られず、結局、前に出ようとスピードを上げたところと、少し楽にいったところで、ペースを上げ下げしながら泳ぎました。
(世界を見据えたレースをしたいという話もあったが?)
バイクで古谷選手と谷口選手が逃げたときに、少し反応が遅れてしまった。同じこと世界の舞台であったら、もう追いつくことができなかったかもしれない。そうしたタイミングもそうですし、スイムで古谷選手の前になかなか出られない、というあたりは、世界ではまだまだ通用しないかなと。今日出た反省点をまた踏まえて改善をしていきたいと思います。
(ランで仕掛けたタイミングについては?)
ランニングに関しては、思っていたよりも自分の身体の動きが良かったので、いけるときに(ペースを)上げたというのと、タイムも少し狙っていたので、4周目も考えたペース配分で、少しペースを上げていきました。
昨年よりは速く走れたのですが、目標としていた30分台は出なかったようです。
(2連覇して、あらためて感じたことは?)
(初)優勝した昨年と比べると、「ホッとした」という気持ちがありました。昨年はホントに嬉しくて感動したという感じだったのですが。
この大会は直接は東京2020の選考には関係しないんですが、村上や大阪城も含め、こうした日本国内での大会で勝ち続けることで、オリンピックの代表に選ばれた際にも、たくさんの人に応援してもらえるような選手になれると思うので、大事にしたい。
昨年は世界(国際大会)を全く知らないレベルだったんですけれど、今年は世界の舞台に多く出て、特にスイムの部分では、世界でも通用するような実力をつけられている。
バイク、ランについては、世界レベルでは戦えていないということはわかってはいたんですが、実際、世界に出てみて、そのレベルの高さを感じられ「やっぱりここで戦いたい!」という気持ちが本当に大きくなってきました。
パリは本当にメダルを獲れるくらいのところで戦っていられたら楽しいんじゃないかなと。東京でメダルを獲るのはかなり難しいと思うのですが、パリだったら、かなり自分次第で可能性はあると思うので、これからしっかり長いスパンで頑張っていきたいと思います。
「低迷から学んだ、トライアスロンを〈楽しむ〉という境地」
■古谷純平(男子2位)
今シーズン前半戦、思うようなレースができず、トレーニングもできず。そこでの気づきのひとつが、やっぱり一般的にすごくキツいスポーツだと言われているトライアスロンをやっている以上、しんどいだけで終わるのは嫌だとすごく感じた。好きでトライアスロンをやっている以上、やっぱり「楽しむ」ということは、すごく大事じゃないかなと。
そのほうが競技をやっていく上でも、より頑張れると思いました。
今日のレースでも、バイクでいろいろやってやろうと思っていて、実際、谷口選手とのふたり逃げが決まりかけていたので、あれが決まっていれば、もっと面白い展開(レース)になっていたと思うんですが、そうした新しいことにチャレンジできた、ということ自体、私にとっては大きなコトでした。
(バイクでの逃げの意図は?)
自分が先行逃げ切り型で、スイムでも前で上がれる実力をもつチームメイトが何人か出ていた。彼らと一緒に仕掛けられたら(面白いか)と思っていたんですが、結果的には、チームメイトのひとりが3周目で落車してしまい、作戦がうまくいかない、となりかけたんですが、そこは臨機応変にほかのチームの選手にも声をかけて、最終的にほかのチームですが(谷口)白羽が行きたいと言ってくれたので、「行ってやれ!」という感じで仕掛けた。
(逃げが)「決まった!」と思っていたんですけどね。あれが決まっていれば、もっと楽しかったので、そこだけは悔いが残りますが、バイクでの逃げは見ている本人も楽しいし、きっと応援してくれている方々もワクワクするので、そういったレースをしたいと思っていました。
これもトライ&エラーのくり返しだと思いますし、まずは試してみるとができたのは良かったと思います。もしこうした動きをWTSなどの国際レースでもできるようになったら、やっぱり楽しいだろうなと。
ランも含め、力は戻ってきたとは感じられたんですが、元に「戻った」だけじゃ世界とは戦えないので、さらに上げていきたいです。
復調のラン30分台も「勝てなかったことは悔しい」
■小田倉真(男子3位)
スイムで第一パックに入ってレースを展開できたことは良かったのですが、バイク途中でキツくなってしまい、6周目にアタックがかかったときに反応できなかった。そこは後続の集団に残って、その中で一番に走るということを心がけ、最終的には、もうちょっとで2位というところまで追い上げられましたが・・・悔しいですね。
(5人の逃げが決まる前にも)バイクの第一集団の中で、スピードの上げ下げがあって、私を含め、みんな脚を削られていった感じはありましたね。
(最終的には50秒くらいの差がつきましたが)
前(逃げのグループの中)に、同じチームの古谷さんや吉川(恭太郎)がいたので、自分は後ろの集団をコントロールしつつ、その後のランに備えて脚を温存していました。
今シーズンは、6月一カ月間をすべて休養に充てて、7月から練習を再開したので、残念ながら東京OQEではラップされてしまいました。この日本選手権も上位10位以内に入れないんじゃないかと思ったくらい(不調)だったんですが、その後、段々調子も上がってきて、再び「優勝したい」という気持ちに切り替わって練習をしていました。
6月時点では、精神的な部分で参ってしまったというか、オーバートレーニング症候群に陥ってしまって、練習してもどんどん記録が落ちていき、体調も崩してしまいました。
そこは一切トレーニングをせず休むしかありませんでした。
今回は(復調して)勝ちを狙いにいってたので、「北條の連覇を止める」というチーム戦でもあったんですが、やっぱり勝ちたかったですし、(勝てなかったことは)悔しいです。