インドアトレーナーで測定した“FTP”を練習&レースに生かす。
河原勇人✕
現役時代から「パワー」をレースやトレーニングの指標として活用してきた河原勇人さん。FTPを基準にしたパワーの河原流活用方法とは? インドアトレーナーを活用した『パワートレーニング入門セミナー』を一足お先に体験!
座学編
トレーニングの指標としてパワーを有効活用
その独自のトライアスロン理論で、日本の男子ロングディスタンス界で一時代を築いた河原勇人さん。しかしあまりにもその理論は独特なスタイルのため、彼を知る人たちは、リスペクトを込めてそれを「河原ワールド」と呼ぶ。
そんなオリジナリティあふれるトライアスロン的世界観で競技を行う彼が、バイクのトレーニング、レース中に指標にしているのが、パワーだという。「パワーメーターが登場するまでは、心拍数が運動強度を測る指標でした。
しかし、心拍数は外的要因で変わりやすいもの。気温の高低はもちろん、寝不足、飲酒などでもかなり繊細に反応します。それに比べてパワーは身体にかかる負荷を正確に計測できる。私自身、感覚的なことをよく言いますが、バイクに関しては正確な数値を使うことで、短時間の練習でかなり競技力を高めることができました」
FTP(Functional Threshold Power)とは?
1時間維持できる平均パワー(W)。一般的には20分間の全力走で計測することが多いが、アウトドアを全力で走れる環境が限られているため、インドアトレーナーを活用して計測するのがオススメ。
パワー指標としたトレーニングの効果
1.競技力のブレイクスルー
2.適切な高強度練習で「動きが大きくなる」
3.正確な強度管理で「ケガのリスクを低減」
4.同・「疲労が抜けやすい」
5.ペダリングの技術が向上する
パワーを指標として使う効果は、心肺や筋力などの身体的な能力を効率良く高められるだけではない。「長時間、一定のパワーを維持できるようになるにはペダリング技術の向上も必要です。さらには重心がペダルに乗っているか、などポジション・乗り方の見直しも必要になるので、総合的にバイクの実力が上がる要素があります」
2日に1回の高強度トレでブレイクスルーを実感
「ゆっくり長く」がロング対策トレーニングの基本と言われてきた。しかし、河原さん自身、年齢とともに、「ゆっくり長く」では記録が頭打ちになってきたことを感じた時期もあったという。
「私も今年で41歳の厄年。競技力が向上していないな、そう感じたことがありました。そんなときにパワーメーターを使ってトレーニングを行い、実際に筋力を維持していくことができました。かなり効果は実感できていて、ブレイクスルーしたな、と感じるほど。
ただ、トレーニングに関しては、かなりキツめの高強度メニューが多くなります」実際のメニューに関しては、次ページ上のカコミを見てもらうとして、頻度としては2日に1回のペースでパワーベースの高強度トレーニングを行うのが河原流だ。
「トライアスリートなので、3種目をバランスよく行うとして、バイクの高強度トレーニングの次の日は、軽い有酸素トレーニング、その次の日はスイムの高強度トレーニング、その次は軽く……というふうに組み合わせていけば、故障のリスクを減らしながら、しっかり練習していくことができると思います」
パワーを指標にした高強度なトレーニングのほうがケガのリスクが大きいような気がするが、実際のところは全く逆だという。
「ランニングと違って、バイクの場合は高強度のトレーニングをしてもあまりケガすることは少ないのですが、それでも長い時間の練習は身体に大きな負荷をかけていくことになります。ただパワートレーニングのメニューは高強度ですが、短時間で終えられるプログラムなので、身体への負担は少なく抑えることができます。
もちろん連続して高強度のトレーニングを行えば、疲労が抜けないうちに次のトレーニングで疲労がどんどん蓄積していきますが、有酸素トレーニングを間に入れることで、疲労を抜きながらトレーニングを継続していくことができます。また、筋トレに近いところもあって、大きなパワーを出す筋力、神経を向上させていくことで、関節の可動域が広がって、ペダリングの動きが大きくなることも期待できます」
【クリック、ピンチアウトで拡大】
51.5㎞でFTP100%前後ロングなら70~76%
パワーを指標にした高強度トレーニングの効果については理解したものの、それを使いこなすには至っていないトライアスリートも多いだろう。「パワーメーターあるある」として、「ただ数値を眺めるだけになる」「高い数値が出て喜ぶ」などが挙げられるが、その主な原因としては「指標となる自分のFTPを知らないからだ」と河原さんは指摘する。
「パワーを実際に導入しようと思ったら、まずはFTPを計測し、それをもとにトレーニングやレースに生かしていくのが、一番効果的だと思います」FTPとはバイクで1時間維持できる平均パワーのこと。しかし一般的には20分間の全力走で計測することが多く、1時間に換算すると5%程度低くなることから、20分の数値に0.95をかけたものを「FTP」として使用する。
「ここで紹介しているもの以外にも、FTPをもとにしたトレーニングメニューは無数にあります。レースまでの時期をにらみつつ、ペース維持、有酸素能力を高めるものなど、FTPの100%を超えて行う、高強度なメニューが多くなります」
【クリック、ピンチアウトで拡大】
このFTP、レースにおいてもペーシングの指標になる。もちろん個人差は出るものだが、河原メソッドではある程度幅をもたせた「レース用パワーゾーン」が準備されている。「スプリントではFTP値の107%くらい、51・5㎞は95〜100%、ミドルは83〜87%、ロングでは70〜76%がペースの指標。
幅をもたせていることがポイントで、自分の場合は心拍データもとって、暑くて心拍数が普段よりも高めに出る場合は、ゾーンの低めのところに合わせて走るなどの調整をしています」漠然と数値を眺めるところから、FTP値測定、そして有効利用へ。トレーニング、レースにおいてもパワーは優秀なコーチとなってくれそうだ。
>>>実戦編は「FTP」測定とペダリング改善。河原流のパワートレーニングを体感!
プロフィール■Hayato Kawahara
2008・2011年宮古島大会優勝。2016年佐渡Aタイプ優勝。ロングを主戦場に活躍した元トッププロ。選手活動に一区切りつけた後は指導者として活躍しながら、自らもレースを楽しんでいる。
FTP活用術
0
Likes