トライアスリートで介護食アドバイザーの高瀬 誠さんが「トライアスロンの補給食に介護食を活用する」をテーマに検証し、実際に宮古島トライアスロン完走をするまでを3回に分けてレポートしてくれた。補給食に悩みがある人、また初めてロングレースに出場する人など、ひとつの方法としてぜひ参考にしてみよう。
介護食deトライアスロン vol.1
ロングレースに向けた、新たな補給食の切り口「ここが変だよ!トラメシ」
介護食品を補給食に活用して、アイアンマンなどのロングレースの完走を果たす。おそらく誰も考えたことはない唯一無二の取り組みだと思うが、アイアンマン・ジャパン、佐渡、皆生などのレースで実践して、仮説を検証してきた。
その仮説は、「食べることや栄養面に配慮された介護食品は、ロングレースのような過酷な運動環境で、重要となる補給食にマッチする。そして、味や見た目もおいしい!」ということ。このコラムでは、介護食アドバイザー兼トライアスリートの立場からロングレースに向けた新たな補給食の切り口を紹介していく。
よくある補給食トラブル
今回のコラムでは、2018年宮古島トライアスロンが開催されるタイミングで準備期間を含めたロングレースに向けた補給食を紹介する。まずはよくあるレースでの補給食のトラブルや、レース向け栄養の考え方について問題提起してみよう。トライアスロンのロングレースに出ていてこんなトラブルはないだろうか?
▼レース後半で、身体が補給食を受け付けなくなる(腹痛・下痢)
▼レース後には疲労困憊で、しばらく食事がちゃんとできない(全身の体調不良)
これらは補給食が身体に合っていないために、レースでのパフォーマンスが上がらず、レース後にも胃腸へダメージを引きづってしまうことになり、補給食そのものがストレスや負担になっている。
その背景として、私の周りのトライアスリートを見ているとロングレースに向けた補給食の捉え方として特徴的な補給食の誤解が挙げられる。
【補給食の誤解】
本来であれば、レースに限らず人間が必要とする栄養素をバランス良く摂るべきだが、レースでの補給食となると捉え方が偏ってしまい、落とし穴にハマってしまう。
【補給食の落とし穴】
①カロリー(≒糖質)の高さを追求し過ぎてしまう→たんぱく質・脂質を摂っていない
②カロリーの次は水分、塩分だけでいいのか→ビタミン、ミネラルも足りていない
③レースでいきなり慣れない補給食を使って失敗する→胃腸が不調・気持ち悪くなり、パフォーマンスダウン
①カロリー(≒糖質)の高さ
レースの補給食でまず優先されるのは動くためのエネルギーだが、エネルギーと言えばカロリー(≒糖質)の高さばかりに注目して、たんぱく質・脂質も重要だということが抜けてしまうケースがある。3大栄養素の中でエネルギ―効率が良いのは糖質なので身体を動かすために重要だが、動きながら身体の組織を守る(再生する)たんぱく質・脂質も意識してほしい。
人は運動によって身体を動かしながら、同時に身体を再生・維持するメカニズムも働くため、その材料となるたんぱく質・脂質もある程度は必要になる。ただしたんぱく質と脂質は消化吸収に負担になる側面もあるのでこれらをたくさんというよりも、糖質を補完する組み合わせとして補給に組み入れたい(糖質である程度のカロリーを摂ったらたんぱく質と脂質も少し摂る程度でOK)。
②次は水分、塩分、アミノ酸でいいのか
カロリーの次に意識されるのが水分と塩分だろう。だが、レース中の脱水症・熱中症予防に水分、塩分を摂り過ぎてしまい、結果として身体のビタミン、ミネラルのバランスを崩してしまうケースがある。水分、塩分はもちろん必要だが、過剰に摂れば汗や尿となって排出され、その時に一緒に必要なビタミン、ミネラルも出ていってしまう。
ビタミン、ミネラルは身体の機能(コンディション)を調整する役割があり、かなり多岐に渡る種類と微妙な量でちょうど良く成り立っている。これらを1つひとつ把握して管理するのは現実的ではないので、レースではビタミンとミネラルが豊富な食品・飲料を摂るだけのざっくりしたものでも良い(レース前と途中に、野菜&果物ジュースやミックスナッツを摂る程度でOK)。
またもうひとつ加えると、アミノ酸の摂り方にも同様のことが言え、疲労回復向けにBCAAなど特定のものにフォーカスすることもあるが、アミノ酸も多岐に渡る種類と微妙な量で成り立っているので、必須アミノ酸のどれかひとつでも足りないと身体のコンディション低下の引き金になる。
