チームVAAM、レジェンド山本光宏さんに学ぶ。〈前編〉
「運動で、体脂肪を燃やす」チカラを通じて、カラダと心のエネルギーを引き出すアミノ酸サプリメント「VAAM」のサポートを受けアイアンマン70.3セントレア知多半島ジャパン(6月9日開催、スイム1.9km/バイク90km/ラン21km)に挑む「チームVAAM」。
シーズン4では、チームのスペシャルアドバイザーとしてほぼ四半世紀にわたりVAAMを愛用し続けてきた日本トライアスロン界のレジェンド、山本光宏さんが登場!
ミドル~ロング・ディスタンストライアスロン挑戦の上で一番の課題になる「レースでの補給」から、それ以外の実戦対策、日々のトレーニングまで、セントレア決戦を直前に控えた新旧メンバーがぶつける質問に答えてくれた。
やまもと・みつひろ
アイアンマン・ハワイや51.5㎞の世界選手権など、世界を舞台に活躍した日本のプロトライアスリートの草分け。1988年に第4回宮古島大会優勝を果たした翌年、バイク練習中の事故で第1、6、7頚椎骨折、第5胸椎圧迫骨折という、普通の人間であれば即死であったと思われる大事故に遭う。事故後約1年でレースに復帰し、佐渡大会優勝、KONAでは総合24位(日本人1位)となり完全復活。事故からの復帰は、日本テレビの番組やTBSニュースでも放送された。現役引退後は、オリンピックをはじめとするトライアスロンのTⅤ解説や後進の指導にあたる。2012年からはTOTO陸上競技部コーチとして早川英里選手をマラソン日本代表に導き、今年、同・陸上競技部監督に抜擢された。1963年、東京生まれ。
ミドル~ロングでの補給に万能の「最適解」はない!?
今回は「チームVAAM」1~4期生メンバーに事前アンケートを実施。山本さんに訊いてみたい「ミドル&ロングディスタンス・トライアスロンをめぐる疑問」を挙げてもらい、5月に開催された交流イベントで、その内容をご本人に直接ぶつけた。
メンバーからの質問が最も多かった「ミドル~ロングでの補給について」から、山本さんの回答と当日イベントに参加したメンバーとのやり取りを一部紹介しよう。
「ミドル以上の補給について教えてください!」
■オリンピックディスタンス(以下OD)ではあまり補給を気にして来なかったので、ミドル以上の補給の重要性を聞きたいです。(鈴木一義さん・4期生)
■セントレア(ミドル)での補給はどのくらい必要ですか。熱量、タイミングは?(星川浩さん・4期生)
■ミドルの大会ではどの程度の補給をされているのでしょうか? 参考までにご教示頂けると嬉しいです。(福嶋忠宣さん・3期生)
山本 水分補給以外に何をどれくらい摂ればいいのか、というのはトライアスロンに限らずいろいろな持久系スポーツで大きなテーマなのですが、具体的には、まずオリンピックディスタンス(以下OD)とセントレアのような70.3(ミドル)、アイアンマンのようなロングと、それぞれでどのくらいのカロリーを消費するのか? と、そこから考えないといけない。
基本的にODは、距離的(競技時間的)に筋肉や肝臓に貯蔵されているグリコーゲン(約2000~2500Kcal)が枯渇しすぎる前に終わるだろうと言われていますが、70.3やロングでは、当然それ以上のエネルギーを消費するわけで、そこでいかにガス欠やコンディションを崩さず、フィニッシュまでもっていくかというのがポイントになります。
ただ、その必要なエネルギーをすべて補給食などで摂らなければいけない、ということではありません。持久系の競技は、糖質と体脂肪がエネルギー源です。長時間運動ではうまく体脂肪をエネルギー源として使うことができれば、レース後半までグリコーゲンを温存することができますので、その点を考えた補給というのが大事になってくると思います。ですので、私は糖質の補給の他にも、体脂肪のエネルギー化を意識し、現役時代からアミノ酸VAAMを活用しているというわけです。
セントレア70.3はODよりも単純に距離が倍以上あるわけですから、まずは一般的な計算式を使って、70.3の距離で自分の体型でどのくらいのエネルギーを消費するかを計算するところから始めましょう。
関連記事>>>「持久系スポーツのエネルギー消費量の計算式」(チームVAAM1期生リポートより)
山本 これまでのチームVAAMの企画の中でも、こうした計算式が出てきていると思うのですが、そのあたりきっちり計算してみたことがある方はいますか?
