松田丈志の自分超えプロジェクト
日本最長トライアスロン236.2㎞への挑戦 #01
スイマーとしての現役引退後も、マラソン、トレイルランなど、自らさまざまなスポーツで自著のタイトルにもある「自分超え」に挑み続けてきた、元競泳日本代表・松田丈志さん。
2018年には宮崎シーガイア大会でトライアスロンデビューを果たし、趣味のスポーツとしてもトライアスロンの魅力にハマっている。
これまでオリンピックディスタンスや九十九里大会のミドル(※スイム中止)などのレースを完走しているほか、スペシャルゲストを務める佐渡国際トライアスロン大会では、ミドル(Bタイプ)を2回完走。いよいよロングに挑戦! ・・・という矢先、世界はコロナ禍に。
しかしようやく今年、目標としていた佐渡大会の開催が決定。2022年、Aタイプ(スイム4km/バイク190km/ラン42.2km)での「初ロング」完走を目指す「自分超えプロジェクト」が始動した!
Luminaでは、9月4日開催の大会本番に向けてトレーニングを積み重ね、味の素㈱「勝ち飯®」のノウハウを生かしたカラダづくりに取り組む過程を追っていく。
プロジェクト、キックオフの初回は、佐渡Bチャレンジでも松田さんの挑戦をサポートし、今回の初ロング挑戦にあたってもトレーニングや実戦対策の面でアドバイザーを務めることになった河原勇人コーチとともに、目標達成に向けた「現状と課題」をチェックした。
取材=今 雄飛
写真=小野口健太、武智佑真、本多ジェロ(レース)
アテネ、北京、ロンドン、リオで4つのメダルを獲得した元競泳日本代表。2016年に引退後は、イベント等での水泳指導のほか、TVなどのメディアでコメンテーターや解説者としても活躍している。2018年6月、宮崎シーガイア大会(51.5km)でトライアスロンデビュー。佐渡国際トライアスロン大会Bタイプには2大会連続出場・完走(2018・2019)しており、ベストリザルトは6時間14分05秒(総合74位)。味の素㈱「勝ち飯®」アンバサダー。1984年、宮崎県延岡市生まれ。
>>過去の記事「松田丈志、佐渡Bタイプで『自分超え』にチャレンジ!」を読む
アイアンマンなどロングディスタンスを主戦場として活躍した元プロトライアスリート。プロとしての現役引退後も、指導者として主に一般トライアスリートの指導を手がけつつ自らレースに出場。佐渡A・B・日本選手権すべてのカテゴリーでの優勝経験をもつ唯一の選手でもある。
これまでの準備では
佐渡A完走は難しい
松田丈志さん(以下松田) 本当にようやくですよ! ついにロングのトライアスロン、佐渡Aタイプに挑戦できます。自分からロングディスタンスへの挑戦を宣言してから、実現できていなかったので、コロナ禍なので仕方はないんですがかなりモヤモヤした気持ちでした。
これまで佐渡Bは2回完走していますが、Aタイプを完走できるかと言われれば・・・今の段階では正直微妙なところですね。一番の問題は暑い中、フルマラソンを走れるか、かなり心配です。
ということで、今回もA・Bタイプ、日本選手権すべてで優勝経験をもつ佐渡マイスター、河原勇人さんにコーチ役をお願いすることになりました。
河原勇人さん(以下河原) 今回もよろしくお願いします! いよいよ佐渡Aにチャレンジですね。
松田 早速ですが・・・自分、完走できると思いますか?
河原 2年前(佐渡Bを6時間14分で完走)と同じくらいのコンディションに高めたとしても、それだけでは、完走はなかなか高いハードルだと思います。
佐渡Aはやはり日本で最長のトライアスロンレースです。「Bタイプの2倍の距離に対応する身体づくり」、「ロングのペース感覚」、そして「暑さ対策」、この3つが大きなポイントになると思います。
ロングはペースがゆっくりでも「いかにつぶれないか」が求められるレースです。これまでのレースのように勢いでは走り切れないですね。
松田 Bタイプの2セット分というところが、もうすでに怖いですね(笑)。過去2回の経験では暑くて・キツいという印象しかないですし。
河原 今日は、先ほどお話しした3つのポイントに対応できるトレーニング・プラン(仮)を組んできました。
9月の本番に向けたトレーニング
「河原プラン」とは?