アミノ酸スコアが高い食品(魚、肉、卵、大豆など)を摂れば、これらは広くカバーされるのだが、果たして魚、肉、卵、大豆を補給食にできるか(?)という別の課題も挙がってしまう。
③レースでいきなり慣れない補給食を使って
そして3つ目は、レース本番でいきなり慣れていない補給食を使って胃腸が不調・気持ち悪くなり、パフォーマンスもダウンしてしまうケース。トライアスリートといっても普段の食事はごはん、パン、麺類などの炭水化物が主食で、これらのエネルギーは100gあたり60~80kcal前後。
これがレース用の補給食で代表的なジェルや固形バーになると、100g(100ml)あたり100kcalを超える高カロリーになり、それらを消化吸収する身体にとっても結構ビックリするレベルになる。もしもあなたが胃や腸の立場だとして、泳いで・こいで・走って落ちつかない状況で大量に水や塩分が送られてきて、さらにそこへ普段は見たこともない高カロリーのジェルや固形バーが形そのままに(咀嚼されないままに)、ドンドン流されてくると想像してほしい。
「なんて日だ!」と騒ぐ余裕すらなく消化・吸収に負担がかかり、それを続けるとやがて機能は低下していき、最終的には機能を停止してしまう(グレてしまう)!そうなった結果が、食欲不振や吐き気、腹痛や下痢につながりさらには全身の体調不良へ連鎖する(補給食が引き起こす運動機能の障害)。
そのためジェルや固形バーなどを使うのであれば、レースの1~2週間前に普段の食事で1~2回ほど試してみてこれで自身の身体に合いそうか、まず慣らし運転することをおすすめする。さらにジェルや固形バーに合わせて食べ慣れているおにぎりやお菓子なども組み合わせるのも良い(気分的にも息抜きになる)。
ここまでは、少し栄養よりの話が長くなってしまったが、私自身が栄養士ではないので専門的な部分を除いたとしてもトライアスロンのようなスポーツ競技における補給食は、まだまだユーザーへ理解が広まっていない。特にロングレースにおける補給は第4種目に位置づけられるくらい大事な要素で、長いレースでパフォーマンスを維持できないだけでなく、想定外の疲労や不調・ケガなどを呼び起こしてしまう。
宮古島のレースに向けた補給食
では、宮古島のようなロングレースでどのような補給食をおすすめするか。特に難しいことではなく、これまでレースで摂っている糖質≒主食をベースに「食事の栄養バランス」で抜けている主菜・副菜・牛乳(乳製品)・果物を補ってあげる。それだけ! 意外かもしれないが、普通の食事になるように、3~4品を補うだけでも全般的な栄養面がカバーされ、これで補給食の落とし穴も飛び越えられる。
「レースの補給食に、どうやっておかずや牛乳を持ってく?」
「そもそもレースで、そんな流暢に食事をする余裕がない?」
そこは補給食の食事形態やパッケージ(容器)、そしてエイドやスペシャルニーズバックを工夫するのだ。具体的にどのような方法があるのかというと、ここに来てフォーカスするのが「介護食品」。
「えっ!」と思われるかもしれないが、実はトライアスロンのような過酷なレース環境と、食事・栄養に配慮された介護食品の機能性はマッチするのだ。
【介護食品の機能性】
▼栄養面で糖質・たんぱく質・脂質・ビタミン・ミネラルのバランスが良い
▼保存しやすいパッケージ容器に入っており、そのまま調理なしで食べられる
さらに最近の介護食品は見た目が普通食に近く、味もおいしい(←これが一番大事だったりする)。私自身もすでにアイアンマンをはじめ、日本国内のロングレースに介護食品を活用してレースを完走しているので、宮古島に向けても使えそうなものを紹介し、実際にレースで取り入れた様子をここでレポートしたい。
最後に、このコラムは介護食品を本来とは別の用途に使うことを訴えるのではなく、できるだけ多くの人にロングレースを完走して、レース後にも体調を崩さないようにしてもらうためのヒントになれば思っている。胃腸にも身体にも『やさしい補給食』の工夫という位置づけでトライしてほしい。
プロフィール
高瀬 誠
介護用品・福祉人材アドバイザー、セミナー講師。趣味でトライアスロンをしながらパラ・トライアスロンやトレイルランニングのガイドも務める(青山トライアスロン倶楽部、新宿食支援研究会 所属)