前田直昭さん(1期生) 一度、Lumina誌面に載っていたものをやってみたことがあります。
山本 そういうところを関心もってくると、じゃあ、実際、どれくらい(エネルギーが)必要なのか、ということが大まかにわかってきますよね。
もちろん、単純に計算したとおりにはならないんですけれど、大体どのくらいの消費エネルギーがあるのか押さえておくと、身体に蓄えられたエネルギー源を使うにしても、それに対して体脂肪をどれだけ使えるようにするか? とか、どういうふうに補給プランを組んでいくか、その基本が見えてくるはず。
そうして自分なりに突き詰めていくと、「なぜ、VAAMが必要なのか?」とか「いつどこで使ってみればいいか」「エネルギー系の補給食とどう組み合わせていくか」というのが見えてくるはずです。
自分が選手を始めたころは、世の中にトライアスロンの補給に関するノウハウが何もないから、たくさん失敗しました。今のようにサプリメントも多くないですから、サイクリストの間で好まれていた桃の缶詰(1ピースずつビニール袋に入れて詰める)を使ってみたり、カフェインが脂肪燃焼をサポートするという話を聞いてインスタントコーヒーの粉を持っていってみたりとか。いろいろなことを試行錯誤しました。当時はそうやって、実際の経験で学んでいくしかなかったんです。それがまた面白かったんですけれどね。
今はいろいろな製品や知識がありますが、それでもやはり基本はレースでの経験を積み重ねていく中で、そうした力をつけること。
例えば今(皆さんの自己紹介で)5時間、5時間半を切りたいといったタイムの目標もあったわけですが、コースの難易度に加えて大会当日の気温・水温などの気象条件によって、その数値目標というのは難しいものがある。いくら目標タイムを出しても、気温15℃の大会と30℃の大会では達成できる可能性・難易度は変わってくわけです。
かかるタイムも変われば、消費エネルギーも違ってくるから、当然、補給の内容も変わってくる。
理想的な方法論の話をしても、先ほど触れたその日その日の気象条件や体調の変化によって、摂りたいものを身体が受け付けなくなったりすることはよく起こりうる。
そういうときに、体脂肪をエネルギーに変えやすい体質に変えておくとか、そういった対策が生きてきます。
皆さんも、最初は痛い目をみるかもしれないけれど、まずは「はじめの一歩」を楽しんでいただいて、それをクリアして成長していくのを楽しんでもらいたいですね。
糖質だのみの補給だけでなく、体脂肪をエネルギー源として使える身体をつくる。
Lumina 消費エネルギー量の目安を計算することはできるようになりましたが、そこから筋肉量とか体重、体質など個人個人の特性に合わせてカスタマイズするのが難しいと思います。何かコツはありますか?