河原 簡単にこのスケジュールを解説していくと・・・4月、5月はランの苦手をなくしていく時期にしています。この2カ月は、「週トータルの走行距離40km」を目標にじっくり進めていきましょう。
この時期に週末2日間で、まとめて距離を積むような、ラン強化練習会もやりたいですね。
5月29日にオリンピックディスタンスのレース(館山わかしおトライアスロン)に出て、刺激を入れるのと同時に試合勘を取り戻していきます。
この時にバイクまわりや、ウエットスーツのサイズ・フィット感など、機材の実戦使用チェックもできるといいですね。
6月はオリンピックディスタンスに出場後の回復期にあてますが、パフォーマンスを維持しながらトレーニングしていきます。バイクは強度をそこまで上げていきませんが、回す感覚をつかんでもらいます。
7月のテーマは「暑さ対策」。なるべく外でトレーニングを行っていきます。実戦的な練習としてバイクとランをつなげたブリックトレーニングで、ある程度、疲労がたまった状態でも走れる身体をつくっていきます。バイクに乗った後、最低でも60分は問題なく走れるようになること目標にやっていきましょう。
8月はこれまでのトレーニングの疲労が抜けるように調整していきます。トレーニング量を少しずつ減らしていきますが、週イチのロングライドに加えて、短い時間で高強度のブリックトレーニングを行って、ダイナミックな動きを高めていきます。
この7~8月の実戦想定トレーニングも、ひとりで行うよりは、合宿イベントなどとして、取り組んだほうが集中できていいかもしれませんね。
ロング完走のカギとなる「ラン強化」
松田 ありがとうございます。ところどころにレースやイベントが入れられそうで、自分的にはそういう目標があるとトレーニングにも気持ちが入りますね。
4、5月はラン重視のトレーニングになっていますが、9月の本番までのプラン、トータルで見ても、やはり重点的に鍛えていくのはランになりますか?
河原 そうですね。過去のレースのタイムを見ていくと・・・スイムはもちろん上位、というか、同じ距離・同じコースを泳いでいる日本選手権のチャンピオンより速いですし(笑)バイクも悪くはない。やはりランの強化がポイントになります。
松田 やっぱりそうなりますよね(笑)。
河原 そこで今日は5kmのタイムトライアル(以下TT)を行って、現状のランニングの実力を把握したいと考えています。タイムも計測しますが、ランニングを解析するセンサーを使って色々な角度から分析していきます。
現状把握のラン5㎞TTで見えた「希望と課題」
松田 さて走り終わりましたが、現状はどんな感じでしょうか? 現役時代以来、久しぶりのTTという響きにかなり緊張してしまいました(苦笑)。
河原 タイムは24分台と予想以上の結果でびっくりしました!
正直なところ、現状は25分台で走れればいいかなと思っていたので、さすがですね! しかも前半抑え気味で入って、後半ペースを上げてきたところが最高です。
平均ペースはちょうどキロ5分で、安定したランになっていました。実は現状の把握といいつつも、しっかりとペーシングができているか、前半に突っ込み過ぎずに走れるか、などをみたいと思っていましたが、最後にキレイにペースを上げていけたので、もし点数をつけるとしたら「120点」の出来です!
松田 心拍数的には序盤130(拍/分)くらいで入れて後半は150まで上がって少しキツい感じはありましたが、余裕はあった感じです。いつも走り出すとすぐに150くらいに上がってしまいますが、なんとかそれでももつ感じはありますね。
河原 おそらくこれまでの競技(競泳)の傾向として、高い心拍数で動き続けるのが得意なんだと思います。さっきも話しましたが、ロングのトライアスロンは心拍数を抑えて長く動き続けるレースになります。
心拍のゾーンはBタイプタイプ(ミドル)よりも低い所で安定させる必要があります。
松田 確かにそれは言えるかもしれないですね。でもそれを高めるためにするトレーニングはどんなものがありますか? これまでは、どちらかというと高い心拍で粘る練習ばかりしてきたので。
河原 やはり低い心拍のゾーンで長い時間トレーニングするのが一番ですね。いわゆる脂肪燃焼ゾーンですが、実際のレースでも140くらいの心拍数のペース感覚は大切になります。
松田 佐渡B挑戦のときに活用したタバタ式(高強度・短時間トレーニング)ではカバーしきれないんですね。
河原 それも効果はあるんですが、運動強度をコントロールしながら、心拍140台を保つ練習は必要です。
松田 今は普通に走るとすぐに150台になっちゃいますが、それだとAタイプには通用しないですか?
河原 これまでの佐渡B挑戦のデータを見ていて、松田さんは高い強度での運動を持続することにも強いのはわかっていますが、ロングの場合、150台だと終盤につぶれる可能性はありますね。パワーで押し切れないのが佐渡Aタイプだと思ってください。
ロングでは、ゆっくりでもつぶれないことが大切になります。
そういう意味で言うと、ランニングフォームも長時間のランニング効率を上げるためには重要な部分です。今回の5㎞TTのデータをみると、上下動、左右のブレが少なくて安定した姿勢になっていると思います。
気になるところとしては、後半ペースを上げたところで、ストライドを伸ばしてペースを上げたデータがでている点。
ペースを上げるときは、ストライドを伸ばすよりはピッチを高めていったほうがいいですね。
松田 ストライドが伸びたほうがダイナミックな走りになるような気がしますが、違うんですか?
