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「介護食」をフル活用して宮古島トライアスロンを完走

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ルミナ編集部

text by:

©Kenta Onoguchi

トライアスリートで介護食アドバイザーの高瀬 誠さんが「トライアスロンの補給食に介護食を活用する」をテーマにさまざま観点から、実際に宮古島トライアスロン完走をするまでを3回に分けてレポートしてくれた。補給食に悩みがある人、また初めてロングレースに出場する人など、ひとつの方法としてぜひ参考にしてみよう。

まずは、こちら
「Vol.1 ここが変だよ! トラメシ」
「Vol.2 レースで使う介護食のセレクト方法」
からどうぞ。

介護食deトライアスロン vol.3―最終回―

宮古島トライアスロンで実践リポート

コラムの最終回は、実際に宮古島トライアスロン大会で介護食品を補給食に使用した様子をそのパッケージ形態や使った評価を含めてリポートする。

なお今回は、レースで使う補給食=自分で持っていくものとしては介護食品のラインナップを揃えて、その他はエイドで出される飲み物や食べ物は摂ってもOKという、セルフルールにしている。
またその記録は、カメラマンが常時同行してくれる訳ではないのでスマートフォンを持参して自分で撮る。これもセルフ方式なので結構荷物が多かった!

ちなみにレース向けに用意した介護食品は、パートごとにパッキングして結構なボリュームになった(ちなみに、コラムを見ている人はこれらを全部揃える必要はなく、普段の補給食に2~3品加えるだけでもOK)。

今回の宮古島トライアスロンでは、レースの1週間前から使用する補給食に慣れていき、レース前後にも調整や回復向けの栄養管理を務めたので、時系列で試したアイテムを紹介していこう。

レース前

コンディション調整を兼ねた、慣らし補給

レースの数日前から補給は始まっていると言うほど大層なものではないが、コラムの1回目で挙がったように、レースでいきなり補給食を使って味や使いやすさ、胃腸などの不具合を避けるためにレースで使うものを慣らし運転程度に試しておいた。

ここでは補給食の絶対的エースとなる濃厚流動食を週に2~3品走った後に試してみて、味のテイストや後味の濃厚さを検証し、サッパリ風味のいちご味とバナナ味をセレクションした。

また、レース前の食事・栄養敵に特別なことはあまりしないが、たまに聞くカーボローディングと称した炭水化物を大食いして身体に負担や体重増を招くよりも、食事はむしろ普段通りに済ませてどちらかというとコンディションを整えるほうに重きを置いた。

そのためには、普段の食事に野菜・果物が足りなければ飲料パックを摂り、腸内環境を整えるために乳酸菌を摂って、身体の内側からのコンディションを整えておくことに集中した(このあたりは市販の野菜ジュースや乳酸菌飲料でも十分カバーできる)。

さらに、今回も宮古島のレース2日前に現地へ移動したが、せっかく沖縄・宮古島に来たので現地の食事を楽しみながら競技説明会では一緒に出るメンバーと一緒にオリオンビールで乾杯!

宮古島トライアスロンならでの、ワイド-パーティーを楽しむ

レース直前(スイム)

軽めのモグモグタイム
レース当日は、ホテルで通常の食事を摂り、会場に向かいつつスタート時間が近くなるにしたがって、こまめに摂るのが写真のような一口サイズのゼリー。

レース直前でこれから必要になるエネルギーを手早く摂取するのが目的だが、このゼリーはパッと見は一口サイズの果物ゼリーなのに1粒(23g)でエネルギーが80kcalと高く、ミネラル・ビタミンも揃い、さらに消化効率が良いという3拍子揃った機能的な栄養食品ゼリー。

1袋に24粒ほど入っており携帯して食べやすく、食べても負担にならないので一緒に走るトラメンバーにも分けて、レース展開の会話をしながら補給していくモグモグタイム。

スイムアップ

ここからが本格的な補給スタート
スタートして泳ぎながら補給するのは難しいため、スイムアップしてからのバイクで本格的な補給も開始していく。やはりトライアスロンのロングレースでは、バイクパートが最も長く、補給する上でもキーとなる。

よくあるバイク補給では、高カロリーのジェルをドリンクシステムに詰め込むケースや、エナジーバーなどの固形物を小分けにしてボックスにセットするケースがあるが、やはりこれらは普段ではありえないくらいの高カロリーを、慣れない姿勢で食べることになる。

