仕事にもトレーニングにも疲れを残さない!
トライアスリートのためのケア&コンディショニング
今年はコロナ禍でトライアスリートにとっては不完全燃焼のシーズンとなったが、例年であれば過酷なレースやトレーニングの繰り返しで、身体も疲れ切った状態でオフシーズンを迎えるころだろう。そこでこの機会に改めて、オフシーズンの身体のケアをおさらい。
元プロトライアスリートで現在は鍼灸師・コンディショニングトレーナーとしてプロアマさまざまな人のケアを行っている大河内智未さんとともに、来シーズン以降のパフォーマンスアップに繋がるケアを学んでいこう。
指導=大河内智未
文=光石達也
写真=小野口健太
大河内智未 Satomi Ohkochi
鍼灸・マッサージ治療院「Re:Birth」代表。コンディショニングトレーナー。日本選手権などで活躍するトップトライアスリートだった経験を生かし、治療以外にもストレッチやスイム、ランなどのトレーニングプログラムを提供する。Luminaのオンラインセミナー「トライアスロンLAB」でストレッチ&スイムの陸トレセミナーを開催中。http://sss-rebirth.com/
オフシーズンは内臓の疲労にも注目
レース、トレーニングに打ち込むあまり身体のケアを怠ると、ダメージが蓄積し、トライアスロンを長く続けられなくなると大河内さんは指摘する。
「トライアスロンを始めて3年ぐらいは、睡眠を削ってトレーニングをガンガンやって身体を痛めつけることで、速くなったように感じるでしょう。しかし、3年間無理を続けるとだんだん身体がボロボロになって、自律神経のバランスが悪くなってきます。急に不整脈が出たり、心拍数も上げにくくなります。
そこで、トライアスリートがやるべきことは、オフシーズンは身体もオンからオフにすること。トライアスロンを健康的に楽しく長く続けるためには、オフシーズンのケアが重要です」
シーズン中に蓄積される疲労は、大きく2種類に分けられると大河内さんは言う。
「ひとつ目は、内臓の疲労。内臓に元気がないと、身体の回復のためにいいものを摂ろうとしてもうまく吸収されず、なかなか回復しません」
「ふたつ目は筋肉の疲労。トライアスリートは筋疲労が相当溜まっていると思うので、いかにとりのぞいていくかが大事です。これはオフだけでなく、1年通してやっていくべきことでもあります」
筋肉の疲労に比べると、内臓の疲労は自分でも意識しづらい人も多いのではないだろうか。また、今年はコロナ禍で会食の機会も少ないだろうが、例年であればシーズン中に節制していた分、気持ちが解放されて食事やお酒の量が増え、さらに内臓に負担をかける人も少なくないだろう。
「トライアスロンは仲間同士で楽しくやっている人も多いですよね。例年であれば、シーズンを終えると仲間たちとの会食で暴飲暴食気味になることもあるでしょう。その結果、年末年始に体調を崩す人もすごく多く、治療に来る方も皆さん内臓の疲労がとれていません。そうなると、次のシーズンの練習開始にも響いてきます」
「もちろん“お酒を全く飲むな”というとストレスになるし、ストレスを貯めるとかえって身体に悪い。楽しむことでストレスはなくなるので、身体のケアをしながらであれば、多少好きなものを食べたり飲んだりするのも悪いことではありません。ただ、内臓を冷やすとよくないので、冷たいものを飲むときは食事を鍋など暖かいものにして調整しましょう」
内臓の疲労はセルフマッサージで解消
内臓の中でも特にケアをすべきなのは胃、肝臓、腸だ。これらが不調なときは、どのようなサインが現れるのだろうか? まずは胃について。
「胃の調子が悪いときは、胃がいつまでもムカムカして、なかなか消化される感じがしませんし、さらに動くとチャポチャポと音がするような感じがします。レース後半の疲れているときにドリンクなどを補給するとチャポチャポする感覚があると思いますが、それと同じような状態です」
次は肝臓。直接、食物が通る器官ではないが、身体のパフォーマンスに与える影響は小さくない。
「過度なトレーニングすると、肝臓の疲労も溜まってきます。またお酒の量、甘いものの摂取量が増えることでも、肝臓は疲れてきます。肝臓の疲れが出てくると、筋肉がつりやすくなります」
栄養を身体に取り込む腸からは、どのようなサインが発せられるのか?
「腸がたくさん消化吸収していく中で疲労すると、おへその周りが硬くなったり、冷えたりする兆候が出てきます。基本的には血流をよくして、腸が温まる状態を作らないといけません。
そのためには血液は身体の中心から脚へ流れてまた戻ってくるので、この戻りを速くしてあげるのが重要です。しかし、股関節の鼠径部の“つまり”が強いと血流が悪くなるので、この“つまり”をとるストレッチを自分でやってみるのも大事です」
シーズンを通して身体を酷使してきた人には、もちろんそれに見合ったダメージが身体にも残るという。
「たとえば1年間にアイアンマンを何度も走ったような人は、身体全体のエネルギーが枯渇し、おへその下の丹田と言われるツボに指がズブズブと沈み込んで、力がなく跳ね返ってこないんです。この場合、体全体のエネルギーを上げるようなツボを刺激するのが必要です.
