旅烏の「徒然グサッ!」
Lumina誌面でおなじみの「旅烏」こと作家でトライアスリートの謝 孝浩さんが、日々のトライアスロンライフで心にグサッときたことを書き綴るショートエッセイ
『ヌーが見た空』の舞台を訪ねる scene#01
朝焼けの煙突
ふと気配を感じて見上げると、空を突き刺すような煙突があった。
そんな経験はないだろうか。
東京都心から多摩丘陵に移住して8年が経つ。この場所を選んだひとつの要因が、尾根幹(おねかん)と呼ばれる丘陵地帯を突き抜ける道路があることだ。
実はこの道路、都心に住むトライアスリートやサイクリストの練習のメッカ。ほどよいアップダウンがあり、道幅も広いし、周辺の道路を加えれば周回コースも確保できミドルライドが気軽に楽しめる。
相模湖や山中湖方面のロングライドへの通り道にもなる。自転車の練習にはもってこいなので、この道路のそばに住みたいと思う気持ちは、トライアスリートならば、わかっていただけるだろう。
正式名は南多摩尾根幹線道路。ニュータウンとして多摩丘陵が開発されるとともにこの道路は整備されていった。多摩ニュータウンを東西に貫き、総延長は17キロほどだ。
自宅からこの道路に入り、途中で左折するとモノレールの始発駅がある。立川方面に伸びているモノレールの下の道路を通って丘を2つ越え、多摩川まで下り、多摩川沿のサイクリングロードを走って、尾根幹を上ってくる45キロが定番の早朝ライドコースだ。
獲得標高は400m強、2時間ほどのピリッとしたライドになる。夏は4時、冬でも5時半には出発している。この時間帯は交通量が少ないので、まるでレースのような感覚で自転車に乗ることができる。
早朝、尾根幹に入って、空がパッと開けるのが唐木田大橋だ。ちょうど日の出前の時間で、東の空が色づきはじめていることが多い。ドーンパープルを背景にすっくと伸びているのが多摩清掃工場の煙突だ。
「今日も、安全運転でな」
そんな風に語ってくれているような気がするから不思議だ。
小説の中でも、登場人物のひとり繭子が、この煙突の気配に気づく。空から見守っているような……。完読した方には、その意味がわかっていただけることだろう。
● 『ヌーが見た空』の舞台をめぐるマラニック
4月9日(日)開催決定! 参加者募集中
https://lumina-magazine.com/archives/experience/359/
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※次回の【旅烏の「徒然グサッ!」〈2〉大都会を見晴らす小山】はこちら
■著者プロフィール
謝 孝浩 (しゃ・たかひろ)
1962年長野県生まれ。上智大学文学部新聞学科卒。 在学中には探検部に所属しパキスタン、スリランカ、 ネパールなどに遠征する。卒業後は秘境専門の旅行会社に就職し、添乗員としてアジア、アフリカ、南米など世界各地を巡る。2年で退職し、5カ月間ヒマラヤ 周辺を放浪。帰国後はPR誌、旅行雑誌、自然派雑誌などに寄稿するようになる。現在は、トライアスロン雑誌での大会実走ルポなどを通じて日本にも目を向けるようになり、各地を行脚している。著書にルポ『スピティの谷へ』(新潮社)、小説『藍の空、雪の島』(スイッチ・パブリッシング)など。http://www.t3.rim.or.jp/~sha/
4月9日の『ヌーが見た空』の舞台をめぐるマラニック、Luminaも取材にうかがう予定です。
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