山本 それを自分自身で考えるのが、楽しみだと思うんです(笑)。
ハワイで6勝している当時のトップ選手マーク・アレンが、アイアンマンのバイク中に4000Kcalくらい補給しているといったような話が出回っていたので、自分も、高カロリーの流動食をレースで摂ってみたら、案の定、途中から気持ち悪くなってきてしまった・・・なんていう経験もあります。
いろいろな知識を吸収して実践することも大事なのですが、個人個人の内臓の強さや疲労の傾向なども違いますので、やはり最後はレースで経験してみないとわからない。
レース中の必要カロリーを計算したら、例えば自分の体型で言えばアイアンマンで6000~7000 Kcalくらい使うんですが、それをすべて補給食で摂れるわけはない。
筋グリコーゲンが仮に2000 Kcalくらいあったとしても、残りの4000~5000Kcal。これだけでも補給食では摂るのは難しい。
私の場合、まずロングでは、バイクボトル1本にエナジージェルを入れて、それで2000 Kcalくらい摂れるようにしていました。濃過ぎると身体への吸収も良くないので、水分補給と併せて。それを定期的に、20~30分に1回くらい摂っていました。この摂り方(量や頻度)もレースで経験しながら、自分なりの適正なやり方を見つけていったものです。
残りはエネルギー系の補給食ではなく、体脂肪を活用する必要が出てくるわけです。
例えば自分はレースのとき、身長179㎝で体重70㎏だったんですが、体脂肪が5%だったとしても、脂肪が3.5㎏あるわけで、これはエネルギーとして使おうと思えばかなりの量(約24500Kcal)になる。これを使わない手はないですよね。
そこで普段の準備段階からアミノ酸VAAMを活用したり、ロングライドにしても、朝食をあえて摂らずにスタートして、1~2時間乗ったところで補給するというようなこともやっていました。
通常、人間の身体は、筋グリコーゲンを先に使いながら、徐々に体脂肪を燃焼させてエネルギー源として使うようになっていくと言われていますが、意識的に脂肪燃焼しやすい身体にしていくと、脂肪がエネルギーとして使われるようになるタイミングが少しずつ早くなってくる実感がありました。
「トレーニングでの補給は、どうしたらいい?」
■補給について、練習のときはどうしているのか? いろいろ練習でも試してみたんですが、なかなかマメに食べることができなくて、今はナッツとかお菓子系のものとか、好きなものも交えるようにしているのですが、これでいいのかなと(市山愛理香・3期生)
山本 長時間のレースなので、多少そうした(好きなものを食べるという)楽しみがあってもいいと思います。でも、自分に合った量を見つけ、食べ慣れておくことはやはり大事ですね。
レース中、糖分の多い甘いモノばかり食べていると、身体が受け付けなくなったり、塩気のあるものが食べたくなってくると思います。補給食の定番であるバナナやオレンジ、塩分を含むおにぎりのような食べ物を摂ったり、そういう工夫も良いと思います。
理想的といわれる補給を心がけても、レースの途中で気分が悪くなってしまうようでは、パフォーマンス発揮に影響が出ますので、練習の時に自分に合った補給食・補給方法を見つけることもポイントですね。
「エネルギージェルでお腹をこわしてしまいました・・・」
■補給の際、以前ロングでジェル系を中心に必要なカロリー分を計算して摂っていたところ、お腹をひどく壊してしまいました。おそらくジェル系を中心に摂り続けていたので、それが原因なのかな? とも思ったのですが・・・。
先ほど話にもあったように、甘いものばかりを摂り続けるとお腹に入っていかないという感じもありますし、計算して出した必要なカロリーが含まれていれば、何でもいいわけじゃないのだなと実感しました。
固形物とジェルでの摂取の考え方など、レースディスタンスなどによってどう考えていけば良いか知りたいです。(前田直昭さん・1期生)
山本 ジェル系のエネルギー補給食って、基本的には身体が吸収しやすいように作られていますから、普段の練習で試しに摂ってみても、あまりお腹を壊すようなことはなくて、不思議とレースのときに、そうした状態に陥りがち。
おそらく普段以上に完璧にやろうと意識も張りつめているし、パフォーマンスも一番高いレベルで動き続けるわけですから、内臓への負担が大きくなっているのかもしれません。
あと、もうひとつ考えられるのは、必要なエネルギーを摂らなければと思うあまり、少しずつ「過剰供給」になっていってしまっているパターン。
固形物がいいか、ジェル系がいいかは、個人個人で違うので一概には言えないですが、いずれにしても、過剰供給に陥らないように、徐々に徐々に身体に吸収されていく、自分の補給方法を確立していく必要があります。