それらが食欲不振や吐き気、腹痛や下痢につながり、結果的にレースでのパフォーマンスをダウンさせてしまう。今回のレースでは『やさしい補給食』を切り口に、食べることや栄養面に配慮された介護食品をロングレースの補給食に活用することを目的に次のような食形態を2パターン試してみた。

補給する食形態のパターン

バイク中

濃厚流動食をエナジーボトルに
バイクに乗りながらの補給に適しているのが濃厚流動食で、これは総合栄養タイプの乳飲料。小分けのパック飲料のようなパッケージになっていて、分量125mlあたりに200kcalと高エネルギーで、且つその栄養価も糖分、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラルのバランス良い(整腸作用もある)。

レースでは前日に煮沸消毒したドリンクボトルに濃厚流動食を入れて、冷蔵庫で保存して携帯する哺乳瓶のようなスタイルで用意していった。これだけ見るとジェルをボトルにするエナジーボトルと一緒のように見えるが、濃厚流動食の特長は主要な栄養素をカバーしてそのバランスも良いので身体を動かすエネルギ―だけでなく、身体を造る・調整する役まで果たす、まさに栄養のオールラウンダー。

糖質中心でカロリーの高さばかりを追求する、スプリンターのようなジェルとは大きく違ってくる。これをバイクパートでは15~20分に1口ずつ飲み、飲むときにはちゃんと噛んでいく。

ちなみにトレイルランニングで有名な鏑木毅さんも補給ジェルを摂るときは噛むようにしているそうで、レースをしながら唾液の分泌や消化機能を働かせることも大事になる。

時には停まって食べて、心身のリフレッシュ
そして今回のレースでは、エイドやスペシャルニーズで停まって摂る食形態のパターンも用意した。レース中に停まって食事なんて流暢にしていられないと思われるかもしれないが、これはあくまでエイジグルーパー向けで、タイムや順位ばかりを追い求めない方の補給としておすすめ。

宮古島トライアスロンのようにエイドやスペシャルニーズバッグが充実してレース中でも食事が摂れる環境であれば、あらかじめ用意しておいた補給食でちゃんと食事を摂る。

写真のようにレトルトの主食からおかず、スープにデザートの献立メニューを揃えてナプキン替わりのハンカチも持っていったのだが、さすがにお皿や食器まで持って行けなかったのでそのまま口をつけて食べるダイレクトインスタイル(笑)。

停まって食べる補給ではコラム2回目にあるパワーライスを主食に洋食のおかず・スープを食べて、食後のデザートまでちゃんと食事の献立にしてあるので、栄養バランス的にも十分にカバーできる。

長いバイクパートでレース中にバイクを降りて、5分ほどの簡単な食事を摂って一息入れるのは心身ともに過酷なレース状態をリセットして、自分の体調やペース配分を冷静に見直す良い機会になったので、もしもタイムに余裕があるようであれば1回くらいは試してみてほしい。

またこの5分程度の休憩でも、同じ姿勢の運動を続けていた負担がほぐれて、その後はリフレッシュした感じでリスタートができた。バイクパートでは、2パターンの食形態で充分に補給を摂ってランパートへ。

ラン

身体をケアする栄養が重要
トライアスロンの最後はもちろんランパート。ロングレースではそれまでの競技時間が長いことに加えて、最後に消耗が激しいフルマラソンが待っている

長いランは、一歩一歩の上下運動で筋肉や関節に衝撃を与えること加え、毎回の着地で揺さぶられる内蔵や足裏で圧迫される血液にもダメージが大きい。よくマラソンを走った後に、食欲がなくなることや尿が赤くなる(壊れた赤血球がにじむ)ことがあるのはそのためだ。

人間の身体は、運動で身体を動かしながらも身体を造る・調整するメカニズムも働くため、やはりここでも補給する栄養が重要になってくる(詳しくはコラムの1回目に掲載)。

ランでも前半の補給は濃厚流動食
バイクに引き続きランパートでも走りながらでも摂りやすく、総合的な栄養をカバーする濃厚流動食はマルチに働いてくれるので、水をチェイサーにこれを15~20分に1口ずつ飲んでいく。

ただしこのオールラウンダーにも難点があり、乳製品特有の甘ったるさがずっと続くとレース中盤あたりから飲み口が飽きてくる。宮古の炎天下でずっとミルクセーキのようなものが続いてくると頭では栄養のために摂らないといけないが、身体が食べたくなくなって補給が進まない状態になってくる。

