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>>トライアスリートのためのメンタルトレーニング番外編
「サニーフィッシュ」の選手をはじめ、多くのトップアスリートやビジネスパーソンを指導するメンタルトレーニングコーチの森下健さんが、心の鍛え方について語る連載コラム。スイムコーチとしての経験ももつ森下さんが、どんなレースも乗り越えることができる「折れない心の作り方」について伝授してくれる。
『Triathlon Lumina#98』に関連記事あり。
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>>レース前の自信 実践編

写真=森下さん提供。アジア大会セパタクローの会場より
アジア大会の舞台裏
「早く試合がしたい」と思える準備が自信をつくる
皆さんこんにちは! メンタルトレーニングコーチの森下です。今回はいつものトライアスロンのメンタルトレーニングから少し離れて、番外編をお届けします。
先日、名古屋で開催されたアジア大会に向けて、セパタクロー日本代表のメンタルトレーニングコーチとして選手・チームのサポートを行ってきました。
皆さん「セパタクロー」という競技知っていますか? すごく簡単に説明すると、バドミントンのコートで行う手を使わないバレーボールみたいな競技です。回転しながら足でアタックをするのは、とてもダイナミックで実際に見ると驚くと思います (ちなみに僕はリフティング3回くらいしかできまへん)。
「セパタクローとトライアスロン! 全然違う競技じゃん!」と思われるかもしれません。確かに、チーム競技と個人競技という違いもありますし、競技特性も大きく異なります。
ですが、「大切な試合で、自分の持っている力を発揮する」という点で共通する部分はたくさんあります。
今回は番外編で、セパタクロー日本代表がアジア大会に向けてどんなメンタルトレーニングを行ってきたのか。その舞台裏を少しご紹介したいと思います。

結果はコントロールできない。
でも、準備はコントロールできる
セパタクローはオリンピック競技ではないので、アジア大会は日本代表の選手たちにとって非常に大きな舞台になります。
ですから、アジア大会に向けて、当然「代表に選ばれたい」「勝ちたい」「メダルを獲りたい」「良い結果を残したい」という気持ちが出てきます。
だからこそ、僕が選手たちに繰り返し伝えてきたことがあります。このコラムでもご紹介させていただいたことがありますが、「結果はコントロールできない。でも、準備はコントロールできる」ということです。
>>参考記事:「レース前の自信 マインド編」森下健のメントレ!Vol.7
どれだけ良い準備をしても、勝負事は必ず勝てるとは限りません。相手がいることですから、相手が自分たち以上のパフォーマンスを発揮することもあります。
だからこそ、自分たちがコントロールできない「結果」だけにフォーカスするのではなく、「本番までに、自分たちにできる準備をどこまでやり切れるか」にこだわってきました。
その中でも今回、特に力を入れて取り組んできたのが、「集中」「コミュニケーション」「ソリューションバンク」の3つです。
① 本番で「何に集中するのか」を準備する
以前のコラムでも集中についてご紹介させていただきましたね。
>>参考記事:「集中をコントロールしてパフォーマンスを高めよう① 」森下健のメントレ! vol.5
より良いパフォーマンスを発揮していくのに大切なのは、「何に集中するのか」を明確にすることです。そして基本となるのが、「自分たちがコントロールできることに集中する」という考え方。
コントロールできるか否かを元に、試合のシチュエーションごとに、「何を見るのか」「何を考えるのか」「何をやるのか」を整理していきました。
それと同時に、「どんなときに(状況で)集中が逸れそうか?」も考えていきました。
ミスをしたとき。相手に連続して得点されたとき。判定に納得できないとき。試合終盤で勝敗を意識したとき。集中を逸らすものが何なのかをあらかじめ想定しておけば、実際に起こったときにも対処しやすくなりますし、逸らされないための対策もできます。
その上で、実際の練習でもそのシチュエーションをできるだけ再現して、「その状況でもやるべきことに集中できるか」「集中が逸れた時に、集中すべきことへと再集中できるか」を実践しました。
知っていることと、できることは違います。本番でできるようになるためには、本番に近い状況で実践しておく必要があります。
これはトライアスロンでも同じですよね。スタート前、スタート直後、抜かれた時、 想定していたペースよりも遅れている時、苦しくなった時……
そんな時に、「自分は何に集中するのか?」を事前に決めておくだけでも、レース前に準備することや、レース中の判断は変わってくると思います。