こうした内臓疲労を軽減する手段として、治療を受けたり、薬やサプリメントに頼ることを考えがちだが、自分で脚などのマッサージを行うことで、日常的にケアできるという。もちろん、マッサージで筋肉を緩めることもできるので、内臓と筋肉の両方の疲労に効果が期待できる。
「まずは内臓を休ませることが大事です。それでも食べ過ぎ、飲み過ぎが心配なときは自分でケアをしていきましょう。内臓の治療は自分ではできないけど、脚のマッサージなら自分でもできますよね。脛の内側、足の指の間、足の裏、どの場所をマッサージするのが胃腸が疲れているときに効果的か覚えれば、自分でも簡単にできるようになります。
内臓の疲労をとるためには、リンパの流れをいい状態にもっていくことも大事。首、脇の下、鼠径部、お尻などリンパの通り道をマッサージでリラックスさせることで疲れがとれます。暴飲暴食しやすいときに試してみて、それでも疲労が残る場合は、鍼灸などの治療もおすすめします」
【内臓疲労や冷えなどを解消するためのツボ押し&マッサージ】
【筋肉疲労&内臓疲労を解消するためのストレッチ】
【一連の流れを動画でチェック!】
【お尻まわりのストレッチ】
睡眠の質向上が内臓を整える
もうひとつ、忘れてはいけないのが睡眠だ。「内臓の調子を整えるためには、睡眠の質を整えることが大切」と、大河内さんは説く。
「疲れていると、逆に寝不足が続きます。特に首、肩周りが張っていると眠りが浅くなります。自分でもケアしやすいので、頭をマッサージしたり、後頭部を緩めたりしてから、眠りに入る癖づけをしましょう。ちゃんと深く眠れるようになれば、胃腸の調子も整えやすくなるので、いいスパイラルを作れるといいでしょう」
リラックスするためには、アゴの横の咬筋のマッサージも効果的だ。
「咬筋がガチガチに張ってくると、首周りが硬くなってきます。こめかみをくるくる回すマッサージで緩めましょう。トライアスリートなら身体が戦闘態勢になっているのをオフにできますし、小さい子どもが癇癪を起こしたときも同じようにしてリラックスさせることができます。
緊張を1回ふっと抜いてあげることで副交感神経がリラックスして。内臓の働きもよくなるスパイラルになるでしょう」
【首・肩周り】
【首周りのストレッチを動画でチェック】
【疲労回復に欠かせない良質な睡眠に効くストレッチ】
丸まって固まった筋肉の緊張を解き放つ
もちろん、筋肉の疲労回復もトライアスリートには避けて通れない問題だ。これまで見てきたように、内臓のコンディションとも密接な関係がある。特に仕事をしながらトライアスロンを頑張っている人が陥りやすいポイントがあるという。
「レースなどで興奮して力を使って疲れていると、筋肉の緊張が高くなります。筋肉が硬くなると、もちろん動きが悪くなっていきます。特に人間の身体は腹筋、背筋など内側に丸まるほうに力が入りやすい。
自転車のフォームも長い距離を前傾姿勢で走るし、また普段はデスクワークでパソコンに向かっている人も、身体が内側に丸まりがちですよね」
「この状態が続くと、肩周りの筋肉が内側に巻くかたちで固まって、肩が上がりにくくなります。だから、身体を後ろに反るように開いて良い状態に戻す、いかに身体のロックを外して関節の動きを広くするかが、重要です。
凝り固まった状態でトレーニングを続けると、故障の原因になります。特にデスクワークの人は前かがみで座っている姿勢で固まっていることが多いので、必ず身体をリセットさせてから動くようにしましょう」
筋肉をストレッチする場合も、見落としがちなポイントがある。
「ストレッチは、ほとんどの人は“やってるつもり”でちゃんとできていません。筋肉は繊維がいろんな角度でついているので、たとえば同じ動きのストレッチでもいろんな角度で伸ばさないといけない。首、肩や手首、股関節や足首の角度を変えながら、ストレッチするのが効果的です」
☑重心の位置……軸がぶれてしまうとストレッチが効かない
☑角度……同じ形でも角度によって伸びる場所、ターゲットが変わる
☑呼吸……身体をほぐすために呼吸は止めずに行う
ケアとしてのアミノ酸補給とは?
筋肉のダメージをつみとるためには、サプリメントを活用してアミノ酸を補給するのも有効策のひとつだ。
「コーチをしていたときに選手と一緒にトレーニングすると、もちろん自分の身体にもダメージが残るのですが、選手優先で自分の身体のケアまではできないときは、アミノ酸をよく摂っていました。翌日も仕事があるというときは、助かります」と大河内さんも愛用者だ。
「アミノ酸は速やかなリカバーを促してくれます。とはいえ、一度に大量に摂れば効くというものではなく、必要な分を身体に補充してあげるというイメージのほうがいいでしょう。特に筋肉を傷めつけたインターバル系のトレーニングの後は忘れずに摂るようにしましょう」
レースやトレーニングでの具体的な摂り方はどうすればいいか?
「トライアスロンのレースを最後まで、うまく走り切りたいとき、補給の仕方はどうするの? というのは大きなポイントです。練習でもお客さんと一緒に『このタイミングで摂るのがオススメです』と指導しています。
レース中はエネルギーだけでなく、アミノ酸も摂ることでメリットを実感できるので、できるだけアミノ酸も一緒に摂るようにおススメしています」
「私の場合、アミノ酸をレース中に摂るタイミングは種目と種目の間、どちらかというとバイクからランへのときが多いですね。スイム後は水分補給系を摂って、粉末系はバイク後に摂る。
走っている途中だと忘れることもあるし、自転車に乗っているときは慣れないと危ないので、トランジション中がいいでしょう」
適切な身体のケアとアミノ酸補給で充実したオフシーズンを過ごし、万全の状態で新たなシーズンを迎えよう!