食欲のない時は、雑炊やうどんもイってみた
補給が進まない状態になるとは分かっていたので、ここでも食形態を変えるバリエーションとして雑炊やうどんなら食べられるんじゃないかと、和食の食事メニューもチャレンジしてみた。

写真のようなレトルトの雑炊、麺類のメニューは味がしっかりしていながら、食べやすさや飲み込みやすさに配慮された、まさに口から食べることを支援するサポーター。ランパートではスペシャルニーズに2回立ち寄れる機会があるので、2回に分けて雑炊とめん類の食事メニューをいただく(これもレトルトのままダイレクトイン!)。

やはりレース終盤で疲れてくると和風のだしがちょうど身体にやさしく、とろみが付いたやわらか食なので消化にも良さそうな気がする。ただし、この時間あたりから気温の上昇がピークで太陽の直射日光もあり、記念撮影しても笑顔が引きつってきている感じで何とか2パックほどを食べて「ごちそうさま」。

食後はちゃんと口腔ケアもしてみた
あと余談程度に加えると、ロングレースで長く競技しながら補給もしていると、どうしても口の中のねばつきや不快感が出てくるので、口腔ケアのアイテムを持っていたのも良かった。

専用のウェットティッシュで口の中から顔を拭くなどデオドラントシートのように使え、清涼感もあるので荷物に余裕があればぜひおすすめしたいケア用品。

ランの補給は自分で持っていく

そしてランに必要な補給は必然的にアイテムが多くなるので、これらを持って運ぶために写真のようなトレランバッグを用意した。ある程度の荷物を持って走るのにトレランバッグは何かと便利で、ポケットやボトルも機能的なので長いランパートの補給にも重宝する(今回の宮古島のレースでも数名がトレランバッグを担いで走っていた)。

ランの終盤はリハビリ系ゼリーでペースを上げる
ランパートも残り15㎞ほどになってきて、この先のレース展開や補給の状況が見えてきたところで補給も終盤に差し掛かり、飲むタイプのゼリーに切り替えていく。

長く暑いレースが続くとさっぱりした水やお茶しか飲めなくなることが多いが、そればかり飲んでいるとお腹の中でチャプチャプと溜まり、水分の摂りす過ぎに加えてなおさら補給がしづらくなる悪循環になってしまう。

その点でこの飲むゼリーはさっぱりと飲めてお腹に溜まりにくく、運動後・リハビリ後の栄養にも配慮されている実は隠れていたエース。飲み口が付いて味もさっぱりとして、栄養面で言うとそこそこのカロリーに加えてたんぱく質・ビタミンD・BCAAがセットになっているので、身体を造る・回復するのにバランスが良い。

このような特徴がある高齢者のリハビリ後向けの栄養ケアのゼリーは、トライアスロンのような過酷な運動後にも機能面・栄養面でマッチしてくる。終盤の補給も上手くいって、荷物も軽くなったところでペースを上げてフィニッシュへ。

フィニッシュ後

無事にゴールして、そのまま打ち上げへ
今回の宮古島での「介護食deトライアスロン」の実証としても無事に完走でき、介護食のおかげで特にゴール後に疲労困憊や体調不良などはなく、レース後にホテルに帰ってそのまま打ち上げに行ってたくらい!

ロングレースのような過酷な運動環境でこそ食べることや栄養面に配慮された介護食品は、レースの補給食にマッチするとあらためて実感できた。

そして、今回は多くの介護食品のアイテムを総動員して(ドッサリ)持っていったので、レースの過程や状況に応じて介護食品の特性を使い分けて食レポすることができた。

最後に、このコラムは介護食品を本来とは別の用途に使うことを訴えているわけではない。できれば読んでいる方にもロングレースを無事に完走して、レース後にも体調を崩さないようにぜひ補給食に意識を向けてほしいという思いを込めて書いている。

これまでのレース中の補給食で食欲の不振や体調の不具合があるのであれば、機能性のある介護食品を数品使うだけでもケアできる可能性があるので、今まで紹介してきた『やさしい補給食』も選択肢のひとつとしてトライしてみてほしい。

参考:今回のレースで使った介護食品のアイテム

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【関連連載】
「Vol.1 ここが変だよ! トラメシ」
「Vol.2 レースで実践介護食」

 

 

プロフィール
高瀬 誠

介護用品・福祉人材アドバイザー、セミナー講師。趣味でトライアスロンをしながらパラ・トライアスロンやトレイルランニングのガイドも務める(青山トライアスロン倶楽部、新宿食支援研究会 所属)

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