一般的に固形物の場合は吸収がゆっくりで、ジェル系のほうが早く、すぐにエネルギーとして使われる。その特性や自分の身体との相性を踏まえて、うまく使いこなさないといけないのですが、難しいのは、レースの気象条件や、コースの条件によっても、ベストな選択が変わってくるということ。
シンプルに言っても、暑かったり、タフなコースでは、身体・内臓への負担も大きくなりますので、普段よりも吸収しやすい補給を多めにしたほうがいい、といったこともでてくるわけです。
くり返しになりますが、これは実戦経験の回数を重ねていく中で、自分のやり方を見つけていくしかないですね。
「VAAMとほかの補給食との食べ合わせは?」
■VAAMと他の補給食との食べ合わせで良いもの、悪いものはありますか?(今井達也さん・2期生)
■レース中、VAAM摂取は糖分補給の代わりになるでしょうか? それとも、それぞれは別に考えて摂るのが良いでしょうか?(安田宗義さん・4期生)
山本 VAAMはアミノ酸系ですから、糖質系の補給食と一緒に摂るのは問題ないと思います。
VAAMは一口に17種類のアミノ酸が含まれていると言っても、長距離を飛べるスズメバチがもっているアミノ酸の配合を基にした、ベストなバランスで構成されているので、そのバランスを崩すような、ほかのアミノ酸系のものとの組み合わせは良くないかもしれませんね。
「補給タイミングは遅れてしまったときは、どうしたらいい?」
■ある程度、レースでの補給プランを決めたんだけど、タイミングがずれてしまうときがあるのですが、予定していた補給を摂るタイミングが遅れたとき、後半まとめてでも予定量を摂るほうが良いものか? 結局、できるだけ摂って、余らせてしまうことが多いのですが、実際セオリーというか正解はあるのかと。(尾崎 惠子さん・1期生)
■レース中に補給が食べられなくなった時の対処法を教えてほしいです。(平谷 隼さん・1期生)
山本 タイミングが遅れたからといって、帳尻合わせで一気に摂って成功することは絶対ないですよね。
どういう理由で摂り遅れるかはわかりませんが、水分にしてもエネルギーにしても、無理をして摂ろうとしても、かえって吸収が遅くなって、その後もさらに難しい状況になってしまう可能性が高いので、遅れたら無理のない範囲で摂れる範囲の補給をしていくしかない。
あとはしっかり後半でエネルギーになるものを、少しずつでいいので、胃への過度な負担になってパフォーマンスを崩さないように摂る。この「パフォーマンスを崩さない範囲」というさじ加減が難しいですが、これもレース経験を重ねていく中で、なんとなく「今日は体調が悪い」とわかったら、無理して摂ろうとしない。
メンタル面も大きいですね。自分の場合は、普段の練習のときから「例え補給ができなくなったとしても、最後までフィニッシュするぞ!」くらいの気持ちで、準備はしていましたね。
ただ、水分補給だけは、そうはいかないので注意。気温だけじゃなくて、発汗量なども個人の体質によって違う。自分なんかは過去のアイアンマン・ジャパンで、レース後の体重が3㎏増えていたことがありました。これはほとんど水分。気温30℃以上のすごく暑いレースで、ランを2時間55分くらいで帰ってくるのですが、あまりにも暑いのでエイドステーションでスポーツドリンクとか水とかコーラを飲みまくったんですね。で、吸収できないから、ただ水分がお腹にたまっていただけだったんでしょうね。
こうなってしまうと、もう飲んでも飲んでも身体は冷えないから、直接身体を冷やすしかない。脚が冷えるようにバイク・パンツに氷を入れたり。首のあたりを氷で冷やしたり。いかに筋温を上げないようにするかは、暑いレースでは大事ですよね。筋温が上がれば、当然その分パフォーマンスは落ちますから。
■レース中(バイク)のドリンクですが、数ヶ所給水もありますが、スタート時何本ボトルをセットするのが安全圏ですか?(遠藤大介さん・3期生)
山本 基本的には2本、いわゆるダブルボトルは必要。自分の場合は、そのうち1本をエナジージェル、もう1本を水分補給用にしていました。
ぬるいよりは冷えているほうが身体も冷やせるから、多少ボトルに中身が残っていても、エイドステーションごとにボトルを交換してもらうといいですね。
■セントレアのようなミドル以上のレースで、一度もトイレに行かない人っていますか? 僕はセントレアでは3年連続、いつもバイクが終わったあとトイレに行きたくなるので、このタイムロスがいつも悔しくて、水分補給がうまくいっていないのかなと思うこともあるんですが。(前田さん)
山本 補給は大事なので、トイレを気にするあまり摂らないよりは、しっかり摂って、トイレにいきたくなったらいったほうがいい。それは悔しいではなくて、割り切って、その分、パフォーマンスを上げましょう。
発汗量とか代謝など個人の体質にもよるんですが、私自身も現役時代、ミドル以上であれば何度かレース中、トイレには行ってましたから。