② コミュニケーションもトレーニングする
他にも意識して取り組んできたのが、コミュニケーションです。特にチームスポーツでは、試合中に選手同士でコミュニケーションを取らなければいけません。
代表チームになると年齢、世代はさまざま。ベテラン選手と若手の選手ではひとまわり以上も離れていることもあります。
そうすると必要以上に気を遣ってしまったり、萎縮してしまったりして、言いたいことも言えずに(言わずに)、チームの雰囲気が悪くなってしまうことも出てくるのです。これは選手同士のコミュニケーションだけでなく、選手と監督、コーチのコミュニケーションにおいても同じことが言えます。
そこで大切にしているのが「心理的安全性」です。心理的安全性というのは、「非難や拒絶の不安がなく発言でき、自分らしくいられる環境」のことを言います。(Amy C. Edmondson(1999))
ミスをした時に非難される、自分の意見を聞き入れてもらえない、挨拶をしても無視されてしまう。そんな環境ではパフォーマンスを発揮しづらくなるのは容易に想像できるかと思います。
そうならないためにも相手に対して「リスペクトと感謝」の気持ちをもってコミュニケーションをとっていくことが大切です。
人間ですから価値観や考え方は違って当然ですし、環境や状況もそれぞれ違います。違いがあることが大前提なのに、違うからといって衝突や拒絶をしていては相手をリスペクトもできないですし感謝もできません。
僕はよく「違い≠間違い」だと伝えています。違いを受け入れた上でチームがより良くなるためにはどうすればいいかをディスカッションしていくことが大切です。決して「何でも仲良く、否定せずに話しましょう」ということではありません。
違うことは大前提ですので意見がぶつかることもあります。むしろ、チームでパフォーマンスを発揮していく過程においては、コンフリクト(衝突)は起こるものです。
「自分が正しいか」「相手が間違っているか」ではなく、「チームにとって何が一番良いのか」を基準にディスカッションすることを意識して、ミーティングだけでなく、練習ゲームが終わったあとにも選手同士で話し合う時間を作りました。
さらに、自分たちだけで振り返るのではなく、「自分たちはこう思っていたけど、相手からはどう見えていたのか?」と対戦した相手チームからも客観的な意見をもらいながら自分たちの強みや課題を確認して、少しずつ変化を起こしていきました。
③ 「想定外」を想定内にするソリューションバンク
そしてこちらも以前このコラムでも紹介した「想定外を想定内にすること(ソリューションバンク)」も意識して取り組んできました。
>>参考記事:「レース前の自信 実践編」森下健のメントレ!Vol.8」
本番ではすべてが計画通りに進むとは限りません。そこで、「大会で起こるかもしれない想定外は何だろう?」というところを考えていきました。
「緊張してしまうかもしれない」 「集中が切れるかもしれない」 「思ったようなプレーができないかもしれない」 「急に時間が変更になるかもしれない」「ケガでメンバーが変わるかもしれない」
起こりそうなことをできるだけ事前にピックアップして、起こる可能性が高いか低いか、自分でコントロールできることかそうでないかの軸で考えて優先順位を決め、そして一つひとつ、
「それが起こらないために、どんな対策ができるか?」「それでも起きてしまったら、どう対処するか?」を考えていきました。
ソリューションバンクも、紙に書いて終わりではありません。想定した状況を練習の中でできるだけ作り、実際に対処できるか試していきます。
想定外そのものをゼロにすることはできませんが、「何か起きても、自分たちは対応できる」と思える準備を増やすことはできます。

