世界はレースシーズンのまっただ中。KONAチャレンジメンバーたちも、このプロジェクトの一員として、さまざまな想いを胸にレースに臨んでいる。今回は、モータージャーナリストとして活躍しつつ、KONAチャレにも加わった河口まなぶさんによるアイアンマン・フランクフルト参戦リポートを紹介しよう。
KONAチャレメンバーとしてのプレッシャーと矜持のあいだで
「KONA目指すんだって!? 頑張って!!」
KONAチャレのメンバーに選ばれてからというもの、トライアスロン関係の人に会うたびに、そんな言葉をかけられて、正直参っていた。
なぜならばKONAチャレメンバー選出が公になったことで、自分の中の退路は断たれたように感じたからだ。かといって、100%前向きな気持ちだけで進めるほどピュアでもない。そして同じメンバーに選ばれた方々の決意の強さを知るほどに、自分の気持ちがザワつくのだった。本当にできるのか? と。
ならば、本当はやりたくないのか? と聞かれると首を縦に振りたいわけでもない。2016年にこの目で見たKONAのフィニッシュを思い出せば、あの場所を駆け抜けてみたいという思いはまだ自分の中にれっきとしてあることに気づく。同時にそのために自身の中で覚悟しなければ、という思いも渦巻く。
そうした中でメンバーとの初顔合わせとなった第1回のキックオフ・ミーティングを経て、すぐに皆川さんがケアンズでKONAスロットを獲得した(★参考記事)。
そうして次のアイアンマン(IM)の大会といえば・・・フランクフルト。これこそ僕が出場するレースで、気持ちは一層重くなった。なぜなら今後は自分がレースに出るたびに、いろんな注目が集まることに、今さらながら気づいてしまったからだ。
もちろん、ある程度のトレーニングは積んできた。バイクを中心にパフォーマンスアップを図るために、パワーメーターのGarmin Vector3(ガーミン・ヴェクター3)を導入して、実走やローラーで、これまでとは比較にならないほど論理的にデータで自分を計測してきた。そしてレースまでのトレーニング計画もしっかりと立てて、仲間との合宿やトレーニングもどのような位置付けかをハッキリさせて臨んできた、つもりだった。
レース3週間前のアイアンマン・ジャパン70.3はフランクフルト前のピーク練習に定め、想定通りにこなすこともできた。特にバイクは平均速度31㎞/h以上を達成し、90kmを2時間45分で走ることができた。
そうしてフランクフルトへ出発し、レースウイークの水曜日に現地入りし、時差もバッチリ調整した。バイクやランで状態をチェックして、身体に力がみなぎっていることを意識できたほどだった。
とはいえ、どこか遠くに「本当に大丈夫だろうか?」という思いはあった。バイクはそこそこトレーニングできていたが、ランは今年の冬に目標にしていた3時間15分に届かないどころかケガをしてしまっていたし、バイクもランも本番の8割程度の距離をこなすような、ロングでのトレーニングはできていなかった。
しかしながら、KONAチャレのメンバーとしても多くの人から見られているだろうという意識もあったし、前日までの好調もあって、スタート時には「大丈夫、いける」という思いで臨むことができた。
スイムのベストパフォーマンスから、気持ち良くバイクへ
朝、6時45分のスイムスタート。会場となるフランクフルト郊外のヴァルドゼーという湖は、水温23度で水質も綺麗、前日の試泳でも気持ちよく泳げていたので、全く臆すことなくスタートできた。スイムは多少のトラブルはあったものの結果的には1時間14分と、目標の1時間15分を切って上がるとともに、これまでのIMのスイムでのベストタイムで泳げた。
そしてT1(スイム→バイク・トランジション)は少し長めだが、6分53秒でバイクスタートにつなげた。全く悪くなかったし、なかなか良い展開かも、とすら思った。
バイクは今回コース変更があり185kmと少し長い。本来は180kmを5時間45分で走る計画で、この場合平均時速は31km/hを超える速度となるが、プラス5kmの距離のため平均32㎞/h以上で走らなければならなかった。
とはいえトレーニングも積んで好調でもあったので不安はなかった。しかもバイクスタートから約20kmは下り基調で自動車専用道路となる。メーターを見ると、出力は190W(ワット)で速度は37〜40㎞/hくらい出ていた。ちょっと出過ぎだが、下り基調ゆえ踏んでいる意識は少なかったし、平均155Wで行こうと考えていたので少し貯金を稼ごうとも思った。
