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旅烏の「徒然グサッ!」
Lumina誌面でおなじみの「旅烏」こと作家でトライアスリートの謝 孝浩さんが、日々のトライアスロンライフで心にグサッときたことを書き綴るショートエッセイ
『ヌーが見た空』の舞台を訪ねる scene#04
時に取り残された遊園地
2015年に長崎県の軍艦島が世界遺産に登録されたことで、廃墟ブームが再燃しているようだが、多摩丘陵にも昭和の雰囲気が漂う廃墟が残っている。
小田急線の駅名として今に残っている向ヶ丘遊園という名の遊園地だ。1927年(昭和2年)に開園。多摩丘陵の端っこにあるこの遊園地は、娯楽の少なかった時代に多くの来園者で賑わった。
花をテーマにしたイベントが多く、平野部から丘陵地帯へと迫り上がる斜面にある大階段は、お花畑のように飾られて、丘の上に点在するさまざまなアトラクションへと続くアプローチとして、子どもたちの興奮をかきたてた。
時代の流れとともに2002年に閉園後は、自然と宅地が共存するような大規模プロジェクトが計画されていたが、計画は頓挫したようだ。大観覧車やジェットコースターなどのほとんどのアトラクションは解体されているが、アトラクションの一部や建物が残っていて、時に取り残されたようにかつての面影を残している。
現在、遊園地の跡地には、立ち入ることができない。しかし、唯一、かつての遊園地の敷地内に入ることができるのが、春と秋の2回、数週間だけ一般公開される「ばら苑」だ。
遊園地時代から来園者の目を楽しませてくれた「ばら苑」の施設は、閉園後に川崎市が借り受け、市民ボランティアによって管理している。533種類約4,700株のバラが手入れされているという。
小説「ヌーが見た空」でも、登場人物の繭子が、この「ばら苑」を訪れ、幼い頃、家族で遊園地へ来た記憶を思い起こす。ふと思い起こしたそのかすかな記憶こそが、小説のひとつのテーマにもなっている。
●『ヌーが見た空』の舞台をめぐるマラニック
5月28日(日)開催決定!
※エントリー・詳細は下記から。コラムでも紹介した年2回限定公開の「ばら苑」にも立ち寄ります!
https://lumina-magazine.com/archives/experience/2596
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※次回の【旅烏の「徒然グサッ!」〈6〉旅烏の「IM70.3セントレア」おすすめ観光スポット】はこちら
■著者プロフィール
謝 孝浩 (しゃ・たかひろ)
1962年長野県生まれ。上智大学文学部新聞学科卒。 在学中には探検部に所属しパキスタン、スリランカ、 ネパールなどに遠征する。卒業後は秘境専門の旅行会社に就職し、添乗員としてアジア、アフリカ、南米など世界各地を巡る。2年で退職し、5カ月間ヒマラヤ 周辺を放浪。帰国後はPR誌、旅行雑誌、自然派雑誌などに寄稿するようになる。現在は、トライアスロン雑誌での大会実走ルポなどを通じて日本にも目を向けるようになり、各地を行脚している。著書にルポ『スピティの谷へ』(新潮社)、小説『藍の空、雪の島』(スイッチ・パブリッシング)など。http://www.t3.rim.or.jp/~sha/