ダイアモンドよ永遠なれ。
満を持してディスクブレーキ・モデルをリリースしたDIMOND BIKES。TJトラクソンが語る、止まらない進化の行方と、その源泉と。
TJトラクソン
DIMOND BIKES創業者・オーナー。今年10月のKONA(アイアンマン世界選手権)にも出場が決まっている現役プロトライアスリート。そのマルチな活躍ぶりから「トライアスロン界のイーロンマスク」の異名をとる。プロトライアスリートになる以前、産業エンジニアとして勤務していた経験ももつTJ。ダイアモンドの進化(製品開発)の根底にはトヨタ式「カイゼン」システムのノウハウが生きているとか。
繊細なバイブレーションで身体へのダメージを抑える
――そもそも、V型バイクに興味をもったのは、どういう理由からですか?
1番はエアロダイナミクス性能。トライスロン、特にアイアンマンはノンドラフティングレースなので、自分の力が頼りのピュアなレースになる。その場合、同じパワーでよりスピードを上げるには空力性能の底上げが必要だ。トレーニングによって出せるパワーを上げるとか、レース中のペース配分でもタイムを縮めることはできる。ただ、それらに比べエアロダイナミクスは格段に大きな要因となってくる。「より速く」というアスリートにとっては必要不可欠な要素なんだ。
もうひとつ、V型バイクの大きな利点は快適性。カンチレバーデザインなので、路面の凹凸に対してわずかな動きでリアクションしてショックを吸収してくれる。形状から想像するようなスプリング状の上下動というより微細なバイブレーションで、実際に感じることは少ないが、悪路でジワジワくるダメージを緩和してくれて、荒れた路面を走るときの身体へのダメージは格段に少なくなるはずだ。これも、バイク時間の長いアイアンマンアスリートにとっては非常に重要な要素。
僕は以前ZIPPのテストライダーをしていて、風洞実験などにも呼ばれていたんだけど、ホイールのテストの際に、2001年のZIPPのV型フレームを使ったことがあるんだ。当時トライアスロンバイクの最高峰と言われたサーヴェロP3と比較をしたら、ほとんどテストでそれより良い数値を出した。その時その15年前のバイクに大きな可能性を感じたんだ。
アップライトなDHポジションを実現するハンドルバー
――近い将来、新しいオリジナル・ハンドルバーも発売されるそうですね。
僕はバイクの究極の形とは、あらゆるものの「統合」だと思っていて、そういう意味でハンドルバーの発売も統合の過程だと思っている。アップライトのエアロバーもそのひとつ。昨年からようやくコナのプロフィールドで見かけるようになったスタイル。ルーシー・チャールズやティム・ドンがこのタイプを使っている。僕自身は10年前から使ってきたものだけどね。
――当時、独特のスタイルという見方をされてましたが、発想の源は?
1988年にツール・ド・フランスで優勝したグレッグ・レモンが、スコット製のDHバーを初めて使ったんだけど、スコットは当時スキーメーカーで、DHバーはスキー選手の滑降(ダウンヒル)時の身体の使い方をイメージして生まれたもの。それが、こんな風にヒジを支点にして腕を立てる形だったんだ。これについても風洞実験を行っていて、データに基づいて現在の角度を編み出してる。
現役プロ選手がもつブランドだからできること
――このハンドルバー、アメリカではすでに何カ月待ち、みたいなことになっていると聞きました。まさに先見の明ですね。何を指針に新しい技術を取り入れるんですか?
僕はデータに基づいてすべてのことを決めている。そのデータを導き出すために、テストにはしっかり時間をかける。僕の会社の強みは、自分自身が選手であり、エンジニアであり、ビジネスオーナーであること。選手自ら実験を行い、データを読み、判断を下して商品化する会社は他にはないよね。
通常は、選手がメーカーに呼ばれて「この新製品を使ってくれ」と渡されるだけ。検証したデータが示されることはまずない。僕は、他人の考えと違うことを気にすることはない。人の考えと同調すると、そこで一歩遅れてしまうかもしれない。いつでも人より一歩進んでいたいし、10年後には今いる場所よりもっと先にいたいんだ。
――企業人だった頃、「カイゼン」システムに影響を受けたそうですね。
産業エンジニアとして勤務していた大手アルミ製造会社の製造現場で、トヨタ式カイゼンシステムを叩き込まれたよ。その魂は今も自分の中にある。実行し、検証し、カイゼンすることで、常に向上し続ける仕組み。それが今の自分を作っているとも言えるね。
◎問・ウインクレル TEL045-681-0105