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上田藍選手と一緒に学ぶ進化したパワーメーター《SHIMANO CONNECT Lab》

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ルミナ編集部

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上田藍選手 ©KentaOnoguchi

トライアスリートこそ使いこなしたい
進化したパワーメーター

ロングで世界に挑んでいる上田藍選手と一緒に学ぶ、シマノのパワーメーター×SHIMANO CONNECT Labで実現できる最新パワートレーニング(データ解析と進捗管理)。

指導・監修=福田昌弘 コメント=上田藍 取材=光石達哉

上田藍選手 ポロシャツ ©KentaOnoguchi
上田 藍 Ai Ueda
リソル・稲毛インター所属、プロトライアスリート。オリンピック3大会連続出場。日本選手権7回優勝。2016年ITU世界ランキングで3位に入るなど数々の金字塔を打ち立ててきた。昨季よりロングへ主戦場を移し、IRONMANプロライセンスを獲得。世界のシリーズ戦を転戦している。この3月にはアイアンマンNZに参戦予定。福田昌弘さん
福田昌弘 Masahiro Fukuda
トレーニングスタジオ「ハムスタースピン」代表。日本スポーツ協会公認自転車コーチ。ペダリング研究者として国際会議での研究発表などを手がけ、2018年には、人体への理解を求めるために関西医科大学大学院博士課程に入学。シマノのパワーメーターのアドバイザーも務める。自身ホビーレーサーで、トライアスロン大会でのエイジ優勝経験ももつ。

SHIMANO CONNECT Lab

SHIMANO CONNECT Lab logo

パワーメーターでとった走行データの収集・分析が行えるデータクラウドサービス。SHIMANO ID登録さえすれば誰でも無料で活用できる。
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ロングディスタンスでこそパワーデータを活用したい

昨年からロングに転向し、コナ(アイアンマン世界選手権)を目指して世界を転戦する上田藍選手。オリンピックディスタンスではバイクは強みのひとつだったが、ロング転向でその距離が4倍以上延びたことによって、後半までパフォーマンスを維持してランにつなげることが少し難しくなってきたと感じている。

上田選手は今シーズンからバイクを一新し、コンポーネントもシマノ・デュラエースR9200シリーズを搭載。クランク型パワーメーター「FC-R9200-P」と、詳細なデータ解析が行えるデータクラウドサービス「SHIMANO CONNECT Lab(以下、シマノコネクトラボ)」を使い始め、もっと活用したいと考えているところだ。

「私がロンドン五輪前にパワートレーニングを取り入れたときは、まだトップ選手しか実践していなかったのですが、今は多くのみなさんが利用できるようになり、良い環境が整ってきました。でも、頭でっかちになってまだ使いこなせてない人が多いようで、トップ選手が公開しているメニューをそのまま行っている人も少なくない。いかにデータを自分に役立つように落とし込むかっていう作業をみなさんと共有したいですね」(上田選手)

パワートレーニングというと、筋力を上げてペダルを踏み込む力を強くするものだと誤解されがちだが、サイクリングコーチでシマノのパワーメーターのアドバイザーも務める福田昌弘さんは、ペダリング効率を高めることでパワーが向上すると唱える。

「バイクのペダリングはスイムの手のかきに近いと思っていて、それだけにトライアスリートと親和性が高い。しかし、そこに気づいているトライアスリートはまだ少ないようです。シマノのパワーメーターは詳細な解析機能があり、自分の身体がどう動いているかわかりやすく見えてくるので、活用してほしいと思っています」

バイクのパワーはトルク×ケイデンス

まずはバイクにおけるパワーとは何なのか、福田さんにあらためて解説してもらおう。

「パワーは日本語で言うと、『仕事率』=『仕事(力×距離)を時間で割ったもの』になります。バイクの場合、1秒あたりの仕事をパワーとすることが多い。計算式を変えると、『力』×『速度』がパワーです」

クランク型パワーメーターの場合、クランクを回転させる『力』=『トルク』、クランクを回す『速度』=『ケイデンス』となる。

「つまりトルク×ケイデンスの掛け算でパワーは計算されている。したがって、パワーを出したいのなら闇雲にペダルを踏みつけるだけではなく、うまくペダルを回してあげることが大事になってきます」(福田さん)

精度にこだわるシマノのパワーメーター

ここでパワーメーターの仕組みについて、簡単におさらいしよう。一般的なパワーメーターは、力を加えられたクランクなどが伸びたり縮んだり変形する量を「ひずみ計」によって計測している。家庭にあるデジタル式体重計も同じ仕組みだ。シマノのパワーメーターは、片側のクランクにつき12 個もの小さなひずみ計を最適に配置し、あらゆる角度の力を計測している。