しかしレースを振り返れば、ここで全てが終わった、と言える瞬間だったわけだ。この時、僕は当然、それを知る由もなく、気持ち良い風を受けて走っていた。突っ込み過ぎの典型だ。
バイク2周目、「失敗」に気が付いた瞬間
下り基調が終わった後の前半は短くキツいアップダウンが繰り返される。しかしスタート後の高揚感と気持ち良い速度のノリで、知らずのうちに踏み過ぎている意識は薄かった。コースは2周回だが、1周回を終わってメーターを確認すると、平均速は32㎞/hと予定通り・・・しかし、バイクパートの半分で予定通りの数値ということは、ギリギリ平均ペースをクリアしているに過ぎない。そうしてダンシングをしようとした時、左右の大腿四頭筋が明らかに硬く感じて、つりそうになったのだった。バイクでこんなふうになったことはほとんどない・・・ここで、ようやく失敗を意識した。
そこからは転がる石のようにペースが下がる一方。パワーメーターを見ても、90Wとか100Wとか表示されており、故障しているのか? と疑う。要はそれほど、潰れていたわけだ。
レース前には竹谷賢二さんからも、「平均155Wくらいで行けると良いですね」とアドバイスをもらっていたものの、結果的には平均110W、NP(※Normalized Power=高低差などコースの違いによる差をなくすため、一定の出力を出し続けた場合のパワーに換算した「標準化パワー」)でも128W、タイムは6時間32分と、昨年のケアンズの6時間11分をも下回るという散々な結果となった。そしてこの時点ではもはや、KONAチャレのメンバーであることも頭から消えていた。とにかく、走りきるしかないのか、という無念とともにT2(バイク→ラン・トランジション)へ入った。
スイムスタート時には、水温のほうが暖かな外気温14度(ガーミンによる計測値)。バイクの前半では少しつま先が冷えると思えるほどだったが、温度は時間とともにグイグイと上がり、バイク終了時には30度を超えた。散々なバイクパートを終えた僕は、T2でも6分29秒かかってランをスタートしたのだった。
「レースはどの時点でも、自分の意識次第で好転できる」
もはやバイクを降りた時点で、かなり意欲を喪失していたものの、それでもわずかな望みをもって、キロ5分30秒くらいでランに入った。しかしながら気持ちは続かず、距離を進めるごとにペースは落ちていき、一時はキロ8分くらいまで落ちてしまった。
もはや完全に気持ちが負けており、レースはその場その場で変わっていくことを想定し、バイクパートでの失敗の時点で、用意すべきプランBやプランCを繰り出すこともできなかった。
だから当然、次のランパートでも、ただダラダラとペースを落とすほかなかった。ランパートは、ここまでのレース展開とは全く別の世界なのだと割り切って考えるべきことができず、僕はずっと、このレースはしくじった、とばかり考えて走り続けた。
後から思えば、「レースはどの時点でも、自分の意識次第で好転できる」はずだから、自分がどのように考えるかで、その後の意識は180度変えることが可能といえる。しかし僕は結局そうした意識すらもつことができず、ランを4時間39分というタイムで終えた。これも昨年のケアンズの4時間5分からすると、比べようもなく悪いものだったわけだ。
そうして僕は、12時間39分11秒でフィニッシュゲートをくぐった。昨年のケアンズでは11時間52分でフィニッシュし、それを受けてここフランクフルトでは11時間を切る想定で臨んだ。しかもその間にKONAチャレメンバーに選ばれたのだから、これは達成して当然のタイムだった。しかしながら、その目標をはるかに下回るどころか、昨年のケアンズよりもタイムを落としてレースを終えたのだった。
完全なる失敗。そこに足りなかったもの
フィニッシュゲートをくぐる自分の写真を見ると、当然のように笑顔はない。そして、やはりダメだったか・・・とか、ロングの練習も足りてなかったか・・・とか、様々に思いが巡って悔しさすら通り越してしまったほどだった。
そうしてこの時、KONAチャレの名を汚すようなレースをしてしまった、とも思えたし、やはり自分には難しいかもしれないな、とも思った。
完全なる失敗だ・・・と心の中でつぶやいた。
そして同時に自分自身を偽っているような気持ちになった。
なぜならフィニッシュした時、全力を出し尽くして動けなかったわけでもなかった。バイクパートで失敗したとはいえ、ランが全く走れなかったわけではない。そしてランでも、最後の2㎞は自然と脚が軽くなりペースアップすらできた。ということは完全には疲れ切ってない・・・そう思うと、自分に腹が立ったほどだった。