写真=森下さん提供。銅メダルを獲得したセパタクロー男子チーム
本番でメンタルトレーナーが「何もしない」のが理想?
ここまで、アジア大会に向けてどんな準備をしてきたのかを紹介してきましたが、実際にアジア大会で僕がメンタルトレーニングコーチとして何をしていたのかをご紹介します。
実は…そんなに多くのことはしていません(笑)。朝のミーティングで選手たちに声をかけたり、必要があれば話を聞いたりする程度です。
試合中はベンチに入るわけではなく、選手たちから見える観客席にいました。事前に選手たちには、「試合中に僕を見たら、今までやってきたこと、準備してきたことを思い出してほしい」と伝えていました。
僕が何か特別なアドバイスをするのではなく、僕の姿を見ることをきっかけに、「何に集中するんだっけ?」「自分たちは何を準備してきたんだっけ?」と、自分たちでやるべきことに戻ってもらう。そのために観客席にいました。もちろん死ぬほど声を出して応援もしました!
試合が近づくにつれていろいろな感情が出てきます。緊張することもあれば、不安になることもある。思ったようなプレーができず、気持ちを整理したくなることもあるでしょう。
そんな時に、「何かあったら相談できる」「話を聞いてくれる人がいる」と思える環境を作っておくことも、メンタルトレーニングコーチの役割のひとつだと思っています。
だからといって、こちらから必要以上に介入するわけではありません。選手自身が必要だと思ったときに話せるくらいの距離感です。
僕は、本番になってメンタルトレーニングコーチの出番が多くなることが理想だとは思っていません。むしろ逆で、大会が始まったら、選手たちが主体的にいつも通り準備を進め、自分たちでコミュニケーションを取り、問題が起きても自分たちで対処していくという、僕の出番が限りなく少ない状態が理想なのです。
なぜなら、そのためにメンタルトレーニングをしてきたからです。何に集中するのかを決める。集中が逸れたときにどう戻すのかを練習する。
チームでコミュニケーションを取る。想定外が起きたときの対処法を考え、実際に試しておく。それらを大会前に繰り返しトレーニングをして、「自分たちで自分たちのメンタルを整え、力を発揮できる状態」をつくること、それもメンタルトレーニングの大切な目的だと思っています。

写真=森下さん提供。サパタクロー表彰式後の様子
準備することが、自信につながる
ここまで紹介した、「何に集中するかを決める」 「コミュニケーションを磨く」「想定外への対策を準備する」これらはすべて、最終的には自信につながっていきます。
ただ、「準備すること」自体が目的ではありません。たくさん準備したからOKではないんです。準備によって自分たちの強みを磨き、その強みを本番で発揮し、それを結果につなげる。あくまでも結果を手に入れるための準備です。
僕が今回、選手たちに目指してほしいと思っていた状態があります。
アジア大会が近づいてきたときに、「早く試合がしたい」「自分たちがやってきたことを試したい」と思えているかどうかです。
「勝てるかな……」「ミスしたらどうしよう……」ではなく、「ここまで準備してきたんだから、あとは試してみたい」と思える状態が、本当の意味での「自信を持って試合に臨める状態」だと思っています。
結果はコントロールできません。でも、準備はコントロールすることができます。これはセパタクロー日本代表だけではなく、トライアスロンでも同じです。
次のレースに向けて、「どんな結果を出したいか?」だけではなく、「その結果につなげるために、何を準備しておくか?」もぜひ考えてみてください。
そしてスタートラインに立つその時に、「早くレースがしたい。準備してきたことを試してみたい」
そう思えるくらい準備する。その積み重ねが、大切なレースで自分の力を発揮するための「自信」につながっていくのではないでしょうか。
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森下 健 Ken Morishita
学生時代は競泳選手として活躍。引退後は水泳指導者として多くの人を指導する中で、自身の「ここぞという試合で勝てない」という経験からメンタルトレーニングに興味をもち、応用スポーツ心理学を学ぶ。2013年、細田雄一選手のサポートをきっかけにトライアスロンに出会い、自身もレースに出場。2020年よりサニーフィッシュで水泳コーチ兼メンタルトレーニングコーチとしてメンタルトレーニングを実施。スポーツの他、企業や学校などさまざまな分野でメンタルトレーニング講演会や心理面のサポートを行う。

