「シマノのパワーメーターは何が優れているかと言うと、クランクそのものが硬い、剛性が高いんですね。もちろん、パワー伝達のためにはクランクは硬いほうがいいんですけど、パワーメーターとしてはゆがむほうが計測しやすい。この相反する条件を成り立たせているあたりに開発陣の苦労が感じられます」(福田さん)

またパワーの測定には、ケイデンスも計測しなければならない。近年は加速度センサーを使うのが主流だが、シマノはマグネットをフレームに貼る昔ながらの手法を採用している。

「このマグネットである理由ですが、実は加速度センサーだとケイデンスをあまり正確に計測できないんです。どこが回転の始点か終点かよくわからないので、10回転ぐらい回したところで、おおよそのケイデンスを出している。一方、マグネットはクランクが近づくたびにピッピッとスイッチが入るので、正確に測れる」(福田さん)

正確なデータ収集のためには、ショップなどでマグネット校正をしっかり行うことも必要だ。

SHIMANO CONNECT Lab 接線方向ベクトルと 法線方向ベクトル

 

シマノコネクトラボでデータ解析ベクトルとペダリング効率とは

シマノはパワーメーターのデータをアップロードして、表示・分析できるクラウドサービス「シマノコネクトラボ」を開設。さらにパワーメーターのファームウェアアップデートで、ペダリングのベクトル表示が可能となった。これらは福田さんが以前アドバイザーを務めていたパイオニアのペダリングモニターの技術をシマノが引き継いで新たに展開したものである。

ペダリングのベクトル表示だが、人間がペダルに加えた力がすべてクランクを回転させる力=トルクとなるわけではない。クランクに対して90度の方向(接線方向)でかかる力のみがトルクとなる。それ以外の無関係な方向にかかる力は、法線方向の力としている。図1

この接線方向の力と法線方向の力の合成ベクトルが、左右それぞれ円を12分割した30度ごとに表示される。ベクトル表示の円の中にある「%」の数値はペダリング効率だ。図2「シマノのペダリング効率は、分母が接線方向の力と法線方向の力の和、要するに自分が出している全体の力ということ。そのうち接線方向の力=回転に寄与している力(トルク)を分子として、ペダリング効率を出しています」(福田さん)図3=式

【図2 シマノコネクトラボで示される】
(ペダリング効果)

SHIMANO CONNECT Lab

後半までブレないペダリングを

データで確認シマノコネクトラボは、ベクトルやペダリング効率など様々なデータをあらゆる角度から見ることができるが、そのデータをどう読み解けばいいのか。上田選手も「機械が苦手なところもあるので、練習後、ひとりで少ない時間でデータを見返そうというときに、あまり多くを見ようとすると疲れることもあります。

一般の方でもデータを見るのが得意な人と不得意な人がいると思うので、これだけは見たほうがいいというポイントを知りたい」と悩みを抱えている。福田さんは、まず各ライドの時系列のグラフ(A)を見ることをお勧めしている。

【図3】

「時系列のグラフは簡単に見られるのですが、中でも一番見ているのはパワーとケイデンスがライドの前半と後半で安定しているか。後半、パワーが極端に上下しているとトレーニング強度が高過ぎたんじゃないかとかいう指標になります。またパワーはトルク×ケイデンスなので、ケイデンスが安定していないと、パワーも一定で出せてないことになる。

【グラフA ライドの「時系列」グラフ 〈一般サイクリストの例〉】
横軸が「走行時間」、黄色の線が「ケイデンス」(ペダリング回転数/分)、赤線が「パワーバランス」

SHIMANO CONNECT Lab

同じトレーニングをしていても、後半になってケイデンスがだんだんブレてくるのであれば、違うトレーニングを考えたほうがいいという目安になります」グラフAは経験豊富な一般サイクリストのデータだが、後半になるにつれてパワーとケイデンスが大きく上下して、安定していないのがわかる。

一方、グラフBはあるロード選手が昨年の全日本選手権で上位完走したときのデータ。高低差のある周回コースなので一定周期で数値が上下しているものの、福田さんは「200㎞以上の長いレースで、多くの選手が後半に向けて数値が下がっていく中、この選手は黄色のペダリング効率が最後までそれほど変わっていない」と評価する。

【グラフB ライドの「時系列」グラフ〈全日本選手権上位選手の例〉】
黄色のペダリング効率が最後までそれほど変わっていない。

SHIMANO CONNECT Lab

また、福田さんは、パワーとペダリング効率の相関図を作成し、比較することも多いという。一般的にパワーが上がると、ペダリング効率も右肩上がりに上がっていく。相関図Cは先ほどとは別の経験豊富なサイクリストだが、ほとんどのパワー域でペダリング効率に上下にバラつきがある。