例えば結果がダメでも、全てを出し切って完走したわけでもない。そう思うとなおさら、胸を張ることができなかった。
人は苦しくなると、自分を諦めたり、自分を欺いたりしていく。しかしそんなときほど、自分を諦めず、自分を欺くことなく、向き合って進むのが、気持ちの強さである。こうして記して見て改めてそれを理解した。
フィニッシュゲートをくぐると、先にフィニッシュした仲間が迎えてくれて、この時だけは笑顔で写真に収まれたものの、思いはとても複雑だった。フィニッシュ直後から、ずっと今回のレース展開を振り返って、反省点をいくつも挙げてみたりもした。
KONAを目指すのは、才能に恵まれた人だけじゃない
今回のIMヨーロッパチャンピオンシップ・フランクフルト2018における僕のレースは、明らかなバイクパートでの突っ込み過ぎと、それによって潰れたことで、完全に気持ちが負けたレースだった、と総括できる。
そしてこんなレースをしているようでは、KONAチャレのメンバー、そしてフレンドメンバーのみなさんにも申し訳ないと思った。が、僕としてはそうした想いをあえて記すこともまた、僕の役割かもしれないと思っている。
なぜなら僕は仕事でも文章を書くわけで、そうした部分をしてこのKONAチャレにおけるインサイドのレポーターでもありたいと思っているからだ。
果たしてKONAチャレに選ばれた人間はどんなヤツなのか? もちろん素晴らしい才能に恵まれた方々が多くいる。が、僕のような人間もいて、そんなヤツもまたKONAを目指しているのだということも伝えておきたいと思う。
僕は今回、KONAチャレのメンバーとして情けないレースをしてしまったが、それでも今後は再びサブ11を目標にトレーニングをし、今年中にもう一度IMを走ろうかとも考えている(そうしないと、この先の計画の進捗を考えた場合に時間がない)。
そして2019年には10時間30分を切るのはもちろん、さらに先に進まなければならないのは明らか。なぜなら、それをこなさなければ、KONAに行くことはできない。
果たしてまだこのようなレースをしているし、僕の気持ちの弱さも今回明らかになった。そんな自分は果たしてKONAにいけるのだろうか?
もちろん、ここまでの文章は今回のフランクフルトでのレースの反省であり、ここで全てをさらけだしたことで今日までの自分にケリをつけ、今日からの新しい自分に再び火をつけて、踏み出すチカラにしていこうと考えている。
その意味では、僕にとって今回のフランクフルトでのレースは、かなり重要な意味をもつものだったのだろう。
そして何よりは、こうして今回レポートを記したことで、改めてレースを振り返ったら、やはり僕はKONAに行くのだ、と自身の心に誓えたこと。そう、僕はKONAチャレのメンバーなのだ。
■プロフィール
Manabu Kawaguchi
雑誌やウェブ、TV、新聞などで活躍するモータージャーナリスト。日本カー・ オブ・ザ・イヤー選考委員も務める。日本を代表するYouTuberのプロダクションサイトUUUM(株)に所属し、9万6000人が登録する車動画チャンネル「LOVECARS!TV!」をもつYoutuberでもある。また車のWeb コミュニティ「LOVECARS! ‐ Web自動車部 ‐ 」のほか、Facebookでは「大人の自転車部」「初めてのトライアスロン部」も主宰。自らロードバイクやトライアスロン、マラソンなど、エンデュランススポーツにハマっている。1970年、茨城生まれ。
◎「KONA Challenge supported by MAKES」オフィシャルホームページ
オフィシャルページでは、メンバーのトレーニング状況やピックアップコンテンツなどを随時更新しています。
◎MAKES
https://makes-design.jp/
◎協力施設
SPORTS SCIENCE LAB
実施内容:心肺能力(VO2MAX)、AT値、AT値でのフルマラソン適正ペース、ランニングフォーム評価、AT値での20分走タイム
R-body Project
実施内容:ファンクショナル・ムーブメント・スクリーン(FMS)で体のコンディションを骨格のゆがみや関節の可動域などのポイントからチェックし、評価
AQUALAB
実施内容:流水プールを使ってインストラクターによるフォームの分析、プルブイ20分測定、800mタイムトライアル
Endurelife
実施内容:AT値で20分間バイクをこいだときの平均パワー/心拍数(PWR/HRT—AT値)、FTP(機能的作業閾値パワー/PWR/HRT—AT値20分の95%)、フォーム、ペダリング評価