Text by Mika Tokairin
Photographs by Kenta Onoguchi
僕たちがⅤ型バイクに見た未来
近年の急速なトライアスロンバイクの進化に火をつけたキーパーソン、TJトラクソンが来日。メイストームの大西祥司代表とV型バイクとトライアスロンバイクの未来について語り合った。
DIMOND BIKES創業者・オーナー。今年10月のKONA(アイアンマン世界選手権)にも出場が決まっている現役プロトライアスリート。そのマルチな活躍ぶりから「トライアスロン界のイーロンマスク」の異名をとる。
V型フレームの「ソフトライド」をはじめ、数多の最新バイク&アイテムをいち早く国内に展開してきたメイストームインターナショナル合同会社CEO。
ロードレース規定を変えた!? 速過ぎるV型バイク
――今、トライアスロンに特化したUCI規格外のバイクがどんどん出てきています。異形バイクの群雄割拠というこの状況をどう考えていますか?
TJ■まず、僕がDIMOND BIKES(以下ダイアモンド)を手がけるようになった経緯から説明したい。このフレーム形状というのは僕の発明ではなく、以前あったものに改良を加えたものなんだ。1996年アトランタ五輪を境に自転車競技のUCIルールによって、いわゆる「異形バイク」が自転車界から姿を消した。
ただ、トライアスロン界では合法だったため、僕は少し型の古いV型バイクに乗ってて、2011年のIMレイクプラシッドでは、そのバイクで初優勝している。速くて良いバイクだったけれど、改良が必要だった。
そこで、つきあいのあったZIPPのエンジニアとともに、V型バイクをつくり、それでIMモントレブランに出場したら、バイクとランの両方でコースレコードを叩き出して優勝できたんだ。そこで、自分たちのやってることは正しいという確信がもてた。
大西■V型バイクの元祖は90年代に出たソフトライド。あの形状って、空力的にすごく理にかなってるんですよ。サーヴェロが94年に会社を起こした時も、最初に作ったのはV型だったんだけど、量産モデルには至らなかった。
一方のソフトライドは、アメリカの「サターン」っていうロードチームが使ってて、そこがソフトライドであまりにも勝つものだから、レギュレーションが変わったって言われている。そのぐらいのアドバンテージがあったんです。
————今、ダイアモンドの登場によってそのアドバンテージに再び注目が集まり、さらに他メーカーもその流れに乗ってきているわけですよね?
TJ■素晴らしいことだと思う。トライアスロン界全体のイノベーションだからね。今僕が着てるダイアモンドのTシャツの背中には「Let them chase you」(後追いさせてやれ)とあるんだけど、それにはふたつの意味があって、ひとつは、僕が一番だからみなさん後ろからどうぞってこと。
もうひとつは、ウチのバイクは一歩先をゆく先進的なもので、他は後追いだってこと。ダイアモンドのエアロダイナミクス性能はどこにも負けないし、今後も他に先駆けて進化を続ける。
これから10年はディスクブレーキの時代になる
————フレーム形状以外にも、最近のトレンドとしてDHバーの角度がありますよね。
大西■そうそう、今、コナでトップクラスの選手の間ではアップライトタイプのDHバーを使う選手が増えてきてる。女子では昨年2位のルーシー・チャールズがこのタイプ。これも、もとはといえばTJが10年前からやってたことなんですよ。
————この会場に飾ってあるレースバイクはTJさん自らが自分に合わせて改良している世界に1台のバイクで、面白い工夫がいろいろ入ってるんです。ちょっと説明してもらいましょうか。
TJ■DHバーのこの角度はいろんな利点があるんだ。7年前、風洞実験をしたら、水平にしても、このぐらい前を上げても数値はほとんど変わらないという結果が出た。ならばより快適な角度を探そうと。ヒジ置きも自作。カーボン製のシェルを作ってそこに子ども用のサッカーのスネ当てとフィジークのパッドを貼り付けている。
大西■腕と腕の間にボトルケージが付いてるんだけど、これは空でもボトルはつけっぱなしなんだって。風を巻き込まないようにするために。
————ディスクブレーキは今後の主流になりそうですか?
TJ■雨のレースに出た人ならわかると思うよ、圧倒的な制動力の差が。どんな悪天候でも高い性能が保証されているというのは、自信をもって攻られるってこと。これから10年はディスクブレーキの時代になるはずだ。
大西■それに伴って今品薄になるほど売れてるのがディスクブレーキ仕様のディスクホイール。結局みんなラクしたいってことだよね(笑)。もうひとつ、ディスクにするといいのは、太いタイヤがはけること。今、世界のトップは28Cを使ってるんです。グリップも乗り味も良いからね。でもリムブレーキだと入らない。そういう意味でもこれからはディスク。
————では、さらに先の、トライアスロンバイクの形とは?
TJ■すべてにおける統合だね。まずはハイドレーションや道具類のストーレージを一体化すること。全てがエアロダイナミクスのひとつのパッケージとして考えられるべき。究極は乗り手とマシンの一体化。これからは、人とバイクがひとつの塊となって、エアロ性能を追求していくことになるだろう。
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