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トライアスリートに必須の成分!? 筋肉の“質”を高めるイミダとは?

投稿日:2017年8月17日 更新日:


ルミナ編集部

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取材=今 雄飛、写真=小野口健太

タンパク質、アミノ酸などの効果については、トライアスリートならおなじみの話。トレーニングによって傷ついた筋肉の材料となることもあれば、筋肉のエネルギー源になることもあり、日々その効果を実感していることだろう。実際にこれらの中でもっともポピュラーなアミノ酸、BCAAをトレーニングやレース中に摂取しているトライアスリートは多いのではないだろうか。

最近、筋肉に働きかける新しい成分としてアスリート方面をザワつかせているのが「イミダゾールジペプチド(イミダ)」。このイミダは、2つのアミノ酸が結合したジペプチド、カルノシンやアンセリンの総称。鶏のムネ肉をはじめ、カツオ、マグロといった魚類まで、多くの動物の筋肉に含まれる物質。もちろん人間の筋肉の中にも存在している。

パワーだけではなく、持久力にも効果的

このイミダを15年に渡って研究をしている日本ハム㈱中央研究所の研究によると、イミダ(カルノシン)の筋肉中の濃度が高い人ほど、運動パフォーマンスが高いことが分かっているという。

Suzuki et al., Jpn. J. Physiol. 52: 199-205, 2002

11人の健康な男性を対象に、筋肉中のイミダ(カルノシン)量と運動パフォーマンスの関係を調査したのが、右のグラフ。体重の7.5%の負荷をかけたエルゴメーターを使用し、30秒間の全力ペダリングにおけるパワーを測定。その結果、太ももの筋肉に含まれるイミダ(カルノシン)濃度が高い人ほど、高いパワーを示したという。

イミダでパフォーマンスが高まるワケ

ではなぜイミダが筋肉中に多いと、運動パフォーマンスが向上するのだろうか?  通常、運動をすると筋肉中に乳酸がたまる。乳酸自体は疲労物質ではないが、その酸の作用により、中性だった筋肉のpHは下がって(酸化して)いく。筋肉が酸化していくと、筋収縮を妨げるため、結果として運動が継続できなくなるという。しかし、イミダにはpHの低下を抑える緩衝作用があり、筋肉のpH低下を抑制した結果、運動を継続できる(パフォーマンスが向上する)と考えられる(※1)。

食品として摂取しても効果あり

イミダは主に速筋に含まれることが多く、アスリートによってその濃度には差がある。しかし先天的にイミダ濃度が少なくても、食品から摂ることによって濃度を高められる可能性があり、さらにそれがパフォーマンスを高めることにもつながるという。

被験者にイミダを含んだ食品を摂取させた後、5秒間の全力ペダリングを10セット行ってもらった。さらに日にちを変えて同じ被験者に今度はイミダを含まない食品を与えて同じ運動をしてもらった。

イミダを含なまい食品をとった場合は、セットが増えていくごとにパワーが落ちていったが、イミダを摂取した場合は、パワーの低下が抑えられた。イミダを食品として摂取することは、競技後半のパフォーマンスアップ、長時間の運動に対しても効果があるのだ(※2)。

また、イミダは長期間摂取を続けることで筋肉中に蓄積させることが可能。身体にローディングされ、その濃度が増加(※3)。筋肉中のイミダ濃度が高まった人ほどパフォーマンスも高まっていたという。

筋肉の“質”を高めて
パフォーマンス、リカバリー力を向上。

長期間摂取することで筋肉にローディングされ、パフォーマンスアップにつながる。また運動中だけではなく、運動後の筋肉痛にも効果がある(※4)。

BCAAなどとは違い「筋肉を作り上げる」「補強する」物質ではない。常日ごろから摂取することで、筋肉の状態を常にベストな状態にしておく物質。

筋肉の質が高まることで、コンディションがアップし、パフォーマンスがアップする。トライアスリートに必要なパワーと持久力に大きく関係するイミダ。

加齢によって減少していくことも確認されている。30代~40代が多いトライアスリート。コンディショニングのために、日々の生活の中で積極的に摂っていきたい。

《本文注釈》
※1

国立スポーツ科学センターと共同で行った研究。12名の健康な男性を被験者に、イミダ4gを含んだ食品もしくはイミダを含まない擬似食品を30日間摂取してもらいました。摂取期間の前後に、 MRS()を使い、運動をしながら筋肉のpHを測定。