【相関図C パワーとペダリング効率の相関図〈一般サイクリストの例〉】
ほとんどのパワー域でペダリング効率のバラつきがある。※左右の比較SHIMANO CONNECT Lab

一方、相関図Dは先ほどのロード選手で、レース前半と後半で同様の相関図を作って比較したもの。いずれもペダリング効率のブレが少なく、ほぼ1本の帯の中に収まっている。「スイムでもランでもそうですけど、上手な人は同じ動きをずっと繰り返すことができる。

反対に一般の人は疲れてくると身体が大きく動いたり、無駄な動きが出てくる。それがこのようにデータとして表れる。このバラつきを抑えるようなトレーニングをしていくことが大事なんです」

【相関図D パワーとペダリング効率の相関図〈日本選手権上位選手の例〉】
レース前半(左)と後半(右)で比較しても、ペダリング効率のブレが少ない。

SHIMANO CONNECT Lab

「SFR」でペダリングを改善つねにチェーンを引っ張る意識で

それでは効率の良いペダリングを身に着け、後半まで維持するにはどんなトレーニングがいいのか。福田さんは重いギヤを低ケイデンスで回すSFRを推奨する。

「SFRのポイントは、筋トレじゃなくてペダリングの練習だということです。脚に力を入れるのではなく、上手に回すことを心がけていくことが大事です」冒頭でも触れたように、ペダリング効率を改善するには、スイムの手のかきをイメージするといい、と福田さん。

「スイムのコーチはなるべく遠いところで水をキャッチして水圧を感じながら手をかけ――と教えますよね。自転車も同じことで、なるべく脚が高いところでチェーンを捕まえて、しっかりチェーンを引っ張って、後輪を回すことが大事。ところが、多くのトライアスリートがバイクに乗ると力の限り脚に力を入れてしまっているんです」

特に気をつけるポイントは上死点、12時の位置にクランクが来るときだ。

「もちろんクランクは接線方向に力を加えたときに回るのですが、上死点では下ではなく前に力を加えないといけないのが難しいところ。しかし、ここで下向きに力を加えてしまっている人が多い。上死点ではペダルを踏むのではなく、クランクを倒すイメージで動かしましょう。ペットボトルの上に脚を置いて、ペットボトルがゆがまないように倒すといった練習も効果的です」(福田さん)

ペダリング中はチェーンをつねに引っ張っている感覚をつかむことが、ペダリング効率を上げることにつながる。

「うまくペダルを踏まないと、フリーハブボディが噛まないまま動き始める。ずっとフリーからカチャカチャと音がして、チェーンがビヨーンビヨーンとしなっている。なるべくフリーが噛んだまま、一定の速度で引っ張り続ける練習をしましょう」

SHIMANO

シマノのパワーメーターは、片側のクランクにつき12個もの小さなひずみ計を最適に配置。クランクとしての剛性の高さと、パワーメーターとしての計測制度の高さという相反する条件を成り立たせている

また練習でロングライドをする場合は、最後までケイデンスを維持するように心がける。

「まず2時間の前半と後半でケイデンスを保つこと。これがそろえられるようになったら3時間、4時間とノンストップで行けるようにするといい。最初は自分が維持できる7〜8割ぐらいのケイデンスがちょうどいい。1回できたら、少しずつ上げていきましょう」

もちろん練習の後はシマノコネクトラボでデータを見返し、自らの進捗を確認することも忘れてはいけない。福田さんからのアドバイスは上田選手にとっても大きなヒントとなったようだ。

「パワーを楽に出すために自分に何が合っているのかを見つけるのが、シマノコネクトコラボの活用法のひとつなんですね。体感と実際のデータの両方をチェックして、ペダリングの質を上げていきたいと思います」(上田選手)

 

SHIMANO パワーメーター

 

FC-R9200-P
DURA-ACE デュアルサイドパワーメーター
ホローテック II クランクセット(写真)
■平均重量(g):745 (50-34T)、 752 (52-36T)、
774 (54-40T)
■パワー測定|ひずみセンサー数:24
■精度(%):±1.5
■バッテリー寿命:300時間以上

FC-R8100-P
ULTEGRA デュアルサイドパワーメーター
ホローテック II ロード クランクセット
■平均重量(g):758 (50-34T)、 769 (52-36T)
■精度(%):±2
※ひずみセンサー数、バッテリー寿命は
DURA-ACEと同じ。

◎問い合わせ
シマノセールス自転車お客様相談窓口ナビダイアル
TEL0570-031961
https://bike.shimano.com

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