河原 ストライドを伸ばしていくと、筋肉に負担がかかりますし心拍数も高くなる傾向があります。
脚を回転させるようにピッチを高めてペースを上げると心拍は上がりにくいですね。特にロングは心拍も筋肉への負担も減らしたほうが有利になります。
あと気になるのが着地衝撃です。反発させるように着地するよりも、足を置くイメージで走るといいかもしれませんね。
理想は、筋量は落とさず
学生時代以来の「80㎏切り」!
松田 体重も減らしたほうがいいですよね? さっき計ったら88.3kg、体脂肪は21.4%でした。昨年11月に50㎞のトレイルラン大会に出場したんですが、そのときは82㎏台まで絞ったので、そこから大分戻ってしまいました・・・。
河原 ランに関しては、体重は軽ければ軽いほうがいいですが、バイクはある程度重いほうが特に平地のライドでは有利です。
佐渡Aのバイクコースは上りはありますが、すごく長いわけではありません。変にダイエットしてコンディションを崩すよりも、筋量を落とさないように体重を落とす、脂肪だけを落としていくことが大切ですね。
松田 体重に関しては前回の佐渡Bタイプの時も短期間で落とすことができたので、あまり心配はしていません。
河原 そうですね。でも年齢が上がっていくとなかなか落としにくくなっていくので、無理なく落としていきたいところですね。ただ今回はレース本番までの準備期間も長いですし、7、8月の暑い時期にゆっくり長く取り組むトレーニングが多くなっています。そのあたりでベスト体重にもっていけたら理想的ですね。
松田 今回はトレランの時の82㎏を目標にしつつ70kg代には到達したいと思っています。大学生になってからはいつも80㎏台だったので、今回は70kg台に絞りたいですね。
河原 ケガを防ぎながら落としていきたいですね。私も年齢的にちょっと体重が増えがちですが、レース前には夜に摂る糖質を減らしてコントロールしています。
松田 それ自分もやっていました。ラーメン食べたいときには(夜は我慢して)朝ラーメン食べてました(笑)。
2日間で本番の距離をこなす
仕上げの実戦トレーニングも?
松田 9月までの長期的な準備については、やらなければいけないことが大分明確に見えてきました。今一度、佐渡Aタイプ完走に向けて大切なポイントを教えてもらえますか?
河原 そうですね、距離に対応する身体づくり、ペース感覚、暑さ対策以外には脚つり対策も大切かもしれないですね。
松田 確かに。オリンピックディスタンスやマラソンでは、よく脚がつるんですが、ロングのランニング前半で脚がつったら・・・後は走れないですね。
河原 このあたりに関しては、ふくらはぎに負担をかけない走り方も関係してきますが、特にミネラルを忘れずに摂る補給も大切です。このあたりは7~8月のロングライドを行いながら、実戦で使用する補給食などのテストもできるといいです。
松田 昨年のトレランのときは、主にジェル(「アミノバイタル® アミノショット®」パーフェクトエネルギー®)を使用していました。たぶんこれでも問題ないかなという印象です。
河原 トレランのときと同じく、今回も競技時間は長いのでジェルとあわせて固形物も取り入れてもいいかもしれないですね。咀嚼すると唾液が出て出して消化を助けてくれるので、腹持ちがいいものをバイクのときに食べるといいですよ。
松田 あとは距離に対しての耐性ですね。トレラン50㎞で長時間動き続けることに対して多少慣れたとは思います。
河原 私の場合は、1カ月前くらいにスイム4000m、バイク190㎞、ラン42.2㎞の距離を2日間かけて走れるようになると、Aタイプの距離への耐性がついたと判断していました。あくまで経験則としてやっていたことですが。
松田 それやってみたいですね! 自信にもなりそうですし。
河原 猛暑の8月に実施できるといいですね。9月の直前は疲労が残るのでやるなら1カ月前には終わらせておきたいです。そこで本番のペースなどを最終確認しておきましょう。
多くの人が一緒に走るトライアスロン大会ですが、ロングは本当に自分との闘いです。人と競わないのもポイントです。ライバルは自分、一緒に走っている人は協力しあっていく仲間という感覚が必要になります。
松田 今回は河原さんも(Aタイプに)出場するんですよね。ということは仲間ですね!
河原 きっとバイクの途中まで松田さんのほうが速いと思いますが、一緒に頑張りましょう!
>>次回「初ロング完走のカギ、ラン強化編」につづく
松田丈志の自分超えプロジェクト
日本最長トライアスロン236.2㎞への挑戦
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