※MRS :  magnetic resonance spectroscopyの略。磁気共鳴分光法。対象分子の磁場を測定することで、生体内の各種成分を非破壊で定量することができる。

イミダを摂取した群では、擬似食品を摂取した群に比べ、疲労困憊になるまでの時間が長くなっていることが分かる

 

国立スポーツ科学センターとの共同研究(Maemura et al., 11th ECSS, 2006)
運動により筋肉中に乳酸がたまると、酸の作用により、筋肉のpHは下がっていくが(グラフ○)、イミダを摂取すると(グラフ●)、筋肉のpH低下が抑えられている

 


※2

イミダを食品として摂取した時の運動パフォーマンスについても調査。健康な男性8名にイミダ1.5gを含んだ食品を摂取させ、30分後に体重の7.5%の負荷をかけたエルゴメーターにより、5秒間の全力ペダリングを10セット行った。また、同じ被験者に対し、日にちを変えて、イミダを含まない擬似食品でも同様の試験を行った。

その結果、イミダを含まない擬似食品を摂取させた時には、セットを重ねるごとにパワーが落ちていったが(下のグラフ●)、イミダを摂取させた時は、このパワーの低下が抑えられていた(下のグラフ)。つまり、イミダを食品として摂取すると、運動パフォーマンスが向上することが確認された。

筑波大学との共同研究(鈴木ら, 体育学研究 49: 159-169, 2004)

※3
イミダを食品として摂取した時の筋肉中の変化。
健康な男性8名にイミダ含有食品を30日間摂取させ、摂取前後において、被験者の太ももの筋肉(外側広筋)に含まれるイミダ(カルノシン)濃度を測定。また、体重の7.5%の負荷をかけたエルゴメーターにより、 30秒間の全力ペダリングにおけるパワーを測定した。

その結果、イミダを30日間摂取した後には、筋肉中にイミダが蓄積していることが分かった。また、運動テストの結果、筋肉中のイミダ(カルノシン)が増えたヒトほど、パワーが増加していることが分かった。(もともと筋肉中にイミダが少ないヒトにおいて、顕著な結果が見られた。)
つまり、食品としてイミダを摂取すると、筋肉中にイミダが蓄積し、パフォーマンスが向上することが確認された。

筑波大学との共同研究(佐藤ら, 体力科学 52: 255-264, 2003)

 

※4
健康な成人男性10名に、200回のスクワット運動をさせた後、イミダ2gを含んだ食品を4日間摂取してもらった。スクワット運動の前、1日後、2日後、3日後、4日後に、科学的なアンケート手法VAS()を用いて、主観的な筋肉痛の度合いを評価。また、同じ被験者に対し、日にちを変えて、イミダを含まない擬似食品でも同様の試験を行った。

その結果、イミダを摂取した時には、疑似食品を摂取した時に比べて、痛みの程度が低くなっていることが確認されました。

環太平洋大学との共同研究(前村ら, 環太平洋大学研究紀要 1: 83-87, 2008)

※VAS: visual analog scale の略。 主観的な痛みの調査方法。10cmの直線上で、両端を【痛みがない状態】、【これまで経験した一番強い痛みの状態】として、現在の痛みが10cmの直線上のどこにあるかを示す方法。医療の場で多く使われる調査方法。


取材協力=日本ハム㈱中央研究所

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コメント

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  1. 友人が普段筋肉痛になるトレーニングを、事前に飲んでやったところ筋肉痛にならなかったと言ってました。
    より多くのトレーニングが可能になればより効率的なトレーニングができそうですね。

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